AngelBeats! 第1弾

作:七月


 ここは死後の世界。そこにある校舎の屋上に一人の少女が居た。
「おや、皆さんこんにちは」
 と、どこへやら声をかけるこの少女。金色の髪、無表情な顔が特徴のこの少女の名は遊佐といった。
SSSのオペレーターである彼女は、ゆりの命令で常にこの世界の 事を監視し続けているのだ。
「ただいま私達SSSメンバーはオペレーション・エターナルフォースブリザードの準備中です」
 オペレーション・エターナルフォースブリザードとは?
 それは簡単に言ってしまえば巨大な冷凍庫に天使を閉じ込めて凍らせてしまおうという作戦だ。
 現在SSSのメンバーはこの作戦の為に奮闘中なのである。
「それでは今現場で作戦の確認の真っ最中のゆりっぺさんに中継をつないで見ましょう。ゆりっぺさ〜ん」



「ハーイ! こちら中継のゆりっぺで〜す♪ 寒いですね〜、冬ですね〜、冷凍庫ですね〜、ってなにやらせるんじゃぼけええええええっ!」
 ガシャーーーン!
 と、マイクを地面にたたきつけた。
「くっ、どうも遊佐さんのボケは苦手だわ。何故かノせられてしまう」
 今、ゆりがいるのは遊佐の言ったとおり、巨大な冷凍庫の中だ。冷凍庫が正常に作動するかどうか確認にやってきていたのだ。
「さてと……取り合えず一通り確認したけど……」
 ばっちり寒いし、壁の強度も問題なし。天使を閉じ込めるには申し分ないだろう。
「ま、大丈夫でしょう。寒いし早いところ帰って……」
 
キィーーーーッ…… バタン!

「ん?」



 屋上にて
「おや?」
 遊佐がなにやら不思議そうに首をかしげている。
「ゆりっぺさんとの通信が途絶えました」
 ザーーーッ、というノイズのする無線機を聞きながら、遊佐がそう呟いた。



「ちょ……ちょっと!?」
 ゆりは慌てていた。
 いきなり冷凍庫の扉が閉まり、外から鍵がかけられてしまったのだ。
「くっそ……」
 ダンッ! ダンッ! 
 拳銃を撃ち込むも扉はびくともしない。
「てりゃあっ!」
 ドンッ、と体当たりをするも扉はびくともしない。
 図らずとも、この部屋の頑丈性は証明されてしまった。
 さらには先ほどから遊佐と交信も途絶えてしまっている。電波遮断の効果もばっちりのようだ。
「そんな……閉じ込め……られた?」
 ゆりの顔に焦りが浮かぶ。さらには
 シューッ、と何かが噴射される音が聞こえる。
「これはっ……!?」
 急に冷凍庫内の温度が下がり始めた。
「急速冷凍っ!」
 凄まじい冷気が、急激にゆりの体温を奪って行った。



 この時一人の人物が冷凍庫の外を歩いていた。
「戸締りはしっかりしないと……」
 ガチャン、と冷凍庫の鍵をかけた人物は、ゆりたちが標的としていたはずの天使だった。
 この時天使は放課後の戸締りの確認に出歩いていたのだ。
そして、ご丁寧に冷凍庫の鍵も閉めたのだった。
『……!……!』
「?」
 ちなみに冷凍庫の防音設備は完璧である。
『……!』
「?」
 よって、中でのゆりの騒ぎが天使の耳に届く事はなかった。さらには
「何かしら? これ?」
 ポチッ、と天使は扉の横についていたボタンを押した。
『……っ!?』
「? ……まあいいか」
 この時冷凍庫内では急速冷凍によってゆりがそれはもう大ピンチな事になっていたのだが当然天使はそんなことを知る由もなく、 特に気にすることもなく歩き去って言ってしまった。



「くそ、まずいわね……」
 シューーッ、と尚も冷気が冷凍庫内に噴射されている。
 ゆりの体にも次第に薄い氷の膜が張り付き始め、寒さでからだもこわばって動かなくなってきた。さらには
「足が……」
 足が氷に包まれ、地面に張り付いてしまっていた。これではもう歩く事すらできない。
「く……っ!」
 寒さで意識がかすんできた。
 視界もぼんやりとしてきて、なにやらとても眠い。
「だれ……か……」
 シューーーーッ
 と、そんなゆりに構うことなく、どんどんと冷凍庫の中の温度は下がっていった。
 そして……




「おや?」
 翌朝のこと、屋上にて遊佐が異変を感じ取った。(もちろんずっと居たわけではないですよ? 睡眠はばっちりです)
「どうやら通信が回復したようです。それでは再び……現場のゆりっぺさ〜ん」
『…………』




 同時刻、冷凍庫前にて
「これだけ色々部屋が在ると鍵を開けて回るのも大変ね……」
 早朝から部屋の鍵を開けて回っていた天使が冷凍庫の前にやって来た。そして
 ガチャン、と冷凍庫の鍵を開けた。すると、扉の隙間から冷気がかすかに漏れ出してきた。
「?」
 不思議に想った天使が冷凍庫の扉を開けると、中にたまっていた冷気が部屋の外に一斉に流れ出してきた。
「冷たいわ」
 若干冷気に身震いしながら天使が部屋の中を覗くとそこには……
『ゆりっぺさ〜ん、……応答がありませんね……』
 地面に転がっている無線機。そしてその横にはカチンコチンに固凍りついて、氷像をなっていたゆりが立っていた。
 両手で肩を抱き、足を内股に閉じて寒さに耐えながら固まっているゆり。
 全身青白く染まってしまった彼女は、寒さに震え、凍りつきながらもその勇ましい姿勢は崩さない。
 まるで何かを憎むようなキッとした目つき、歯を食いしばって最後まで冷気に抵抗ような表情で固まっていた。
「綺麗な氷像ね……」
 天使はゆりの氷像の前に歩いていくと、その頬に触れた。そして、掌でその冷たさを感じた。
 宿敵である天使にその頬を触られるゆり。
 当然のことながら凍結してしまっているゆりは、敵にその体を触られているにもかかわらず一切の身動きは出来ない。
 だが、凍りついたゆりの睨むような目線は今、眼前の天使に注がれているようにも見えた。
「そうだわ……氷像なんだからしっかり扉を閉めておかないと溶けてしまうわね」
 天使はゆりから手を離し、急ぎ冷凍庫から出るとその扉を硬く閉じ
「これでよし……」
 しっかりと施錠をした。
「さて、次の部屋に行かないと……」
 天使はそのまま他の部屋の鍵を開けて回る作業に戻っていった。
冷凍庫の中には一人の少女の氷像が保管されることとなった……


 再び屋上
「おや、また通信が途絶えました」
 遊佐がノイズしかしなくなった無線機に耳を傾けながら
「……まあゆりっぺさんですし大丈夫でしょう」
 視線をグラウンドの方へと向けていた。
 そこではSSSの陽動部隊、Girl’s Dead Monster 通称ガルデモが野外ライブを行っていた。
「……こーこーかーらー♪」
 ゆっさゆさとサイリウムを振りながらリズムにのる遊佐。
 ゆりが救出されたのは、ガルデモライブ終了後に遊佐が他のメンバーに異常を報告してからやっとのことであった。



おわり

第2弾


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