Solid Girls Battle Royale 第2話「青の剣」

作:ハカイダー03


「はっ!?」
哀が目を覚ますと、彼女は教室の机に座らされていた。
目の前には細長い金属製のケースがが置かれている。
――これは。
おそらく麗香が言っていた「武器」なのだろう。哀はそのケースの蓋を開け、中を覗いてみた。
そこには鞘に納まった日本刀が一本と、『石化刀』と書かれた紙が入っている。
「石化……刀。」
哀は自分が意識を失う直前に見た光景を思い出す。

胸に深々と突き刺されたナイフ。刺された身体には傷一つ残らない。
そして――
『嫌だ嫌だ嫌だぁぁーっ!!助けてぇぇええ!!』
悲痛な叫び声を上げながら黄金へと変わっていった級友。

哀は石化刀を手に取ると、じっと見つめた。
おそらくこの刀にも、あのナイフと同様の能力があるのだろう。
と、哀の脳裏に、黄金像となった舞の姿がフラッシュバックする。
哀はごくり、と唾を飲み込んだ。心なしか頬は上気し、心臓はどきどきと高鳴っている。
――あれを、私の手で作りだせる。
そこに至り、哀は先ほどと同じように頭を振ってその考えを押しのけた。
――どうして。
こんなことを考えてしまうのだろう。
「どうかしてる、私。」
哀は独り、呟いた。


「ひ――――っくしゅん!!」
桃園 朋子は勢いのいいくしゃみで目を覚ました。
「……さぶっ」
それもそのはずである。彼女はブラにショーツという下着だけの姿でリノリウムの床に転がされていたからだ。
朋子は半身を起こすと、キョロキョロと辺りを見回した。
どうやら理科室のようだ。
「よっこいしょ。」
大儀そうにいったん腰を上げた朋子は、ちょこん、と床に座りなおした。
「……はぁ。………何でこんなことになっちゃったんだろ……。」
(学校から帰って、あたしの部屋で着替えしてたら突然気が遠くなって……それから……)
黄金に染まっていく舞。
未だに朋子には、ついさっき見た出来事が現実だと思えなかった。
しかし、夢として片付けるにはあまりにも生々しい記憶。第一それでは、自分がこんな格好で、こんな場所にいる説明がつかない。
「ひっくしゅん!!」
と、朋子は2発目のくしゃみをした。
――せめて、服着るまで待ってくれれば良かったのに。
朋子はボンヤリとそんなことを考えていた。

「――ん?」
ふと、朋子は自分の傍らに、金属でできたケースが転がっているのに気がついた。
「これって……ひょっとして私の武器?」
さっきの麗香という女性が言っていた錬金術を応用した武器に違いない。
朋子の脳裏に、輝く剣を振りかざし、華麗に戦う自分のヴィジョンが浮かんだ。
――なんか、いいかも……☆
危険と背中合わせの状況もケロッと忘れ、不謹慎にもわくわくしながら朋子はケースの蓋を開けた。

中に入っていたのは――――――紙製のハリセンと、墨で『ハリセン』とこれ見よがしに書かれた紙切れだった。
「………は。」
相当拍子抜けした朋子は、たっぷり3秒ほど放心した後、我に返った。
――ううん、これがただのハリセンなわけがないよね。
きっとこれにも、先ほどの拳銃やナイフのような特殊な力が宿っているに違いない。
そう自分を納得させた朋子は、ハリセンを引っつかむと理科室の扉に向かって歩き出した。
「まずは近くの状況を確認しなきゃね……っと!」

ガラリ。
朋子が引き戸に手をかけるより一瞬早く、扉は勝手に開いた。
開いた戸の反対側には、2の4の学級委員長、黒田 美由紀がぽかんと突っ立っていた。
「え………?」
「あ………」
二人とも状況が飲み込めず、お互いを見つめたまま動けなくなってしまった。

先に動いたのは朋子だった。
「わ………わぁぁあああー!!」
朋子は手にしていたハリセンを、美由紀の額をめがけ振り下ろした。
ぱしっ。
気の抜けた音を立てて、ハリセンは美由紀にクリーンヒットした。
「え…………あ?」
暫く目を白黒していた美由紀だったが、ようやく状況を理解したと見えて、
「い、いやああああああぁぁぁぁぁぁー!!!」
悲鳴を上げてハリセンを振り払うと、額を押さえてその場にへたり込んでしまった。
そのとき彼女が持っていた紙の束がばさり、と床に落ちた。
「いやぁ、石になっちゃう、石になっちゃうぅぅぅーッ!!」

普段は冷静な委員長が半狂乱になっている様子を見て、朋子はようやく事の重大さを理解しはじめた。
これは戦いなのだ。一瞬のミスが命取りとなる。
いつ自分が哀れな彫像に変えられてしまうか分からないし、
自由のためには友達を自らの手で悲痛な姿へと変えてしまわねばならないのだ。
「み……美由紀ちゃん………。」
――私が。
大事な友達の美由紀を。
いつもドジばかりの自分に色々世話を焼いてくれた美由紀を。
――舞と同じ目に。
かわいそうな舞。二度と打ち込んでいた陸上も、話すことも、笑うことさえも出来なくなってしまった舞。
――あわせてしまう。
泣き叫ぶ姿のまま石になってしまった美由紀の姿が、朋子の脳裏に浮かび上がった。
「あ……ああああああ――!!」
自分の心にのしかかってきた重圧に耐えかねて、朋子はその場に泣き崩れてしまった。

そして。
5分が経った。
美由紀の額には何の変化も起こらない。
「……なんで?」
朋子はようやく落ち着きを取り戻した美由紀に尋ねた。
「……わ、私に聞かれたって知らないわよっ! ハズレなんじゃないの、その武器!?」
美由紀はムキになって返す。まだ声が上ずっている。
「そ、そんなぁ……」
――まさか。
朋子はさっきの金属ケースの中に入っていた紙をひっくり返してみた。
それにはこう書かれていた。
『はずれ。この武器はただのハリセンにつき、固化能力はない。』
「うっそぉ〜〜ん!?」
廊下に、朋子のいささか間抜けな叫び声が響いた。



「怖い……怖いよ………帰りたいよぉ……。」
檜皮 樹は教室の隅に座り込んで泣きじゃくっていた。
床には、蓋の開いた金属ケースと『黄金化薙刀』と書かれた紙、そして金色の刃を持った薙刀が転がっている。

樹は、舞とは無二の親友だった。
園芸部で引っ込み思案な樹と陸上部で活発な舞。二人性格は180度違ったが、不思議と二人は気があった。
――それなのに。
舞は物言わぬ金属の塊にされてしまった。樹の、目の前で。
親友を失った寂しさ、そして、自分も彼女と同じ道を辿るのではないかという恐怖。
「やだよ……あんなのやだよ……誰か、助けてよ……舞ぃ………うう……。」
ぽろぽろと涙が零れ落ちた。

ガラリ。
樹の居た教室の扉が開いた。
ぎょっとして顔を見上げる樹。そこには、日本刀を手に持った哀の姿があった。
「あ、青森さん……。」
樹は、青森哀という人間がどうしても好きになれなかった。
いつもどこかすましたような表情を崩さず、何を考えているのか分からない。
休み時間にも窓辺に腰掛けて外を見ているばかり。そんな哀を、樹は不気味に思っていた。
その哀が今、自分の目の前にいる。

哀は音もなく日本刀を引き抜くと、立とうともしない樹に向かって言った。
「――武器は?」
使わないのか、ということらしい。
その言葉を聞いて、樹はますますこの少女が嫌いになった。
――戦う気なんだ。
――あんな奴の、舞を金にしたひどい奴の言うことを聞いて。
――自分のクラスメートを舞と同じ目にあわせるつもりなんだ。
ふつふつと、樹の心に怒りが沸き立ってきた。
(なんて酷い人なんだろう。どうして舞があんな姿にされたのに、こんな人が元気なの?
 許せない。舞と、舞と同じ気持ちを味あわせてあげる!!)

樹は足元に転がっていた薙刀を乱暴につかみ上げると、その切っ先を哀へと向けた。
そして、次の瞬間、樹は哀に斬りかかっていた。
「わああああぁぁ――!!」
だが、怒りに任せた樹の動きはあまりに大振り過ぎた。
哀は難なくその一撃を受け止めると、
「ふっ!!」
刃を翻し、樹の体を横一文字に切り裂いた。
いや、切り裂いたというのは正確ではない。なぜなら、哀の石化刀は何の抵抗もなく樹の体をすり抜けてしまったからだ。

「あ……ぐっ!?」
痛みはなかった。しかし、「斬られた」というショックのせいで樹の頭の中は真っ白になっていた。
カラン、と乾いた音を立てて薙刀が樹の手から落ちる。
既に、哀の斬撃を受けた胸と両腕の肘から上の辺りでは、セーラー服が灰色に変色し始めていた。
「あぁ………い、石に……私が石になっていく……。」
樹の心はすっかり恐怖心に塗りつぶされていた。
と、思いもしなかった事態が起こった。石となった樹の服はぱらぱらと崩れ落ちて、樹の石化した肌がむき出しになったのだ。
樹が驚く間も無く、ポロリ、とひときわ大きな服の破片が落ち、彼女の豊満な胸の膨らみが露わになった。
「ひゃっ!?」
慌てて胸を隠そうとした樹だが、そのころには肘や肩に石化が及んでおり、自由に腕を動かすことができなくなっていた。
あっという間に樹の上半身は裸の石像に変わってしまっていた。
そして、石化は服を剥がしながら下へと向かっていく。
「い、いやあっ!!そこはダメぇっ!!」
今となっては恐怖心よりも羞恥心の方が樹の心を支配していた。顔は恥ずかしさのためか、真っ赤に染まっている。
彼女の石化した腹部が露わになってゆき、とうとうスカートまでもが崩壊を始めた。
「やだぁぁぁ――!!」

哀は樹が悶えながら石になっていく様子を、じっと見つめていた。正しく言うならば、見惚れていた。
それほどまでに、石化していく樹は美しかったのだ。
たわわに実った乳房。華奢な腕。艶かしい曲線を描く腹部。そして、たった今姿を現した、彼女自身。
哀は瞬き一つせずにそれらを注視していた。

一方、樹の体はとうとう腿まで灰色になってきていた。
「くぅぅぅぅ………」
胸や秘所が剥き出しにされた挙句、それを他人に見られているというあまりの恥ずかしさに、樹は喘ぎ声を漏らすので精一杯だった。
大粒の熱い涙がとめどなくあふれ出てくる。
(恥ずかしい……恥ずかしい……こんな姿、見られたくないよぉ………)
膝が、脛が、足首が動かなくなっていく。
「んっく、はぁ、はぁ、はぁ………」
首から上を残して完全に石化した樹。そして、とうとう硬化が彼女の首を襲い始めた。
「あぐ……うぐぅぅ……」
咽喉が固まって声が出せなくなっていく。苦しそうに喘ぐ樹の口が、灰色の物質に変わっていく。
(やだよ……舞ぃ、助けてよ………舞……舞……舞ぃぃぃーっ!!)
心の中で、絶対に来ることのない助けを叫びながら、樹は完全な石像となった。
頬を伝う大粒の涙までもがそのまま固形化し、石の粒になっていた。

――――21番 檜皮 樹、石化。残り生徒、28人――

哀は、つい数分前まで生き生きと動く少女だったこの石像にうっとりと見入っていた。
そのとき、ふと哀の心にある衝動が起こった。
――触りたい。
果たして哀はその通りにした。
石化した樹に歩み寄り、つつつ、と指を滑らかなお腹のラインに這わせる。
(ひゃうんっ!?やだやだやだ、何するのよぅっ!!)
樹が心で悲鳴を上げるが、哀の耳には届かない。
そのまま右手の指は彼女の腿へ伸び、そして左手は美しい乳房を撫で回す。
「はぁ……はぁ……」
哀の額にはうっすらと汗がにじみ、頬は上気してピンク色。呼吸は乱れている。
そしてプリーツスカートの下のショーツに、うっすらと染みができてきていることには、彼女さえもが気づかなかった。
(やだぁ!!やめてよぉ、こんなの恥ずかしいよぉぉー!!)
樹の悲痛な叫びを聞くものは、誰もいなかった。

第3話に続く

2年4組 出席簿
 1/藍野 響子  /あいの きょうこ
 2/青森 哀   /あおもり あい    
 3/茜家 久美  /あかねや ひさみ  
 4/赤星 加奈  /あかぼし かな   
 5/浅葱 つばめ /あさぎ つばめ   
 6/桔梗院 澄歌 /ききょういん すみか 
 7/朽葉 知佳  /くちば ちか     
 8/クリスティーン・アンバー      
 9/紅 空    /くれない そら    
10/黒田 美由紀 /くろだ みゆき    
11/群青寺 鈴  /ぐんじょうじ すず 
12/黄原 彩   /こうばら あや   
13/紫苑 麻奈佳 /しおん まなか   
14/白澤 唯   /しらさわ ゆい   
15/銀 亜理紗  /しろがね ありさ  
16/蘇芳 夕夜  /すおう ゆうや   
17/橙院 みかん /とういん みかん  
18/灰ヶ浦 舞  /はいがうら まい    ――――黄金化 
19/縹 一枝   /はなだ かずえ   
20/緋上 陽子  /ひがみ ようこ    
21/檜皮 樹   /ひわだ いつき     ――――石化
22/藤原 安芸  /ふじわら あき    
23/水樹 雪乃  /みずき ゆきの    
24/緑川 潤子  /みどりかわ じゅんこ 
25/紫 ゆかり  /むらさき ゆかり   
26/萌葱 美里  /もえぎ みさと    
27/桃園 朋子  /ももぞの ともこ   
28/山吹 京   /やまぶき みやこ   
29/檸檬 涼夏  /れもん すずか    
30/緑青 瑠美子 /ろくしょう るみこ  


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