封印演義・第6話『魔法少女誕生』

作:Shadow Man


 遥か南の島に老人が住んでいた。彼の名はカノープス、他ならぬフォーマルハウトの師匠である。
とある日、彼は占いで大きな邂逅があると出たので、久しぶりに外へ出て散歩をはじめた。
「おや?」
海岸沿いを歩いていると、ひときわ光る物体が流れ着いていたのを見つけた。
宝石にしては大きいなと思いながらカノープスはその物体を拾い上げた。
「な、なんと!」
物体を陽の光に透かして見た彼は大きく驚いた。
中に人間の少女がいるのである。

「はぁ〜、やっと自由になった〜」
カノープスの魔法で封印を解かれた少女がため息をつく。
「お前さんはどこから来たんだ、いや何者だ?というか、いったい何があったんじゃ?」
「ちょ、ちょっと、そんなにいきなりいろいろ聞かないでよ。」
「すまん、あまりにも珍しいのでつい興奮してしまった。とりあえず、名前から聞かせてくれないか?」
「ええと、私の名前はデネブよ。」
キグナスが滝壷に落とした少女、デネブはあれからずっとドンブラコと川の流れに流されていったのだった。
そして何日も漂流した後、カノープスのいる島に流れ着いたのである。
「もうずっと全然動けなくて肩が凝ったわよ。途中でサメに咬まれそうになるし、あのマジシャン、今度会ったら文句言ってやるわ!」
「まあまあ、嬢ちゃん。ところでこんな魔法をかけたマジシャンは一体何者なんだ?」
何日も溶けない氷漬けの魔法は、さすがのカノープスも使えないのである。だが、デネブもキグナスのことを知る由もなかった。

「ところで、デブネさんや。」
「……?、あの、私の名前はデネブですけど。」
「おっと、すまない。お前さんにはツッコミの才能…もとい、魔法の才能を感じるのだが。」
ちょっと重い雰囲気の中、カノープスが話を切り出す。
「私に魔法の才能が?まさか〜」
「いや、魔法とはいえ氷漬けの中で意識を保っていたというのは、並大抵の素質の持ち主ではあるまい。」
「え、ウソ〜。今までそんなこと言われたことないしー」
デネブは照れながら満更でもない顔をした。
「コホン、そこでじゃ。」
カノープスは真剣な面持ちでデネブに語りかける。
「お前をわしの弟子にしてやろう。どうじゃ、このわしの弟子になるというのは凄いことなんだぞ。」
「断ります!」
デネブは即答した。
「そうか、そうか。では弟子に…って、おい!」
しかしカノープスの一人ボケにデネブはクスリとも笑わなかった。
「うむ、なかなかの精神力じゃ。よし、弟子にしてやる!」
「だから嫌です!」
「いや、それは認めん!!」
柔和だったカノープスの顔が一瞬にして般若のように厳しくなったかと思うと、
いきなり立ち上がり、空中から杖を取り出すとその杖で地面を突いた。
すると、地面にぽっかりと穴が開いた。
「え?」
驚いている間にデネブは座った姿勢のまま自由落下していった。

『アイタタタ……』
10mほど落下したデネブは腰を強かに打った。
「もう、何するのよ!」
デネブは見上げて文句を言ったが、カノープスは空中に浮いた状態で軽く微笑むとその優しい顔に似合わず厳しく言った。
「お前に試練を与える。己の力だけで無事脱出してみせよ。」
そして自らは空中に消えた。

「あーあ、もうやんなっちゃう。何で私がこんな目に逢わなきゃいけないのよ〜」
デネブはそう愚痴りながら一本道を進むことにした。
そしてしばらく歩くと扉があり、その先には灼熱地獄が待っていた。
「あのお爺さん、本気で私を殺す気じゃないのかしら。」
デネブはそう思わざるを得なかった。
『でも、私に魔法の才能があるのなら……』
そう思った彼女は、一か八か呪文らしきものを唱えてみた。
「ムニャムニャ〜風よおこれ!」
だが、何も起きない。
『デブネさんや、言葉だけではダメじゃ、心で魔法を思い描きなさい。』
心の中にカノープスの言葉が響く。
『あの、私はデネブです!!』
デネブは心の中で反論した。
『そうじゃ、その感じじゃ、お嬢ちゃん。魔法はハートじゃよ。』

「ハートか……」
デネブは改めて心の中で風のイメージを作った。すると何故か言葉まで勝手に浮かんできた。
「風よ、炎を吹き飛ばせ!ウインドストーム!!……えっ?」
デネブを中心にまるで竜巻のような強風が周囲に吹き荒れる。そして周囲の炎はいっそう激しさを増す。
「わ、なんで〜」
『はっはっはっは。使う魔法が悪いんじゃよ。炎には水というのが相場だから覚えて置くように。』
『それを早く言ってよね〜』
デネブは改めて水をイメージする。
「水よ、炎を鎮めて!クリーニングウォーター!」
するとドドドという音とともに、今度は大量の水がデネブを中心に降り注ぐ。
そしてあっという間に激しさを増していた炎は鎮火した。だが、
「ハ…ハックション!!」
デネブもびしょ濡れになってしまっていた。

『こうなったら魔法で服も乾かしちゃえ♪』
そう思った彼女は上着を脱いでまたもや呪文を唱えた。
「太陽よ、大地を照らせ!サンシャイニング!!」
するとどこからともなく太陽が顔を出し、暖かくなってきた。
最初はのん気にひなたぼっこをしていたデネブだったが、どんどん気温が上昇するにつれて今度は暑さに耐えられなくなってきた。
しかもまたどこからともなく炎が噴出し、元の木阿弥になってしまった。
「うぁ……暑いよ〜」
デネブは乾かしていた服を持って急いで脱出しようとしたが、炎の勢いは彼女のスピードを上回っていた。
「あちちっ!!」
炎の欠片が当たった彼女は思わず服を手放してしまい、衣服はあっという間に炎に焼かれて灰になってしまった。
「あああぁぁーー!」
叫んだがもう遅い。仕方なく彼女は下着姿のまま扉まで駆け抜けた。

――見渡す限りの大沼地。
扉の先にはそう形容するしかない風景が広がっていた。
『そーっ。』
デネブは恐る恐る足を踏み入れてみた。だが、底にたどり着くことはなかった。

「こんなところ歩けないよ〜〜
 ―って、飛んで行けばいいのか。」
そこに気づいた彼女は呪文を唱える。
「風よ、我を運びたまえ!フライ!!」
するとデネブの身体は宙に浮いた。
『気持ちいい〜』と、空を自由に飛びまわりながら彼女は叫んだ。

 やがて島らしきところにたどり着いた彼女はそこで一休みすることにした。
その島はデコボコしていたが、手ごろな場所を見つけて腰を下ろす。
ふと落ち着いた彼女は自分が下着姿だということに気がついた。
『いけない〜。こんな格好でいたら風邪引いちゃう〜〜』
デネブは服を作り出そうと魔法を唱える。
「綺麗な服よ、出ておいで!ドレスア〜ップ!」
すると空中からまさにお嬢様が着るようなドレスが現れた、と思うと
いきなり地面から泥が飛んできてあっという間にドレスは汚れてしまった。
『?!』
さらにデネブの足元に何かが絡みついてくる。彼女が下を見ると泥だらけの手が足を掴んでいた。
『あ、言い忘れていたが、島の上で魔法を使うとトラップが発動するから気を付ける様に。』
「遅いよ〜」
そう言っている間にもデネブは地面の中に引きずり込まれる。彼女は魔法を使って脱出しようとするが、
するとまた引っ張る泥の手が増えるだけで、泥の中に落ちていった。

 島の中は空洞になっていた。
引きずり込まれたデネブは辺りを見回すと、ところどころヒカリゴケでも生えているのか、淡く光っていた。
『もう〜出口はどこよ?』
この島に来た時点で下着姿だった彼女は、引きずり込まれたときにその下着も失われていた。
おかげで全く何も身につけないままの身体で、壁に触れて脱出方法を探さなければならない破目に陥った。
そして脱出路を探すこと数分、彼女は思わず壁から出てきた突起物をポチっと押してしまった。

シューッ!!

 壁から白い泡が吹き出す。その泡を避けようとしたデネブは滑って転んでしまう。
「イヤッ!何よこれ、べとべとする〜」
彼女の言うとおり、その泡は裸体に吹きかかるとその高い粘性で身体中に纏わりつく。
しかもどんどん泡は吹き出して止まらない。
「ゴホゴホッ!あれを止めないと……そうだ、魔法よ!」
だが、泡が彼女の口を塞いだのはその直後だった。
「グハッ!だ……誰か、たずげ……ゲホゲホ……」
必死にもがく彼女だが、纏わりつく泡は一向に落ちない。そればかりか徐々に泡が固まり始めて彼女はその中に閉じ込められる。
泡がデネブの身体を包み込んで数分間、もがくデネブに合わせる様に白い塊はその形を変えていく。
その後、彼女は意識を失ったのか、ぐにょぐにょと変形を繰り返していた泡の塊は動きを止めていき、
やがて大きな卵の形になって全く動かなくなった。


「師匠、お久しぶりです!」
同じ日の夕暮れ、フォーマルハウトがカノープスの家にたどり着く。
「うん、どなたかな?」
「いつもながらご冗談を。師匠の一番弟子のフォーマルハウトでございます。」
「ハハハ……よく来たのぉ。そうじゃ、ちょうどいい。お前から一番弟子の名を剥奪する。」
「?!、またまたご冗談を。」
「いや、今度は本気じゃ。ならばお前にも見せてやろう、素質だけなら誰にも負けないわしの一番の弟子じゃ!」
そう言って巨大な卵のようなものを引っ張り出す。
「これは……まさか?」
「フォフォフォ、そのまさかじゃよ。」
そう言ってカノープスはパチンと指を鳴らす。
するとその卵状の物体が透けて見えるようになっていく。その中には生まれる直前のように体を丸めた姿の少女が眠っていた。
「……お師匠様、こんな女の子になんということを。セクハラ魔法使いと言われて都を追い出されたときの悪い癖が抜けないのですか!」
「おいおいフォーマルハウト、わしをなんだと思っておる。こいつはお前よりも優れた魔法使いになれる素質の持ち主じゃぞ。」
「そう言って彼女を騙したのですか?師匠、どう見てもこんな子供が優れた魔法使いなどと……」
しかしカノープスはそれを遮ると、
「まあ見てみい。お嬢ちゃんや、出てきなさい。」
そういって殻を叩く。だが、何の反応もない。
「……まだ寝とるのかい、デブネさん?」
僅かな沈黙の後、眠っていた少女が声を出した。
「私は、デネブです!」
そして殻にヒビが入り、中が見えなくなる。
「え……師匠?!」
「フォーマルハウトよ、よく見ろ。世界一の魔法少女の誕生じゃ!!」
カノープスが叫んでいる間にもも殻はどんどん壊れていき、中から全身白い肌をした少女がまるで卵から生まれ出たかのように現れた。
「あ〜〜、やっと出られた〜〜」
デネブは大きく背伸びした。そして視界にカノープスの姿を見つけると近寄って文句を言った。
「もー、おじいさん、私の名前は間違えるし、酷い目にあわせるし、どういうつもりよ!」
そう言ったところでもう一人の男が自分をしげしげと眺めていることに気づき、自分が一糸纏わぬ姿であることを思い出した。
「え、え、エッチ〜〜!!」
バチンと大きな音がして、2人の顔には赤い手形が残った。

続く


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