Schap ACT.20 reason

作:幻影


 ルイはトランプメンバーの1人、スペードだった。その真実を知ったますみは動揺を隠せなかった。
「そんな・・ルイさんが・・・!?」
「まぁ、驚くのもムリはないわね。でもホントのことなんだよね。」
 ルイがあいも変わらずな口調でますみに言いかける。
「マスターや他のASEのメンバーがアンタを狙ってるのは初耳なんだけどねぇ。でもマスターの考えなら、しょうがないよね。」
 彼女が言い終わると、アリスが両手をかざす。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ルイさん!どうしてあたしとルイさんが戦わなくちゃいけないんですか!?」
 ますみが困惑の面持ちでルイに問いかける。しかしルイとアリスは臨戦態勢を解かない。
「マスターにはいろいろお世話になってるからね。悪いんだけど、ここで固まっちゃってくれないかな?」
 ルイとアリスが狙いを定める。しかし黄金化の光を放とうとしない。
 スキャップ能力者に直接固めようとしても効果はない。自分と相手、双方がスキャップを出さなければ、スキャップの戦いは始まらない。それを分かっていたからこそ、ルイは攻撃しようとしなかった。
 スキャップを出すのを待っていたルイだが、ますみはクラウンを出そうとはしない。
「ダメ・・・できません・・・ルイさんと・・ユキちゃんのお姉さんと戦うなんて・・・」
 悲痛の言葉をかけた後、ますみは振り返り、涙ながらに駆け出した。離れていく彼女の姿を見送って、戦意をそがれたルイがアリスを消す。
「あの子もしょうがない子ね。でも、あの子は強い・・力も心も・・・」
 半ば呆れながらも、ルイは笑みをこぼしていた。
(あの子なら、マスターを倒してくれるかもしれない・・・)

 逃げ惑う伊奈を追いかけるハル。扇の仲間である彼が、なぜASEのメンバーとしてますみを狙っていたのか。その真意を彼女は確かめたかった。
 街外れの小道に差し掛かったところで、伊奈は立ち止まってハルにレベッカを向けた。
「これはどういうことだ、お前!なぜますみを・・!」
 ハルが伊奈に問いつめる。伊奈はため息をひとつもらしてから答える。
「これはASEのマスターから引き受けた仕事や。わいかて金がなくちゃ食っていけへんのよ。」
「だからって、ASEに組することはないだろ!ヤツらは、トランプメンバーは扇の生を奪ったんだぞ!」
 これを言えば、少しは眼を覚ましてくれると信じていたハル。しかし伊奈は悲観になるどころか、呆れた面持ちを見せる。
「そいつは悪かったな。せやけど、もう後戻りはできへんのよ。」
「お前・・・!」
 伊奈の返事に憤りを感じるハル。
「扇に対して何とも思わないのか!自分のしていることが、友を裏切っていることだということに気付いていないのか!」
「わいは扇のように強くあらへん。やっと見つけた仕事や。切り捨とるわけにはいかへん。」
 これだけ説得しても思いが伝わらず、ハルは伊奈に対して悲痛さと憤りを感じていた。
「今度はあんさんも気ィ付けたほうがえぇ。多分、いや絶対に敵になるさかい。」
 そういって伊奈はレベッカを消して再び駆け出した。走り去っていく彼の姿を、ハルはこれ以上追うことができなかった。

 それからますみは、困惑の面持ちを浮かべていたハルと合流。自分と彼女への気休めのつもりで、ますみは彼女を自分の部屋での夕食を持ち込んだ。
 伊奈のことで困惑していたハルは、ますみの誘いを受けることにして笑みをこぼした。
 2人は女子寮に戻り、ますみは夕食の準備をしようと思いながら、部屋に戻る。
 そこで彼女たちを待っていたのは、夕食の準備を始めているルイとユキだった。
「あ、おかえり、ユキ。あっ、ハルも来てたんだね。」
 ユキが2人の姿に気付いて声をかける。気さくな笑みを見せるルイに、ますみは困惑の面持ちを見せる。
 クローバーであるルイがそばにいて、彼女はどうしたらいいのか分からなかった。そんな迷いを抱えていると、彼女の前にカレーが盛られた皿が運ばれてきた。
「お腹が空いたら戦はできないよ。まずは腹ごしらえっと。」
 カレーを運ぶルイが気さくな態度で言葉をかける。彼女の言動に緊張感が鈍り、ますみはしばしその場で唖然となった。

 それからますみ、ユキ、ハル、ルイは夕食を始める。
 久しぶりの再会のため、ユキとルイが談話を弾ませている。しかしますみとハルは未だに思いつめていた。
 ますみはルイに、ハルは伊奈に対して疑念を抱いていた。これからどうしたらいいのか、胸中で迷いを抱えていたのである。
「ん?ますみ、ハル、どうしたの?」
 そこへユキが2人の様子を気にして声をかけてきた。
「えっ?う、ううん、何でもないよ。」
 するとますみが我に返って、作り笑顔を見せる。ユキは気にしながらも、再びルイとの会話を続ける。
 動揺を隠せないますみを、ルイは横目で見て笑みを向けていた。

 夕食を終えたますみたち。ますみが後片付けをしようとすると、ユキとルイが率先してすると言ったので、彼女はハルを連れてひとまず部屋から出た。
「いったいどうしたんだ?部屋に来てから様子がヘンだぞ。」
「そういうハルだって。何があったの?」
 ますみがハルに問いかけると、ハルは小さく笑みをこぼす。
「いや、ちょっと知り合いにあってな。けれど、アイツはどうやら昔のアイツではなくなってしまったようだ。」
 ハルはますみに伊奈のことを話した。扇の仲間だったはずの彼だが、今はASEのメンバーとしてますみを狙っていた。
「そう・・・扇くんの友達が、あたしを・・・」
「アイツが本当に扇の仲間だというなら、私はアイツを救ってやりたい。それが扇のためにもなると思ってるから・・・」
 沈痛の面持ちを見せるますみに、ハルは微笑をもらして決意を語る。
「変わったね、ハル。少し前だったら、こんなことに構ってなかったと思う。」
「そ、そうか・・・?」
 小さく微笑むますみの言葉に、ハルが照れ笑いをもらす。
「そ、それよりも、ますみは何を考えていたんだ?」
 今度はハルがますみに問いかける。ますみは笑みを消さずに、
「実はルイさん・・」
「ルイ?ユキの姉さん・・部屋に来てた人のことか?」
「うん。実はそのルイさんが・・トランプメンバーのスペードだったんだ・・」
「何・・・!?」
 ますみの言葉にハルは眉をひそめる。
「ルイさんもあたしを狙ってるみたいなの。でもあたし、戦えないよ。ルイさんはユキちゃんのお姉ちゃんなんだよ。もしもルイさんを倒しちゃったら、ユキちゃんは・・・」
 ますみはルイと戦うことをためらっていた。
 ルイはトランプメンバーの1人。並みの能力者ではない。仮に彼女を倒すことができても、そのときはユキを悲しませることになる。
 今のユキにとって、姉であるルイが心の拠り所となっていた。
「ユキに真実を伝えても、おそらく気持ちは変わらないだろうな。それどころか、彼女がASEに加わる危険まで出てくる。」
「そんな!ユキちゃんが・・・!」
 淡々と告げるハルにますみが声を荒げる。
「落ち着け。あくまで可能性の問題だ・・・とにかく、何をしてくるか、警戒しつつ様子を見たほうがいい。ルイも、ユキも・・・」
 真剣な眼差しを送るハルに、ますみは何とか迷いを振り切って小さく頷いた。打つ手が見出せないので、とりあえず様子見を試みるという平凡な結論に落ち着いたのだった。

 その頃、ユキとルイは後片付けを終えて、2人だけでの談話を始めていた。
「ホント、久しぶりだよ、お姉ちゃん。こうして2人で話をするの。」
「そうだねぇ。ホントに悪かったねぇ。こんなに好き勝手やっちゃって。ユキにいろいろ心配かけちゃって。」
 微笑むユキに、ルイが思わず苦笑いを浮かべる。彼女の反応にユキも笑みをこぼす。
「お姉ちゃん、何をしていたの?」
「えっ?」
 唐突なユキの問いかけに、ルイが疑問符を浮かべる。
「いやぁ。ただ勝手気ままにやってただけだよ。いろいろ仕事もやってたから、空腹には特に困らなかったなぁ。」
「そう、なんだ・・・」
 ルイの言葉に、ユキが一瞬きょとんとなる。
「それにしても、ユキはずい分と成長したね。これだけ時間がたってるんだから、変わるのは当然かな?」
「そんなことないよ。相変わらず家事ができないし、子供染みてるし・・・」
 微笑むルイにユキが苦笑いする。するとルイが突然、ユキの胸に手を当ててくる。
「ち、ちょっと、お姉ちゃん・・・!?」
「けど体は大きくなるもんだよ。成長期だからね。」
 赤面するユキの胸を触りながら、ルイが満面の笑みを浮かべる。いやらしい気持ちではなく、妹の成長を喜んでいた。
「アンタはあたしがいなくても、十分に生活してきたわけだ。」
「お姉ちゃん・・・?」
 ぶっきらぼうに大笑いを浮かべるルイ。しかし彼女の意味深とも思える言葉に、ユキは困惑を浮かべていた。
「お姉ちゃん・・・」
「ん?」
 ユキが声をかけ、ルイが振り向く。
「ずっと・・私のそばにいてくれるよね・・・?」
 不安を抱えながら、ユキが問いかける。これ以上、姉と離れ離れにはなりたくなかった。
「一緒にいたいっていうのがあたしの本音なんだけど、あんまり保障できないかもね。」
「お姉ちゃん・・・」
 苦笑いを見せるルイに、ユキは当惑する。もしかしたら2度と会えなくなるのではないかというさらなる不安に、ユキは心を痛めたのだった。

 トランプメンバーの集まるカフェバー。ユキとの再会を楽しんだルイは、その翌日、マスターの呼び出しでここに来ていた。
「あたしを呼び出して、いったい何の用なの?」
 ルイがぶっきらぼうな態度を見せると、マスターは妖しい笑みを浮かべてきた。
「ずい分と仲がいいのね、ますみと。」
「まぁ、仲を取り持ったほうが、あの子も迷いが出てくる。マスターも悪い気分じゃないんでしょ?」
「ンフフ、ま、確かに相手が不利になる状況ができるのは、こちらが有利になって面白いけどね。」
 問いかけるルイに、マスターがさらに笑みをこぼす。
「それで?そろそろますみと戦うんでしょ?」
 マスターの問いかけに、ルイは気さくな笑みを見せる。これを肯定と取って、マスターはさらに続けた。
「あなたはトランプメンバーの中でも最高位のスキャップよ。あなたの好きにするといいわ。それに、私は少し大掛かりなことを始めるから。」
「大掛かりなこと?」
 マスターのこの言葉に眉をひそめるルイ。しかしマスターは微笑をもらしたまま答えない。
 その答えを聞かずに、ルイはこのバーから出た。
(ますみちゃん・・アンタなら、あたしを、マスターを超えられる。そして、ユキを幸せにしてくれる。あたしは、そう信じる。)
 決意と希望を胸に秘めて、ルイは戦いに赴くのだった。

 ユキが買い物に出かけてから数分後、ますみのいる寮の部屋に、ルイがやってきた。相変わらずの気さくな態度を前に、ますみは困惑を隠せなかった。
「覚悟はできてるかい?」
 ルイが突然真剣に問いかけ、ますみは何とか迷いを振り切ろうとしながら立ち上がる。すぐに部屋を出たルイに、彼女もついていく。
 2人がやってきたのは、人のいない工場跡地だった。砂煙がそよ風に吹かれて舞い上がっていた。
「あたしを倒すつもりですか、ルイさん?トランプメンバーのスペードとして。」
「そうだとしたらどうするの?」
 互いに問いかけるますみとルイ。まだ戦う意思を見せないますみを前にして、ルイは意識を集中する。
「あたしを倒せない限り、マスターを倒すことはできないよ。あの人は普通のスキャップが集まっても敵わないくらい強いからね。」
「そんなに強いんですか・・・ASEのマスターは・・?」
 不安を浮かべるますみだが、ルイは顔色を変えない。
「アンタがあたしを倒さないと、ユキを守ることさえできなくなるかもしれないよ。」
「あぁ、確かに。」
 ルイの指摘に答えたのはますみではなかった。2人が振り返った先には、真剣な眼差しを送る幻の姿があった。
「幻ちゃん・・!?」
「アンタ、たしか、鳳幻くんだったよね?」
 驚くますみをよそに、ルイが幻に訊ねる。幻は真剣な面持ちを崩さずに頷く。
「あなたはユキさんの姉として、ますみに彼女を頼もうとしている。そしてあなた自身は、トランプメンバーの1人として、ますみに倒されようとしている。違いますか・・・!?」
「えっ・・・!?」
 幻の言葉にますみが驚愕の声を上げる。彼の言葉をルイは否定しなかった。
 彼女の考えていたことは、まさに彼が言ったことそのままだった。自らをますみに倒させ、ますみ、ユキに強くなってほしいと思ったのだ。
 その真意を確かめるためには、手加減はしないで、あえて全力を出す必要がある。ますみにマスターを倒させるために、彼女はその踏み台になろうとしていた。
「戦いに迷うのはいけないよ。たとえどんな相手でも、どんな状況でも。」
「ルイさんの言うとおりだ。ここは迷ったり手抜きをしたりするところではない。」
 ルイと幻が真剣に言いかける。しかしますみの当惑は消えない。
「でも、それじゃユキちゃんが・・・」
「ユキは何かと甘える傾向があるのよ。あたしに対しても、ますみちゃんに対しても。だから1人でも頑張れるようになってほしいの。せめて助けを借りるのをフブキだけにしてほしいのよ。」
 あくまでユキに強くなってほしいという願いを、ルイはますみに託していた。
 トランプメンバーのスペードとしてASEに身を置きながら、彼女はユキの姉として精一杯努めていた。
 妹に弱い人間にもASEのような悪人にもなってほしくない。それらに立ち向かう勇気を持ってほしかったのだ。
「ASEのメンバーは、生きて組織を出ることは許されない。あたしの代わりに、アンタがユキを強くしてほしい。」
「ルイさん・・・」
「アンタが、可能性だって信じてる・・・」
 困惑するますみに、ルイが優しく微笑みかける。
「ユキには、あたしはまた旅に出ましたって伝えといてくんない?」
 苦笑いを浮かべるルイに、ますみは困惑を抱えていた。しかし、彼女やユキのためだというなら、もう迷っている場合じゃない。
「分かりました、ルイさん・・もう、迷いません!」
「うん。けど全力で行くからね。」
 言い放つますみに、ルイが笑みをこぼして頷く。
「ますみちゃん、あたしを倒して。全力のあたしに勝って、強くなって・・」
 切実な願いを告げて、ルイが意識を集中する。ますみも同様に意識を集中する。
「クラウン!」
「アリス!」
 2人の呼びかけで、それぞれのスキャップ、白い少年と金色の女神が姿を現す。クラウンもアリスも、真剣な面持ちで互いを見つめていた。
「すまないがオレはここにいさせてもらう。たとえ邪魔と罵られようとも、この戦いを見届けておきたい。」
 幻が2人に言いかける。心身ともに強くありたいと思っている彼にとって、この戦いに立ち会いたかった。
 これはスキャップ同士の力ではなく、ますみとルイ、2人の心の強さが問われる戦い。幻はそう悟っていた。
「いよう。確か、クラウンって言ったっけ?どんな力と効果か、直に見させてもらいましょうか。」
 普段と同じような気さくな笑みをクラウンに送るルイ。
「ますみ、ずい分と明るくて気さくな人だね。」
 彼女の言動に、クラウンも半ば呆れた面持ちを見せていた。

 霜月学園の理事長室。そこで理事長が恐怖を浮かべていた。
 彼女の眼の前には1人の女性が立っていた。白く長い髪をした、幽霊とも思える女性である。
「あ、あなたが・・どうしてここに・・・!?」
 理事長が後ずさりしながら、その女性に声をかける。すると女性は妖しい笑みを浮かべてきた。
「悪いけど、これからこの学園の理事を私に任せてもらえないかしら?」
「な、何をバカな・・・!」
 女性の言葉に理事長が声を荒げる。しかし女性は笑みを消さない。
「私たちASEは今、この学園が必要なのよ。その理事を務めたいと言っているのよ。」
「ふざけないでください!あなたのような方に、この自由と健全にあふれた霜月学園を委ねるわけにはいきません!」
 女性に対し、何とか勇気を振り絞る理事長。しかし女性の前ではただの虚勢でしかなかった。
「そう?それじゃ、強行手段に出るしかないわね。」
 そういうと女性は意識を集中する。すると彼女の背後から、同じような白髪の女性が姿を現した。
「さぁメフィスト、今度はあの人の番よ。」
「分かったわ、リリス。」
 女性、リリス・フェレスの指示を受けて、メフィストが微笑んで頷く。そして不安の面持ちを見せている理事長の前に立つ。
 メフィストが額の第3の眼を開き、理事長を見つめる。すると理事長が、胸を締め付けられるような感覚に襲われる。
 彼女の手足が灰色の石に変わり始める。その変貌にさらなる恐怖を感じる彼女を、リリスとメフィストが妖しく微笑む。
「そう。そういう顔を見るのが好きなのよ。自分の体が人間のものでないものに変わっていって、それを見て怯えだす姿がたまらないのよ。」
 歓喜をあらわにしながら、石化と恐怖に包まれていく理事長。もはやその2つに抗う意思さえ浮かべていた。
 その恐怖の表情を浮かべたまま、彼女は灰色の石像と化した。
「これでこの学園の理事を務める人間はいなくなった。あとは適当な理由を作って、私がその理事を請け負えばいい。」
「そうね、リリス。これでスキャップの支配の第一歩となるわけね。」
 石像の彼女を見つめて、リリスとメフィストが妖しく微笑む。
「この学園を新しい拠点として、私が世界を支配するのよ。普通の人間も、スキャップも。」
 巨大な企みを抱いて、リリスが笑みを浮かべていた。

つづく

Schap キャラ紹介20:一色 伊奈
名前:一色 伊奈
よみがな:いっしき いな

年齢:21
血液型:B
誕生日:11/27

Q:好きなことは?
「ダンスと喫煙や。」
Q:苦手なことは?
「堅苦しいのは苦手や。」
Q:好きな食べ物は?
「お好み焼き。もちろん大阪風のや。」
Q:好きな言葉は?
「THE VERY BEST OF THE WORST(最低の中の最悪)」
Q:好きな色は?
「オレンジとゴールドや。」


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