カタメルロワイヤル第15話「罠」

作:七月


前回のあらすじ:ティアナたちは謎の二人組みと見つめあいました。



「・・・・」「・・・・」
「・・・・」「・・・・」
「というわけで私は行くわ!妖夢、そいつらの足止めお願い!」
「どういうわけですか霊夢さん!・・って逃げたー!?はやっ!?」
いきなり二人組みの少女が現れたかと思うと、そのうち赤い巫女服の少女がいきなり逃げ出した。しかも万能薬のある方向に。
「ってしまった!このままじゃ先越される!?」
私はあまりの展開の速さに完全に置いてきぼりを食らっていたが、慌てて私も霊夢と言う少女を追いかけようとした。
だが、
「待ってください。」
私の前に妖夢と呼ばれた少女が立ちふさがった。
「むう・・・・なんか腑に落ちませんが、任された以上はここは通しませんよ」
妖夢の両手にはそれぞれ日本刀が握られている。
(二刀流か・・・)
それもかなり手練れている。構えを見ればそれは明らかだった。
私としては妖夢は無視して霊夢を追いたかったが、どうやら簡単にやり過ごせる相手ではなさそうだ。
そんな感じで私が立ち止まってしまっている間にひとつの影が私の横を通り過ぎた。
その影はそのまま妖夢に切りかかる。
キィンッ
「シャナ!」
シャナの振り下ろした剣撃をX型にクロスさせた日本刀で妖夢が受け止めた。
そのままシャナは鍔迫り合いへと持ち込む。
「こいつは私が抑えとくからあなたは先に行きなさい。」
「じゃ・・邪魔しないでください。」
「ありがとう、恩に着るわ。」
「ちょ・・・ちょっと待って・・あぁ〜っ。」
シャナに押さえられている妖夢の横をすり抜けて、私は霊夢を追いかけた。
「はいこれであんたの任務失敗ね。」
「そんなあ〜っ。」
そんな会話が背後から聞こえた。



同時刻。とある通路内にて。
「そんな・・・どうして・・・」
「教えるわけ無いでしょ。それじゃあバイバイ。」
「きゃああああっ!」
ガンッ、ガンッと銃声が響く。
四方を壁に囲まれたこの廊下ではその音がいつも以上によく響いていた。
「ふう・・・あっけない。」
銃口から立ち上る硝煙にふーっ、と息を吹きかけながら美琴が言った。
美琴の視線の先には巨大な鉄製の檻。そしてその中には一人の少女の成れの果ての姿があった。
頭に獣の耳を生やした、アイヌ民族にも似た衣装を身にまとう少女、エルルゥ。
彼女の黄金像が檻の中にはたたずんでいた。
エルルゥは胸に受けた銃撃によって仰け反った形で、両手を大きく広げたまま固まっていた。
その表情からは逃げ場をなくした絶望感が見て取れた。
彼女は、檻に囚われたところを美琴によって黄金像にされてしまったのだ。
「ふふ、やっぱりこのアイテムがあれば楽勝ね。」
美琴は胸につけられたバッチを見ながら言った。
レアアイテム:トラップバスター。
神殿エリアのレアアイテムであり、その能力は“全てのトラップの発動を無効化する”と言ったものだった。
この力があれば、自分はわざと罠の多いところに逃げ込めば、勝手に相手は自滅してくれる。
まさに罠の多い神殿エリアでは最高の能力を誇るアイテムだった。
「さてと、この調子でどんどん行きますか・・・ん?」
次の相手を探し始めようとした美琴は、遠くの通路を歩いている一人の少女を見つけた。
(よし、次はあの子ね。)
美琴は、新たなターゲットに向かって走り出した。



キィン、キイィン
鉄と鉄がぶつかり合う音があたりに反響する。
刀が振るわれ、ぶつかり、そして互いにはじきあう。
その度に甲高い金属音とともに小さな火花が散った。
シャナと妖夢。
二人の剣士による戦いは、互いに一歩も譲らぬせめぎ合いは続く。
「いい加減にそこをどいてください!早く追いかけないと後で霊夢さんに何言われるか・・・」
刀をシャナに振り下ろしながら妖夢が言った。
シャナはそれを受け止めながら
「さっきと立場が逆転しちゃっているわね。ここは通さないわよ。」
力いっぱいに刀を振りぬき、妖夢の体を吹き飛ばした。
妖夢は空中で身を翻し、綺麗に着地した。
「仕方ありません・・・強行突破です。」
「何・・・?」
妖夢が静かに刀を鞘に納めた。
姿勢を低く、腰を落として呼吸のリズムを整える。
視線はまっすぐ、敵を、その直線上を見据える。
体中の力を抜いて、しなやかに動き出せるように。
「行きます・・・」
始動はすばやく。それでいて
「心抄残!」
力強く!
ザアァッ!
妖夢の体が低めの体勢を維持しつつシャナに凄まじい速さで肉薄した。
力強い踏み込みから来る瞬速の切り払い術。
妖夢の通った後には妖夢の巻き起こした風により、通路にまばらに積もっていた砂埃がぶわぁ、と舞い上がった。
(これは!)
妖夢の姿をすぐ眼前に捕らえてシャナ考える。
相手の狙いはこちらの足元だ。
それゆえの低めの姿勢からの、切り払いの抜刀術。
それを刀一本で防ぐのは至難の業だ。
ならば
「はっ!」
シャナは地面を蹴って宙に舞う。
その下を妖夢が剣風を撒き散らし通り抜けて行った。
「うわっ!」
その後に撒き散らされた砂埃がシャナを包み込み、思わず目を閉じてしまう。
「やった!抜けました。」
「くそ・・・待ちなさい!」
シャナの下を潜り抜けた妖夢はそのままの勢いでティアナや霊夢が進んだ先へ進もうとした。
「よし・・これで・・」
カチッ
「カチッ?」
妖夢の足元から何かを踏んだ音。そして
バカン
地面が大きく開いた。
「うそ!?って・・・あ〜〜〜〜〜〜〜っ!」
そのまま妖夢は成す術無く落下して行ってしまった。
一連の事にボーゼンとしてシャナはその様子を見ていた。
「ついてない奴ね・・・・」
ティアナと霊夢が無事に通り抜けて行ったところの罠を踏んでしまうとは・・・
しかも妖夢は両手に刀を握っていた為、落とし穴の淵につかまることもできなかったのだろう。
その後しばらくすると、ズズズと音を立てて穴の底から床が競り上がって来た。
そして、その床の中心には黄金像と化した妖夢の姿があった。
依然両手にはしっかりと刀が握られており、表情こそ多少戸惑いが浮かんでいたが、黄金像と化した後でも剣士としての勇ましい姿は崩してはいなかった。
「立ち往生なんて、剣士としては最高の散り方じゃない。」
シャナは動かなくなってしまった妖無に語りかけるように言った。
そのまま妖無の横を通り抜け、シャナはティアナの後を追いかけ始めた。
ただの黄金像になってしまった妖夢は、成す術無くシャナが通り過ぎていく横に佇んでいるだけだった。



「見つけた!」
「げっ、もう追いついてきた。」
まだそれなりの距離は残ってはいるが、私は霊夢の後姿を捉えた。
足の速さは私のほうが少し早いようだ。問題は万能薬の在り処に着くまでに追いつけるか・・・
「くそ・・・って、ん?」
霊夢が前を見ると、通路の少し先に明るく開けた大部屋が見えた。
そしてその部屋の中心にはやや大きめの燭台があり、その上には・・・
「見つけたわ!万能薬!」
小さな小瓶に入った白濁した液体。万能薬が置いてあった。
ご丁寧に燭台には『万能薬はこちら↑』とか言う看板がついている。
運営者はもっと不親切になるべきだと思った。
「貰ったわ!」
「くそっ・・・」
さすがにこの距離では霊夢に追いつくことは出来ない。
霊夢は通路を抜けると脇目も振らずに万能薬に向かって駆け寄った。
「私の勝ちねっ!」
霊夢の右手が万能薬へと伸びる。
だが、霊夢の指が万能薬に触れようとした瞬間
バチィッ
「な!?」
霊夢の右手が赤い電撃に包まれた。
電撃に中てられた霊夢の手は黄金へと変化していた。
「何よこれ!?」
霊夢は黄金と化した自分の右手を見ながら言った。
「これは・・・」
私もその光景を通路から見守っていた。
霊夢は周りを良く見ていなかったから気がつかなかったのかもしれないが、部屋の壁際には10個の宝玉が飾られていた。
そのうちのいくつかは赤く、残りは蒼く光っている。
その赤く光っている宝玉が、霊夢が万能薬に触れようとした瞬間輝きを増していった。
そして、その宝玉から一斉に稲妻が放たれ、霊夢へと襲い掛かった。
「きゃあああっ!?」
一瞬で霊夢の姿が電撃に包み込まれる。
遠くにいてもバチバチと激しい電撃音が聞こえてきた。
赤い光に包まれた霊夢の影は幾度も激しく動き、霊夢が電撃の中で苦しんでいるだろうことは用意に分かった。
「ああ・・あ・・・」
電撃に包まれた霊夢の動きが止まり、やがて声も聞こえなくなった。
だが、その後も電撃は収まる事なく続いていた。
しばらく立ってようやく電撃が止まると、そこには霊夢の変わり果てた姿があった。
霊夢は、黄金像になってしまったのだ。
電撃の衝撃によるものか、霊夢の衣服は粉々に砕け散り、霊夢はその裸体を露わにする事となっていた。
全身金色に染まり、ピクリとも動くことはない霊夢。
電撃により受けた苦痛を物語るような、苦しみに満ちた表情で霊夢は固まっていた。
「ティアナ、大丈夫だったの?」
「シャナ!」
やがてシャナが追いついてきた。
どうやら向こうも無事に済んだらしい。
「なにこれ、どういうこと?」
シャナは霊夢の黄金像を見て言った。
「万能薬に触ろうとしたら・・・あの有様よ。」
「ふーん・・・」
私は周りを見渡した。すると、あることに気がついた。
先ほど見た宝玉。そのひとつが赤から青へと変化していたのだ。
(もしかして・・・)
宝玉の数は10個、万能薬争奪戦の参加者の10人。
そして、霊夢が固まった時に宝玉が赤から青へと変わった。
「これって・・・残りの参加者の数を表しているんじゃ・・・」
「え・・?」
運営者は言っていた。最後の一人が万能薬を手に入れられると。
つまり、最後の一人になるまで万能薬には触れる事は出来ないのだろう。だから、まだ参加者は残っているのに万能薬に触ろうとした霊夢は黄金像にされてしまったのだ。
私は宝玉を見渡した。
今、赤く光っている宝玉は3つ。つまり私を抜くと敵は・・・
「あと・・・2人・・・」



今回の被害者
エルルゥ:黄金化
妖無:黄金化
霊夢:黄金化

残り33人

つづく


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