強く優しき勇乙女の像 第6話

作:HAGE



…それから悪党三人は滞りなく、それぞれの人質を連れて合流地点である村の入口付近に揃った。

「…よし。 お前ら、上手くやったようだな。」

「へっへっへ…俺はこのガキだぁ。」

「エディー! 仕事の後でこのアマ、ヤり殺しても良いよな!?」

カタリーナから金的蹴りを喰らったゲインが、憤懣遣る方ない態度でエディーに許可を求める。

「止めとけ。 余計に面倒なことになっちまうぞ。」

「エディー!! 俺ぁこのアマに大事なムスコを蹴られちまったんだぞ!!」

「そんなことで一々ブチ切れてんじゃねえ!
 それに、女なら他で我慢しろ! 今はそれどころじゃねえんだ。」

「………チッ! やってられねえ!!」

人質にされた三人は黙ったまま、そんな男達のやり取りを怯えた表情で見続ける。
取りあえずカタリーナの貞操の危機は去った様ではあるが、それでも人質にされている以上、危機的状況に変わりは無い。


「…よし。 そろそろ始めるぜ。」


準備が出来たところで、いよいよ目的のものを手にすべく、エディーは村中に響く大声を上げた。



「この村に住む奴らに告ぐ!!!

 こいつらの命は俺達が預かっている!!!

 こいつらを殺されたくなかったら、全員大人しく出てこい!!!!」



突然響き渡る男の大声に、村の彼方此方にいた子供達は皆、顔を向ける。


「…え? あれ、誰なの…?」 「何だ!? 今の声!?」 「変な男の人が三人いるぞ!」

「あ、あれは! カタリーナ姉ちゃん!!」 「あ! アニーちゃんに、ルイ君も!!」

「お…お前たち、悪いヤツだな!
 カタリーナ姉ちゃんを、アニーを、ルイを放せ!!」



「うるせぇぇぇぇぇぇ―――-――――――――――!!!!!

 黙れぇぇぇぇぇぇ―――-―――――――――――――――!!!!!」


ちらほらと姿を現し、次々と好き勝手に言う子供達に、先程から気が立っていたゲインが怒鳴り散らした。

「今の状況がまだ分からねえのか、馬鹿ガキ共が!!!
 ぐちゃぐちゃ勝手な事をくっちゃべてんじゃねえ!!!
 俺らがてめえらに指図する立場だってことを、とっとと理解しやがれぇ!!!」

「!!! うあああああ!!!!」

「カ…カタリーナ姉ちゃん!!」

拘束していたカタリーナの顔をナイフで切り付け、ゲインは更に子供達を恫喝する。
右眉の上から左頬にかけて、一筋の赤い傷が走る。
フンババの時とは違った、今までには経験し得なかった事態に、とうとう子供達は萎縮してしまった。

「…その辺で止めときな、ゲイン。
 …こういう事だ、おめえ等。 俺達はこの村の金と食料が欲しいんだ。
 大事なお姉さんと友達をこれ以上酷い目に遭わせて欲しくなけりゃ、大人しく用意しな。
 村中の金と食料全てを用意してくるまで、こいつらは解放されねえと思え。
 あと、妙な真似はするなよ? そんなことすりゃ、こいつらはもっと酷い目に遭うことになるからな。」

「…うう………。 わ……分かったよ……。」

「へっへっへ……最初からそうやって大人しく従ってりゃ良いんだよぉ。」

悪党達の恫喝に屈した子供達は、言われた通りに要求された物を揃えようと考えた。
今までの貯えを全て持って行かれるのは悔しいが…これ以上、大切な人を失いたくない―――

「それじゃあ……そうだな。
 おめえと…おめえと…おめえの三人だ。 なるべく早めに持って来い。
 少しでもケチったり、村の外に出て誰かに助けを求めたりしてみろ…容赦なく、こいつらを殺すぞ。」

「うう…ひっく……」 「わ……分かったよぉ……」 「ちゃんと言うこと聞くから、ひどいことしないでぇ……」

「行けよ。 …さっさと行けっつってんだろうがぁ!!」

怒りが収まらないゲインに囃し立てられ、指名された三人の子供が怖ず怖ずと貯蓄のある家へと行きかけた…その時。



「てんめえらぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!!


 カタリーナ達を放せぇぇぇぇぇぇ――――――――――――!!!」



突然、ディーンが村の外から現れるや否や、悪党達に喚き放った。
生活資金を賄う為の仕事から帰ってくると、見知らぬ男達がカタリーナ達を拘束し、他の子供達を脅迫している―――
冷静に考えれば多少時間を掛けてでも街の方へ引き返し、助けを求めた方がずっと良かったのだろうが、最愛の人まで人質に取られている姿を見て、
ディーンは男として黙ってはいられなくなったのだ。

「うう……ディーン………。」 「ああ!! ディーン兄ちゃん!!」

「おお?
 何だ、てめぇ。 この村の野郎かぁ?」

「うるせえ!!! さっさとカタリーナ達を放せって言ってんだ!!!」

「…ほう。 中々威勢の良いニイちゃんじゃねえか。
 だが、今の状況が分かってねえみたいだな。」

だが、人質という切り札を持っている悪党達は、そんなディーンの怒声にすら余裕であった。

「おい小僧ォ!! カタリーナっていうのはこのアマのことだな!?
 …ってことは、このアマはてめえのコレかぁ?(小指を立てて見せる)
 おい!」

「何だよてめえ……だったら何だって………!!!?


 ……おい、てめえ……カタリーナを……傷付けやがったのか!!?」

「…あぁ!? これかぁ!?
 こりゃあ、ガキ共が大人しくしねえから、こうなっちまったんだよ!!
 てめえもさっさと大人しくしねえと、てめえのアマの顔はもっと傷が付くぞ!!
 分かったか、コラァ!!!」


「………殺す……………ブッ殺す!!!!」

最早、全身中の血が頭に上がったディーンは、ゲイン目掛けて駆けていった。
人間、本当に大切なものを傷つけられた時、他のことなど一瞬にして頭から失せてしまう。
このゲス野郎は、絶対にぶっ殺して―――


「正義のヒーロー気取ってんじゃねえぞぉ、クソガキよぉ!」

「!!!?

 おぐぅぅぅえぇぇぇぇぇ!!!」


ゲインの下卑た面に渾身の拳が届こうとした時、横から腹を強く蹴り込まれてしまった。
三人の中で一番の怪力持ちのアンガスに、文字通り横槍を入れられてしまったのだ。

「ぐ…!!
 げほっ!! げほっ!! げほっ!!!」

「おいおい、さっきの威勢はハッタリかぁ?
 やっぱ見た目通りのボウヤだなぁ、ギヒヒヒヒ!」

「ああ…ディーン……!」 「ディーン兄ちゃん……!!」

アニーが少女であるとはいえ、人一人分に換算してもいい彼女を片腕だけで拘束したまま、ディーンを難なく蹴り飛ばす大男のアンガスに
皆は改めて戦慄する。腹を押さえ、嘔吐するディーンの姿があまりにも痛々しかった。

「女一人も助けられねえんだな、おめぇ?
 不様だぜ、ギャハハハハ!」

「ハッハー!! つくづく情けねえな、オイ!!
 こんな坊やのどこが良いっていうんだ、このアマはよ!!」

「…おい、そのニイちゃんも早えとこ黙らせな。
 あんまり時間を長引かせたくねえ。」


「げほっ………く……………くっそぉぉぉぉぉ……!!!」

「ディーン……私のことは良いから………もう………!」

「うう………もう…………いやだよぉ……!」

痛みに耐えながら立ち向かっては倒され、その度に立ち上がって再び向かってはまた倒されてしまう…
そんな、ディーンの痛ましくも悲壮な姿に、子供達は嗚咽する。


『もう……こんなの………


 こんなのはもう………嫌だよ……………!』


最早成す術がなくなった子供達は皆…一人一人の想いが共通のものへとなっていく。



『………助けて………!


 誰か……………




 ……………僕たち(私たち)を………助けて……………!!!』



そんな、一つとなった子供達の強い想いが、頂点に達した………その時!


「まだかかって来るのかぁ? おめえ、死にて……えぇ!!?」

「ざまあねえぜ!! おいアンガス!! その坊や、そろそろ殺し……あぁん!!?」

「おい…いい加減ガキ共に、金と食料を持ってこさ………な…!!?」

「………げふっ……ま……だ…だ…………………………んん…!?」

「お願い…ディーン……これ以上は………………ああ…!!?」

「誰か……誰か…………助け……………ああ!!

 ……あれは………!!」


『キィィィィィィィィィィン!!!』


突如、妙な音が周囲に響き渡ると共に、子供達が住んでいる家の中から、勢いよく何かが飛び出してきた。


「………な……何だ…ありゃあ……!!?」


「あ………あれは……………!!」


「……ああ………神様……!
 これは………夢なの………!?」



「………あ…ああ………!

 ……………ティ………ティ……………


 ……………ティナ……ママ………!!!」



空中にしばらく留まった後、その場にいる全員の前に静かに降り立ったそれは…

……石化した身でありながら、嘗ての、遜色のない動きを見せる、ティナであった…。

<第6話・終>

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