カタメルロワイヤル第7話「洞窟」

作:七月


Another view of sophia esteed

「そんな・・・」
仲間との再会に胸を躍らせていた私はその光景に愕然とした。
「ミラージュさん!」
そこにいたのは仲間ではなく
「ネルさん!」
ただの無機質な
「スフレちゃん!」
固く、冷たい
「マリア・・さん・・・」
全てが灰色に覆われた。
かつて仲間だったもの。
仲間だった少女達の石像。
「あ・・ああ・・」
私はマリアさんの石像に触れる。
冷たい。固い。つるつるしていた。
やがて私は自分の後ろの気配に気づいた。
「なに・・これ・・」
そこにいたのは巨大な鶏のような怪物。
その怪物の口が大きく開かれ、勢いよくブレスが噴出された。
「きゃあっ」
私はそのブレスをまともにくらってしまった。
そして変化はすぐに訪れる。
私の体が徐々に灰色に、固く、冷たく変化していくのがわかる。
服もボロボロとはがれていき次第に灰色になった肌が露出していった。
「いやあ・・・」
私は叫んだ。
もう首から下は動かない。
「いやあああああああ・・ああ・・」
やがて石化が私の顔にまで及び
髪が、口が、石へと変わっていく。
最後に目が石化に覆われ。
私の意識はなくなった。

やがてソフィアを石に変えたコカトリスはその場を去っていく。
そしてそこに新しくソフィアの石像が鎮座した。
これで石像は5つ。
5つの石像がただ、そこに残される。 

Another view of sophia esteed END



薄暗い闇の中を私たちは進んでいた。
今、私たちはとある洞窟を進んでいる。
アリスから逃げ延びた私たちは、森エリアからの脱出を図っていた。
そんな時に外部のエリアと繋がっていそうな洞窟をGPSで発見したのだ。
この狭い洞窟ならば万が一アリスが追ってきたとしても、アリスの有利には戦えないだろうということもあり、この洞窟を進むことにしたのだ。
やがて、しばらく洞窟を進むとGPSを確認していたフィーナが言った。
「この先に5人の参加者の反応があるわ。」
「5人もですか!?」
早苗があたふたしながら言った。
GPSを覗きこむと、少し先の開けた場所に5つの赤い信号があった。
5人もこの先に参加者がいるとなるとこれは相当に厄介だ。
最悪この洞窟を戻ることも考えなければいけない。
アリスが潜んでいる森に帰るのはなんとしても避けたいのだが・・・
「でも変なのよ。この5人さっきから微動だにしないの。」
フィーナがGPSを指して言う。
「単に休んでるだけか、それとも・・・」
なにかにやられたか。
「とりあえず遠くから様子を見てみよう。」
そういって私はその5人がいる場所へ向った。



結局後者であったようだった。
今、私たちの目の前には5つの石像があった。
1つ目の石像は長い後ろで束ねられた髪が特徴的な女性だった。
大人の引き締まった肉体をしており、突然襲われたのだろうか、目は大きく見開かれ、口元は優しく閉じられており、ほとんど棒立ちの状態で石像となっていた。
2つ目の石像はその長い髪をたなびかせながら石像となっていた。
救いを求めるように突き出された右腕、大きく開かれた目と口。
まるで何かから逃げ出すような格好で石像となっていた。
3つ目の石像はやや髪の短い女性だった。
ややスレンダーな体系の女性で、苦しみを耐えるように片目を固く閉じ、歯を食いしばりながら石像となっていた。
石像の足元には最後まで抵抗しようとしたのか、彼女の武器であろう短剣が落ちていた。
4つ目の石像はやや幼い少女のものであった。
少女は地面にへたり込み、手をだらんとさげ、絶望の表情をうかべながら石像となっていた。
おそらく恐怖におびえているところを石像にされたのだろう。
そして5つ目。
今、私の目の前にある石像。
年は私と同じぐらいのようだが、やや幼い体系に反してその胸は大きく、全体的なプロポーションもかなりのものだった。
少女は正面から襲われたのだろう。
恐怖と苦しみの表情を浮かべながら石像になっていた。
私はそんな彼女の石像に触れる。
少し長めの髪も、焦点を失った瞳も、大きく開かれた口も、大きな胸も。
全ては灰色に染まり、冷たく固い無機質なものへとなっていた。
私は彼女の胸に触れてみる。
さっきまでは暖かいぬくもりを持った少女だったとはいえ今はただの石だ。
彼女の体温も心臓の鼓動もかすかにも感じ取ることは出来なかった。
「一体誰がこんなことを・・・」
私は不安に襲われた。
この5人を石像にした何者かはこの洞窟に潜んでいるかもしれないのだ。
やがて私の問いにフィーナが答える。
「多分これは参加者の仕業ではなく怪物の仕業ね。道の先に青い信号が見えるわ。」
「それは厄介ね・・・」
この5人を全滅させたのだ。
相当強力な怪物なのだろう。
私たちは通路の先へと進んでみた。
すると遠くのほうに巨大な鶏の怪物、コカトリスが見えた。
おそらくあいつが5人を石像に変えたのだろう。
「やっぱり戦闘は避けれないか・・・」
そう私がつぶやいた時、早苗が言った。
「ならここは私に任せてください。」
早苗は満面の笑みで私の前に立っている。
ちょっと待て、このパターンはどこかで・・・
「私があいつを何とかしてきます。」
早苗の暴走が始まった。
「ちょっと!さすがにあんた一人であのモンスターを倒すのは無理でしょうよ!」
「ええ、さすがにそれは私も無謀だと思うわ。」
2人でとめようとするが
「大丈夫です、ちょっと見ていてください。」
やばい、ここまで一字一句同じだ。
「わたし、あいつを倒したらフィーナさんに膝枕してもらうんです・・・」
「だから死亡フラグを立てていくんじゃなあーーーっ」
言い切る前に早苗はコカトリスに向って走り出した。

「48の必殺技!!」
「ギャオーーーーー!!」
ドスーン

「ただいま戻りました。」
あっけらかんと戻ってきた早苗の後ろのほうでコカトリスが泡を噴いて失神していた。
おかげで楽に先に進めそうだが
「こんなのでいいのかしら・・・」
フィーナは何か後ろめたそうにため息をついた。
「いいんですよ、こんな怪物との戦闘シーンなんて誰も見たくないだろうし、そもそも作者が書くのめんどくさ」
「おいバカそれ以上言うな。」
「すいませんでした(泣)」
まあとにかく、これで先に進めるのだ。
私は通路の隅っこで泡を噴いているコカトリスに向って合掌しながら洞窟の先へと進んだ。



しばらく洞窟を進むと私たちは少し開けた場所に出た。
その部屋の周囲には多数の水晶が埋め込まれていて淡い光を放っており、部屋の中心には水晶の宝箱があった。
「何なのかしらこれ、今まで見たことないような宝箱だけど・・・」
「もしかしたら罠かもしれないわ。ここは慎重に・・・」
「あ、開きました。」
「早苗ーーーーっ!!」
早苗が勝手にあけていた。
「ほら見てください。指輪が入ってましたよ。」
指輪を持ってこちらへかけてくる早苗。
どうやら何事もなかったかと思いきや、急に宝箱が光り始め。
ドンッ
と大きな音を立てて宝箱が爆発した。
それをポカンとした顔で見る早苗。
あのままあそこにいたら早苗はあの爆発に巻き込まれていただろう。
本当に危なかった。
「まあ、大丈夫でしたし・・・結果オーライってことで痛っ!」
結果オーライだが釈然としないのでとりあえず早苗の頭を叩いておいた。
「それで、この指輪は何なのかしら。」
「えっと、説明書によると・・・」
早苗が説明書を読み上げる。
というか説明書とかあるのか、本当にこのゲームはこういうところだけは律儀だと思う。
「これはレアアイテム【キュアリング】だそうです。これをつけて能力を開放すると、一定時間のあいだ石化、凍結などの状態変化に多少の耐性がつくようです。」
「つまり、何発かは敵の攻撃に耐えられるようになるってことね。」
これは結構便利なアイテムだ。
それ以前にアクセサリーとしてもかなりのものだった。
金色のリングに青く澄んだ色に輝く宝石がはめられている。
私はこの指輪を見た後に、フィーナのほうを見た。
「ねえフィーナ、これ試しにつけてみてよ。」
「え、わたしが?」
「なんかこの指輪、フィーナに似合いそうだし。」
そういって私はフィーナに指輪を差し出した。
「ほら、とりあえずはめてみて。」
「ええ、それじゃあ・・・」
少し恥ずかしそうに指輪をはめるフィーナ。
思ったとおり、その青く澄んだ光を放つ指輪はフィーナにとてもよく似合った。
しかし、指輪をはめた瞬間、フィーナに異変が起こった。
急に光がフィーナの周りを包んだのだ。
「きゃあっ、何なの!」
「くそっ、まさか罠!」
だがどうも違うようだ。
その光はフィーナの服と頭だけを覆っていた。
やがてその光が霧散してゆく。
そして光の中から出てきたのは。
「まあ、これは。」
そこには純白のドレスに身を包んだフィーナがいた。
「あ、ちなみにですね。」
早苗がここで再び口を開く。
「この指輪の能力が発動中は装備している人の衣装も変わるそうです。
何でもその人にあった衣装になるようですが・・・
まあフィーナさんの場合完全に作者のしゅ」
「おいバカそれ以上ヤメロ」
「すいませんでした(泣)」
早苗とそんなやり取りをしていると、やがて再びフィーナの体が光に包まれ、元の青いドレスをまとったフィーナに戻っていた。
「少し恥ずかしかったわ・・・」
とちょっと照れくさそうに言うフィーナ。
私は思った。
とりあえずこの指輪はやっぱりフィーナに付けていて貰おう。
だってキレイだったもの。



「ピンポーンパンポーン」
先ほどの場所で休憩していると、いきなり放送が入った。(ちなみにこのとき早苗はちゃっかりフィーナに膝枕をしてもらっていた。)
「さて、皆様金の針は見つけましたでしょうか?
後3分でタイムリミットとなります。」
そうか、もうそんな時間なのか。
私は注意して放送を聴いた。
「それでは皆様、金の針を手にお持ちください。」
私たちは金の針を取り出す。
一人一本ずつ、ちょうど人数分。
「それではこちらをご覧ください。」
するといきなり私たちの前にカプセルが落ちてきた。
「これは・・・!」
見覚えがある。
凛をブロンズ像にしたカプセルだ。
そしてその中には一人の謎の人物がたっていた。
どうやら映像のようだが、この人物もフードを深く被り、仮面は付けていなかったが顔は良く見えなかった。
「それでは皆様、金の針をお手にこのカプセルの中の人に注目してください。」
そういって放送は途切れた。
後はこのカプセルの中の人物が説明してくれるのだろうか。
「さて時間だ。」
やがてカプセルの中の人物が言った。
「皆の者、私の目を見よ!」
そう言った人物のフードの下に金色の目が見えた。
その瞬間
ドクン
と私の鼓動が強くなった。
それと同時に、何かいやな予感が襲ってくるのを感じる。
そして私は気づいた。
私の足がゆっくりと灰色に染まっていくのを。
「なによこれ!」
「うろたえるな。」
カプセルの中の人物は言った。
「金の針を自分に挿せ。大丈夫だ、痛みはない。
そして、それで石化は止まる。」
そう言うとカプセルは消えていった。
やがて残された私たちは自分自身に金の針をつきたてた。
痛みはなかった。
むしろ暖かい何かが私の中を駆け巡った。
そして徐々に灰色に染まった部分が元に戻っていくのが分かる。
どうやら助かったようだ。
「なるほど、これがタイムリミットか・・・」
おそらく参加者全員が今のカプセルの中の人物に石化されかけたのだろう。
そして金の針を持っていたものだけが助かった。
私は安堵のため息をついた。
そのとき
「ピンポンパーンポーン」
再び放送が入った。
「皆さんお疲れ様でした。ただいまの生き残り人数をお知らせします。
ただいまの生き残り人数は・・・」

「54人です。」

金の針を手に入れることが出来なかった人が脱落し、ついに参加者数は6割を切った。
だがこれからが本当の闘いだと私は思った。
すでにゲームが始まってからかなりの時間がたっており、今生き残っている人は、私たちのように仲間を作ったり、アリスのように自分の戦闘スタイルを確立したような手ごわい人ばかりだろう。
そんな相手と私たちは戦わなければならないのだ。
「それでは皆さん、引き続きゲームをお楽しみください。」
そういって放送は切れた。
そして始まるのだろう。
より過酷さを増した、生き残りをかけたゲームが。
「フィーナ、早苗。」
私は二人の名を呼んだ。
二人は何も言わずに私を見つめている。
「行くわよ。次のフィールドへ。」
「ええ。」
「はい。」



私たちは歩き始めた。
そして洞窟の先に光を見る。
進むにつれ、それはだんだんと広がっていき
やがて開けた視界に移るのは
絶対零度。
白銀の世界。




今回の犠牲者

ソフィア・エスティード:石化
マリア・トレイター:石化
ネル・ゼルファー:石化
スフレ・ロセッティ:石化
ミラージュ・コースト:石化



残り54人

つづく


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