カタメルロワイヤル第6話「七色人形遣い」

作:七月


「誰かこっちに来るわね。」
不意にGPSを覗いていたフィーナがそういった。
ティアとバジリスクとの戦いの後、私たちが疲れを癒すために休憩していた時のことだった。
「私たちに気づいている様子はないけれど・・どうしましょうか、ティア?」
「敢えて接触する必要はないと思うけど・・・」
私たちは先ほど3本目の金の針を手に入れ、人数分の金の針がすでにそろっていた。
なので、今はタイムリミットまでひたすらに身を隠すことが大切だと思われた。
だが、
「まあ誰だか確認ぐらいはしてみない?」
もしかしたら近づいてきている人物は私たちの誰かの顔見知りかもしれない。
幸いこちらの位置は気づかれていないのだからこっそりと様子を見ることも出来るだろう。
「そうね、じゃあ少し様子を見に行ってみましょうか。早苗、私たちの気配を消してくれる?」
「はい。お安い御用です。」
フィーナが呼びかけると早苗が武器である筆を取り出した。
――――薄――――
やがて私たちの存在感が薄くなり、それと同時に私たちは目的の人物へと近づいた。
そして私は目にする。
それは思いがけない人物だった。
茶色のセミロングの髪に、白い制服帽子のあの人は・・・
「はやてさん!!」
「その声・・・ティアナ!」
私が所属している時空管理局遺失物管理部機動六課の課長であり、私の直属の上司である高町なのはさんの親友でもある少女。
八神はやて。
私は、この世界であった始めての知り合いに涙が出そうになった。



「そうか、ティアナはしっかりやってるんやなあ。」
はやてさんがうれしそうに言った。
はやてさんと再会した私たちは木陰に座りながらはやてさんと談笑していた。
はやてさんはあっという間にフィーナや早苗と打ち解けてしまい、今はお互いのことをいろいろと話しているところだった。
「いやぁ、王女様に巫女さんとはティアナも面白い仲間をもったなぁ。」
「はやてさんは?今まで一人でここまで来たんですか?」
「そうなんよ。わたしは最後に校舎を出たからなあ。あんまり人とは遭遇しなかったなあ。アイテムもたいした物は持ってへんよ。金の針は運よく見つけたけどな。」
そういって差し出された手の上には確かに金の針が置かれていた。
「そうなんですか。
あの・・・もしよろしければ私たちと行動しませんか?」
「わたしが?」
自分を指差して言うはやてさん。
「はい」
と私は力強くうなずいた。
はやてさんが仲間になってくれればとても心強い。
「そうか。じゃあよろしゅうたのむわ。ティアナ隊長。」
そう言ってはやてさんは笑顔で答えてくれた。
「ハイ、よろしくおねが・・・」
あれ?今なんか違和感があったような・・・
「ん?私なんか変なこと言ったか?」
不思議そうに訪ねてくるはやてさん。
「あの・・・はやてさん。最後になんていってました?」
「ティアナおっぱいもませ――――」
「絶対そんなことは言ってません。」
「冗談や冗談。ティアナ隊長、やろ?」
「えっと・・・はやてさんが私たちの指揮を取ってくれるのでは?」
私は当たり前のようにそう思っていた。
はやてさんはSS級魔道士であり、今まで起動六課の指揮を取っていた人物だ。
そんなはやてさんが仲間になるのだから当然リーダーははやてさんになると思っていたのだが。
そんな私の考えとは裏腹にはやてさんは言った。
「なにをゆうとるんや。ティアナがあんた達のリーダーやろ。
私はあんた達についていくだけや。ならリーダーはティアナにきまっとるやろ。」
なあ。とフィーナと早苗のほうをむくはやてさん。
「ええ、ティアのおかげで私たちは今まで生き延びれたようなものだわ。」
「ティアさんは頼りになる人です。」
フィーナと早苗までそんなことを言っていた。
「ほら、二人もこういっとるし。
それにな、ただでさえ私は単独戦闘苦手やし、能力も封じられててはっきり言って今の私の戦闘能力はティアナに比べてずっと低いんよ。
だからそういう意味でもあんたの方が適任なんよ。」
はやてさんはポンと私の肩に手を置いた言った。
「そういうわけでよろしゅうなあ。ティア隊長。」
せめて普通の呼び方でお願いします。



その後、私たちは森の中を進み始めた。
全員金の針を持っているので、とにかく身を隠せそうな場所を探そうと思ったのだ。
もちろん移動中もGPSの画面を見て他の参加者と遭遇しないように注意しながら進んでいた。
はずなのだが
「・・・・」
はやてさんが急に立ち止まった。
「はやてさん?」
私は不思議そうにはやてさんをみた。
するとはやてさんはまじめな顔でこちらを見やり言う。
「ティアナ、分かるか?」
「・・・・・」
私は意識を集中した。
少し先のほう、とある木の上、かすかに聞こえる機械的な音。
「敵!?」
「あたりや!」
ガン!
とハヤテさんの手に握られた拳銃が発砲した。
そしてガサガサと音を立てながらハヤテさんが撃った木から何かの残骸が落ちてきた。
「あれは何かしら?」
「手作りのトラップの類じゃないかしら。GPSには何も表示されていないわ。」
フィーナがGPSを覗き込みながら言った。
「いや、トラップなんて甘いもんやなさそうや・・・」
ガサガサと私たちの周りの茂みが一声に揺れ始めた。
「囲まれた!?」
「そのようね・・・」
「あわわ、どうしましょうか!?」
「くるで!」
そして、人形達が飛び出してきた。
人形とは言っても武器に木や石などを使って手足をつけただけの簡単なものだったが、それらは身軽に飛び跳ねながら私たちを襲ってきた。



「おーおーやってるやってる。」
ティアナたちから少し離れた場所。
そこで魔理沙はティアナたちが人形に襲われている光景を見ていた。
アリスの操る人形がティアナたちを銃撃するが、ティアナたちはそれをかわし、的確に反撃を人形達に反撃を食らわせていた。
「おっと、あいつら強いぜ、アリス。」
少しずつではあるが確実に一体、また一体と破壊されていく人形達を見て魔理沙は言った。
「心配することはないわ。まだまだ人形達はあるもの。」
アリスは人形を動かしながら言う。
「あいつらに私の位置は分からないわ。持久戦で勝負すれば間違いなくこちらが勝てる。」
アリスはそう確信していた。



「ティア!GPSに信号が映ったわ!」
人形達の相手をしながら、フィーナが突然叫んだ。
「一瞬だけど、画面の隅に映ったわ、あっちの方角よ。」
フィーナがひとつの方角を指差した。
「あっちにこいつらを操っている黒幕がいるのね。」
「たぶんそうやろうな。」
「なら。」
私は全員に指揮する。
「駆け抜けるわ!」



「おいアリス!あいつらこっちに向ってきてないか?」
「分かっているわ」
どうして自分の居場所がばれたのか?と言う疑問が浮かんだが、今は無視した。
敵がこっちに近づいてきているのは事実。
ならばそれなりの対策を立てねば。
「ん?」
アリスが考えている間に、魔理沙はとあることに気づく。
「あいつは・・・」
それは見知った顔だった。
しばらく前に幻想郷にやってきた、山の上の神社の巫女。
「アリス」
「なに?魔理沙?」
魔理沙はにやりとしながらいう。
「顔見知りだ。ちょっくら挨拶に行かないか?」



「敵が近づいてくるわ!」
敵のほうに向って駆け出してすぐ。
今度は敵のほうからやってくるようだった。
「どうやら二人のようね。」
そしてその二人はすぐに現れた。
長い金色の髪に、白と黒をベースとした魔女服を身にまとった少女。
金色の短い髪に紅いカチューシャ、青をベースとした魔女服に身を包んだ少女が遠くに立っているのが分かる。
そしてそんな二人を見て真っ先に反応したのは早苗だった。
「魔理沙さん!アリスさん!」
「よっ!早苗。」
「ひさしぶりね」
二人はどうやら早苗の知り合いらしい。
「早苗、あの二人は?」
私は早苗に聞く。
「私と同じ世界の出身です。
白黒の魔法使い霧雨魔理沙、七色の人形遣いアリス・マーガトロイド、二人とも魔法使いです。」
「魔法使い・・か・・・」
私やはやてさんと似たような感じだろうか。
「おそらく人形を操っているのはアリスさんです。でも・・・」
早苗はアリスへと視線を向け
「どうしてアリスさんは能力をつかえているんですか!?
ここでは元の能力は一切封じられているはずです。」
アリスは微笑した。
「ねえ早苗、私の能力を言ってみなさい?」
「えっと・・・【魔法を使う程度の能力】ですよね?」
「そのとおり、そして私はその能力は今はつかえない。」
アリスは手をかすかに動かした。
すると私たちの目の前に人形が歩いてきて突然踊りだした。
「この程度の人形を操作するのに魔法の力なんか要らないわ。
糸と人形があれば十分。
ミリ単位の微細な操作だけれど慣れれば簡単よ。
私は普通よりも器用だから。」
そういってアリスは両腕を振るった。
それと同時に茂みという茂みから人形が表れた。
「何よ・・この数!?」
さっきの比ではない。
ざっと見て2,30体ほどはいるだろうか。
「さて、悪いけどあなたたちはここでリタイアしてもらうわ。」
冷たい目でアリスは私たちを見ていた。
「ああでも早苗、同郷のよしみだ。お前は逃げていいぜ。」
そう魔理沙が言った。
「そんなこと出来ません。私だけだなんて!」
早苗はそう魔理沙に言い放つ。
「せっかくの人の心遣いを・・・
しかたねえ、全員でやられちまえ。今までの10人みたいにな。」
「10人!」
それだけの数をこいつらは倒したというのか。
「まあ最後の二人にはやられるかと思ったけどね。そうね、ちょうどあなたたちに似たような格好をした二人組みだったかしら。」
アリスは私とはやてさんを指して言った。
「それって・・・」
「まさか・・・」
「確か、なのはとフェイトって名前だったかしら?」


「嘘だッ!!!」


チチチ
遠くでカラスが一斉に飛び立つ音がした・・・様な気がした。



あれ?なんか今一瞬他の人格に変わったような気が・・・
フィーナやはやてさんがこっちを見て固まってるし、早苗なんか隅っこで頭抱えて震えてるし・・・
とにかく気を取り直して
「嘘よ、あの二人があんた達なんかに・・・」
「そう・・・じゃあこれでどうかしら?」
人形達が何かを運んでくる。
それは確かに見たことがある姿。
だが、決して人とはいえない色をしていて・・・
ドスンとそれはアリスと魔理沙の横に置かれた。
「そんな・・・・」
「嘘やろ・・・」
それは間違いなく起動六課の隊長たち、2人のエース。
なのはさんとフェイトさんの石像だった。
「この二人に人形をだいぶ壊されてね、今あんまり手元に残ってないのよ。」
アリスがそんなことを言っているが私の耳には届いていなかった。
(こいつらが・・・)
私の中に目覚めたのはひとつの感情。
(よくもなのはさんとフェイトさんを・・・)
それは怒り。
その感情のなすがままに私はアリスたちの下へ駆け出そうとして、
トスッ
不意に私の頚部に手とうが叩き込まれ、私の意識は落ちて言った。



ティアナに手とうを叩き込んだのは、はやてだった。
(やっぱりまだまだ子供や)
今のティアナは冷静な考えが出来ない状態だった。
このまま闇雲に突っ込んでやられるのがオチだっただろう。
はやては気絶したティアナを抱きかかえるとフィーナを呼んだ。
「フィーナはん。申し訳ないけどこの子を頼めるか?」
「ええ・・・それはもちろん。でもはやてさん」
何をする気ですか?と問おうとするが、その前にはやての横顔を見たフィーナは悟った。
「おそらくアリスたちにここで勝つのは無理や。
どう考えても相手に有利な地形やしな。
だから、あんたたちは死ぬ気でここから逃げるんよ。
早苗ちゃんの武器の手助けがあれば何とか逃げるくらいは出来るやろ?」
「はい・・・でも、はやてさんは・・・・」
はやてはかすかに笑う。
「フィーナはん、早苗ちゃん、私が隙を作るからそれにあわせて駆けだすんや。
そしてとにかくこのエリアを離れること。
大丈夫、私も後でちゃんと隙を見て逃げるさかい。」
「でも・・・」
「ティアナのこと・・・頼むよ。」
はやてはフィーナの目を見つめ言った。
「はい・・・」
フィーナはうなずいた。
「ほないこうか。やい、そこの人形遣い!」
「あら、観念する気になったかしら?」
「残念やけど、これでしまいや!」
そういってはやてが取り出したのは手榴弾だった。
はやてはそれをアリスへ向って投げるが
ボン
とアリスへ届く前に打ち落とされてしまった。
やがて爆炎が晴れると・・・
「!?」
アリスは気づく、そこにいたのははやてただ一人だった。
よく見ると何体かの人形が破壊されている。
どうやら爆炎でアリスの視界をさえぎっている間に後ろにもうひとつの手榴弾を投げ、包囲網に穴を作ったようだ。
「やってくれるわね・・・」
「あら、まだまだたりひんよ?」
そういってはやては駆け出した。
アリスへと一直線にすすむ。
アリスの人形達はそんなハヤテに一声に襲い掛かった。
「さて、いくで!」
無数の銃声が木霊した。



ハッと目が覚めた。
慌てて飛び起きて周りを見渡した。
どうやら私は木陰に寝かされていたらしく、すぐ近くにフィーナと早苗も座っていた。
「あら、目が覚めたのねティア。」
「大丈夫でしたか、ティアさん。」
「フィーナ、早苗・・・私は・・・」
そういいかけてすぐに思い出した。
確か私たちはアリスと魔理沙に襲われて・・・
「っ!はやてさんは!?」
そうだ!はやてさんの姿が見えない。
それにアリスたちはどうしたのか?
私はフィーナと早苗をみるが、二人の表情は暗かった。
やがてフィーナがうつむき加減で言った。
「はやてさんは・・・私たちを逃がすために囮に・・・」
「そんな・・・」
もしかして私があそこで冷静さを欠いたせいだろうか。
あのままむやみに突っ込んでいたら間違いなく私はやられていただろう。
そんな私を助けるためにはやてさんは・・・
「いいえ、ティアのせいではないわ。あの状況ではこれが最善の策だったもの。
実際私たちは生き延びれている。」
「そうです。それにはやてさんだってうまく逃げ切れているかもしれません。」
「そうだけど・・・」
私は自責の念を捨てきれない。
「ティア、自分を責めるなとは言わないわ。それであなたが少しでも楽になるのなら。
でもあなたは優秀なはやてさんの部下だったんでしょう?なら彼女の言うことは聞けるわよね。」
「はやてさんの・・・?」
フィーナが私の目を見つめていった。
「森を抜けるわ。そして、そこではやてさんを待つのよ。」
「はやてさんはこのエリアではアリスさんには勝てないと言っていました。ならこのエリアにとどまりのは危険だと思います。はやてさんだってきっとうまく脱出しているはずです。」
早苗も私の手をつかんで言う。
「さあティア。」
「ティアさん。」
二人が私に語りかける。
私は二人に言った。
「行きましょう。フィーナ、早苗。」
そういって私は立ち上がる。
はやてさんのことを信じて。
(必ずまた会いましょう。ハヤテさん。)



「やるわね、あなた。」
「いやあ、私もここまでやれるとは思わなんだなあ。」
無数の人形の残骸に囲まれて、はやてが立っていた。
そしてそのはやてからやや離れたところにアリスと魔理沙は立っている。
「でも、これで終わりね。」
「はは、そのようや。」
はやての武器は度重なる人形の猛攻によって機能しなくなっていた。
そんなはやてを数体の人形が取り囲んでいる。
もはやはやてに反撃の手段はない。
「ねえあなた。」
そんなはやてにアリスが問いかける。
「あのまま4人で私に挑めば何人かの犠牲者は出ただろうけど私たちを倒せたんじゃない?
どうしてあの3人を逃がしたの?」
アリスははやての目をじっと見ていた。
「じゃあ逆に聞くで。
あんたはそっちの嬢ちゃんを失ってでもこのゲームに勝ちたいんか?」
わたしか?と自分を指差す魔理沙。
「何を馬鹿なことを言っているのよ。」
アリスははやてに言い放つ。
「ほーら、あんたもわかっとるやないか。」
はやてはけらけらと笑った。
「なあ譲ちゃん」
やがてはやてが静かにアリスに最後の言葉を語りかけた。
「なによ・・・」
「大事なものは、最後まで手放すんじゃないで。」
「っ!」
アリスの指が動いた。
同時に人形達が舞い。
はやてに向けられて銃口が―――――――



ガァン



今回の被害者:なし



残り71人

つづく


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