伝説の用心棒 第9話 「不吉な予感」

作:愚印


 パチッ!パチパチ!
「キャッ!!」
 木の爆ぜる音に少女は肩を竦ませる。辺りには煙と熱気が立ち込めていた。
「アリサ、あなたはパパとママの愛の結晶。」
「アリサ、お前だけでも生きろ。俺たちの分まで生きてくれ。」
 炎に包まれた部屋の中で、3人の親子が身を寄せ合っていた。正面の扉からは、甲冑が触れ合う金属音と、鈍器が扉にぶつかる振動が絶えず響いてくる。
「やだやだ、離れ離れになるなんてやだ!!」
「俺の魔法もそれほど持たんぞ。もう時間がない。」
 父親は、扉から目を離さずに母親を急かす。ぐずる少女を抱きしめていた母親は、少女の頬を両手で包み込むと網膜に焼き付けるようにじっとその幼い顔を覗き込んだ。
「アリサ、愛しているわ。」
 母親は少女の額にキスをすると、突き飛ばすように身を離す。空いた右手で素早く転移の呪文を宙に描いた。
 魔法陣が少女の足元に現れ、その小さな身体を光が包んでいく。両親は少女に向かってまだ何かを話し掛けていたが、少女の耳には届かない。
「パパ!!ママ!!」
 目の前の景色が、油絵の具が溶けるように歪み、少女は次の瞬間見知らぬ森の中にいた。

 ガバッ!!
 身体を起こした勢いで、羽毛布団がベッドからずり落ちた。代わって乾いた冷たい空気が、汗ばんだ肉体に絡み付いてくる。
 アリサは闇に目を凝らし、ようやくそこが自分の部屋であることに気が付いた。
(何で今頃、あの時の夢を?)
 白いネグリジェを汗でべったりと肌に貼り付かせながら、アリサは額の汗を腕で拭った。
(あの後、私は必死になって家に戻ろうとした。父さんと母さんにもう一度合うため、必死で探した。でも、私が見つけたのは、焼け落ちた家の残骸と熔けた指輪だけだった…。)
 泣きながら両親を探し、呼び続けた小さな自分。あの時の深い絶望は、今も鮮明に思い出すことが出来る。
 しかし、あれは遠い昔の思い出。辛い出来事だが、受け止めなければならない紛れもない事実。
(もう、気持ちの整理はついた筈なのに…。何で今ごろ…?嫌な予感がする…。)
 不快な汗がアリサの背中を這い下りる。これまで、彼女の不吉な予感は外れたことがなかった。


 ズシーン、ズシーン、ズシーン。

 まだ日も昇らぬ朝靄立ち込めた時間に、派手な地響きを伴って何者かがアリサの洞窟へと近づいていた。
 ソファーで寝ていたマークは、浅い眠りからすぐに目覚めた。先日、町で買い求めた小説が予想外に面白く、続きが気になって夜更かしをし、そのまま寝入ってしまったようだ。もっとも、マークは危険を察知する訓練を積んでいるため、熟睡していても戦いの予感から目を醒ますことが可能ではあるのだが…。
「ファーア、なんだ、朝っぱらから?」
 大きなあくびをして、脳に酸素を送り込む。
 傭兵3人組の襲撃から続く王国によるアリサ討伐の手は緩められておらず、つい先日も王国隠密部隊の襲撃を事前に阻止したところだった。戦い好きを自認するマークも、終わりの見えない死闘の連続にはさすがにうんざりしていた。その精神的な疲労が、居眠りという不覚につながったのかもしれない。
 しかし、今回の接近者からは危険を感じ取っていなかった。また、この地響きをマークは以前聞いたことがあった。

 マークが洞窟を出ると、広場の中央に巨大な人影が見えた。それは彼の予想通り、以前戦ったことのあるミスリルゴーレム、ゼータの巨大な影だった。その肩には、魔法少女ミリアがちょこんと乗っている。
「お兄ちゃん、ごめんなさい。」
 ゼータの肩から、ミリアが飛び降りてきた。その勢いでマークに飛び付いてくる。
「ミリアちゃんか。どうしたの?こんな時間に…。」
「本当は来ないつもりだったの。でも、結局来ちゃった。お兄ちゃんしか、頼る人がいなかったから。」
 何かを恐れるようにマークにしがみつくミリア。その怯え様にマークは漠然とした不安を覚える。
「どういうこと?」
 その質問の答えは、ミリアが落ち着くのを待つまでもなく広場の出入り口から聞こえてきた。
「そこのゴーレムを引き渡してもらおう。」
 白地に金の刺繍が入った外套を纏った5人の男たちが、洞窟前の広場になだれ込んでくる。リーダーらしき男の一人は、大事そうに金属の箱を抱えていた。
 男たちの姿を見て、ミリアはマークの背後に隠れ、ゼータが威嚇するように両腕を上げる。
「貴様等、なにものだ!!」
 背中で震えているミリアを落ち着かせるために頭を撫でながら、マークは男たちに問い掛けた。
「我々は王国魔道院のものだ。」
「王国魔道院?」
 マークは目覚めたばかりの脳をフル回転させて、その聞き慣れぬ組織のことを思い出そうとした。
 王国魔道院。魔法、呪術を研究する王国直轄の機関。王国の領土拡大はここで研究された強力な魔法によるところが大きい。ここ最近の侵略戦争とともに大きくなった機関だった。王国内部にかなり詳しいマークも、魔法に興味がないこともあり、その程度の知識しか持ち合わせていない。
「改めて言う。そこの実験材料を返していただきたい。」
 リーダーらしき男の一人が、いらだたしそうにマークに再び声を掛けた。実験材料という言葉を聞いて、ミリアの肩がビクリと震える。
「ゴーレム?実験材料?ゼータをどうするつもりだ?」
 隣で威嚇するように両腕を上げるミスリルゴーレム。確かにその能力は、マークにとって驚嘆するに値するものだった。
「ゼータ?ああ、そこのデカブツのことか。我々は守りのために作られたミスリルの塊に興味などない。」
「そいつの能力は既に我々の手で無効化している。今のそれは、ただの木偶だ。」
「何?」
 ゼータの実力を知るマークにとって、俄には信じられない言葉だった。しかし、すぐにその巨体が微妙な痙攣を繰り返していることに気が付いた。魔道に長けたものが見れば、魔法の鎖で雁字搦めになっている様が見えたことだろう。この状態で動けるだけでも驚嘆すべきことなのだが、魔力が皆無に等しいマークにそれはわからない。
「さあ、お前にしがみ付く、そのゴーレムを渡すんだ。」
 この場に存在するゴーレムはゼータしかいないはず…。そこまで考えて、マークはミリアと出合ったときに感じた違和感、無限の魔力という常識を逸した能力を持つ少女への驚きが頭を掠めた。まさか…。
「お前が考えているとおりだ。」
 箱を持った男が醜く口を歪めて笑う。
「我々はお前の傍らにいる少女の形に作られた『ミリア』と呼ばれるゴーレムを必要としている。」
 マークは思わずミリアへと目を向けた。少女は俯き、小さな肩を小刻みに震わせていた。
「それは国宝級の鉱物オリハルコンを核としたフレッシュゴーレムだ。世界でも珍しい魂を持つゴーレムだが、我々にとってそんなことはどうでもいい。」
「我々は核であるオリハルコンを欲している。」
「オリハルコンは研究がまだ進んでいない希少な物質で、魔道を飛躍的に発展させる可能性を秘めている。魔道の発展のため、回収したい。」
 男たちは、順番を決めていたように口々に話す。少女の肩の震えが次第に大きくなる。
 ミリアがゴーレムだったことを知り、頭を撫でるマークの腕がピタリと止まった。しかし、それはほんの一瞬ですぐに元のように動き始めた。
「バカな!!核を取ればゴーレムは死んでしまうんだぞ。」
「死ぬ?停止するの間違いだろう。ゴーレムなど人に作られた道具でしかない。情を寄せるのは勝手だが、魔道の研究を妨げる行為は止めてもらいたい。」
「そいつ等は実験材料。高度な技術が盛り込まれているのは確かだが、人間が作った道具に過ぎない。」
「製作者が放棄したからには失敗作だろうがな。」
 失敗作という言葉に、ミリアはマークの背中を出ると、力の限り叫んだ。
「ちがう…、ちがう!ちがう!!わたしは、わたしは道具じゃない。わたしは失敗作じゃない。」
 キュイーン…。
 ミリアの周りに魔力が集中していく。
「無駄だといっただろう。作り物はこれだから困る。」
 リーダー格の男が小箱から黒い石を取り出すと、ミリアの周りに集まりつつあった魔力が霧散した。
「確かにオリハルコンは凄まじい力が込められた究極の物質だが、万能ではない。オリハルコンを御する物質。それがこの『ダークマター』だ。ダークマターはオリハルコンと同じ性質を持つ希少物質。二つが近寄れば、互いの力を中和し抑制する。」
「えい、えい、出てよ、えい、えい、魔法、えい、出てよ!!」
 涙を流しながら、ミリアはそれでも魔法の詠唱を続けた。そんな少女の姿を男たちは嘲笑する。
「はっはっは!!要らぬケガはしたくないだろう。さあ、そのゴーレムを引き渡してくれ。」
 ミリアが不安そうにマークの顔を見上げる。マークは、その小さい体を引き寄せることで少女の思いに答えた。
「断る。」
「お兄ちゃん」
 ミリアは目尻に涙を光らせながら、笑みを浮かべてマークを見上げた。

 マークは油断していた。相手は貧弱な魔道士ばかり。相手は多いが、距離的に魔法が完成する前に相手を倒す自信があり、真眼を使用する必要はないと判断していた。
 そのため、死角からガラスのナイフが自分に向けて投げられていること気付くのが一瞬だけ遅れた。もっとも、遅れたといっても常人ならともかく、マークの体術であれば簡単にかわせたはずだった。
 しかし、ミリアはゼータの動きから事前にそれを知り、マークがかわせないと判断して、その身を刃の前に投げ出した。その咄嗟の動きをマークは止めることが出来なかった。
 氷の刃はミリアの小さな体を貫き、地面に当たって粉々に砕け散った。
 目の前で起こった惨劇にマークの正常な感覚が弾け飛ぶ。ゆっくりと倒れていくミリアの体。それを掴もうとする己の右腕は、もどかしいほど動きが遅く、その手の先を小さな体がすり抜けていく。目の前で起こっている出来事が、マークにはコマ送りのように感じられていた。届かぬ手の先で、人形のようにミリアが地面に体を打ち据え、手足が投げ出されるのを見たとき、ようやくマークの感覚が正常に戻った。

 慌ててミリアの体を抱え上げる。その小さな体は思いの他軽かった。
「ミリアちゃん!!」
 体を揺らさないようにしながら、声を掛けるマーク。その言葉にミリアの瞳が僅かに開く。小さな口が、呟くように言葉を搾り出した。
「お兄ちゃん、ごめんね。ミリア、お兄ちゃんに嘘ついてた。わたしはゴーレムだから成長なんてしないの。」
 ミリアの胸元には深い傷が口を開いていたが、血は一滴も出ず、胸の中心部にオリハルコンと思われる虹色の物質が露出していた。
「それにゴーレムに好かれても嬉しくも何ともないよね、お兄ちゃん。私は所詮、人形にすぎな…。」
「ミリアちゃんはミリアちゃんだよ。」
 ミリアの悲痛な独白をマークは強引に遮った。これ以上少女の心が壊れるのを黙って見ていられなかったし、その言葉は紛れもない彼の本音だったから。
「お兄ちゃんならそう答えてくれると思ってた。わたし、アリサお姉ちゃんが羨ましい。」
 マークの手を握るミリアの手から少しずつ力が抜けていく。
「お兄ちゃん、ミリアがこうなったのはお兄ちゃんせいじゃないから。わたし、お兄ちゃんを守りたかった。私の正体を知っても変わらないでいてくれたお兄ちゃんを守りたかった。それだけだから、それだけ、ケホッケホッ!!」
 ミリアの体が激しく痙攣する。
「アブソリュートゼロ!!」
 そのとき、マークの背後から呪文を唱える声が上がった。ミリアの体が氷で覆われていく。しっかりと握り締めていた手と手の間にも氷は侵入し、マークの手を拒絶するかのようにその層を厚くしていった。氷の層はミリアを卵状に包み込むと、ようやくその成長を止めた。
「間に合っているといいけれど…。」
 マークが驚愕で振り向くと、洞窟の入り口にアリサが寂しげな表情で立っていた。首のペンダントが魔法の残滓で淡く輝いている。
 マークにはアリサの行動が理解できなかった。困惑は苛立ちとなり、彼の語調をきつくする。
「アリサさん!!何を?」
「私たちには無理だけど、彼女のお父さんなら治療が可能かもしれない。だから、状態を保守するために氷漬けにしたのよ。ゴーレムであれば長期間の氷漬けにも耐えられると思うから。彼女を助けるためには、この程度のことしか私には考えつかないから。」
 
 それまで事の次第を黙ってみていた魔道士たちが、つまらなさそうに口を開いた。
「隠密部隊長も口ほどに無い。たった一人の人間を始末できないばかりか、目的のゴーレムに傷を付けるとは…。」
「とにかくオリハルコンに傷がつかなくて良かった。もっとも、生半可なことでは毛筋ほどの傷もつけられないだろうがな。」
 氷の塊と化したミリアを近寄ってきたアリサに託すと、マークはゆっくりと立ち上がった。その顔からは感情が消え去っている。
「貴様等、言うことはそれだけか?」
 そう言って振り返ったマークの右腕には、抜き身の剣が握られていた。刃は漆黒の闇に覆われ、刃先から闇の雫が零れ落ちそうになっている。
「何を怒っているのか知らないが、我々は魔道の…。」
 その男は最後まで言葉を発することが出来なかった。音も無く近づいたマークの黒剣がその喉を貫いていたから…。男の身体は剣から放たれた闇に瞬時に蝕まれ、煙のように掻き消えた。
 目の前の信じがたい出来事に魔道士たちは立ち尽くす。その間もマークの動きは止まらず、闇の刃がまた一人の存在を喰らっていた。
「あれは『ブレイクブレイク』!!その闇に飲まれると魂までが消滅するという…。」
さらに、また一人、闇に飲まれる。
「ひえええ、たすけてく…。」
そしてまた一人。
「まて、待ってくれ。今日のところは大人しく帰る。だから…。」
 闇が影を残しながら、最後の一人を喰らい尽くした。手に持っていた小箱が地面に落ち、ダークマターが転がり出る。一瞬、マークは剣を振り上げて、それを破壊しようとしたが、思い直して箱に蹴りこみ、しっかりと蓋をした。

 ミリアを洞窟内に運び終えたアリサが、再び広場に戻ってきた。マークはダークマターの入った小箱を彼女に手渡した。それを受け取ることで、アリサは魔道士たちの辿った運命をすぐに悟った。文献等で知りえる範囲でだが、そのすべてを無に帰する闇についても知識だけは得ていた。また、広場に残る空間の僅かな歪みが、彼女の考えを肯定していた。
 二人の間に息苦しい沈黙が続く。マークはミリアが倒れていた地面を見つめたまま、彫像のように立ち尽くしている。アリサは何度かの逡巡の後、意を決してマークに声を掛けた。
「ねえ、マーク。私、わかってるつもり、わかってるつもりよ。人間が皆、そうじゃないって。でもね。私やミリアちゃんみたいな人外の存在を人間たちは…。」
 その口調は最初こそ躊躇いがちな小さな声だったが、気持ちの高ぶりと共に次第に大きくなっていく。
「私もミリアちゃんも人間と争うつもりはないのよ。ううん、むしろ仲良くしたいと思っているわ。でも、私の場合はこの呪われた変身石化能力、ミリアちゃんの場合は人に作られたゴーレムということで隔離されたり追われたり命を狙われたりすることになる。ねえ、私たちが人間に何をしたっていうの?どうしてこんな目に遭わなくちゃならないの?」
 アリサの腕が鱗に覆われ、髪が蛇へと変化する。興奮状態のアリサはそれにも気付かずに言葉を搾り出す。
「私は人間を恨むつもりはないわ。人間だった父さんはやさしくて立派な人だったし、数は少ないけど正体を知りながら親切にしてくれた人がいたことは紛れもない事実だもの。でも、そう、それでも、ううん、それだから私は思うの。私は何のためにこれから生きていけばいいのだろうかって。人間の繁栄はもう揺るぎのない事実。私のような異形のものは遠くないうちに滅ぼされる運命。でも、それでも、私は生きているの。だれからも望まれていないけれど、私は生きているのよ!!何度、死のうと思ったかわからない。でも、いつも思い止まった。父さんと母さんの願いを叶えたかったから。それに今までの自分を否定したくなかったから。でも、そろそろそれも限界。これ以上、無意味に生きるのは辛すぎるのよ。死ね、死ねと言われながら生き続けるのはもう耐えられないのよ。このままじゃ、生きろといった父さんと母さんを憎んでしまいそうなのよ!!誰か助けてよ。もう…。」
 頭を抱えてアリサはうずくまる。
 マークがミリアのことで苦悩していることは容易に想像できた。それでも、言わずにはいられなかった。一度溢れ出したこの気持ちを再び押さえ込むことは不可能だった。確かに用心棒であるマークのおかげで、敵と直接戦うことは少なくなった。しかし、それは古びた道具に塗料を塗り被せるようなもので、問題の根本的解決にはなっていなかった。敵の刃は、相手をしているマークではなく、常にアリサへと向いているのだから。敵の放つ悪意と憎悪は、彼女の精神を確実に蝕んでいた。
 マークは俯いたままアリサの独白を聞いていた。言葉が途切れ一区切りついたところで、俯いたまま言葉を選ぶ。
「アリサさん。俺には、それについて何もいえません。アリサさんも答えが欲しくて言ったわけじゃないんでしょうけど。それはアリサさん自身が答えを導き出し、解決しなくてはならない問題だと思うから。」
 抑揚のない声を聞き、アリサはマークの苦悩が想像以上に深いことを知った。
「ううん、ごめんなさい。わかってる。聞いてくれるだけでいいの。理解して欲しいとは思ってないの。マーク、あなただけには知ってもらいたかったの。私の嘘偽りのない気持ちを…。」
 だから、正直に自分の心を言葉にした。マークの言葉に応えるために。
「ただ、俺から一つだけ言えるのは、今アリサさんが生きているのは、アリサさんが生きることを望んでいるからです。お父さん、お母さんに言われたからじゃない。アリサさん自身が望んでいるからだと思います。」
 意外な言葉にアリサは顔を上げた。背を向けているものの、それはいつもどおりの優しさを含んだマークの言葉だった。
 言葉の真意を聞こうと口を開きかけるアリサ。しかし、抑揚のない声がそれを制した。
「偉そうなことを言ってすいません。ミリアちゃんを頼みます。後片付けがまだ残っていますから。」
 最初、アリサにはその言葉の意味が理解できなかった。しかし、マークの右手に握られた剣が再び闇に染まるのを見てその意味を知る。魔道士たちの口から出た隠密部隊長を追うのだろう。
「マーク、自分を責めないで。ミリアちゃんもあなたが苦しむことを望んではいないはずよ。」
 マークは振り向かずにコクリと頷くと、森の奥へとその姿を消していった。

つづく


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