カタメルロワイヤル第10話「氷竜」

作:七月


氷原エリアのとある場所。
そこには人の数倍は有ろう巨大な影が存在していた。
大きなツバサに堅牢な鱗。
鋭くとがった牙と爪を持ち、頭には立派な角も携えていた。
その存在を「竜」と人は呼ぶだろう。
その竜は今、安らかな寝息を立てて氷原に横たわっている。
周囲には竜にやられたのだろうか、無数の被害者の氷像と化した姿があった。
そして、そんな竜を遠くから覗いている人物がいた。
「うっひゃー、でっかいわねえ!」
「まあ竜ですからね。」
「あらあら。」
涼宮ハルヒ、十六夜咲夜、高良みゆきの3人だ。
「今からアレを狩るのね。まさにモ○ハン!ワクワクしてきたわ。」
「まさか楽しそうだからって理由でこんなゲームの趣旨と違うようなことする人がいるなんて運営者も思ってないでしょうね。しかもこんなことに団員を総動員して・・・」
「別に楽しそうってだけじゃあないわよ。ああいうでかいのを倒せばそりゃあすごいアイテムとか手に入るに決まってるのよ!」
ああそうですか、と咲夜はため息をつく。
みゆきはさっきからあらあら、とか言いながら傍観しっぱなしだ。
そんな中ハルヒはひたすらに楽しそうに言う。
「さて、皆はもう配置についた?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
とみゆきが答えた。
「リディアさんとゴンちゃんは氷竜のすぐ近く、沙都子さんとヤミさんは例のポイントに待機しています。えーと・・・魅音さんは・・・」
「レイミたちのところに偵察に行っています。どうやら私たちの邪魔しに来るみたいですね。」
しれっと咲夜が言う。
「ふふ、面白くていいわ。どっからでもかかってきなさい!」
ハルヒは余裕そうに言った。
「さて、じゃあとっとと始めるわよ。みゆき、合図しなさい。」
「はい。」
そう言ってみゆきはその頭に取り付けられたアイテム「インカム」を起動させる。
「インカム」は一定範囲内の味方に使用者の声を届けるアイテムだ。
みゆきはこれを使って作戦開始の合図を送る。
「それでは皆さん、始めてください。」
団員達が一斉に動いた。



「・・・といった感じなのよ。」
氷原エリアの一角。そり立つ氷の崖の上。
私、ティアナの目の前には緑色の髪のポニーテールの少女がいた。
少女は自分のことを魅音と名乗り、ハルヒの仲間であることを話してきた。
そして
「ハルヒを倒すの手伝ってくれない?」
いきなりそんなことを言ってきた。
「もしかして・・あんたも咲夜の仲間?」
私は魅音に聞いてみる。
「そうそう、おじさんはSOS団に入る前から咲夜とつるんでいてね。あ、あと沙都子って子もそうなんだけど私たちだけじゃあハルヒを倒すのは無理だからあんた達に手伝って欲しいってわけ。」
「はあ・・・」
「もちろん危険なことはさせないからさ、ね?どう?」
私は考える。
手を貸すだけでハルヒを倒せるのならそれに越したことはないが・・・
「ちょっといいかしら。」
そこでフィーナが会話に入ってきた。
「まずは詳しい作戦内容を教えてもらえないかしら。
その内容次第で考えさせてもらうわ。」
「OK、分かったよ。」
そう言って魅音は作戦の内容を語る。
それはとってもシンプルなものだった。
ただ単に奇襲といった形でハルヒを攻撃するだけ。
「あとは咲夜がやってくれる。それにハルヒは基本的に武器を持ち歩いてはいないから、万が一反撃を食らっても固められる事は無いよ。」
と、魅音は言うが・・・
「本当にこんな作戦でいけるの?」
いまいち確信が持てない。
「ま、作戦に乗るか乗らないかの判断はあんた達に任せるよ。」



「それでは皆さん、始めてください。」
みゆきの声がリディアの脳内に響いた。
「行こう。ゴン」
グワアァァ
と、ゴンと呼ばれた生物がうなった。
全身白色の毛に覆われたゴリラのような生物。
スノーゴンと呼ばれる怪物だ。
ゴンはなぜかリディアになついているようで、リディアをその背にやさしく乗せるとリディアの命令どおり竜に向かって進んでいった。
そしてリディアは竜の目の前にたどり着く。
相変わらず竜は安らかな寝息を立てて眠っている。
「ゴン!」
リディアが叫ぶと、ゴンはその手に持っていた巨大な爆弾を投げつけた。
大きさに見合った巨大な爆砕音。その衝撃に竜がゆっくりと目を開いていった。
竜は爆弾が直撃したにもかかわらず殆ど無傷のようで、平然と立ち上がった。
「逃げるよ、ゴン。」
竜が起き上がるや否や、リディアは一目散に逃げ出した。
竜はそのリディアを追いかける。
「よし、あたしについて来ている。」
リディアは後方を確認しながら言う。
「このまま例のポイントへ。」
クワア
リディアの声を受け、スノーゴンはひたすらに走る。



例のポイントにて
「ヤミさん、沙都子さん、もうすぐリディアさんが来ます。」
みゆきの指示がヤミと沙都子に伝わった。
例のポイントで待機していた沙都子とヤミは、巨大な氷柱の影に隠れ、竜の到着を待っていたのだ。
「了解・・・」
まずはヤミが立ち上がる。
見ればリディアがもうすぐそこまで来ていた。
「ヤミさん、お願いします。」
リディアがヤミに言うと、ヤミは氷柱の影から飛び出すと同時に両手に銃を構え、リディアを追ってきた竜へ照準を構えた。
「行きます・・・」
ヤミは竜に向かって銃を乱射する。
その銃弾は竜の足元へと降り注ぎ、僅かながら竜の動きが鈍った。
そして
「沙都子さん、いまです!」
「お任せあれですわ!」
沙都子がスイッチを押すと竜の周りの地面が一斉に爆破された。
同時に大きな唸り声を上げながら竜の姿が地面へと沈んでいく。
「落ちたわ!」
それを見たハルヒが叫んだ。
竜が誘い込まれた場所は凍った湖だったのだ。
沙都子のトラップにより氷が砕かれ、竜は水の中へと落ちたのだ。
もちろんそれだけで竜がどうこうなるわけは無い。水の中ですぐに体勢を立て直した竜は、穴から出ようと身を乗り出してきた。
「さてと・・咲夜、タイミングは?」
そんな竜に動じることなく、ハルヒが咲夜に聞いた。
「ええ・・完璧ですね。ちょうど風もやんできました。」
咲夜は告げる。
「来ます。」



みゆきの指示が一斉にSOS団全員に届いた。
風が止んで辺りが静かになる。
そして、そのあとすぐにそれは来た。
ぶわぁ、という猛風。
氷原エリアの脅威。
絶対零度の吹雪、コキュートスだ。
急激に発生した絶対零度の風は容赦なく竜を飲み込んでいった。
本来ならば竜自体はこの程度でやられるわけはないだろう。
だが、今の竜は体中に水をまとっている。
竜自体は平気でも、体にまとわりついた水が凍らないわけはなく、その身にまとった水ごと竜の体が凍り付いていく。
バキバキと音を立て、一瞬で氷に包まれていく竜の体。
ガアアアアアアアアア
最後に一際大きく吠えたあとに竜は動かなくなった。
そこには、巨大な氷のオブジェが出来ていた。
「さて、あたしの出番ね。」
「そうですね。」
コキュートスがやんだあと、動かない竜にハルヒと咲夜はゆっくりと近づいていった。
ハルヒ大きな氷の塊となった竜を見上げる。
そしてハルヒはその場で大きく跳躍すると、凍りついた竜の頭の上に乗った。
「団長、よろしいのですか?今はまだ竜は凍結しているだけですが、もう少し待てば氷が侵食して正真正銘のただの氷の塊になりますよ。そちらのほうが楽に竜を破壊できると思いますが・・・」
最初は氷に包まれただけの存在も、時間がたてば体の心まで氷と化してしまう。つまり、今までこのエリアにて凍結した少女達もやがて本物の氷の塊へと変わってしまう。
それがこのエリアの特性だった。
今は氷に包まれているだけの竜も氷の塊になってしまえば破壊するのは簡単だ。
咲夜はそう言っているのだ。
「そんなになるまで待つ必要は無いわ。動きが止まっただけで十分!」
余裕綽々の答えを返したハルヒは、
「とりあえず脳天ぶち抜けばいいかしらー?」
とか言いながら腕をブンブンを振り回し、竜の頭をぶん殴る準備をしている。
「まあ団長ならそうでしょうね・・・」
咲夜はため息をつきながら氷で出来た崖の上、魅音が居るあたりを見た。
魅音は咲夜の視線に対しグッと親指を立てる。いつでもOKの合図だ。どうやら順調にことは運んだらしい。
「さて・・・」
咲夜がハルヒを見上げると丁度大きく拳を振りかぶったところだ。
「今ですね。」
ハルヒの拳が竜の頭蓋をぶち抜いた瞬間。
今までの主従関係など最初から無かったかの様な殺気を放ち、咲夜がナイフを構え一直線にハルヒへと飛び掛った。
それと同時に3つの影がハルヒの背後より現れ、ハルヒに襲いかかる。
フィーナ、早苗、レイミだった。
物陰に隠れ、咲夜の合図を待っていた3人は絶妙のタイミングで飛び出すことに成功した。
そして、フィーナは剣を、早苗はレイミからもらったマシンガンを、レイミは弓を構えハルヒを狙った。
少し離れた場所にいた団員達は突然の状況に対処する事はできなかった。
ハルヒは今、完全に4人の敵に囲まれている状態だ。
そんな四面楚歌の状況で
「ははっ・・・」
拳を振り切っての体勢。
ろくに身動きの出来ないはずのハルヒは、笑っていた。
「いいわよっ!あんた達!」
こんな状況ですらぎらぎら輝くハルヒの目。咲夜は
(本当に奥が知れない女・・・)
恐怖すら抱きながらハルヒに迫った。



それから起きた事を私は理解できなかった。

私は今、魅音と共に崖の上に居る。
私はここから魅音と共に銃弾をハルヒに打ち込む役目だったのだ。
「何よ・・・今の・・・!?」
「こいつは驚きだね・・・」
魅音も少し驚いているようだ。
崖の上から見える光景。
それはハルヒの反撃によって地に伏せられたフィーナ、早苗、レイミ、そして咲夜の姿。
そしてまるで意味を成さなかった沙都子が放ったトラップに、私たちの放った弾丸の銃痕。
頭部を砕かれ、氷の粒となって消えていく竜の姿。
そして・・・
風に乗って舞い散る氷の粒の中
それは確かに見えた。
「何が・・起きたの。」
私の視線の先にあるもの。
絶対の覇者。
ハルヒの氷像が、そこには立っていた。



今回の被害者
涼宮ハルヒ:凍結

残り49人

つづく


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