夜明け前より瑠璃色な〜石化した月の王女〜 第3話

作:七月


ターミナルを離れたフィアッカは朝霧家に向かっていた。
目当ては達也の父、月の歴史学者である朝霧千春の書斎だ。彼の書斎には膨大な量の月に関する書物が眠っている。その書物の量は月の大使館にも勝るとも劣らないだろう。
フィアッカは月にとっては一種のお尋ね者のような存在であり、大使館に行くのはフィアッカにとってかなりリスキーである為、朝霧家のほうを頼って来たのだ。
「何かロストテクノロジーに関する資料があればよいのだが・・・」
フィアッカは自身が持つロストテクノロジーで姿を消しながら朝霧家の門をくぐった。
そのまま静かに玄関の戸をくぐり、足音を立てないように二階へと上がって行く。
リビングからは数人の少女の楽しそうに談話する声が響いて来た。
この家に住んでいる麻衣、さやか、そしてミア、それから遊びに来ているのであろう菜月や翠の声だ。
(ふむ、相変わらずここは賑やかだな。)
階段を上りながらフィアッカは思う。
(リースも・・・ここは好きか?)
フィアッカは今は眠っているもうひとつの人格に心の中で語りかける。
リースからの返事は無い、だが返事は決まりきっているような気がした。
(まあ、そうだな。)
フィアッカはクスリと笑いながら、千春の書斎を目指した。



「ほら・・麻衣ちゃんこんなに固くなって・・・」
「はあ・・・ん・・・お姉ちゃん・・・きもち・・いい」
「・・・・なにやってるの?」
麻衣とさやかのやり取りに菜月が突っ込みを入れた。
この時さやかは家事で疲れていた麻衣の肩をもんであげていたのだ。
「前回の嘘予告を早めの消化しておこうと思いまして。」
「なんのこっちゃ・・・」
と、呆れ顔になる菜月。そんな菜月に
「あれ、そういえば翠先輩はどこにいったんですか?それにミアちゃんも。」
と麻衣が尋ねた。
「ああ、翠はさっきシャワー借りるよー。って言って風呂場に駆け出してったよ。ミアちゃんは2階の掃除だったかな。」
「ふーん。気付きませんでした。」
「麻衣たちは嘘予告の消化?とやらに夢中でしたからねー」
「あはは・・・」
ジト目の菜月に麻衣は頭をポリポリかいて笑った。
そんな時
ピーンポーン
と朝霧家の玄関のインターホンが鳴った。
「あら、きっとカレンね。そろそろ来るって言っていたし。」
と、さやかが玄関へと向った。
「カレンさんか、何しに来たんだろう?」
「さあ、フィーナ絡みの事なんじゃないの?」
と麻衣と菜月が談笑していると。
「え・・なに・・・きゃあっ!」
玄関先からさやかの慌てたような声が聞こえてきた。
「え・・・さやかさん?」
「お姉ちゃん?」
菜月と麻衣の呼びかけに反応は無い。
「どうしたんだろう・・・・」
と、麻衣は心配そうな顔で言う。
「うーん、ちょっと見てくるね。」
そう言って菜月はさやかの様子を見るために玄関へと向った。
リビングの戸をあけ、そして・・・
「さやかさん!?」
そこで菜月が見たものは開け放たれた朝霧家の玄関の戸。そして、そこに立ち尽くしている穂積さやかの石像だ。
誰かを迎え入れている最中の格好で固まっているさやか。
だがその顔には驚きの表情が表れている。
まるで知り合いだと思ってドアを開けた瞬間、予想外の何者かに襲われたかのような・・・
「さやかさん!」
さやかの名を呼び、石像に触れる菜月。さやかはピクリとも反応することなく、微動だにせずにそこに佇んでいた。
「一体何が・・・」
なんでさやかさんが石に!?と菜月は疑問を浮かべたが、今はそれよりも麻衣や翠、ミアの無事を確かめなければ・・
菜月は急ぎリビングに戻った。
「麻衣!」
リビングのドアを開ける。すると
「そんな・・・」
そこには石化した麻衣が立っていた。
麻衣は何かから逃げ出すような格好で顔はこちらを振り向いて固まっている。
その顔に浮かんでいるのはやはり驚きの表情だ。
「うそ・・麻衣まで・・・」
今にも動き出しそうなほど躍動感溢れる麻衣の石像。だが、ただの石像が動き出すわけはない。
全身灰色に染まった麻衣は先ほど変わらないポーズのままそこに立っていた。
さやかに続き麻衣まで石になってしまった。あとは・・
「な・・なに!きゃああっ!」
「翠っ!?」
今度は風呂場からだ。アレは間違いなく翠の悲鳴だった。
菜月は風呂場に急ぐ。
すると、
パアアアッ
風呂場から奇妙な光がもれているのが見えた。
「なによこれ!?」
菜月はその正体を確かめるべく慎重に風呂場へと入った。そこには・・・
「翠・・・」
風呂上りに襲われたのだろう。一糸纏わぬ姿で石像となっている翠の姿があった。
大事なところを見られまいと、胸と股間を必死に隠そうとするような格好で固まっている翠。
だが、体に巻いていたであろうタオルは足元へと落ちており、翠の灰色一色に染まった裸体は余すことなく露わになっていた。
「翠まで・・・」
菜月は愕然とした。もしかしてミアもすでに・・・
「菜月さん、どうかしましたか?」
だが、その不安はすぐに消え去った。
菜月の背後からかわいらしい声がした。間違いない。
「ミアっ!」
「え・・え!?どうなさったんで・・・・キャッ、翠さん!?」
ミアは無事だった。そのミアは、石像となった翠を見て驚きの表情を浮かべている。
「よかった。ミアは無事だったのね・・・」
「これは一体・・・」
「わかんない。・・・皆がどんどん石に変えられて・・・ってミア、何を持ってるの?」
菜月はミアが抱えているものを指して言った。
それは何かの宝石のようだったが・・・
「これですか、そこに落ちていたんですけど・・・なんでしょう?」
菜月は直感で感じた。コレは危ない!
「ミア!それを早く捨てて!」
「え・・え・・?」
ミアが狼狽する。その間に宝石は活動を始めてしまった。
パアッと光が菜月とミアを包み込んだ。
「な・・に・・・」
「そ・・ん・・・・な・・・」
菜月とミアの体が一瞬で灰色に染まっていく。
動きも止まり、目も焦点を失い濁っていった。
菜月とミアは、石化してしまった。



こうして朝霧家から賑わいが消えた。
先ほどまで楽しそうにしゃべっていた少女達は一人残らず石像へと変えられてしまったのだ。
玄関で石像にされたさやか。リビングで襲われ石と化した麻衣。風呂上りに石化された翠。そして、たった今、菜月とミアの石像が追加された。
動くもののいなくなった朝霧家で「Medusa」は最後の獲物を求め、動き出す・・・・




同時刻、朝霧家書斎。そこではフィアッカが・・・・
パラパラパラ(本を読む音)・・・・パラパラパラ・・・
「・・・・ん?何かあったか?」
蚊帳の外なのだった。



<次回予告>
ついに決着、フィアッカVS「Medusa」!
他にも結局最後までヒロインになれなかったかわいそうなあの人が頑張っちゃうかもしれないから覚悟しとけよオマエラ的な展開が!?
フィアッカ:「いしになぁれ〜」
あの人:「な・・なにするきさまきゃああっ」
次回:『第4話:無茶しやがって・・・』
乞うご期待!





・・・・・・・・・・・・・・・ラストです(* ´∀`)

つづく


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