カタメルロワイヤル第9話「SOS団」

作:七月


「はあっ!」
ガンガンッ
千鳥かなめの放つ銃弾が容赦なく私を襲う。
私はそれを左右にステップを踏みながらかわしていく。
今、私たちは戦闘の真っ最中だ。
突然現れた千鳥かなめ、リタ、十六夜咲夜と名乗る少女達たちと私たちは対峙している。
そして私の相手は千鳥かなめ。
彼女の武器は銃で、とにかく無造作に私に向って弾を連発してくる。
だが、彼女は銃になれていないようで狙いはまだまだ甘かったので、簡単によけることが出来た。
(早く勝負を付けないと・・・)
私はこのとき少し焦り気味だった。
というのも気がかりなことがあったからだ。
それはフィーナと早苗の存在だった。
フィーナはエステルの氷像を目の前に今も尚立ち尽くしている。
私もなのはさんやフェイトさんの石像を見たときは大きなショックを受けた。
なので、今のフィーナの状況も当然のことに思える。
幸いかなめは私が相手をしているし、リタもレイミが相手をしているので、今のところフィーナに危害が加わることはなさそうだった。
だが、もっと気がかりなのは早苗だ。
今、早苗は戦える武器を持っていない。
早苗の武器である筆はこの寒さで凍ってしまっているからだ。(ある意味とがった筆先が凶器としてはつかえるみたいだが)
そして、その早苗は今ここにはいない。
早苗は戦闘が始まるや否や、奥の細い道へと逃げ込んでいた。
だが、それを咲夜が追っていったのを私は見てしまったのだ。
(はやく早苗を助けに行かないと・・・)
いつまで早苗が咲夜から逃げられるかは分からない。
いち早く早苗を助けに行くためにも今、目の前の闘いを早々に終わらせなければならない。
「はっ!」
私はかなめに銃弾を打ち込んだ。
「わわっ」
かなめは危なげながらもそれをかわす。
やはり遠距離の打ち合いではなかなか勝負はつかない。
「なら間合いを詰め一気にかたをつける!」
私は銃を用いた近距離戦闘の心得もある。対するかなめはどう考えても素人の動きだった。
ならば早々に勝負を付けるにはこうするのが得策だ。
私はステップを駆使してかなめの銃弾をよけながら、かなめへとせまっていった。



ジャララララッ
金属のこすれあう音が響き渡る。
ティアナとかなめの戦闘の傍ら、レイミとリタの戦闘も行われていた。
「それっ!」
リタがあやつるのは鎖だ。
リタはまるで舞を舞うかのように軽やかに鎖をあやつり、その鎖は空中で自在に動きを変えレイミへと襲い掛かった。
「クッ・・」
レイミはすんでの所でそれをかわす。
それと同時に反撃として弓を大きく引いた。
「タッ!」
放たれた矢はまっすぐにリタへと進む。
だが、
「甘いっ!」
リタは鎖を器用に操り、的確に矢を叩き落した。
「そんな直線的な攻撃じゃあ、私に傷一つ付けられないわよ!」
「ならば・・・」
レイミは弓を天に向ける。
「これならどうですか。」
そして放たれる無数の矢。
空高くに放られた矢は大きな弧を描き、やがてまっすぐに地面へ向って落下する。
「なっ!」
リタは焦りを覚えた。
頭上というのは人間にとって最も距離感がつかみにくいところである。
そこから向ってくる矢を確実に鎖で防げる自信はリタにはなかった。
結果、リタは回避行動に出ざるを得ない。
「くっ!」
リタは身をよじるように回避行動をとった。
だが少し反応が送れ、数本の矢がリタの体をかすった。
「きゃあっ!」
矢のかすったところが、薄い氷の膜に覆われた。
先頭に支障はないだろうが、やはりいい気はしなかった。
「どうですか。」
レイミが新たに矢をつがえていった。
リタも鎖を構えながら言う。
「やるわね。」
そして放たれる矢と鎖。
二人の戦闘はなおも続く。



私はかなめへとせまっていった。
「・・・っ!」
私の接近を止められないと感じたのか、かなめの顔が少しゆがんだ。
「くらいなさい!」
かなめに接近することに成功した私は銃で殴りかかるように腕を振るった。
しかし、
「えっ!?」
かなめの左手が銃ではない別のものを握っていることに気づく。
私はとっさにかなめから距離をとろうと飛びのいた。
ヒュン
と何かが振られる音。
攻撃の最中だった私は完全にはよけきれずに、その何かは私の服をかすった。
「おしい。」
かなめの手に握られているのはハリセンだった。
「えと・・・それ武器?」
「そうよ。パーンって殴ればカチーンよ。」
見かけはともかく強力な武器らしい。
しかもかなり使い慣れているようだ。
「なるほど、銃はおとりで近づいてきた奴をそれでしとめるってわけね・・・」
「そうよ。まあよけられちゃったけど。」
かなめは余裕そうな表情で言った。
これは随分とてこずりそうだ。
早く早苗を助けに行かなければならないのに。
そう思っていると。
「ティア、行って。」
フィーナが声をかけてきた。
「フィーナ、大丈夫なの?」
まだショックは残っているようで、フィーナの顔色は優れなかった。
だが、フィーナは言う。
「もう大丈夫。いつまでも塞ぎこむ訳にはいかないわ。
だからあなたは早苗をお願い。」
フィーナはGPSを私に渡し、剣を構えて言った。
「うん・・分かった。」
私はフィーナを信じて早苗を追うべくかけだした。
「あら、選手交代?」
かなめがフィーナに向って言う。
「あなた、友人が固められてショック受けてたみたいだけどそんなの状態で私に・・・」
「黙りなさい。」
フィーナの言葉がかなめの言葉をさえぎった。
かなめはその時なにか背筋に冷たいものを感じた。
(なによ・・これ・・・)
やがてフィーナが静かに言う。
「私、今少し頭にきてるのよ。」



私は早苗を追って細い道を進む。
GPSを見るとすぐ近くに赤い信号が2つ見られた。
(早苗・・・どうか無事で・・・)
やがて私は早苗の元にたどり着く。
そこで私が目にしたものは。
「あ、ティアさん。一緒にお茶でもどうですか?」
「今日はダージリンです。」
共にお茶を飲んで談笑している早苗と咲夜の姿だった。
私は、盛大にずっこけ。
降り積もった雪の上に倒れこんだ。



「で、あなたたちは何をしているのかしら?」
ずず、と咲夜の入れてくれた紅茶を飲みながら私は行った。おいしい。
「同じ世界から来たもの同士、会話をしていただけですよ。」
と言うのは咲夜だった。
「あの二人はともかく、私はあなた達と戦う気はありません。お代わりどうです?」
「あ、もらいます。っていうかこのティーセットどこから出したのよ・・・」
「企業秘密よ。細かい突っ込みはなし。」
うーん、まあいいや。
「ってそうだ!こんなとこでのんびりしている場合じゃない!」
フィーナとレイミは未だに戦闘中なのだ。
「そうですね。そろそろ戻りましょうか。」
そういって咲夜も立ち上がった。
「早苗、さっきの話、ちゃんとお願いね。」
「あ、はい。咲夜さん。」
「話って何?」
「後で早苗に聞くといいわ。それより戻りましょう。
そろそろ終わるはずよ。」
咲夜は言った。
「あの方が来るから。」



千鳥かなめの頭は困惑していた。
(一体何が・・・)
つい先ほどまで変わり果てた友人の姿にショックを受け、うなだれていた少女。
その少女にどうして私はこれほどまでに恐怖を感じるのか。
「ちい。」
かなめは頭を切り替える。
相手が何だろうとやるべきことは一つ。
目の前にいる少女を凍結させる。
それだけだ。
かなめはハリセンを構え、フィーナへと突撃した。
「凍りつきなさい!」
そしてフィーナに向って渾身の一撃を振り下ろす。
これが当たれば終わりだ。
だが、
「攻撃が単調よ。」
かなめの一振りはヒュンとむなしい音を立て、空を切った。
そして、かなめは自分の後ろにフィーナの背中が見えた。
フィーナはこちらを振り返ることもせずに言う。
「凍りつきなさい。」
瞬間、かなめの体に斬撃が走った。
衝撃に耐え切れずに所々制服が破れ、ボロボロになってしまった。
(切られていた!)
あの一瞬の交差の間に。
「あ・・ああ・・」
かなめは切られたところを手で抑えた。
痛みはない。だが、とても冷たかった。
ピキピキと音を立ててかなめの体が凍結し始める。
それは切られたところから徐々に全身へと広がっていった。
切られた箇所を押さえた手もそのまま凍り付いてしまった。
「そんな・・・」
かなめの全身が青白く染まっていく。
「いや・・あ・・・・」
パキンと子気味良い音を立てて、
かなめは、凍結してしまった。



「かなめっ!」
リタは声を挙げた。
このときリタは仲間が一瞬で凍結させられてしまったことに気を取られてしまった。
「余所見はいけません。」
そこを容赦なくレイミの矢が襲う。
矢は的確にリタの左腕を射抜いた。
「きゃあっ!」
リタの左腕は、刺さった矢と、それによる凍結効果により、たまたまリタの後ろにあった氷の壁に同化してしまった。
「まずい。」
動けない。
そんなリタに容赦なく追加の矢が降り注ぐ。
それはリタの右腕を、そして両足を射抜いた。
「ああっ・・・!」
リタの四肢は氷の壁と同化し、リタはその場に磔にされてしまった。
「これで終わりですね。」
「くそっ・・・」
リタは舌打ちをした。
幸い致命的な一撃は食らってはいないので今のところは氷像にならなくてすんでいる。
だが、四肢を凍結させられてリタに抗うすべはなかった。
「分かった・・・あたしの負けよ。」
戦闘が、終了した。



「フィーナ、レイミ、無事?」
私は先ほどの場所に戻った。
そこにはフィーナとレイミ、氷像と化したかなめ、磔にされているリタが見えた。
どうやら二人とも無事らしい。
「あら、二人ともやられてしまったのですね。」
「咲夜!あんたは一体何してたのよ!」
「私は旧友とお話をしていただけです。
というかそもそも命令もないのにお二人が勝手に戦闘を始めたのではありませんか。」
「ぐうう・・・」
しれっと言う咲夜に、悔しそうに歯をかむリタ。
「命令って・・・あんたらにボスがいるの?」
私は咲夜に聞いてみた。
するとあっさりと返答が返ってきた。
「ええいますよ。ほらそこに・・・」
私たちはバッと咲夜に指差された方角を振り返る。
そこには
「まったくだらしがないわねえ。」
いつの間にこの場に現れたのか
青い制服、赤いカチューシャが印象的な黒い髪の少女。
「SOS団失格よ!」
涼宮ハルヒが立っていた。



「ふーん、魔術師ににお姫様に巫女さんか・・・・」
突然目の前に現れたハルヒは私たちのことをじろじろと見ていた。
そして
「うん、いいわ!あなたたち、私の仲間になりなさい!」
「はあ!?」
いきなりそんなことを言い出した。
「団長!」
そんなハルヒにリタが叫んだ。
「そいつらは裏切り者の仲間よ!
そんなやつらを仲間になんて・・・」
「ああ、あんたはもういいわ。」
ハルヒはその場に落ちていたリタの鎖を持ち上げると、そのままリタに向かって投げつけた。
ドスッ
「きゃああああああ」
その先端がリタの胸に突き刺さる。
すると鎖の刺さった所からリタの体が氷に覆われ始めた。
パキパキと音を立ててリタの体が青白く変色していく。
「ぐ・・ハルヒ・・あんた・・・」
「もうあんた使えそうにないのよ。
氷像になってあたしの観賞用オブジェとしてならつかえそうだけどね。」
「く・・そお・・」
パキィ
リタは凍結してしまった。
その姿はまるで壁に埋め込まれたようで、氷のレリーフのようにも見えた。
「あら、これじゃあ持って帰れないわね。
まあいいわ。」
ハルヒは改めて私たちのほうを向いた。
「で・・どうなのよ。私たち、
S:世界を
O:大いに固めるための
S:涼宮ハルヒ
団:団
に入る気はない?」
く・・苦しいっ!
原作からしてなかなかに苦しい気がしたけどこれはもっと苦しい!
とまあそんなことは置いておいて私は答える。
「断るわ。」
「あら?なんでよ?」
ハルヒは不満そうな顔で言う。
私は悲痛な表情で氷のレリーフと化したリタを見ながら言う。
「ああいうのは嫌なのよ。
平気で仲間を捨てるとかね。」
「ふーん、そう。・・・・残念。
仕方ない、帰るわよ。咲夜。」
ハルヒは私たちのことをあっさりとあきらめて咲夜を呼んだ。
咲夜は、ゆっくりとハルヒの元へ歩いていく。
「つまりあんた達は私の敵になるってことよね。
いいわ、精々私に楯突きなさい。」
「それでは皆様ごきげんよう。」
そう言ってハルヒと咲夜は立ち去っていく。
「あ、そうだ。」
最後にハルヒがこちらを振り返った。
「レイミ、せっかくあたし達を裏切ったんだからそれなりに抵抗しなさいよ。
そうでないとつまんないわ。」
そういい残してハルヒと咲夜は私たちの視界から消えた。



ハルヒたちが立ち去った後、私はレイミに問い詰めた。
「レイミ、裏切り者って・・・」
そしてレイミは語る。
「私は元々SOS団に入っていたんです。
というか今このエリアにいる人はほぼ全員がSOS団に入っているといっていいでしょう。」
つまり実質的にこのエリアを束ねているのは、あの涼宮ハルヒなのだろう。
「ハルヒさんはこのエリアにいた参加者をほぼ全員を力で負かしたのです。
そして、固めることはせずに自分の団員にしました。
つまり、SOS団はハルヒさんに敗れた人の集団です。」
「ほぼ全員って・・・」
「誘いに乗らなかった人は固められましたが・・
私が知っている限りでもあと6人は団員がいますね・・」
「ってことはハルヒを入れて少なくとも7人・・・・って生き残れる人数もオーバーしてるじゃない!」
最後に生き残れるのは4人。
そういうルールだったはずだ。
「そんなのは最後に4人になればいいんです。
今4人以上だったとしても闘っていくにつれ自然と脱落者は出てしまいますから。」
この2人みたいに。
とレイミはかなめとリタの氷像を見ながら言った。
「私もハルヒさんに負けてSOS団に入ったのですが・・・
リタさんのように仲間が固められるところを見てしまって、それで逃げ出してきてしまったんです。
エステルさんたちとはその後に出会いました。それで・・・」
レイミを追ってきた奴らにエステル達はやられた。ということだろうか。
「なるほどね・・・とりあえずここでのエリアで生き残るにはあいつらを何とかしないといけないってことか・・・」
「そうなりますね・・・
ただハルヒさんと戦うのだけは避けたほうがいいと思います。
あの人は一切武器を使わずに、純粋な身体能力だけで参加者を負かしていきましたから。
SOS団の団員の人がハルヒさんに従っているのは自分が絶対にハルヒさんに勝てないと確信してしまっているからです。
それほどまでに圧倒的なのです。あの人は。」
「そんな・・じゃあどうやって・・・」
ハルヒに勝てなければ私たちはここで全滅ということだろうか。
そんなことを考えていると・・
「あの・・ティアさん。」
早苗が私たちの会話に割り込んできた。
「実は咲夜さんからこんなものを・・・」
早苗は一枚の紙切れを取り出した。
「早苗、それはなに?」
フィーナが早苗に聞く。
「えと・・・咲夜さんが言うには『今後の私たちSOS団の行動計画を書いておく。』だそうです。それと咲夜さんからの伝言で・・・」
早苗はそれを口にした。
「『私と一緒にハルヒを倒して欲しい』だそうです。」



同時刻、氷原エリア、SOS団の本拠地にて。
「よろしかったのですか?あのものたちを倒さなくて。」
咲夜はハルヒに聞いた。
「いいのよ、敵勢力ぐらいないとつまらないわ。」
「そんなことを言っているといつか足元をすくわれますよ。団長。」
「あんたとかに?」
「ええ。」
「ははっ。やれるものならやって見なさいって感じだわ。」
「そうですね。やれるものならやりたいですよ。」
「でもできないからやらない。ってわけ?」
「ええその通りです。あなたには奇襲をかけようが、大人数で挑もうが勝てる気は全くしませんから。」
「あっはっは。咲夜は懸命よね。」
「恐縮ですわ。」
「さて。」
ハルヒはその場に集まっていた団員たちのほうを見やった。
「今後のSOS団の予定を発表するわ。」
そこにいるのは咲夜を含めた団員達。
園崎魅音
北条沙都子
高良みゆき
金色の闇
リディア
ハルヒは彼女達に命令を飛ばす。
「氷竜狩りよ!」



最後にもう一つ、この時大きな出来事が起こった。
「ピーンポーンパーンポーン」
それは運営からの放送だった。
「現在生き残り人数はついに50名になりました。
半分の人数にこの世界全体は広すぎるでしょう。というわけで・・・」
放送は告げる。
「砂漠エリアと森エリアを近々封鎖します。」
それは一つの事実を物語っていた。
森エリアの覇者
アリスと魔理沙が動く。



今回の被害者
千鳥かなめ:凍結
リタ:凍結


残り50名

つづく


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