Solid Girls Battle Royale 第1話「金色のゲーム」

作:ハカイダー03


「う……ん……」
青森 哀は深い眠りからゆっくりと意識を取り戻すと、自分が体育館のようなところにいることに気づいた。
――どうして。
(そうだ。学校から帰る途中、急に気が遠くなって……)
まだ頭がぐらぐらする。そのとき、ふいに哀の肩に手が触れた。
振り返ると、高校で彼女と同じクラスの赤星 加奈が心配げに覗き込んでいた。
「大丈夫?」
「……加奈。ここは……?」
「わからない。体育館みたいなんだけど、うちの学校とは違うし……」

ようやく意識のはっきりしてきた哀は、辺りを見回してみた。
体育館内には30人ほどの少女たち――すぐに哀は彼女達が皆、自分と同じ2年4組の生徒だと気づいたが――がいた。
彼女たちはある者は学校のセーラー服、ある者は部活のユニフォームと、色々な格好をしており、
中にはスクール水着や巫女服、下着姿の者までいた。
みな、自分たちの置かれた状況に戸惑い、おびえている様子だった。

ふと、哀は自分の姿を見てみた。
違う学校のブレザー。哀は少し前に転校してきたばかりだったので、まだ皆と同じセーラー服では登校していなかったのだ。
人付き合いの苦手な哀はなかなか新しいクラスと打ち解けられず、友達と呼べるのは加奈ぐらいであった。
「……私たち、どうなちゃったのかな。……誘拐?」
加奈も不安そうにしている。それにしても、
――1クラス丸まる誘拐なんて。
ナンセンスである。何のメリットがあるのかわからない。

そのとき、ステージの方から女の声が聞こえてきた。
「私の学校にようこそ、高架学園2年4組の皆さん!」
その声にあわせるようにして、ステージの緞帳が上がっていく。
その中から現れたのは、3人のメイド姿の少女をはべらせ、ふりふりのドレスに身を包んだ20歳ぐらいの女性だった。
「お初にお目にかかりますわ。わたくし、この学校のオーナーの金剛 麗香と申しますわ。」
いきなりの登場に、あっけにとられたように女性を見つめる一同。
そんな周囲の反応にはおかまいなしに、麗香は話し続ける。
「今日ここに皆さんをお連れしたのはほかでもありません。皆さん同士で『固め合い』をやっていただくためですわ。」

「……固め合い?」
何のことかさっぱりわからない。
哀と加奈は顔を見合わせた。他のクラスメイト達も同じようだ。
「こう見えてもわたくしは錬金術の研究をしておりましたの。そして見つけたのですわ……人間を生きたまま固体に変える方法を。
 石、宝石、蝋人形、凍結………今やわたくしに不可能な固めは存在しなくなったのですわ。
 でもただ人を固めるのでは面白くありません。そこで、全国の女子高から無作為に選んだ1クラスの女の子達を集め、
 錬金術を応用した武器でお互いに固めあってもらうことにしまいしたの。」

――な。
(何の話よ。)
理解できない。
生きたまま人を固体にする?そんなことが可能だなんて到底思えない。
いや、それ以前に、そんなことをして何の得になるのかさっぱり解らない。
そんな哀の心中を知ってか知らいでか、麗香はこう続けた
「この戦いに勝ち残った一人だけ、この学校から出られるようになっておりますわ。
そして、固まった子はわたくしのコレクションにさせていただこうと思っておりますの。
固まった女の子ほど美しいものはございませんわ……死力を振り絞って戦った少女たちのものなら、なおさらね。」
うっとりとした表情で語る麗香の表情にはなんともいえぬ不気味さが漂っている。
そのとき、哀の後方から怒鳴り声がした。
「ふざけないでよ!頭おかしいんじゃないの!?」

灰ヶ浦 舞は怒っていた。
体操服にブルマという恥ずかしい格好でこんなところに勝手に連れてきた上、
勝手な話をペラペラ続ける目の前の女に心底怒っていた。
彼女の罵声に、麗香はちょっと困った、憐れむような顔をしてみせた。
「あらあら、どうやらわたくしの趣旨がご理解いただけてないようですわね。」
「ふざけないで!錬金術だか何だか知らないけど、人を固体になんかできるわけないじゃない。
 大体なんであたし達がそんなことしなきゃいけないのよ!あなたにそんな権利があるって言うの!?」
舞の抗議に、そうだそうだ、と周りの生徒たちも騒ぎ出した。

「仕方ありませんわね、それじゃあ少し実践してさし上げましょうか。」
麗香はそういうと、メイドの一人に目配せをした。
メイドはおもむろにスカートをたくし上げると、脚に巻きつけられていたホルスターから拳銃を抜き放つと、舞に向けた。
「――え!?」
あまりに急だったので舞はメイドの行動に反応できなかった。と、2発の弾丸が拳銃から放たれ、舞の右腿と左膝に命中した。
きゃああ、といっせいに辺りから悲鳴が起きる。
拳銃で撃たれたというのに、舞に痛みはない。だが……
「あ……足が………!?」
銃弾の当たった位置から、舞の脚の皮膚がじわじわと灰色に変色してきていた。
「な、何よこれぇぇっ!?」
「これが先ほどお話した武器の一つ、石化銃ですわ。今から貴女は石になるのですわよ。」
石化はゆっくりと、舞の陸上で鍛えられた脚を侵食していく。
脛に到達した石化は、舞の履いていたソックスとスニーカーを砂のように分解する。
数分のうちに、彼女の両足は裸足が露わになり、ほとんどが石像のそれに変ってしまっていた。
「い………いやっ!!やめてぇ!!石になんかなりたくない!!」
さっきはまるで信用していなかったが、こうして自分の体が石になっていくのを見せ付けられた舞は恐怖におののいていた。
舞は何とかして足を自由にしようとしたが、石化した部分はぴくりとも動かすことが出来ない。

周囲の生徒たちはこの異様な光景を見るので精一杯で、身じろぎ一つ出来なかった。
このまま侵食を続けていくかに見えた石化だったが、両足が完全に石化した辺りでふいに動きを止めた。
「あ……れ……?」
舞は既に泣きじゃくっている。
「折角ですから、ルールの説明もいたしますわ。銃のように強力な武器は、命中した時の『侵食力』が小さく設定してありますの。
 一方、剣やナイフのようなハンデの大きい武器は……」
麗香がまた、別のメイドに目配せをする。
すると、メイドは黄金色に輝くナイフを抜くと、舞の方へと走り寄ってきた。
「な、何!?やだ、やめてぇぇー!!」
次に自分が何をされるのかとっさに悟った舞は必死に懇願したが、次の瞬間には舞の胸に深々と金のナイフが突き立てられた。

先ほどのような悲鳴は起こらず、体育館内は静まり返っていた。
メイドがナイフを抜くと、舞の体には傷一つついておらず、服すら切れていなかった。
その代わりに、体操服の胸に金色の染みができ、舐めるようにして体を覆い始めていた。
「あ……あぁ……」
柔らかかった胸はすっかり硬い金に変質し、そのまま下腹部へと広がっていく。
――嫌だ。
肩から肘、肘から手首へと次第に自由を奪われ、黄金と化す腕。
――嫌だ嫌だ。
黄金化は進行し、ブルマが飲み込まれた。今頃は彼女の大事なところも金に変わってしまっているのだろう。
そのまま、先ほど石にされた部分までもが金に覆われていった。
――嫌だ嫌だ嫌だ。
一方、首を覆いつくした金はとうとう彼女の顔にまで到達してきた。左の頬から髪にかけてに広がり、左目が飲み込まれる。
「嫌だ嫌だ嫌だぁぁーっ!!助けてぇぇええ!!」
舞の必死の叫びも空しく、口に進入してきた金によって舞の口は叫んだ格好のまま固まってしまった。
(こ、声が出せない……ああ、私の鼻が………右目が……金になっていく………)
こうして舞は、下はつま先まで、上は頭頂まですっかり黄金になった少女の像にされてしまった。
(そんな……わ、私、一生このままだっていうの?どうして、どうしてこんな目に……どうして……!!)
舞の悲痛な叫びは、最早誰の耳にも届くことはなかった。

――――18番 灰ヶ浦 舞、黄金化。残り生徒、29人――

哀は、舞が黄金像に変えられていくのを、まるで映画でも観ているような気持ちで見ていた。
舞が完全に動きを止めた時、
――綺麗、だな。
そんな考えが一瞬脳裏をよぎったが、哀はすぐに頭を振ってその考えを打ち消した。
麗香がすっかり悦に入った様子で言う。
「すばらしい黄金像ですわ。さぁ、ゲームを始めましょう。生身でこの学校を出られるのはただ一人……。」

と、体育館の床から、白い煙が噴き出してきた。
「うっ!!」
この煙を吸ったとたん、哀は体の自由が奪われていくのを感じた。意識が霞む。
「貴女たちは私の学校の29箇所にばらばらに配置されます。目が覚めるのはきっかり2時間後。
 武器は、お眠りの間にこちらでランダムに選ばせていただきますわ。それでは、健闘をお祈りします………」
麗香の声が次第に遠のいていった。

第2話に続く

2年4組 出席簿
 1/藍野 響子  /あいの きょうこ
 2/青森 哀   /あおもり あい    
 3/茜家 久美  /あかねや ひさみ  
 4/赤星 加奈  /あかぼし かな   
 5/浅葱 つばめ /あさぎ つばめ   
 6/桔梗院 澄歌 /ききょういん すみか 
 7/朽葉 知佳  /くちば ちか     
 8/クリスティーン・アンバー      
 9/紅 空    /くれない そら    
10/黒田 美由紀 /くろだ みゆき    
11/群青寺 鈴  /ぐんじょうじ すず 
12/黄原 彩   /こうばら あや   
13/紫苑 麻奈佳 /しおん まなか   
14/白澤 唯   /しらさわ ゆい   
15/銀 亜理紗  /しろがね ありさ  
16/蘇芳 夕夜  /すおう ゆうや   
17/橙院 みかん /とういん みかん  
18/灰ヶ浦 舞  /はいがうら まい    ――――黄金化 
19/縹 一枝   /はなだ かずえ   
20/緋上 陽子  /ひがみ ようこ    
21/檜皮 樹   /ひわだ いつき     
22/藤原 安芸  /ふじわら あき    
23/水樹 雪乃  /みずき ゆきの    
24/緑川 潤子  /みどりかわ じゅんこ 
25/紫 ゆかり  /むらさき ゆかり   
26/萌葱 美里  /もえぎ みさと    
27/桃園 朋子  /ももぞの ともこ   
28/山吹 京   /やまぶき みやこ   
29/檸檬 涼夏  /れもん すずか    
30/緑青 瑠美子 /ろくしょう るみこ  


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