giveでtakeな吸血指導のお時間 その3

作:くーろん


 固めフェチ――世間一般にはどう捉えられてるのだろうか。
 
 生から静への転換。
 人を失う事を閲覧する際に生まれる、小気味良い背徳感。
 物として相手の将来をも所有する事で生まれる、喉越し良い優越感。
 他にもいろいろあるが・・・・・・とりあえずこれらに「快楽」を感じるって事は、ないんだろうな。
 
 一般媒体である映画・マンガ・アニメなどで語られる「固め」はミステリーであり、ホラーであり、時にはSFでもある。
 ゲーム上で起こる「石化」等固め系状態変化は、対象のあらゆる行動全てを束縛するマイナスステータスであり、
加えて全員がかかれば全滅=死、という生命の喪失を匂わせる危険な変化でもある。

  
 ま、何が言いたいかっていうとだ。
 そんな危険なもんを、好き好んで受け入れたがる奴なんざいないって事だよ。
 

 固めたがる奴は確実にいるってのに、それを望む相手がいない。需要と供給が完全に成り立たない。
 実に困った話なんだが、フェチズムなんてのは概してそんなもんだろう?
 石化なんてのが現実となった『並成』の今なお、半ば諦めぎみに悶々と生きてる奴が大半だろうさ。
 かくゆう俺もまぎれもなくその1人、だった。
 
 
 ――しかし。





 
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・いいでしょう」
 契約の前に、個人の趣向など関係ない。

 
 「あなたが、それを望むなら・・・・・・わたくしは・・・・・・その命に、従うのみ・・・・・・」
 俺の突飛な言葉に、先輩は驚きも戸惑いも見せなかった。
 ただ従順に、俺の契約を受理し、飲み込む。
 「なら、どうぞ」
 「ええ・・・・・・・・・・・・」
 しばし、俺を見下ろす。
 恍惚とした瞳がぼやけ、気うたげに濁る。

  
 どんな命令も、契約の名の元に実行してくれる。
 先輩の大好きな規律を、好きなだけ汚すことができる。


 さあ、どう弄べばいい?
 
 
 さし当たっては、石へと変わる恐怖を味あわせつつ、魅力的な体を丹念に犯してやるべきか?
 恐慌と快楽が絡み合う、喪失と絶頂の一時。
 その時、この美麗な先輩は、どんな声を、仕草を、俺に訴えてくれるんだろうな。
 
 
 従順なる高貴な奴隷を前に、俺は声なき笑いをもらしつつ・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 ・・・・・・子悪党的妄想劇場、終演。
 ご来場誠に有難う――いや待て待てっ! 
 不平不満は痛いほど分かる。俺だってこんな妄想を現実にしたいって気持ちでいっぱいなんだよっ。
 しかしなあ、現実って奴は将来に立ちはだかる受験地獄のごとく、誠に手厳しいもんで・・・・・・
 
  
   
    
     
       
 
 
 ・・・・・・先輩は音もなくひざを落とし、俺の前に屈み込んだ。
 腕が伸び、俺が差し出した小瓶を手に――取らない。
 代わりといっちゃあなんだが、そのさらに下方まで腕を落ろし、細い指がそれを捉えた。
 そのままカチャカチャと音を鳴らしながら、先輩はそいつを外そうと・・・・・・
 
 
 ・・・・・・カチャカチャと? 外す? 
 
 
 ああおかしいな、おかしいんだよ。
 先ほど俺が思い描いた子悪党的妄想を、初っ端から裏切ってくれたよ、このエグゼリカ先輩は。
 日本はボケとツッコミの文化であり、投げっぱなしで終わるアメリカンジョークは俺の好みじゃない。
 だったら、これからする行動はおのずと決まってくるってもんだ。
    
 
 「あー・・・・・・先輩」
 貧血から来る頭痛が少々きついんだが、俺は気力を奮い立たせツッコミを入れた。
 「んー? どうしたのぉ、樹君」
 手を止めることなく、そいつを外し始める先輩。頼むから後輩の話に集中してください。
 「一応、聞いておきましょう・・・・・・何をやってんです?」
 「何を、って」
 しゅるりとそいつが外された。
 そこに至って先輩はやっと、さもめんどくさそうに、俺へと視線を向けた。
 ぼんやりとした、少しだけ所在定まらぬ目が俺を捕らえる。
 唇が、動いた。
 
 
 「・・・・・・ズボンのベルトを、外してたのですけど」

  
 頭痛が増した。
 
 
 んなことは音だけで分かりますので、わざわざ外したベルトをブラブラさせなくても、
いやもう用済みとばかりに放り捨てないでいただきたく、だからホックを外すなチャック下ろすなっ!
いいから俺の話を聞けっ!

 「俺が聞いてるのは行動内容ではなく行動理由です。自ら結んだ契約をあえて無視してまで、
そのような奇天烈な行動に走る理由を教えていただきたい」
 言動が冷静なのは我が身が貧血だからだ。自由の利かないこの体がああ恨めしい。

 「えー・・・・・・・・・・・・だってぇ・・・・・・」
 ちょこんと正座していた先輩は、さも物欲しそうに俺の下半身を眺め、
次にミニスカートが眩しいご自身の下半身へと視線を動かし、
そしてやっと――ああやっとだ。
 俺に顔を向けると小首をかしげ、言った。


 「入れないの?」
 「入れません」即答する。

  
 「ではお口で」
 「お断りします」
 「・・・・・・わたくしの、何が不満だって言うんですのぉ?」
 すねたような顔を俺に向けて言ってくれてまあ、なんて魅惑的な仕草だろうね。
 魅惑的ですので、それがさも必然とばかりにズボン下ろそうとするのは速攻で止めていただきたい。

 それで?
 俺はわざわざ説明しなきゃならないのか? 
 現状況を最も理解しているはずのこの人に。

 「俺はさっきあなたに血を吸われて、貧血で今にも倒れそうな状態なんです。
頭以外に血が行くような行為は差し控えていただきたく」
 「・・・・・・いくじなし」
 ああ意気地なしで結構ですよ。
 これでめでたく4回目だ。プライドだって鋼の抵抗力がつくってもんさ。
 
 
 
 
 想像するのも馬鹿馬鹿しいが・・・・・・
 病院でふらつく程献血した後、その足で彼女の待つホテルに直行した男がいたとしよう。
 そんな軽薄な野郎に待ち受ける末路とは、果たしていかなるものか?
 その答えが今の状況だ。

 マウス・トゥ・ネックな献血活動させられた結果、フラフラになっちまった身で己のパトスに身を任せようものなら

『ダウン → K.O → YOU LOSE』

になるって気づいたのは記念すべき1回目、麗らかな春の日差しがまだ心地よかった頃だったな、確か。
 その時は見事にKOしちまってなあ。
 目覚めた後血がにじむまで床を叩いたもんで、今でも体が覚えてるんだあっはっは・・・・・・あぁ畜生。


 更に、だ。
 悲劇はこれだけで終わっちゃあくれない。
 
  
 「先輩」
 契約者として俺は問うた。
 「血の契約が一体どうなったのか、今一度あなたに伺いたい」
 「んー・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 先輩は何を考えているのか、そもそもぼんやりとしたその瞳からすると何かを考えてるのかすら怪しい気もするんだが・・・・・・
とにかく長考の後、
 「樹君」
 ぽん、と俺の肩に手を置く。
 そして真面目な顔で、言った。


 「腰を上げなさい。そのままではズボンが脱がせられませんわ」


 ・・・・・・すまん、素直に言う事聞いていいか? 俺。
 この先輩相手に怒りをぶつけるのも、「契約」「履行」とは何たるかを説くのも、
現在グロッキー中の俺には相当な重労働なんだよ。
 
 
 
 
 『人の血は、わたくし達にとっていわば麻薬に近いものなのです。
そのため吸血後は一種のトランス状態に陥ってしまい、行動に特異的・異質的なものが顕著に現れ・・・・・・
な、なんですその訝しげな目はっ! さ、先ほどの行動は決してわたくしの意志によるものではありませんわっ!
あああのような、は、破廉恥なこう、どう・・・・・・ち、違う、本当に違うのよ! 違うって言っているでしょうっ! 
わ、わ、わたくしがう、あ、あうぅ――』
 以上、いい訳がましいにも程がある解説は本人談によるものだが、人間代表として俺が簡潔に説明しよう。


 ――エグゼリカ先輩は人間の血を吸うと「酔う」。
 以上。
 
 
 いつから人間の血はアルコール含有物質になったんだ? 
 飲みニケーション文化の弊害とか、理由は各自適当に設定してくれ。俺は無駄な努力をしたくない。
 
 
 あー、ついでに今までの行動見れば分かると思うが、その酔いっぷりたるやこれがまた相当にたちが悪い。 
 俺があえて、先輩をヴァンパイア「らしい」と、もどきな扱いしているのにはこのような理由があるからであり、
かのヴラド・ツェペシュ公も、
 「なんと淫乱な! このような恥知らずな輩と我輩を一緒にしないでもらおうか!」
 と大層お怒りになるに違いないさ。どっちもどっちだ。人間代表として言ってやらあ。
 
 いや、そんな人間界と魔界のヴァンパイア倫理なんぞどうでもいいんだよ。
 ここで問題にすべきはあの容姿端麗、スタイル極上、学園女生徒ランクAAA、
ファンクラブ会員は学園生徒の半数を超え、
その勢力はひとたび動けば学園全体をも揺るがすとまで言われている――
そんな逸話だらけの先輩が、だ。
 こっちが困惑するほど魅力的かつ積極的に迫ってくるって事なんだよ。
 その行動たるや小悪魔というより魔王に等しきものであり、父さん、これは俺に解脱せよという啓示でしょうか?
 いやマジで勘弁して欲しい。俺の信仰対象は2次元のヒロインで十分なんだ。
 
 
 
 
 「・・・・・・その辺にしてください」
 現状に戻ろう。危うく、まな板の鯉となるところだった。
 すでにズボンを脱がし、下着にまで手をかけようとした先輩の手を、俺はなんとか止めた。
 「それと血の契約したんですから、対価をとっとと払ってください。いい加減に」
 そして微力ながらも、強い眼差しで先輩を見据える。
 「・・・・・・・・・・・・」
 見据、え・・・・・・い、いや俺は契約者ですよ。あなたに非難される筋合いはないはずです。
 ですからそんな上目遣いでじっと睨もうが、こ、この鋼のごとき心は動きませんね。
 俺の信仰対象は2次元で・・・・・・いやしかし、昨今は3次元もなかなか萌え度が向上しており馬鹿いえ、
先輩がそこらの萌えふりかけ風味の添加物ヒロインに負けるわけないだろうが俺はなんて愚かな、
いやそもそもここで肯定する事が今の俺にとって愚かな行為でありああなにをうろたえてやがるんだおれは。

 「・・・・・・わかりましたわ」
 か、勝った。
 今、俺の鋼のごとき心は萌えの大海に堕ちる寸前だったが良くやった俺、やったぜ俺。
 今夜はマウン○ンデューで祝杯をあげよう。血? 飲めるか俺は悪食じゃない。
 
 
 「じゃあまずは、俺に寄りかかってください。背中から」
 「――こう?」
 俺の命令(?)に、先輩が素直に背を預けてきた。
 肩から俺に、もたれかかる。弾みでベレー帽がずり落ちた。
 「ええ・・・・・・いい感じです」
 「ん・・・・・・」
 右肩に、頭を預ける先輩。
 さらりと髪が流れ、同時に飛び込む、花の香り。
 シャンプーの香り、なんだろうか。ついうっとりと、顔を見つめてしまう。
 こうも素直に目と鼻の先まで顔を近づけてくれると、可愛らしさと幸せ気分で胸いっぱいになっちまう。
 もたれかかった華奢な重みと、鼻腔をくすぐる芳香。
 
 
 なんとも・・・・・・心地いい。
 
 
 ためらいもなく身をゆだねる先輩の姿に、つい、緊張の糸が切れちまったのかもしれん。
 ふいに、けだるさが全身を包み込んだ。
 心地よい感覚。このままで十分、って気がしてくる。
 このまましばらく・・・・・・
 
 
 「樹、君?」
 先輩が、俺を見つめる。
 瞳に写る俺の瞳は、とてもけだるそうで。
 見つめる先輩の目もまた、けうたげで。
 ・・・・・・けれどその色は何かを告げていて。
 
 
 (はぁ・・・・・・)
 何かをねだる、その仕草はたまらなく、可愛く。
 つい、強く抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
 
 
 ええ、分かってますよ。
 俺は、あなたと「契約」してますからね。それに従います。
 自分は散々無視してたくせに、俺には契約を強要してくれるんだ。
 本当に・・・・・・勘弁して欲しいね。





 「ではこれを」
 今度こそ、小瓶を先輩の目の前に差し出す。
 彼女はそれをじっと見て・・・・・・なぜか俺をじっと見て、
 「・・・・・・口移し」「いいから飲め」
 実力行使しかないと判断する。
 「あんっ、そんな強引にんんんっ・・・・・・!」
 てか、それやったら俺も石になっちまうんだよ。
 そんな状況が許されるのは女同士かひいき目に見てショタッ気溢れる小僧くらいであり、
俺みたいな平凡オタク学生が入っちゃいけない領域だ。

 「んっ、んくっ・・・・・・」
 やたらと色っぽい声を聞きながら、先輩に薬を注ぎ入れる。
 「んんっ・・・・・・あふっ」
 全てを飲み干したのを確認し、小瓶を離した。
 どうでもいいが・・・・・・もっと普通に飲めませんかあなたは。血が頭から落ちそうで大変困ります。
 
 
 「あっ・・・・・・」
 少し困惑ぎみの先輩の声。視線が自分の足へと注がれる。
 どうやら効きはじめてきたみたいだな。
 ソックスを履いてるので俺からはまだ見えないが、おそらく指先が少しづつ、変化しているはずだ。
 
 ――肉から、石へと。
 






  
 「ねえ、樹君」
 「なんでしょう?」
 石化解除して、とはさすがに言わんだろう。初体験でもないし、そもそも契約なわけだし。
 「まだ時間があるのですから・・・・・・ほら」
 「ほ、らぁっ?!」

 あ、あなたは当たり前のように微笑を浮かべながらなんという事をっ!
 か、片手でスカートたくし上げ、もう片方の指で股の間の膨らみを指差すなんて行為が示すものは、
決してちょっとしたティータイム感覚で誘いかけるようなものではないのでありますよっ!

 つうか俺の方が初体験かよ・・・・・・
 無防備に晒されたレース入り純白の下着が眩しく・・・・・・もう十分に素晴らしい光景ですので、
しばらく現状維持を切望します隊長殿。

 (うっ・・・・・・)

 せ、先輩が俺を強く睨んでいる。なんてせっかちな人なんだ。
 ま、まずいこのままでは! ならば!
 
 「んっ」
 
 艶っぽい唇から漏れる、小さな声。
 いや誤解しないで欲しい。俺が触れたのは先輩の、その、下半身じゃない。

 「・・・・・・胸?」
 
 白のブラウスに白のボレロ。少なくとも2つの白に隠れた2つのふくらみ。
 「こちらを、いただかせてもらいます」
 そんな状態においてもなお、張り出すようにその大きさを主張する双丘。
 俺はボレロとブラウスの間から手を指し入れ、胸へと添えるというか軽く持ち上げていた。
 
 「・・・・・・こっちを?」
 ほのかな熱とともに伝わる柔らかさ。
 この状態もかなり危険、なんだがまだ耐えられる。
 いわば自衛策。
 純白のパンツの下に待ち受けるあちらのお相手は、きつすぎる。俺のキャパシティを振り切っちまう。
 (げっ・・・・・・)。
 おいおい、先輩は不服らしいよ。

 端正なお顔で睨まれるのはこちらもかなり辛いんだが、この際仕方がないでしょう?
 あなたはご自身がいかほどの魅力をお持ちなのか、そもそも男とは女性の前にいかに無力であるか、ぜひ一度再考すべきだ。
 
 
 
 
 なお、「だったら何もするな」とおっしゃる聖者達よ。
 「何もせず貧血が治まるまで待てばいいだろうが」とほざく愚者達よ。
 その時点で諸君等はアウトだ。
 
 忘れもしない3回目・・・・・・
 苦肉の策として無我の境地に徹した俺を、先輩は文字通り実力行使で押し倒し、下着をひっぺがし、
ビビリまくる俺に相反し存在を主張していたそれを・・・・・・口と舌とで弄ばれたてまつった。
 
 ――俺はアバタールにはなれない。
 
 絶頂の後、薄れゆく意識の中そう思ったよ。
 
 
 理性と野生を調律しつつ、先輩の要求を退け、かつ妥協案を切り出しつつ、事を成し続ける今この時。
 神にも悪魔にもなれぬこの儀式は、はっきりいって苦行と称してもいいんじゃなかろうか?
 全てが終わったとき、俺は妙な悟りを開けるんじゃないかって本気で思ってきている。
 
 
 
 
 「でしたら・・・・・・自分でやりますわぁ・・・・・・」
 不服の意を浴びせ続けていた先輩だったが、やがて視線を落とすと、そのままパンツに手を・・・・・・
 いやちょっと待って欲しい。
 
 「先輩、先に下着脱いだほうが」

 スカートは衣装だろうが、下着は自前なはずだ。汚すのはまずいだろう?
 すでに5回目となる儀式から身についたフォローだよ。
 
 だが俺の紳士的な提案に反し、当の先輩は下着を脱ごうとせず、俺にじと目を向けると、
腰を擦り付けてきた。
 脱ぎたくない、って意志表示、じゃあないな。目が態度が、明らかに命令を発している。
 あーそれはつまり、あれですか?
 
 
 「いいッス。俺が脱がせますから」
 コクンとうなづいた・・・・・・駄目だこの人。

 「ほらもっと腰近づけて。お尻上げて、そう・・・・・・」
 「はぁい・・・・・・これくらい?」
 はいはいOK。満点です。
 ただふくらはぎまで石になってる状況下ですので、その辺もうちょっと反応示してくれないと、
固めフェチとしては・・・・・・ちょっと拍子抜けでありまして。

 それはそうと、後輩に自分の下着脱がせる生徒会長ってどうよ? 関西ならここでツッコミ入るぞ。
 俺がいれるか? なんでやねん。
 ・・・・・・ここは関西じゃないんで、オチがつきやしねえ・・・・・・太ももに沿って、パンツを脱がすよ。
 
 
 布地が取り払われた下半身から、先輩の無垢な割れ目が露になった。

 (くっ・・・・・・)
 
 パンツの上からでも、相当なカルチャーショックだったってのに。
その下にある、ぷっくりとした肉に形作られた割れ目、なんてのを目の当たりにした日、には・・・・・・
畜生・・・・・・「綺麗だ」って、素直に思ってやがる自分がいるよ。

 俺の体はとうに上気し、下の獲物もやばい事になりつつあり、欲望が加速し、神秘の領域に触れたい願望がふつふつと――
 (いや、駄目だ! これは苦行、苦行苦行苦行苦行・・・・・・)
 耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び、頑張れ俺、負けるな俺。明日はきっと晴天に違いないさ。

 「・・・・・・本当に、いいんですの?」
 
 (こっ・・・・・・)
 この、淫乱ヴァンパイアもどき様はよぉ・・・・・・
 こんなタイミングで問いかけだと?
 なんです、そのさも不思議そうに小首をかしげたしぐさは?
 俺の苦悩なんざ知らぬ存ぜぬ関せずってか? くぅ、なんて悩ましげな・・・・・・

 「俺は、胸フェチなんですよ」
 苦しい言い訳だと承知している。だが取り込み中だ。どうか流してくれ。
 
 「・・・・・・」
 先輩の不服は未だ消えぬ様子だったが、やっと諦めたのかちょっとだけ前へと屈みこんだ。
 そして再び手を伸ばすと、俺にとっては神秘の領域へと指を添える。
 指が、走った。


 「はぁうぅ・・・・・・」


 先輩が、大きく身をのけぞった。
 同時に響く、切なげな喘ぎ声。
 

 「んんっ・・・・・・あっ・・・・・・」
 
 ゆるゆると指が動く。
 なでるように、回すように。
 快楽を引きずり出すように、指が沈んだ。
 
 「んくっ・・・・・・ふぅっ! う、ん・・・・・・」
 
 くちゅくちゅと卑猥な音が立ち始めた。
 淫靡な匂いが、俺へと届く。
 
 「あっ、あっ・・・・・・うっ・・・・・・は、あぁっ!!」

 大きく腰を身じろがせる。
 対して両足は緩慢で、ほとんど動きがない。
 そりゃそうだよな。すでに膝の上まで灰色の侵食は進んでるんだから。

 そんな状況下でなお、先輩は両足を広げ、自らの性器を愛撫し続けてるんだ。
 それはまるで、徐々に迫る石化というカウントダウンが、より性的興奮を助長しているかのようだった。
 
 
 して、俺はといえば・・・・・・
 揺れ動く割れ目。リズミカルに動く指。
 そして割れ目を伝い、床へと落ち、小さな池を成す愛液。
 そいつらをひたすらに凝視したたまま、動けないでいた。
 男とはかくも無力なのか。いや正直というべきか。
 
 
 いつもは清純誠実なお嬢様。だが今は、息荒く下半身を弄び、乱れるただの美少女。
 そんな状況下で馬鹿妄想にふけられるほど、俺は女性に手馴れてなど、おらず・・・・・・
 さりとて・・・・・・欲望に身を、任せるわけにも・・・・・・いかず。
 女性経験豊富な奴に聞きたい。こんなとき、男という生き物は何をすればいい?
 
 
 苦行→拷問に格上げ決定。


 何にせよ、絶妙なパランスで揺れ動く『契約』の行く末は、己の自制心にかかっているわけで、
こんな美味し過ぎる状況でなお耐え忍べる俺は、なんて忍耐力溢れる男なんだ。
 そうだ、仏門に入ろう。
 そしてこの経験によって開いた悟りによって俺はのし上がり、いつしか教祖となり世に名を残してやろうじゃないか。
 
 ・・・・・・考えてみれば、この忍耐力はエグゼリカ先輩限定でしか働かないんだった。さらば俺の未来絵図。
 
 
 「こら」
 へ?
 「ひひゃっ!」
 い、今のは先輩に首筋を舐められた俺の声だ。見苦しい姿、申し訳ない。
 
 「・・・・・・樹君、手が動いてませんわよ」
 「ふ、へ?」
 口を尖らせた先輩から、ご指摘を賜った。
 
 (そ・・・・・・)
 それは、誰の、せいだと、思って、いるんでしょうかね。
 
 魅惑的光景にダウンせぬよう、必死に欲望に耐え逃避しまくる、この俺の涙ぐましい脳内闘争を、
あなたには多少なりとも理解して欲しいんですお願いしますほんとに。
 
 だがこのまま手を止めていれば前々回の二の舞、か。
 「了解、です・・・・・・」
 素直にあなたのご意向に従いますよ、ええ。

to be continue


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