AngelBeats! 第1弾

作:七月


 ここは死後の世界。
 その校長室での事。カーテンを閉め、電気を消し、暗闇と化した一室でそれは行われていた。
「以上、コレが今回の作戦よ」
 そこにいたのは男女6人の生徒だ。
 校長席にどっしりと座った一人の女生徒を取り囲むように残りのメンバーは立っていた。
「なあ、ゆりっぺ」
「何? 日向君」
 その中の一人、日向と呼ばれた青髪の少年が校長席に座っている少女……ゆりっぺに言う。
「こんな作戦で大丈夫かよ?」
「さあね。でもやってみる価値はあるんじゃない? もともとはチャーが考えていた作戦に+αしただけよ?」
「確かにそうだな」
 と、答えたのはとても高校生には見えないような髭面の男、チャーだった。
「俺は合理的な作戦だと思う」
「でしょ? 大山君と野田君は?」
「僕は良いと思うよ」
「ゆりっぺの考えた事に間違いなどは無いな」
 答えたのは大人しめな平々凡々な少年、大山。そして何故かハルバートを片手にもつ目つきの鋭い少年、野田だった。
「OK、じゃあ最後に……椎名さん。どう思う?」
 と、ゆりっぺの視線の先。部屋の隅で腕を組んで壁に寄りかかっている少女、椎名は。
「いいだろう」
 わずかに視線を上げるとそう答えた。
「日向君もいいわね?」
「ま、俺も特に反対はしねえよ」
「ふふ、満場一致ね」
 ゆりっぺは全員の賛成を受け、宣言する。そして
「作戦開始は本日、一五:○○時よ。それじゃあオペレーション……」
 ダンッ、と机を叩きながら立ち上がり
「スタートッ!」
 始まりの合図を告げる。
 ここに初代SSSメンバーによる大規模天使撲滅作戦≪オペレーション・エンゼルフォール≫が始まる。




「しかし安直だよなあ」
 と、呟くのは校庭にてある作業に取り掛かっていた日向だ。
「なあゆりっぺ、今回の作戦についてもう一度簡単に説明してくれよ」
「何? もう頭からぬけたわけ? あなたの脳みそはザルなのね?」
「……読者のみなさんに分かりやすくだよ」
「はあ? 何言ってるのか分からないけど何故か説明しないといけないような気がしてならないから仕方ないから説明してあげる。今回のオペレーション・エンゼルフォールは天使を封印する作戦よ。日向君、殺しても死なない相手を永久的に戦闘不能に陥れるにはどうしたらいい?」
「もう答え言っちゃってるだろ……封印するんだろ」
 あきれながら答える日向。
「ええそうよ。でも私達が魔法みたいなものを使って天使を封印できるわけじゃあない。だから物理的に封印させてもらうわ」
「そこで以前のチャーのアイデアがでてくるわけだな」
 以前ゆり達とチャーがまだ敵だったころ。そのころのチャーはゆり達を脅し、とある天使を倒す為のアイデアを実行しようとした。それは天使を穴に落とし、埋めてしまうというものだった。いくら不死身の天使とは言え、永遠に地中に埋められて身動きできなくなってしまえば怖くは無いからだ。
「だからこそ天使を穴に落っことす(エンゼルフォール)……ねえ……」
「ふふふ、しかも今回はそれだけじゃないわ。チャー、準備は出来た?」
「ああ、抜かりない」
 そう言ってチャーは大量のドラム缶を指差した。
「あの中に大量のセメントを作っておいた。いつでも流し込めるぞ」
「ふふ、ありがとう」
「おいおい、ここまでやるかね……」
 そう、今回の作戦。≪オペレーション・エンゼルフォール≫は天使をセメントのたまった落とし穴に落とし、セメントでカチカチに固め、天使像にしてしまおうという作戦なのだ。
「これ別に落とし穴に落として後から埋めるのと意味変わらなくねえ?」
「浪漫よ、浪漫が違うのよ。石像になった天使をあたし達の拠点に飾ってやるのよ。ほら神様、あんたの使いはあたしたちによってやられちゃったわよ〜? 次はどうするの〜? って言う挑発にもなるし」
「なるほどねえ」
「さて、分かったら早く穴を掘りなさい。深いのね!」
「へいへい」
 日向はしぶしぶ先ほどまでしていた作業(穴掘り)へと戻るのだった。



 数時間後。
「いい感じじゃない!」
 校庭にはいくつものセメント入りの落とし穴が出来ていた。
「はあ……はあ……俺と野田に全部やらせやがって……チャーとか大山にも手伝わせろよな」
 と息切れ切れに日向が言った。
「だってチャーはセメント作りって言う仕事があったし、大山君は椎名さんと天使の偵察に言っているわ。椎名さんには合図と同時に天使をここまで誘導してもらう手はずよ」
「椎名はともかく大山が天使の偵察とか大丈夫かよ……」
「大山君は人ごみに逃げ込めば、大山君のあまりの平凡さに一瞬でNPCと見分けがつかなくなるわ。大丈夫よ」
「確かにそれはあいつにしかできないな」
 案外適任だったらしい。
「で、野田君はどこ言ったの?」
「ん? そういえば見当たらないな」
 先ほどまで一緒に穴を掘っていたはずだが……と日向はあたりを見渡すがそこに野田の姿はない。
「ああ、アイツなら『うおおお、俺はどうやって穴から出ればいいんだ!』と穴のそこで叫んでいたから面倒くさかったからセメント流し込んで黙らせた」
「チャー……お前鬼だな。自分が出れなくなるような深さの穴を掘る野田も馬鹿だが」
「まあどうでも良いわ。それより準備は整ったわね。あとは椎名さんが天使を追い込んでくれるのを待つわよ」



「来たわ!」
 ゆり、日向、チャーの3人は物陰に隠れながら動向を見守っていた。
 校庭では椎名が天使を予定通り追い詰めていた。
「一人で天使と戦えるとか……化け物だな」
「スピードだけなら椎名さんの方が上よ。だから倒す事はできなくてもこうして目的の場所に追い込んでくれるくらいは出来ると思ってたわ」
「しかしゆりっぺ、ここまでは良いが天使はしっかり落とし穴に落ちるのか?」
 チャーが疑問を口にした。
「そこも考えてあるわ。日向君、ちゃんと罠は置いてくれたでしょうね?」
「ああ、ばっちりだ。各落とし穴の上にはぬいぐるみからお菓子まで、色々と女の子にとって魅力的なものが目印においてある! それにつられたが最後そのままセメントの中に……」
「おい、かかるぞ!」
 チャーの叫びに校庭を見ると
「危ないっ! こんなところに子犬(のぬいぐるみ)がーーーーーっ!?」

どぼーんっ!!

「「椎名(さん)ーーーーーーーっ!?」」
 椎名がセメント入り落とし穴に落ちた。
「………………な?」
「な? じゃねええええええええっ!」
 ドガアアッ! と尻を蹴られた日向が盛大に吹っ飛び校庭へと飛ばされた。
「そこで責任とって椎名さんの代わりに天使の相手をしなさい」
「無茶いうなああああっ!? ……はっ!」
 振り向けば椎名を撃破(自爆だが)した天使が日向の方へゆっくり歩いてくる。
(やべえっ!?)
 どうするどうすればいい?
 このままじゃやられる。やるしか無いのか? いやいや無理だろ。そうだここは一発小粋なジョークで場を和ませて……いやいやそんなの通じる相手じゃねえだろ。うわやっべ俺今超思考回ってる。なにこれ走馬灯って奴? くっそ、ここいらで都合よく俺に秘められた力でも目覚めねーかなあ!? イオナズンあたりなら目覚めても良いんじゃね? ああでもこんな短時間で覚えた魔法なんて尻から出ちまう……って何現実逃避してんだ俺魔法なんてあるわけね……ぎゃーーもう目の前じゃねえか!?ころされ……


どぼーんっ!!

「……え?」
「やったじゃない! 日向君!」
 ゆりの言葉に日向は我に帰る。
「……え? え?」
 よく見ればいつの間にか日向に向かって進んでいた天使がふらふらと進路を変え、落とし穴に落ちていたのだ。
「やった……のか?」
 なんだか意味が分からなかったがどうやら作戦は成功したようだった。
 そのことにほっと日向は胸をなでおろすのだった。
 ちなみに誰も知るよしは無かったが、このとき天使が落ちた落とし穴の上にはとある食券が置かれていたという。その品目名は麻婆豆腐だったという。



「ふふふふふ」
 その夜、校長室には不気味な笑いが木霊していた。
「あーっはっはっは!」
 部屋の中には一人の少女。その目の前には1体の石像が立っていた。
「こうなっちゃ無残なものよね? 滑稽ね、天使さん?」
 
 そう、その石像とは全身セメントで固められた天使だったのだ。あの後セメントの中から 
 天使を引っ張り出すと、天使は全身灰色のざらざらしたセメントに覆われたオブジェとなってしまっていたのだ。
「いくら神の使いでも、こうやってただの石の像になってしまえば動くことも出来ないのね」
「…………」
 天使は答えない。いや、石像が答えることなんかできるはずも無い。
「ふふ……チャーも粋な事するじゃない。セメントに服を溶かす効果もつけておくなんて」
 今、天使は生まれたままの姿でまるでヴィーナス像のようになっている。
 焦点を失った目、閉じられた唇、無表情な顔、直立不動のポーズはなんとも味気ないものだったが、それでも何故か天使の石像からは神秘的な美しさが感じられた。
「…………」
 ゆりはそんな天使の像をまざまざと見つめ……
「ちょ……ちょっと触ってみてもいいかしら……?」
 誰か聞いているわけでもないのにそんなことをひとりごちる。
そして、ゆっくりとその体に手を伸ばした。
(うわ〜っ)
 その頬に触れる。冷たく滑らかな……だが、ゼメントのざらざらとした触感が伝わってくる。
 こうやってまじまじと近くで見ると、この女の子はとても綺麗だった。
(黙っていればかわいらしい女の子なのに……)
 普段のあの驚異的な力を発揮する天使の面影はどこへやら、今ゆりの目の前にあるのはただの美しい少女の石像だ。頬、髪、目、唇……少女の石像は抵抗することなく、ゆりの手が自身の体のいたるところに触れるのをただ許し続ける。
(む……胸とか触って大丈夫かしら……)
 その手が小さなかわいらしい胸に触れようとした時
「おーい、ゆりっぺ〜。椎名の石像回収してきた……」
「どっせえええええええい!」
「ぞ……うごあああっ!?」
 椎名の石像を担いでやって来た日向の顔面に、ゆりっぺが盛大に投げ飛ばした天使の石像が直撃した。
 そして、日向の顔面でバウンドした天使の石像は、そのまま窓ガラスを突き破り校舎の外へと落ちていく。そして……
ガシャアアアンッ!
 と、窓の外から盛大な破砕音が聞こえた。
 ゆりと顔面に大きな痣を作った日向は窓から身を乗り出し階下を確認する。そこには、セメントが壊れ、再び自由の身となった天使がいた。
「…………」
「…………おい、ゆりっぺ……」
「…………えへ?」

≪オペレーション・エンゼルフォール≫


失・敗!!


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