封印演義・第5話『図書館の出来事』

作:Shadow Man


話はフォーマルハウトに戻る。彼は天帝のもとに向かい、事のいきさつを報告した。
天帝キノスラは彼の報告に対し、大臣にトレミー団のことを至急調査するように命じた。
だが、数千年前のことを知っているものがいようはずもなく、書物にも記されていなかった。
「フォーマルハウトよ、そなたの報告を信用しないわけではないが、トレミー団と申すものがどのようであったのか誰も知らぬ。
 それでは我々もどうすればよいのか判らないのじゃ。
せめて連中がどのようなもので、誰がいるのかをはっきりさせてくれないか?」
天帝からそう言われたフォーマルハウトは肩を落とした。彼にしてもトレミー団がどのようなものか知らない。
遺跡にいた女性にしても詳しいことは覚えておらず、途方にくれてしまった。
しかたなくフォーマルハウトは師匠ともいえる人物の元へ行くことにした。その人物は都からかなり離れた田舎に住んでいる。
彼は女性を置いてその人物の元へと飛び立った。

数日後、たどり着いた町でフォーマルハウトはある噂を耳にした。この町には古代の魔法書が収められた図書館があるらしい。
ならばトレミー団に関する情報もあるのではないか、そう考えた彼はすぐさま図書館に飛び込んだ。

その図書館はかなり寂れていて司書の人さえいなかった。仕方なくフォーマルハウトは一人で図書館内を廻る。
しかし何も見つからず腰を落としたそのとき、彼は床から魔力を感じた。
気になってよくよく床を調べてみると下へ降りる階段があり、その先にはおそらく何十年も足を踏み入れていない部屋があった。
『これは思いがけない発見があるか?』
そう思った彼は持ち前の探検家魂で奥へ奥へと進んでいく。そして鍵のかかった扉にたどり着いた。
「この程度の扉、軽く開けてみせるっ。」
そう独り言を言いながら彼は鍵開けの魔法を使った。

ガチャッ。
永らく開かれていなかったような重い音を立てて扉が開いた。
その中は真っ暗であった。フォーマルハウトは魔法で光を生み出すと天井から部屋中を照らせるようにした。
そして部屋を探索する。中は埃まみれで、一体どれだけ長い間放置されていたのかと思わせる様子だった。
しかしその中で一箇所だけ強力な魔法を感じるところがあった。彼はそこに駆け寄ると、埃を振り払う。
そこには一冊の書物があった。だが、魔法の力が働いていて開くことが出来ない。
『これはますます楽しみだ』
そう彼は思いながらディスペルの魔法で呪縛を解き放つ。すると本はひとりでに開き一瞬光に包まれた。
「うわっ!」
フォーマルハウトはその出来事に一瞬気を失った。

―――


気がつくと彼は見知らぬ場所に立っていた。
目の前にひとりの女性がいた。年のころ17,8だろうか、肌が艶々として若さがにじみ出ていた。
彼はその女性に語りかけようとしたが彼女は反応しないばかりか、彼の手がすり抜けてしまった。
『はて、これは幻か?』
どうしようもないので彼はしばらく様子を見ることにした。

その女性には妹がいた。妹のほうはまだ12歳くらいのまだあどけなさの残る美少女だったが、既におない年くらいの彼氏がいるようだった。
しかし姉もその少年のことが気に入っていたようで、たびたび家に来る少年に対して篤くおもてなしをしていた。
だが、少年が妹と仲良くしているのを見てどんどん嫉妬の炎が沸いてきたのか、堪らなくなった姉はある日妹のいない日を見計らって少年を家に呼び込んだ。
「あれ、ラナは?」
目当ての妹がいないことに疑問を抱いた少年は姉に尋ねる。
「ちょっと待っててね。すぐに準備できるから。そこのジュースを飲んで待っていてね。」
「準備?」
少年はどういう意味か聞こうとしたが、姉はそそくさと部屋から出て行ってしまう。少年はジュースを飲んで待つことにした。
しばらくして再び姉の声が少年を呼んだ。
「準備できたから、ちょっと後ろを向いて待っててくれる?」
「は、はい」
少年は何が何だか判らなかったが言われたとおりにした。
ガラリと部屋の扉が開く。フォーマルハウトは入ってきた姉の姿を見て目を丸くした。姉は裸の身体にリボンを巻いただけの格好だったのである。
「アジャー君、振り向いていいわよ。」
姉は少年に後ろから近づくと振り向いて立つように言った。
「あ、あわわ…」
そして少年もまた姉の姿を見て驚いて腰を抜かした。
「ちょ、ちょっと、その格好は?」
「驚かなくてもいいのよ、お姉さんがあなたをラナの分まで可愛がってあげるから。」
「い、いいよ!僕は別に…」
少年は立ち上がって逃げようとした。だが、姉は自らの身体を巻いていたリボンを解くと、そのリボンで少年を捕まえた。
「怖がらなくてもいいのよ。今からいいことをしてあげるから。」
そして姉は少年を後ろから抱きしめ、身体を撫でながら上着を脱がせた。
少年の背中と姉の乳房は肌と肌で触れ合った。
「ラナー、助けてーー!」
少年は妹の名を叫ぶが、何の反応もない。フォーマルハウトも何も出来ずに唾を飲んで眺めているしかなかった。

姉は少年を愛撫し続け、そして10分ほど経った。
すると逃げようともがいていた少年の足が動かなくなってきた。同時に足がブロンズ色に変わり始めた。
「お姉ちゃん…僕の足が、足が動かないよー!」
自分の身体の異変に気がついた少年は姉に対して訴えかける。だが姉は冷静に応えた。
「それはね、お姉さんがあなたに身体をブロンズ化する薬を飲ませたからよ。
 さっきジュースを飲んだでしょ。それがその薬よ。」
「嘘…」
「嘘じゃないわ。現にあなたの身体が固まってきているでしょ。
 それに実は私もその薬を飲んだの。だからすぐに私もあなたと同じブロンズ像になるのよ。」
そう言った姉の足もブロンズ色になり始めた。
「そ、そんなの嫌だ〜。た、助けて…」
「そんなこと判っているわ。でも私の気持ちも考えてよね。
 今まで妹と仲良くしててありがとう。そしてこれからは私と一緒になるのよ!」
だんだん口調が厳しくなる姉とは逆に、単に身体がブロンズ化していただけかもしれないが少年は血の色が引いて蒼白くなってきた。

そしてまた数十分経った。少年は殆どブロンズ像と化していた。
そこで姉は殆ど動かなくなった身体で少年の頭を引き寄せると既にブロンズになっていた少年の唇に自分の唇を重ねた。
キスをしながら涙を流していた姉の姿を瞼に焼き付けながら少年は完全にブロンズ化した。
姉が固まったのはそれから1分としない間であった。

――――
――
やがて空間は光に包まれ、フォーマルハウトはまた気を失った。
気がつくと、目の前にはいつの間にか美しいブロンズの像があった。
その像は上半身裸の若い男の子を後ろから抱きしめている全裸の女性の姿であった。
男の子の目のところには涙で出来たような丸い玉が付いており、女性の方の顔には涙を流したような跡があった。
そしてまるで今出来たかのような光沢を放っていて表面もツルツルだった。
「これは一体…?だいたいこの本は何なんだ?」
フォーマルハウトは改めてその本を手に取った。その本にはこう書かれていた。
『      リアライズブック
 ※この本に書かれた内容はフィクションです。
 ただし、中身を体験することによって得られた結果は実現します。』
さらにページをめくると詳しい使い方が書かれていた。
「これはいい物を手に入れたな。」
フォーマルハウトは久しぶりに宝物を見つけた感動に浸った。そしてその本を荷物に入れるとまた急いで街から去った。


図書館には残されたブロンズ像を眺める妹の姿があった――

続く


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