giveでtakeな吸血指導のお時間 その4

作:くーろん


 胸元へと意識を向ける。
 手を添えてるだけでも相当クるもんがあるんだが・・・・・・
 包み込む形のまま、やんわりと愛撫を始めた。

 「ん・・・・・・」
 
 少しだけ、先輩が反応する。そのまま指を動かし続ける。
 
 「んん、ふぅ・・・・・・」
 
 再び俺へと体重を預け、先輩は軽く身を擦りつけてくる。

 「樹くん」
 このまま愛撫を、と思った矢先、俺を呼ぶ声。
 反応すれば、顔をのけぞってのふくれっ顔が視界に入る。今度はなんです?
 
 「もっと強く動かして。物足りなくてムズムズしますわ・・・・・・」
 いや・・・・・・俺、一応契約者だよな? なんで要求されてんだろう?
 
 「それは・・・・・・ちょっと無理っス」
 「まあ・・・・・・生徒会長の命令を、あなたは聞けないというのですね?」
 こ、こんなとこで職権淫用を・・・・・・だいたい生徒会長にそんな権限ないだろうが。
 「生徒会長だろうが恐怖の大魔王だろうが、今は聞けません。これ以上、力が出ないんですよ」
 嘘じゃない。今の俺なら握力テストで2ケタを切れる自信がある。

 「あの程度の吸血で・・・・・・オタクという人種は、根性なしというのは本当でしたのね」
 あ、あの程度・・・・・・
 立つ事すら危ういほどの献血行為を「あの程度」で流してくれやがりますか、この人は。
 いやそれよりも、聞き捨てならないこと言ったな、今。
 
 「先輩にそんな俗な話をするご友人がいるとは驚きですね。その怪情報はどなたから?」
 「保険のフィティス先生ですわぁ。
『オタクという人種は奥手で根性なしで腰抜けなので、相手をするならこちらからアプローチしなければダ、メ、よ』と」

 保険教師の仕事は生徒達の不純異性交遊の抑制です。
 それを促進するような事をのたまう不良教師の戯言など信じなくていいんです。
 あなたのような上流階級の方は特に。
 

 それとオタクを馬鹿にすんな。
 人間界と魔界を繋ぐ『人魔線』で、酔っ払いから美人OLを助けた一オタクのラブストーリー『魔電車男』で、
オタクはAボーイって名にクラスチェンジしたんだぜ。ありがた迷惑な話だがな。
 だいたい外見的特徴の異なる魔族を、最初に温かく受け入れたのは秋葉原のオタク達であり、
あなた方魔族はオタクに対してもっと尊厳を持って――

 
 「樹君、樹君」
 「・・・・・・なんでしょうか?」
 ほんっとに俺の意向はぶった切ってくれますねあなたは。

 
 「ここ・・・・・・固まってしまいましたわ」
 「えっ?」
 う、マジだよ・・・・・・
 指差す先――下半身が、石化していた。
 足を大きく、M字でいいんだよな? に開かれた先輩の下半身は、
それはもうこっちが恥ずかしくなるほどに、何もかもをさらけ出していた。

 「いや・・・・・・いちいち指差さなくていいです」
 当然割れ目も同様であり、指によって開かれた、おそらくピンク色だったと記憶している秘所も灰色一色となり、
複雑な形を留めたまま、外気に姿を晒していた。

 「これでは、もう指が入りませんわぁ・・・・・・ほら」
 「だから・・・・・・いちいち指でつつかなくていいです」
 その複雑な秘所をカツカツと固い音を鳴らしながら指で・・・・・・いらねえんだよそんなリアル実況は。
 まずは大切な部分が石になったという事実を、驚くとか嘆くとか、ごく一般人らしい反応で表現してくれ。
 
 「もっと奥に指を入れた――んーっ、んーっ」
 「い・い・か・ら。あなたは黙っててください」
 実力行使その2。ああなんとでも言ってくれ。
 腰抜け・フェミニスト・へたれ? 上等だ、受けて立とうじゃねえか。
 
 あのな、これ以上の発言は、俺の身にまで危険が及ぶんだよ。
 酔いが冷めた後、気恥ずかしさを武器に鉄拳制裁を受ける俺の身代わりに、諸君等はなってくれるのか?。
 しかもすぐ我に返えるなり
 
 『あ・・・・・・わ、わたくしとしたことが気が動転してしまって・・・・・・大丈夫? 樹君』

 って、例の心配そうな目で俺を介抱するんだ。
 おかげで怒りすらぶつけられん・・・・・・生殺しってのはひどいとは思わないか?
 
 
 「・・・・・・」「ぐおっ!」
 強烈な衝撃。
 全身を駆け抜けるパルスに、おもわず先輩の口を塞いでた手を退けてしまった。
 せ、先輩・・・・・・車のブレーキじゃないんですからその握り方は反、則・・・・・・
 
 「・・・・・・上着をゆるめて」
 「はぁっ?!」
 俺の獲物を人質に、非難めいた目で何要求してんですかあなたはっ。
 「さきほど中途半端に揉まれたせいで、胸元がむず痒くて耐えられません。
わたくしの口を塞いだ罰です、ブラウスのボタン、あなたが外しなさい」
 「ど、どうして、俺――がぁっ!」
 な、なんて乱暴な犯人だ。もっと人質の人権を尊重してくれ。
 「わ、分かりました。なので後生ですからその手を・・・・・・」
 に、日本人たるもの人質の安全が第一だ。犯人の要求に従い・・・・・・くぅ、俺って情けねえ・・・・・・
 
 
 ボレロを外し、ブラウスのボタンへと手をかける。
 まだふらつくってのに・・・・・・緊張も入り混じった震える手で、1つ1つ、ボタンを外す。
 呼気と共に上下する胸の動きが、俺の心をも激しく揺さぶるが・・・・・・よ、よし、これで全部だ。

 「・・・・・・」先輩が体を揺すった。
 左右に揺れる胸元から、ブラウスが徐々にずれる。
 ああはいはい。はだけさせろって事ですよね。なんて酷な事を指示してくれる・・・・・・
 俺はブラウスに手をかけ、先輩の胸元を露にした。
 
 
 「うっ・・・・・・」
 むぁっと蒸気が立ち上り、つい、声を漏らしてしまった。
 実のところ、先輩の下着姿を見るのは今回が初めてってわけじゃないんだが、
それでもパンツと同じレース入りのブラと、それに包まれた形良い白肌の胸は特盛級に魅惑的であり――
 「――も」
 え? なんですか先輩?
 
 
 「ブラも」
 
 
 ・・・・・・・・・・・・
 
 
 ――拷問、再見(サイツェン)。
 
 
 「早くなさい」「あい」
 即答。もう既に鋼の心は融け落ちてるよ・・・・・・
 頑張れ俺、負けるな俺・・・・・・何度も自分に言い聞かせながら、俺は先輩のブラをたくし上げた。
 
 (う、ぐっ・・・・・・!)
 大きな乳房が、プルンと揺れた。
 それはプリンのように、いやもう少し固めか? 何にせよ柔らかく揺れ動く両胸は、
俺の記憶に一生焼きつくことだろう。

 乳房の先には、ツンと上向きに立ち上がった薄桃色の突起。
 共に揺れ動くそれを見て、欲情をかきたてられない奴は男ではないと俺は断言する。
 そして当然の事ながらこの俺は健全なる男であり、だからしてごく自然に息が荒くなり、
しかしてそれがまたブラックアウトへのカウントダウンを早め、そろそろエデンへと旅立てそうだ・・・・・・


 逃れるように、俺は先輩へと顔を向けた。
 同じく俺を見上げた先輩と、視線が重なる。
 その頬は赤みを強めていたが、恥ずかしさに視線を逸らすかと思いきや、じっと俺を見たまま、言った。
 
 「ほら次、手を置く」
 
 ・・・・・・・・・・・・は、い?
 
 なんだんだ、この数秒の間にスプリンターレベルで加速していく要求レベルはっ!
 誰か止めてくれ、って俺しかいねえのか。
 
 「ま、待ってください、俺はもうしばらく目で堪能を」「胸フェチ、なのでしょう?」
 
 墓穴を掘った。
 己の軽はずみな一言を、これほど呪った事はない。
 
 「・・・・・・ご意向に従います」
 ははは、もうなすがままさ。俺は素直に先輩の両胸に手を添えた。
 熱と汗によるものだろうか? しっとりとした触感が俺に伝わる。
 
 
 ――ブラってのは胸を支えているものなんだと、改めて実感した。
 重力に従い俺にのしかかる胸の重さが、上着の上から触れた先ほどとは破格に違う。
 
 
 ごく自然に、指が動いた。
 
 「・・・・・・まだ、力が入らないんですの?」
 先輩、ここは諌めるところです。
 「当たり前でしょうが」
 今は、そうだな、握力テストで2桁を突破したってところだろうか。

 「仕方ありませんわねぇ」
 俺の握力に不満だったのか、先輩はそっと自分の手を、
 
 
 「んっ・・・・・・」

  
 ――俺の手の上に添えた。
 
 
 「せせせ、先輩、何、を?」
 「不甲斐ない後輩君への、お・て・つ・だ・い、ですわぁ」
 イタズラっぽく微笑みながら、先輩が囁いた。み、耳がこそばゆい。い、いやそれどころじゃない!

 「そ、そのようなご足労願わなくとも」
 「生徒会長のわたくしが望んで行っているのです。何か文句がおありなのですか?」
 
 ありまくりだろうがっ。こ、この淫乱生徒会長様はよぉ・・・・・・
 生徒会権限なんざ全然関係ないでしょうが。分かってて言ってますよね?
 こんな状況下でなお会長風吹かすなんざ、ヴァレンシア家ってのはなんて策士の家系なんだ。

 「そ、そんなの全然関係――」「いいから力を抜きなさい」
 ひ弱な言い訳を、命令が一刀両断した。
 「自分で胸フェチ、と言ったのでしょう? ならばポリシーを貫きなさい」
 鋭い視線が、俺を射抜く。

 「ぐっ・・・・・・」
 墓穴じゃねえ、首根っこ鎖で繋がれちまった・・・・・・この時、そう俺は悟った。
 こんな、ろくに頭も働かせられない状況下で、俺にどう反論しろと?
 戸惑う俺を尻目に、俺の両手は先輩に鎖で引っ張られたがごとく、力が抜けた。
 
 
 「んんっ・・・・・・」
 頃合とばかりに、先輩の手が動いた。

 彼女の導きの下、柔らかな乳房を俺の手が揺り動かす。

 「はぁ・・・・・・う、んっ・・・・・・ふぅっ・・・・・・あぁ・・・・・・」
 至近距離で、喘ぎ声が上がる。

 ちらりと横顔を伺う。
 先輩は快楽にとろけた瞳で胸元を見つめ、小さく開いた唇から吐息を1つ、また1つと漏らしていた。
 呼気に合わせ、両手が動く。両手にあわせ、体が身じろぐ。
 持ち上げ、揺り動かし、大きく回し、指を食い込ませ、乳房の柔らかさを十二分に堪能するよう、
多彩に、リズミカルに指は動き回る。

  
 「・・・・・・どう、です?」
 「それは、もう・・・・・・す、ごく・・・・・・柔らかく・・・・・・」
 俺は・・・・・・半分以上意識が、朦朧としていた。

 先輩は実にゆっくりと、だがじんわりと奥底まで浸透するよう、濃厚な快楽を伝えてくる。
 至福としかいえない今この時を、俺は手放せるはずもなく・・・・・・
 ただこの柔らかな悦楽を、長く感じたいと意識を保ち続けるのみ。

  
 それができるのは、俺が何もしなくとも、先輩が全てを与えてくれるから。
 
 添えられた手から、ぬくもりを。
 
 手を受け止める胸から、しっとりとした質感がもたらすしなやかさを。
 
 唇から、甘く切なげな吐息と喘ぎ声を。
 
 
 もう、果ててもいいと思った。
 最後まで達せないのは残念ではあるが、これほどのひととき、俺にはもったいなさ過ぎるくらいだ。
 この、まま・・・・・・しず、かに・・・・・・
 
 
 (・・・・・・?)
 先輩の手が、離れた。
 
 「どう、したんです?」
 ほうけた声。だが意識は鮮明だ。
 あまりに心地よすぎたせいだろう。突如訪れた変化に、俺は敏感に反応していた。
 「石化が・・・・・・」
 「石、化――?!」
 そうだよ。俺はすぐに視線を落とした。

 かなり進行速度を遅く調合はしていたが、石化はすでに下半身を過ぎ、腹を包み、あと少しで胸元へと達しようとしていた。
 
 「樹、君・・・・・・」
 
 軽い吐息を交え、ゆっくりと、先輩が俺を見た。
 「できれば、手を・・・・・・」
 「え?」
 そういえば、俺の手は先輩の胸を掴んだままだった。
 
 「固まるのなら・・・・・・綺麗な形で」
 「え・・・・・・」
 
 ・・・・・・何を。
 懇願してんですか、あなたは。
 
 さっきみたいに命令すればいいんですよ。
 そんな弱々しいささやきで、すがるような瞳で。後輩に向ける目じゃないでしょうが。

 「それは、失礼」
 ま、断る理由なんかない。俺は素直に手を離した。
 指から解放された胸が小さく揺れ、ゆるかな曲線を描く形良い姿へと戻った。

 「ありがとう、樹君」
 優しく微笑む先輩。可愛いな、って素直に思った。
 
 そんなやり取りの間に、石化が胸元を襲う。
 呼吸に揺れる乳房が、石の枷に囚われる。
 曲線が無機質な灰色へと変わり、動きを失う。
 
 
 ――少し、いたずらしてみたくなった。
 
 
 石になった先輩の胸を、そっと撫でる。
 反応、なし。固まった乳首まで指を伝わせるが息一つ乱れる様子がない。
 はて?
 
 「感触は、ありませんわ」
 俺の疑問に、先輩が勝手に答えてくれた。
 「へぇ・・・・・・石になるって、どんな感じなんです?」
 あいにく自分自身で試した事はない。
 いたずらの延長だ。俺は質問を返す。
 「・・・・・・何も、ありません」
 低い声で、先輩が答える。
 「体の一部分が、徐々に感覚を失っていく・・・・・・
自分自身が、消えていくような喪失感、そんな感じでしょうか・・・・・・」
 淡々と答えるその瞳は、ぼんやりと天井を見つめていた。
 「なるほど・・・・・・」
 同じように淡々と答える。それ以上は聞かない。
 

 「戻して、くれますわよね?」
 自身の心境を、先輩が言葉で伝えてきた。
 「当たり前です」当然即答する。
 
 石化なんて今や既知事象。
 治癒だってたやすいが、こんな姿の先輩を部屋に放置して帰った日には性犯罪に該当しちまう。
 もはや生徒会室って肩書きすら怪しいこの部屋だが、さすがに犯罪現場にまで貶めたくはないぜ、俺は。

 「持ち帰ったりなど・・・・・・しませんわよね」
 「先輩、人間大の石の塊がどれほど重いか知ってますか?」
 「この前、そのような趣向もある、と言ってましたから・・・・・・」
 「ああ・・・・・・まあ、あるっちゃありますが・・・・・・安心してください。そんな無駄な重労働、俺はゴメンです」
 第一それやった日には誘拐罪です。俺は日の目を見れない人生なんて歩みたくはないんですよ。


 「・・・・・・・・・・・・いくじなし」
 「っ!」
 ――い、今の言葉は、なぜか心にぐさっときたぞ。

  
 「なんだか信用できませんわね。嘘ではないと、きちんと約束なさい」
 俺が今言った発言のどこに不安要素があると?
 第一どう約束しろってんですか。誓約書でもご用意しないといけませんか?
 「約束って――」
 「昔から、約束を誓い合う簡単な行為があるでしょう?」
 「ああ、そういう事ですか」
 指きりげんまん、ってか。なんだか子供っぽいな。
 「いいですよ。それで先輩が満足するなら」
 「・・・・・・では、約束の証として」
 俺は小指を絡めようと手を掲げて――


 「・・・・・・互いに、口づけを」

  
 ――なぜか手を引っ込めた。
 
 
 待て待て俺、なんでやねん。
 何素直に納得してる。まだ頭が朦朧としてるか? これには反論できるだろうが。

 「困りますね先輩、日本国にはそのような約束の行為は存在――」
 「わたくしの国には、ありますわぁ」
 「なっ――!」
 き、聞いたことないぞそんな話っ。

 「う、嘘はいけませんね。俺を騙そうったってそうは――」
 「本当ですわぁ。第一」
 そこまで言うと、先輩はイタズラっぽい微笑みを浮かべた。

 「例え嘘だとしても、『並行歴史』の平均点数39点のあなたが、それを証明する事ができるのかしら?」
 「ぐっ・・・・・・」
 ひ、人の学力のなさをこんな時に持ち出してくるとは。あなたという人はなんて狡猾な。
 「ふふっ・・・・・・」
 狼狽する俺に、彼女は吐息混じりに囁いた。

 
 「反論したいのなら、もっと、しっかり勉強なさい・・・・・・赤点ばかりの、後、輩、くん」

 
 ――全ての反論を絡め取るような、止めの一言だった。

  
 (く、そぅ・・・・・・)
 分かって、いるさ。
 どうあがいたって、俺なんざがこの先輩に勝てるわけがないってな。

 「謹んで、お受けいたします・・・・・・」
 「・・・・・・よろしい。素直が一番ですわよ、樹君」
 ついでに緩急織り交ぜて攻め立てる先輩に、俺はただ翻弄されるのみだってこともな。
 
 観念して、顔を傾けた。
 先輩が、俺へと首を伸ばす。
 片手を先輩の後頭部に添え、そっと引き寄せる。
 
 唇が近づく。
 薄桃色の、艶のある唇。
 わずかに漏れた吐息が、俺にそっとかかる。
 
 
 ――互いの唇が、重なった。
 
 
 「んっ・・・・・・」
 言っちゃあなんだが・・・・・・俺は初めてだ。
 だから感想なんて、そっけないことしか言えない。
 
 
 ――柔らけぇ
 
 
 唇ってのは内部と繋がってるって言うが・・・・・・心肺と繋がってる同士の接触は、
確かに鼓動へとガツンと跳ね返ってくる。

 「んん・・・・・・んっ・・・・・・」

 キスの間も、先輩は半開きの目で俺を見つめていた。
 けうたげで、せつなげな瞳。

 いつもの色は、清楚で、清浄なるクールな青。
 だが今は、情熱的で、不純極まりないヒートな赤
 誘い込むような赤に意識は取り込まれ、目を離すことができない。


 ――だから、だろう。
 先輩が舌を入れてきたときも。
 俺は、全く抵抗できなかった。

  
 「んぐぅっ!」
 粘着質な肉が、俺の口内を蹂躙した。
 
「ぴちゅ・・・・・・んんっ・・・・・・ちゅっ・・・・・・」
 水音が響く。
 
 味なんて分かりゃしない。
 熱の篭もった舌が、俺の歯を舌を舐め上げる感触を、受け止めるだけで精一杯だった。


 (まず、い・・・・・・だろう、これは・・・・・・)
 興奮にプツンと果ててしまえばずっと楽だった。
 だが俺を見つめる瞳の赤に、まるで導かれるかのように頭へと血が押し寄せ、意識をより鮮明にさせる。
 
 絡まりあう舌と舌が、俺の理性を引っ掻き回す。
 
 ――唯一無事な野生と本能が、俺の行動を使役する。
 
 「んんっ、ぴちゅ・・・・・・ちゅっ・・・・・・くちゅ・・・・・・」
 
 後頭部に当てた手が、先輩をより引き寄せる。
 
 受け止めるだけだった舌が、より激しく、先輩の舌を求め這いずり回る。
 
 
 (駄目、だ。これ、は・・・・・・)
 
 
 こんなに強く、激しく求めていたら。
 俺は、俺の行動は、契約の枷の範疇内に収まりきれなくなる。
 本心を、本性を先輩にぶつけてしまう。
 俺は、俺、は――
 
 
 「んっ――!」
 ふいに、舌が止まった。
 
 
 同時に訪れる奇妙な感触。
 突然降り注いだ違和感に、俺はとっさに唇を離した。
 
 
 
 ――石化が先輩の口を覆っていた。
 
 
 
 離れた口元から垣間見えたのは、固く、弾力を失った先輩の舌。
 2人の舌の間を伝うのは、俺の唾液。
 細い縄のような唾液が、互いが離れると共にぷっつりと切れた。
 
 石が、更にエグゼリカ先輩を侵食する。
 
 先輩は、最後までずっと俺を見つめていた。
 けうたげに、せつなげに。
 けれど今は少しだけ、不満げで、悲しげで。
 
 灰色に囚われた唇は、もう何も告げることは出来ない。
 複雑に感情入り混じった瞳を、光が消えるその瞬間まで、俺から離さぬまま。
 
 
 
 
 先輩は――扇情的な石像へと。
 身を、貶めた。

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