夜明け前より瑠璃色な〜石化した月の王女〜 第4話

作:七月


「よし、こんなところか。」
 読み終えた本を閉じながら、フィアッカは一人呟いた。
 今、フィアッカがいるのは朝霧家の書斎だ。ここでロストテクノロジーに関する資料を探していたのだが
「あまりめぼしい情報は無かったか……」
 だが、ある程度の収穫はあった。とフィアッカは情報を整理する。
 結果として元に戻す方法は分からなかった。だが、Medusaに関するいくつかの情報を手に入れた。まずMedusaは意思を持ったロストテクノロジーではあるが、元々は道具として用いられていたという事。Medusa自身も自由に石化能力を行使できるようだが、呪文を唱えると強制的にその能力を発揮させられるというのだ。ちなみにその呪文は「いしになぁれ〜」だそうだ。最早呪文と呼べるのか疑問である。
 それともう一つ、それはMedusaの石化能力の大前提がMedusaが起動中であるということだ。
 石化には2種類が考えられる。それは術者が死ねば石化が治るタイプと、術者が死んでも石化が直らないタイプだ。
 Medusaに関してはどうやら前者とのことだ。つまり最悪の場合Medsusaの機能を停止させれば石化は治るということだ。
「できれば無事に保管したいが……」
 最悪の場合はMedusaの破壊も考えなければいけない。
 そして最後に、これが一番重要かもしれない。それはMedusaには限界があるということだ。どうやらMedusaが一度に石化できる人数には限界があるらしい。そしてそれを越えてしまうと、石化を維持できなくなるとのことだ。
「つまり、手当たり次第に石化させまくればそのうち限界が来るのでは……」
 ぶつぶつと呟きながら歩くフィアッカ。
「取り合えず帰って検討してみるか。」
 そう言ってドアを開けると
「…………」
 目の前には緑色の宝石が浮かんでいた。
「えーっと……」
 フィアッカは逃げ出した。




「何でアレがここに!? ターミナルで保管していたはずだが……ええい、シンシアは何をやっている。」


【シンシアは石になっている。】


「テロップが衝撃の事実を教えてくれたー!?」
 シンシアめ、しくじったな……
 妹への恨み言を心の中で唱えながらフィアッカは走る。
 廊下を駆け、階段を下りると……
「くっ……」
 そこには朝霧家の面々の石像だ。
 Medusaによって彼女達も石に変えられてしまったのだろう。灰色に染まった彼女達はピクリとも動かない。
(彼女達のことも気がかりだが取り合えず今は逃げなければ……)
 そう思ってフィアッカは玄関へ進もうとする。が、
「こんにちは」
「なっ!?」
 予想外の客が来た。カレンだ。
「あら、あなたは……」
 やばい! フィアッカにとってカレンは敵だ。 
 しかも後ろからはMedusaが迫ってきている。挟み撃ち状態だ。どうするか・・・
「こうなったら・・」
 フィアッカはとっさに丁度近くにあったトイレのドアを開きその中に駆け込みながら
「いしになぁ〜れ」
 唱えた。
 Medusaが光りだす。
「な・・なにするきさまきゃああっ」
 カレンに光が降り注いだ。
 カレンの体が灰色に変化していく。何が起きたか把握する間もなく、カレンは石像へと変化してしまった。



「サラバ宿敵(とも)よ・・・」
 そんなことをフィアッカはトイレの中で呟くと
「さて・・・」
 ガチャリと戸をあけ外に出た。
 ひとつの問題は解決できたがもう一つ、Medusaの問題は残っている。どうしたものかとMedusaの様子を窺うと
「おや・・・」
 フィアッカは見た。今、フィアッカの視界に映るのは石像と化したカレンの姿、それとこの場を逃げ出そうとしているMedusaだ。
 先ほどまでフィアッカを追いかけていたMedusaが打って変わって逃げ出しているのだ。
 これはどういうことか
「まさか・・・!?」
 フィアッカは気付く。
「実は私(リース)は美少女じゃなかったのか!?」
(!?)
 ズーンと凹むフィアッカ。(とリース)
「ってまあ冗談はこの辺にして」
 立ち直りも早いフィアッカ。
「どういうことだ・・・・まさか!?」
 今度こそフィアッカは気付く。そう。
「限界か!」
 フィーナにエステル、シンシア、麻衣、さやか、菜月、翠、ミアそしてカレン。
 9人もの少女を石に変えたMedusaはこれ以上他を石に変えることは出来ないのではないか?
「チャンスだ!」
 フィアッカが走る。Medusaは近づいてくるフィアッカに対し何の反撃も出来ずに、ただふらふら逃げようとしていた。
「さあ・・・」
 フィアッカがとんだ。
「捕らえたぞ。」
 そして、Medusaを捕まえる。
 なす術無くMedusaはフィアッカに捕まり、Medusaの逃亡劇はここに幕を下ろしたのだった。



 アレからしばらく。
「さて、着いたな。」
 今、フィアッカがいるのはターミナルだ。
 Medusaを捕まえた後、石像たちを運んでここに戻ってきたのだ。
 ひとつひとつ石像を抱え空間跳躍を何度も行うのは結構骨が折れたがまあ仕方あるまい。
 ちなみに運んできた石像はやはり……
「裸か……」
 全て裸になっていたのはいうまでも無い事である。作者の陰謀ここに極まれり。
「しかし……」
 フィアッカはとある方に視線を向けた。そこにいたのは
「お前はどうして石化なんかしてるんだ……」
 石像と化した妹のシンシアの姿だ。
 フィアッカはそんなシンシアの石像に近寄ると
「まあ大方そこらに脱ぎ散らかしてある服でも踏んづけて滑って転んでケースを割っちゃった……といったところか。間抜けだな。」
 誰のせいよーっ! と本来なら聞こえてきそうなものではあるが、石像と化したシンシアからは何も反応が返って来る事は無かった。
「それにしても……成長しよって……」
 フィアッカの視線は今、シンシアの胸に向けられている。フィアッカの今の体は厳密に言えばリースの体を借りている状態なのであって、実際にはフィアッカの胸が小さいというわけではないのだが、それでも妹に負けているのはなんか悔しい。
(むかつく……)
「む、リースもなんかむかつくか。この胸が。」
 今は眠って言うはずのリースも同意見のようだった。
「では腹いせに少し妹の体でもいじくってやるか。」
 そう良いながらフィアッカはシンシアの体を触りだす。
「ほらほら、どうだシンシア。」
 胸を撫で、頬を撫で、二の腕を撫で……
 シンシアの裸体の至る所を撫で回していく。と
 ガランッ
 もともと膝立ちだったためバランスの悪かったシンシアの石像が横に倒れた。
 その上に覆いかぶさりながら、フィアッカは硬く冷たくなってしまった妹の肌を体感する。
「はっはっは、何か反応したらどうだ? シンシア?」
 反応なんて出来るわけないのは分かりきっているのだ。だが、どうも妹絡みだとSっ気が発揮されてしまうようだ。
 フィアッカはその後もシンシアの首元を舐めたり、頬を硬くなった胸に摺り寄せたりしながら妹の石像を満喫するのだった。



「さて、仕切りなおすか。」
 一通り妹の石像を味わった後、石像をターミナルの中に並べ終えたフィアッカは言った。
「ふむ、なかなか爽快な光景だ。」
 そこには輪になって石像郡が並べられていた。
 フィーナをはじめ、時計回りにエステル、シンシア、麻衣、さやか、ミア、菜月、翠、そしてカレンの順に石像が陳列されている。
 そしてそれらの中心には、彼女達を石に変えた存在である Medusaがケースに入れられて保管されていた。
 それぞれ台座の上に飾られた彼女達はまるで美術館に立ち並ぶ美術品のように美しかった。
「……なあ。」
 誰にともなくフィアッカは語りかける。
「ここで終わりにしないか?」
というのは?
「こういうことだ。」



 こうしてターミナルには9人の女性の裸婦像が飾られる事となった。
 全身灰色に染まり、硬く冷たい無機物へと変わり果ててしまった少女達。髪の毛の一本にまで精巧な石像と化してしまった彼女達はただの美術品としてこの時の流れから隔絶された空間に保管され続ける。
 そう、誰も訪れることのないこの美術館に……
 だが、そんなこの場所もいつかは誰かが発見し、彼女達も保護されるのかもしれない。だがそれは少女達としてではなく、あくまで過去の貴重な美術品として丁寧に扱ってもらえるだろう。本当の美術館に運ばれて展示されるかもしれない。
 そうなれば彼女達も本望ではないか。
 そう思ったフィアッカは静かにターミナルを後にするのだった。





完!









フィアッカ「駄目か?」
天の声「駄目です。」



 ちぇー、としぶしぶフィアッカは動き出した。
 ケースからMedusaを取り出し
「まあ簡単な事だがな。コイツはもう限界まで人間を石化させているはずだ。だから……」
 フィアッカは
「最後に私を石化させれば良い。それでコイツは限界突破して後は勝手に元に戻るはずだ。」
 そう言いながら服を脱ぎ、台座の上に登った。
 何故服を脱いだのかというと……
「作者の趣味だ!」
 ありがとうございます。
「さて、でははじめるか。」
 フィアッカは目の前にMedusaを掲げる。そして
「いしになぁ〜れ。」
 Medusaが光りだした。
 自分の体に光が降り注ぎ、徐々に変化が訪れるのを感じた。
体がこわばり、動かなくなっていく。感覚もなくなっていった。
 意識も次第に薄れていく。
(さて……)
 石になりながら、フィアッカは思う。
(これで……終わりだ……)
 スッ
 とフィアッカの意識が途絶えた。
 そこには、完全に石と化したフィアッカ(リース)の姿があった。
 幼いその身を露わにして石像になったフィアッカ。
 そのフィアッカの手の上ではMedusaが……
 ふわっ
 動いていた。
 宙に浮かび、フィアッカの元を離れていくMedusa。そう、Medusaは確かにもう能動的に人を石に変える事はなかった。だがそれは限界だったからではない。限界が近かったからだ。つまり、Medusaにまだ人を一人石化できるだけの力はあったのだ。
 フィアッカはそこを見誤った。だがもう後の祭りである。
 なぜなら今はもうフィアッカはただの石の固まりになってしまったのだから。
 Medusaはそんなフィアッカにも一瞥もくれずにターミナルを後にしていった。後には10人の美少女たちの石像が美術品のように残されていた。

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