カタメルロワイヤル第8話「氷の大地」

作:七月


暗闇を抜けた先に広がっていたのは白銀の大地。
一面を氷に覆われた。絶対零度の世界だった。
氷原エリア
どうやら私たちはそこに到達したらしい。
辺りを見渡すが、見えるのはどこまでも広がる雪と氷の平原。そしてこのエリアを囲むようにそびえている氷の崖だけだった。
「はー寒いですねえ。」
早苗が白い息を吐きながらそんなことをつぶやいた。
洞窟の出口にむかうにつれて感じてはいたのだが、予想以上の寒さだった。
「これはじっとしているのは良くないわね。」
白い息を吐きながらフィーナが言う。
「とにかくまずは安全に身を潜められる場所を探しましょう。」
「それが得策ね。」
私はフィーナの提案にうなずきながら言う。
「とにかく進みましょう。」
私たちは、新たなフィールドを歩き始めた。



まず私たちがしなければならないこと。
それは先ほどフィーナが言ったとおり、安全な場所を見つけること。
その目的を果たすために、まず私たちは崖伝いを捜索していた。
だが、とあるものを見つけて今私たちは雪の平原に向って歩いていた。
フィーナの持つGPSに表示されるのは赤い信号。
そう、このエリアに来て始めての参加者を見つけたのだ。
より正確に言うのなら参加者だったものだが・・・



それは雪の平原にぽつんと立っていた。
少し小柄な少女。
短めのツインテール、身にはどこかの制服のようなものをまとっており、だいぶ前に氷像となってしまったのであろう、その頭や肩には降り積もって雪が乗っかっていた。
少女は立ち尽くしたまま恐怖を浮かべて凍り付いている。
その頬には固まる寸前に流したのであろう涙が小さな結晶となって残っていた。
平原に風が吹く。
しかし、この少女の流れるような髪も制服のスカートも風にはためくようなことはなく、
そのままの形で動きを止めている。
青白い氷に包まれ、体中に霜をまとった少女の氷像。
これが、このエリアでの失格者の成れの果てだ。
私はこの少女のものであったのだろう、すでに空になっているバックを拾った。
東儀白
この少女の名前なのだろう。
私は白に降り積もっている雪を払った。
そんなことをしても何もならないとは分かっていたが、少女がこの後もこの雪原に1人残されるであろうことを考えるとそうせずに入られなかった。
私は白の頬に触れる。
人の温かみはもうなかった。



「ねえティア。なんだか寒くなってきていないかしら。」
不意にフィーナが言った。
確かになんだか急に寒さが増してきた気がする。
「それに風もやんでますね。」
早苗が言った。
私は何かいやな予感がしてきていた。
次の瞬間
「何か来るわ!」
フィーナが叫んだ。
私はその方向に向き直る。
すると私たちをめがけて飛んで来る矢が見えた。
だが矢は私たちとはかけ離れたところへ突き刺さる。
「敵・・・かしらね。」
私は銃を手に握った。
「そうね、とりあえず1人こっちに向ってくるみたいよ。」
フィーナも剣を構える。
大丈夫、こっちは3人もいるのだ。
早々不覚を取るわけは
「ああっ、筆先が凍って役に立たちません!!」
大丈夫、こっちは2人もいるのだ。
早々不覚を取るわけはない。
「でも一応使って見・・・ぎゃー凍った筆先が刺さったー!!!」
大丈夫、大丈夫・・・
「ティア・・・眼が死んでるわ・・・」
「うんゴメンなんか気疲れが・・・」
まあ、とにかく約一名はほっといて目の前にせまる敵に集中しなければいけない。
「来るわ!」
敵はもう目視できる位置に来ていた。
艶やかな黒髪のポニーテールの少女。
顔立ちは日本人だろうか。
そしてその身にまとうのは私が来ているようなバリアジャケットに似たような特殊なアーマーのようだ。
その手には弓が握られている。
ならば間違いはないだろう、この少女が先ほどの弓を放った人物だ。
そして、もしかしたらこの白という少女を襲った人物かもしれない。
私とフィーナは臨戦態勢に入る。(あと一名は後ろで手を押さえて痛みに悶えている。)
だが相手はまるで戦おうという気が見られない。
そして少女が叫ぶ。
「あなたたち、そこは危険です!早くこっちへ!」
そういって少女は駆け出して行ってしまった。
あとに残される私たち。
「何をしているんですか!早く!」
再び私たちを呼ぶ少女。
その表情には必死さが見られた。
「どうするの、ティア。」
「そうね、とにかく追いましょうか。
罠の可能性も捨てきれないけどここでじっとしているよりはいいんじゃない?」
「ええ、あなたの選択に従うわ。」
フィーナが笑みを浮かべながら答えた。
「ほら行くわよ早苗。」
「あうー手が痛いー」
私たちは早苗を引きずりながら、謎の少女を追った。



やがて少女が細い崖間の道へと入っていくのが見えた。
私たちもそれを追って左右を高く聳え立つ崖に阻まれた細い道へと入る。
すると少女は私たちより少しはなれたところでこちらを見ていた。
「一体何のつもり。」
私は少女に問いかけた。
「すぐに分かりますよ。ほら。」
少女は私たち・・・ではなく私たちの後方を指差した。
私は後方を振り返る。
すると私たちが先ほどまでいた、雪原が猛烈な吹雪に襲われていた。
この崖間の道にいても時折凍えるような風が吹いてくるのが感じられる。
これでもしあのまま雪原にいたら、と思うと体が震え上がった。
「コキュートスと呼ばれる現象です。
この雪原のエリアで周期的に見られる絶対零度の強風現象です。
あのまま雪原にいると彼女のように・・・」
彼女とはおそらく白のことだろう。
少女はなんともいえない表情を浮かべ語った。
「もしかして、あなた私たちを助けてくれたの?」
私は少女へと聞いた。
「助けた・・・とは純粋にはいえないかもしれません。
一応下心あってのことですから。」
少女は私たちに向き直り言った。
「お願いします。手を貸してほしいのです。」



少女は名前をレイミ・サイオンジと語った。
そして今、私たちはレイミの案内で彼女の隠れ家へと向っているところであった。
レイミに先導されて私たちは狭い道を進む。
すると急にレイミが立ち止まりこちらを振り返った。
「私の隠れ家に行く前に・・・私の仲間に会いに行きましょうか?」
「え、仲間って隠れ家にいるんじゃないの?」
「いえ、私の仲間は・・・すぐそこにいます。」
そういうレイミの顔はとても悲しそうだった。
やがて少し開けた場所に出るとそこには確かにレイミの仲間達がいた。
3体の氷像として、それらは立っていた。
「シャロンさん・・・」
レイミが誰かの名を口にする。
「すずさん・・・」
おそらくこの氷像になってしまった少女達の名だろう。
「エステルさん」
3人目の名を口にしたとき、フィーナの顔に驚愕の表情が浮かんだ。
「まさか・・・」
フィーナが氷像に駆け寄ってゆく。
「エステル・・・」
フィーナが少女の氷像に触れ、つぶやいた。
私たちも氷像に駆け寄り、その様子を見渡す。
3体の氷像は一糸まとわない状態で
その足の先は、まるで根を貼るように氷の地面と一体化してしまっていた。
まずはシャロンとよばれた少女。
長い髪に左右に結ばれたリボンが印象的な、気の強そうな顔立ちの少女。
シャロンは寒さに凍えるように腕で体を包み、遠くを見据えるような形で氷像となっていた。
次にすずと呼ばれた少女。
長い髪を大きなリボンで結んだポニーテール、おおきな胸に抜群のスタイルを持った少女。
すずは、おそらく不意をついてやられたのであろう。
その顔にはただ何が起きたか分からないといった風に、ぽかんとした表情が浮かんでいた。
そして、エステルと呼ばれた少女。
エステルの表情は穏やかで、いつもと変わらない、すました表情で氷像となっている。
エステルの氷像はあまりにきれいで、氷像となった今でもその姿からは清楚さが感じられた。
「フィーナ・・・」
私はエステルの氷像の前にたたずむフィーナに声をかけた。
おそらくエステルは・・・
「ええ、エステルは月人居住区の礼拝堂の司祭様。そして私の友人・・・」
フィーナはその顔に悲しみを浮かべ、エステルの頬をなでた。
「エステルさんはここまで私たちを導いてくださいました。
そして最後に私を助けようとして・・・」
レイミが悔しそうに語る。
「すずさんも、落ち込みそうになる私たちを明るく励ましてくれました。
シャロンさんだって、素直ではありませんでしたがなんだかんだ言って私たちを助けてくれました。
私はそんな皆さんに甘えるばかりで・・・
なのに私だけが生き残って・・・」
そう語るレイミの目には涙が浮かんでいた。
「レイミさん・・・一体何があったの・・・?」
フィーナがレイミに問いかける。
「それは・・・」
レイミが口を開こうとした瞬間
「それは私たちがやったのよ。」
全く別の方向から声がした。
見れば細い道の向こうから3つの影がやってくるのが見えた。
やがてそれらが姿を現す。
一人は銀髪で左右に短めのおさげ、その身にはメイド服をまとった少女。
一人は茶色く短い髪で、その頭にはゴーグルを装備した少女。
最後の一人は蒼く、長い髪でセーラー服に身を包んだ少女だ。
その青い髪の少女が言う。
「へえ、まだ生き残ってたのね。
でもまあ関係ないわ、ここでどうせ氷像になるんだし。」
どうやらこの3人は私たちにとって完全なる敵らしい。
「十六夜咲夜。」
少女はナイフを構える。
「リタ。」
少女はチェーンを構える。
「千鳥かなめ」
最後に少女が銃を構えた。
「さあ行くよ!」
そして少女達が動き出す。
このエリアでの、最初の戦闘が始まる。



今回の犠牲者
東儀白:氷像
シャロン:氷像
すず:氷像
エステル・フリージア:氷像

残り54人

つづく


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