Shadow 「闇の契約」

作:幻影


 影山(かげやま)ユウキ。
 肩まである黒い髪、外見は長身で顔立ちがよく、いわゆるイケメンの部類に入れてもおかしくなかった。
 幼いときに両親を亡くし、すごしていた一軒家の中で1人暮らしをしていた。何分不自由はなかった。
 屈託のない生活をすごしながらも、ユウキは何か物足りなさを感じていた。刺激がほしい。自分の心を満たすほどに強い刺激が。
 女の子たちが彼を見て騒ぎ立てることもあったが、それでも彼の心は満たされなかった。

 この日もユウキは自宅に戻ると、リビングにあるソファーに腰を下ろし、ため息をする。
 今の彼にも不自由はなかった。彼を縛るものはほとんどない。
 だが、それ故に不満だった。誰もがすごしている日々だからこそ、彼は満たされず渇望を抱いていた。
「そろそろ掃除でもするかな・・・」
 立ち上がり、雑巾とバケツを取りに洗面所へと向かう。その足取りも全くと言っていいほどやる気が感じられなかった。

 一通り掃除を終え、物置の整理をしていたユウキ。そこからは幼い頃の思い出の品が出てきていた。
「いろいろやってたんだな、オレも。」
 それでもユウキの心は満たされなかった。何か強い刺激があればと願っていた。
「ん?これは・・」
 そのとき、ユウキは物置の奥に置いてあった1つの箱を発見した。それを手にして、じっくりと見る。
 その箱には奇怪な紋様が施されていた。手をかけてふたを開けようとするが、全く開く気配がない。
「何なんだ、これは・・・?」
 箱の正体が理解できず、首をかしげるユウキ。仕方なくその箱を持って部屋に戻り、さらに詳しく調べてみることにした。
「あれ?」
 戻ってきたユウキの目線の先、テーブルの上に1つの鍵が置かれていた。
 見覚えのない鍵で、掃除を始めてから何かをテーブルに置いた覚えもなかった。
 ユウキはその鍵を手に取り、いろんな角度から眺めてみる。
「もしかして、この箱の鍵かな・・・?」
 ユウキは物置にあった箱とを見比べる。箱の鍵穴にその鍵が入りそうな気がしていた。
 鍵穴に鍵を差し込んでみる。すると案の定、鍵は鍵穴に入り、ひねると音を立てて回った。箱にかかっていた鍵が開いたのだ。
 すると箱からまばゆい光が放たれた。
「こ、これは・・!?」
 ユウキは驚きの声をあげ、思わずその箱を落とす。やがて箱の光が収束され、淡く輝きを続ける。
「この封印を解いたのは誰だ・・・?」
「えっ・・!?」
 突然発せられた声に、ユウキがさらに驚愕する。
「この封印を解いたのはお前か・・・?」
「ふ、封印!?・・・もしかして、この箱から・・・」
 ユウキが恐る恐る箱を再び手にする。声はその箱から発せられていた。
「お、お前は誰なんだ!?」
 ユウキは意を決してその声に呼びかける。
「私は闇の化身、メデューサの使い魔、ゴルゴン・シャドウ。」
「メデューサ・・・ゴルゴン・シャドウ・・・」
「私はメデューサの力によって生み出された悪魔。しかし、あまりに身勝手な行動を取り続けたために、メデューサ自身の手でこの箱に封じ込められてしまったのだ。」
「悪魔・・・何かの話にしか出てこないものだと思ってたけど、まさか本当にいたなんて・・・」
 驚きを振舞うユウキ。しかし実際それほど驚いているようには見えなかった。
「どうやらお前は、何か満たされない気分を抱えているようだな。」
「えっ!?分かるのか!?」
「分かるさ。お前の体からは生気が活気よく放出されていない。渇望が埋まっていない証拠だ。」
 ゴルゴンに指摘され、ユウキが黙ってしまう。
「私の持つ力なら、お前の心を満たすことができるかもしれないぞ。」
「ほ、本当か!?」
「これは契約だ。拒むことも選択肢に含まれている。」
「ど、どうすればいいんだ!?」
「まぁ聞け。お前には私の、その渇望を生めるための力を与えよう。ただし、人間がこの力を使うには、ある代償を支払わなければならない。」
「代償・・!?」
「それは、性欲の暴走だ。」
 ゴルゴンの言葉にユウキは息を呑む。ゴルゴンの力を使えば、ユウキは性欲にさいなまれるという。
「だが、その代償でも、お前の心を満たすこともできよう。私の力が、落胆しているお前に新たな境地へ導いてくれるだろう。」
 ゴルゴンの誘いにユウキが迷う。ゴルゴンの力を手にすれば、面白みを感じていなかった自分を満たすことができるかもしれない。だが、それで自分が人間ではない別のものになる可能性も否めなかった。
 しかし、このままつまらない日常をすごすくらいなら、背に腹は代えられない。
「本当に、オレの心を満たしてくれるのか・・!?」
「それは、私の力を扱うお前次第だ。」
 ユウキは決心をつけた。
「いいよ。その契約とやら、受けてやるよ。」
「・・分かった。この契約によって、私の力がお前のものとなろう。」
 ユウキの了承と同時に、箱の淡い光がさらに輝きだした。その光が、驚きの表情を見せるユウキに向かって吸い込まれていく。
「こ、これは・・!?」
 光が自分の体に取り巻き、ユウキがその力を感じる。
「でも、どうやって使うんだろうか・・・?」
 ユウキはふと疑問を浮かび上がらせた。彼はゴルゴンから力の使い方、その効果を聞かされていなかった。だが、
「分かる・・・聞いてなかったけど、この力の使い方が分かる・・・」
 ユウキは知らぬ間に、力の詳細を理解していた。その実感をかみ締めるように光の灯っている両手を握り締める。
「これなら、その性欲の暴走が起きても平気だ。むしろそれがオレの心を満たしてくれるかも。」
 ユウキが歓喜と期待に湧く。ゴルゴン・シャドウとの闇の契約によって、ユウキは渇望を埋める力を得たのだった。

 街灯が差し込んでくる夜道。そこにバイト帰りの女子高生が1人、慌しく駆けていた。
 別に誰かに追われていたわけではない。バイトが遅くまでっかってしまい、急いで家に帰って早くベットに入ろうと思っていたからだ。
 並木(なみき)レイ。栗色の髪をツインテールにし、高校独特のかわいらしい制服を着ていた。
 あまりに全力疾走してしまったことでさらに疲れが重なり、足を止めて大きく呼吸する。
「いけない・・・つい思い切って、走っちゃった・・・ハァ・・・」
 周囲に誰もいないにもかかわらず、呼吸を整えながら笑顔を作るレイ。
 彼女は何事にも全力投球することが好きだった。どんなときにも手を抜かず、真正面からぶつかっていく自分が好きだった。
 そんなことを感じながら、レイはこの日常を楽しんでいた。
 そのとき、周囲に黒い霧のようなものが漂い、街灯の光をさえぎった。
「な、なに!?」
 異様な雰囲気に不安を感じるレイ。黒い霧に包まれたその場所は、まるで別世界のようだった。
 恐怖を感じ始めたとき、近づいてくる足音が響いてきた。レイの耳に強く足音が伝わってくる。
 レイがその音のするほうに恐る恐る振り向くと、黒い霧の中に人影が現れていた。その闇に溶け込むような黒髪をした青年である。
「あ、あなたは・・・?」
 レイが声を振り絞ると、青年は妖しい笑みを浮かべて返事をしてきた。
「かわいい子だな。オレのこの力を試すには丁度いいな。」
「な、何を言って・・・?」
 恐怖するレイに微笑む青年、ユウキが自分の手を見つめながら近づいてくる。
「イヤッ!来ないで!」
 耐えかねてレイはその場から逃げ出した。ユウキは自分に何かしようと考えていると思ったからだった。このまま留まっていたら、何をされるか分からない。
 しかし、駆け抜ける足取りが次第に重くなっていく感覚にレイは襲われた。
「あ、あれ?・・・どうしたん・・だろう・・・?」
 まぶたが重くなり、暗闇に満ちた視界がぼやけてくる。やがて体から力が抜け、レイは走る勢いのまま前のめりに倒れこんだ。
 何とか立ち上がろうとするも力が入らず、レイはそのまま意識を失った。

「・・・ん・・・ここ・・は・・・」
 レイが意識を取り戻したのは、いまだに黒い霧の立ち込める暗闇の中だった。
 若干頭に痛みがあったが、体は立ち上がれるまでに回復しているようだった。
 周囲を見回すと、あの黒髪の青年の姿はなかった。
「ここは、どこなのかな・・・?」
 不安を感じながら辺りを見回すレイ。
「ここはオレが作り出した空間だよ。」
 突然答えたその声にレイの顔が強張る。振り返ると、ユウキが不敵な笑みを浮かべて彼女を見つめていた。
「あなた、どうして・・!?」
 レイが恐怖しユウキを見つめる。
「オレが連れてきたんだ。気を失った君をネ。」
 ユウキが近づくと、レイは怯えて後ずさりする。そんな彼女の様子を見て、ユウキはさらに笑みを強める。
「光栄だよ、君は。僕の新しい力を受ける、最初の人になるんだからね。」
「な、何を言ってるのよ・・・!?」
 震えるレイを、ユウキはじっと見つめていた。その異様な姿に、レイの恐怖はさらに強まる。
 しばらく見つめたまま動けずにいると、ユウキの眼が突然光りだした。

     ドクンッ

 その光を眼にしたレイが、胸を強く打たれる衝動に襲われた。
(今の光・・・それにこの息苦しさ・・・何なの・・・!?)
 感じたことのない感覚に動揺するレイ。その彼女を、ユウキはいまだに笑みを浮かべて見つめていた。
「これで、君にはオレの力が宿った。」
「えっ!?」
 ピキッ ピキッ ピキッ
 そのとき、レイの着ていた制服が突然引き裂かれた。ボロボロになった衣服からのぞける肌が、ところどころに白く固くなり、ヒビが入っているところもあった。
「な、何なの、コレ!?」
 異様な姿になった自分にレイが驚愕する。その変わり果てた体が、思うように動かない。
「何が起こってるの!?あなたは私に何をしたの!?」
 レイが叫んで問いかけると、ユウキは哄笑を含んで答える。
「これがオレが手に入れた力か。メデューサの使い魔であるゴルゴン・シャドウにも、標的を石にする力を持っていた。しかも、欲情的なゴルゴンは、よく美女を裸の石像にしていた。」
 ユウキが手に入れたゴルゴンの力を実感し、呟くように詳細を口にする。
「ゴルゴンとオレとは、気が合ってたみたいだ。もしかしたら、この力こそが、オレが追い求めていたものなのかもしれない。」
「そんな・・・私が、石に・・・!?」
 恐怖を引きつらせているレイをよそに、自分の力をすばらしく感じて酔いしれるユウキ。
  パキッ
 石化はさらに広がり、レイの制服は完全に破れた。一糸まとわぬ姿をさらけ出すことになった。
「イヤアッ!見ないで!」
 裸を見られて恥ずかしがるレイ。しかし、石になった体ではその肌を隠すこともできなかった。
 そのとき、ユウキは胸を締め付けられるような感覚に襲われた。
「な、何だ、これは!?」
 体の奥から湧き上がる何かを感じ、ユウキの息が荒くなる。
(何かに縛られているような気分だ・・・振りほどきたい!・・これが性欲の暴走ってヤツなのか・・・!?)
 こみ上げる快感にあえぐユウキ。おぼつかない足取りで、動けないレイに近づく。
 呼吸が荒いまま、ユウキはレイの石の胸に手を当てた。
「イヤッ!触らないで!」
 胸を触られ、レイが抗議の声を上げる。しかし石になった体では抵抗できなかった。
「へぇ・・・これが、女の子の胸なんだ・・・ふくらみがあっていい形だ・・・」
 ユウキは困惑するレイを抱き寄せ、さらにその胸を撫でていく。抗いきれなくなったレイがあえぎ声を上げる。
 ユウキの手に入れたゴルゴンの石化は、その進行は思うがままであり、完全に石化するまでその感覚が残る。この石化こそが、抗うことのできない快楽へと結びつくのである。
 ユウキは今度はレイの石の秘所に手を伸ばした。レイにかつてないほどの快感が押し寄せる。
「イヤッ!やめて!」
 レイが快感に叫び、顔を歪める。初めて感じる感覚を望む彼女と、この現実から逃げ出したい彼女が葛藤していた。
(ダ、ダメだ・・もう、耐えられない・・・!)
 あえぎが強まったユウキがレイから体を離すと、突然着ているものを脱ぎ始めた。衣服を脱ぎ去ることで、縛り付ける何かから解放される。
 裸になったユウキ。快楽を感じている彼は顔を赤らめて息を荒げている。
「そうだ。これなんだ。これが、オレが追い求めていたもの・・」
 再びレイを抱きしめるユウキ。彼女のお尻を、そしてまだ石化していない髪を撫でる。
 レイはあえぎが強くなり、そのこえは言葉になっていなかった。
「オレの心を満たしてくれるもの。」
 ユウキが混乱しているレイの唇を重ねた。淡い快感が2人に押し寄せる。
  パキッ ピキッ
 棒立ちのまま、レイにかけられた石化が手足の先まで及び、頬まで石に変えていた。
 そんな彼女に快楽を与えながら、ユウキは唇を離す。2人の口から小さく吐息がもれる。
「これで恐怖はなくなったはずだ。あんまり怖い顔をしたままオブジェになったんじゃ困るからね。」
 虚ろな表情をしているレイを妖しい笑みを見せて見つめるユウキ。彼の影響か、石化による脱力なのか、快楽に心が沈んでしまっていた。
  ピキッ パキッ
 その表情のまま、ユウキの石化がレイの唇を、髪を白く包んでいく。抗いきれなかった自分への呪いなのか、非情ともいえる現実への悔恨なのか、その眼からは涙が流れ落ちていた。
    フッ
 やがてその瞳さえも石に変わり、レイは裸のオブジェに変わった。ゴルゴンから力を得たユウキによって、その時間が完全に停止したのである。
 ユウキは安堵の吐息をもらして横たわり、大の字になって、視線だけを石の少女に向ける。
(心地いい。なんて気分がいいんだ。この快楽こそが、オレの心を満たす要因となる。)
 笑みを浮かべてその快楽と歓喜を実感するユウキ。
 この力なら、自分の心を満たすものを全て手に入れられる。全ての美女を自分のものにすることも可能である。
(だけど、ただ普通に女の子を手に入れるだけじゃつまらない。一方的で簡単すぎるからね。)
 ユウキは思考を巡らせた。もう少し有意義にできるはずだと思ったのだ。
 そして、ユウキは1つの案を思い浮かべた。
(そうだ。街を騒がせてやろう。難関があれば、手に入れたときの喜びも増す。にぎやかになりそうだ。オレも、みんなも。)
 ユウキは立ち上がり、石のオブジェになったレイの胸を優しく撫でる。完全に石化した彼女には、もう意識も感覚もない。
「楽しみだなぁ。この空間に、オレの選りすぐった美女たちが集まるんだからね。そして彼女たちが、オレの心を満たしてくれる。」
 歓喜と期待を湧かせるユウキ。ゴルゴンの力を手にした彼の欲望が今、動き出す。

つづく


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