AngelBeats! 第1弾

作:七月


 ここは死後の世界。その女子寮にて
「なあ岩沢、気付いているか?」
「ん? 何が?」
 寮の廊下を二人の女生徒が歩いている。一人は赤毛のセミロングの少女、岩沢。もう一人は茶髪の短いポニーテールの少女、ひさ子だ。
 二人とも着替えを手に寮の大浴場へと向かっている途中なのだ。
「やっぱり気付いていないな。岩沢……お前最近つけられてるぞ」
「つけられてるって……何に?」
 と、首をかしげる岩沢に対し、ひさ子は
「ストーカーだよ、ストーカー!! 最近あたしたちの部屋の周りに変な影がいたり、風呂場周辺で岩沢の入浴時間に一致して覗き魔が出没しているって噂なんだぞ」
 やや口調を荒げて言った。
「へえ……ま、いいんじゃないの?」
 そんなひさ子に岩沢は特に気にしていない様子で返す。
「よくねーだろ!? どこの馬とも知れない奴に裸見られているかもしれないんだぞ!?」
「別に裸ならひさ子は毎日見ているじゃないか。」
「誤解をよぶ言い方するな!? 毎日一緒に風呂入ってるだけだろ! それにあたしが見るのと他のやつが見るのとはわけが違うだろ!?」

ガタッ!

「ひさ子先輩、それも十分キャッキャウフフな展開だと思います!」

サッ!

「!?」
 バッ! と後ろを振り向くひさ子。
「どうしたの?」
「いや、なんか関根の声が聞こえた気がした」
「気のせいじゃない?」
「ま、そうか……」
 まさか覗き魔って関根のことじゃねえだろうな……と内心勘ぐりながらひさ子と岩沢は歩き続ける。
「ああ、話を戻すけどな。それで今回その覗き魔を退治しようってことで、関根がゆりっぺに頼んで罠を張ってもらったらしい」
「罠?」
「ああ、どんなものかは見てからのお楽しみ……だそうだが」
「へえ……そんなことよりひさ子、今度の新曲なんだけど……」
「お前本当に音楽キチだな……」
 そんな他愛ない会話をしながら二人は歩き続ける。その後ろから一つの影がつけているとも知らずに……



「さーて、入るか。岩沢。」
「うん、そうだね」
 ひさ子と岩沢は衣服を脱ぎ、浴場へとやって来た。ちなみに今は貸切である。
 ガルデモの2人は熱狂的な人気があるため、普通に他の生徒と一緒に入ると大混乱を起こしてしまう。そのため生徒達と時間をずらして毎日貸切で入浴しているのだ。
「ひさ子。結局罠って何なの?」
「うーん、何なんだろな……って……ん?」
 ひさ子の目の前、シャワーの横に『入浴剤(関根のオススメです。入れてね♪)』と書かれた袋が置いてあった。
「コレだなあ……」
「何? ああ、コレを入れればいいの」
「おいちょっと岩沢、コレを入れるの自体が罠かも知れな……」
 サーーーーッ、と岩沢が入浴剤を入れた。
「ほら、なんかお湯が綺麗な色に染まったじゃない」
 見れば透明だったお湯が桜色に染まっていた。
「はあ……まあいっか。どうせ関根が考えるような事だ、大した事はないだろ。入るか、岩沢。」
「ああ」
 そういって二人は体を洗い終えると、ゆっくりと湯に浸かった。



(ふふふ……来ましたね。岩沢さん、ひさ子さん!)
 風呂の片隅、大量に詰まれた桶の後ろにピンク色の髪の少女が潜んでいた。
(一般生徒の入浴時間から今までずっと風呂場に隠れているとは思いますまい! さすがユイにゃん! 完璧な作戦!)
 そこにいたのはガルデモの熱狂的なファン。ユイだった。
(ついに……ついに岩沢さんとひさ子さんの生肌がこの目にっ!)
 ユイは岩沢とひさ子の裸見たさにずっと浴場に潜んでいたのだ。
(おおおおおっ! ついにお二人がお湯の中へ! さあタオルを……タオルを!!)
 二人がタオルを取って湯の中へと浸かっていく。
(ああああっ、よく見えないです! 何で今日に限って湯気が濃いんじゃー!! テレビ愛知かっつーの!)
 何故か今日は湯気が強く、うまく二人に姿が見えない。
(こうなったらあたしも……)
 湯気で姿が見えにくい事をいいことに、ユイもこっそりと湯に浸かると桶で顔を隠しながらゆっくりと二人に近づいていく。
 ゆっくり……ゆっくり……ゆっくり……ゆっ(コツン
「うあああああっ!? すいません出来心でしたーーっ!」
近づきすぎて岩沢の体に当たってしまったらしい。ユイは即座に謝りだした。が、
「あれ……?」
 岩沢やひさ子からの反応は無い。
「えっと……岩沢さん? ひさ子さん?」
 ユイが呼びかけるも反応は無い。
 ユイは不思議に思い、岩沢の体に触れてみた。すると
「あれ?」
 固い。どう考えても人間の固さではない。いうなれば石のような……
 やがて湯気が少し晴れた。するとユイの目の前には
「ええええ!? なにこれ!?」
 そこには石像となった岩沢とひさ子の姿があった。
 全身灰色に染まって固まっている岩沢とひさ子。
 ひさ子は慌てて立ち上がろうとした途中の姿で、岩沢は自分の体の変化を冷静に見つめていたような姿で石になっている。
 石となったその体を桜色のお湯が波打ち、滴が跳ねて石の肌を伝っていく様子はなんとも淫靡だった。
 ユイは思わず二人の石像に見とれてしまっていた。
「はっ、涎が……ってそんなことより何で二人が……」
 と疑問を口にしたところでユイは気がついた。
「あれ? あたしの足が……」
 動かない。と、自身の足を見やると、ユイの足が灰色に染まっていた。
「え……え〜っ!?」
 ユイの体が石化し始めていたのだ。そして、石化はあっという間にユイの体全身に及んでいく。
 腰から胸、そして顔へ。
「な……何んな……」
 そして……

ピキィ

 何が起きているのか理解する間もなく。ユイは石像になってしまった。
 慌てた表情で石になっているユイ。
 ユイに加え、岩沢、ひさ子の3つの石像が浴場には残された。




「ふははははーっ! 真打登場! 関根だよーっ!」
 そして全てが終わった後、関根が浴場にやって来た。
 目の前には3体の石像。それを見た関根は
「計画どおり! ああ……岩沢先輩とひさ子先輩の裸婦像……(なんかおまけがあるけど)」
 うっとりと2人+おまけの石像を眺めていた。そこへ
「しおりん〜、やっぱりこれまずいんじゃないの……」
 一人の少女がやって来た。関根のことをしおりんと呼ぶ、藤色の髪の臆病そうな少女……入江だ。
「ん? 大丈夫だって、みゆきちぃ」
 ちなみに入江は関根にみゆきちと呼ばれている。
「実際ストーカー(ユイにゃん)も捕まったわけだし……いやーラッキーだったねえ。本当はストーカー関係なく岩沢先輩とひさ子先輩をカチンカチンにして私もその石像を目の保養にすると同時に、岩ひさ石像写真集でも作ってがっぽがっぽ食券を儲けようかな〜なーんて考えていて、言い訳とか全然考えていなかったんだけど、こうやってストーカーが捕まってくれたから、ストーカー捕まえるついでにちょーーーーっと手違いで岩沢先輩とひさ子先輩も巻き添え食って石になってたって言い訳できるよー。」
「ふーん……そう……」
「そうなのだー。ああ大丈夫だよ、みゆきちにもちょっとくらい分け前を……ってあれ? みゆきち何か声が変わった? なんかRPGとかで敵の女幹部なんかにいそうな声に……ってゆりっぺさーん!?」
 いつの間にか入江の隣には、にっこりと怖いくらいの笑顔を浮かべるゆりがいた。
「いきなり関根さんが『対人用セメント硬化剤』をくれって言うから何かと思ったら……入江さん、報告ありがとう」
「は……はい……」
「うわーん、みゆきち裏切ったなーっ!?」
「だ……だってー、こんなの隠しとおせるわけ無いじゃないー」
 うえーん、と涙目で入江が言った。
「さーって、この薬の効果って一週間なのよねー。その間陽動作戦が出来なくなってしまったんだけど、どう責任とってくれるのかしら?」
「えーっと、その……ほら! ストーカー犯人捕まえましたよ! 偉いで……」
「んなこと聞いとらんわーーーっ! 体ではらわんかーい!」
「うわわわわーーっ!?」

ドボーン

「……ぷはあっ、うう、いきなりお湯にぶち込むなんて……ってあああっ!? 体がい……し……に……」

カチンッ

 浴槽に落とされた関根は、立ち上がり、自らの体が石に変わっていく様を確認するように両手を見つめた体制で石になってしまった。
「勝手な事をした罰よ。……でもさっきの関根さんのアイデアも結構いいわね」
「え?」
「ほら、岩ひさ石像写真集で食券がっぽりってやつ。オペレーショントルネードもできないし、何らかの別の方法で食券巻き上げないといけなかったし」
「え……っと……まさか……」
 何かを察したような入江はガクガクと震え始める。
「岩ひさじゃあなくて、この際だからガルデモ石像写真集とかどうかしら? あ、でもそれだとあと一人足りないわよね?」
「え……あの……その……」
「私……入江さんがここでちょーっと気を利かせてくれるとうれしいな」
「あ……あ……」
 にっこりとした顔のゆりが近づいてくる。
「う・れ・し・い・な♪」
「あ……あ……」
 最早入江の涙腺は決壊しまくっていた。
「た……たすけ……あ〜〜〜〜っ!?」

ドボーンッ




 翌日
「あーっはっはっは!」
 校長室にゆりの高笑いが響いていた。
「もーう、大成功じゃない! 発売初日でこれだけの食券が集まったわ!」
 ガルデモの石像写真集は飛ぶように売れ、今、ゆりの目の前には食券の山が出来ている。
「それにこの写真集発売のおかげでガルデモの知名度もアップ!今後の陽動作戦の効率も上がるわ」
「で、ゆりっぺ」
 そんなハイテンションゆりに対して口を開いたのは日向だ。
「そのガルデモメンバー本人達はどうしてるんだ?」
「ああ、彼女達ならグラウンドに飾ってあるわよ」
 その通り、今グラウンドには4対の石像が並べられていた。
 岩沢、ひさ子、関根……そして尻餅をついて必死に助けを請うような格好で石像となっている入江だった。
 その周りはガルデモのファンで埋め尽くされており、思い思いにその石像に触れていた。
「おい!?」
「だーいじょうぶよ、流石に裸はまずいから制服着せといたし。それにしても石像に制服着せるのって大変ねー。体が硬くなったってるから本当に苦労したわ」
「そう言う問題かよ……」
「ファンサービスよファンサービス。別にアレを本人達とは思わないでしょうし」
「まあなあ……ってあれ? でも確かもう一体石像があったんじゃなかったっけ? ほら、岩沢のストーカーのやつ」
「ん? あ、そういえばあったわね。……あれ? どうしたっけ?」



 浴場にて
 今、浴場ではたくさんの生徒が入浴していた。
「すごーい、なんだろこの石像」
「よく出来てるねー」
「なんかのオブジェなのかな?」
「なんか慌てている様子が可愛いねー♪」
 キャッキャ、キャッキャとはしゃぐ女生徒の間。
 浴槽の中心に一人の少女の石像が立っていた。それは、すっかり忘れられていたユイの石像だった。
 ユイの石像はかわいらしいオブジェとして女子にぺたぺた触られたり、お湯をかけられたりして遊ばれていた。
 これから1週間、ユイは浴槽に放置され風呂場に出来た新しい置物として生徒間でほんの少し話題になるのだった。





おわり

第3弾


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