Schap ACT.14 truth

作:幻影


「アインスくん、これはどういうことだ!?」
 幻がアインスに向けて問いつめる。しかしアインスは微笑を消さない。
「どういうことだと聞かれても、この通り・・」
 呟きながら、アインスが氷月を振りかざす。冷気を放出させると、周囲の木々が一瞬にして白く凍結される。
「あなたたちを凍てつかせるのが、私の目的よ。でも伝達されている本当の目的は、ますみさんだけで十分なんだけどね。」
 アインスに指摘されて、幻が視線を移す。ますみは困惑の面持ちのまま、その場に立ち尽くしていた。
「さて、できることなら2人一緒に凍らせたいところね。」
 アインスが微笑みながら、氷月の切っ先を幻からますみに移していく。
「もしもお前がオレを相手にするならば、オレは手加減せんぞ。」
 幻がアインスを鋭く睨みつけて、動きやすいよう、制服のジャケットのボタンをひとつずつ外していく。
「ダメ!幻ちゃん!」
 そこへますみが慌しく飛び出し、覇気を放っていた幻の腕をつかむ。
「幻ちゃん、こっち!」
「お、おい、ますみ!?」
 疑念を抱く幻を力の限り引っ張るますみ。2人は氷月を構えていたアインスから遠ざかっていく。
「逃げてしまうのね。ではゆっくりと追い詰めていきましょうか。」
 微笑をもらしながら、アインスはゆっくりとますみと幻を追った。

 トランプメンバーの集まるカフェバー。そこにレオナは戻ってきていた。
 そこには1人の少女がいた。雲のようにふわりとした白く長い髪をした10歳前後の女の子で、ひとつの水晶で遊んでいた。
 その中には、人間と思しきものが入っていた。
「何だ、ダイヤ。戻ってきていたのか。」
「うん。ちょっと女の人たちと遊んできた。みんなあたしの水晶に入れてきたけど、何人か落として壊れちゃった。」
 レオナの問いかけに、ダイヤは淡々とした口調で答える。
「もしかしてそれが急用なのか?マスターが聞いたら怒るぞ。」
「あたしがやりたいことをやっただけ。別にそれがマスターの考えと違ってるとは思わないよ。」
 嘆息しながら言うレオナに対し、ダイヤは言動を変えない。
「レーザーを当てた相手を水晶に封じ込めるスキャップの力は相変わらずだな。」
「うん。またあたしの遊び相手ができたよ。」
「そうか。それじゃターゲットの相手は、引き続きオレがやっておこうか。」
「えっ?クローバー、誰かと遊ぶの?」
 レオナがぼやくように呟くと、ダイヤが満面の笑みを向けてきた。それを見たレオナは、
「分かったよ。それじゃ、あの男とちょっとだけ遊んでやってくれ。」
「男の人?」
 ダイヤがきょとんとしていると、レオナは小さく頷いた。

 街から少し離れた場所に位置する公園に、ますみと幻は逃げてきた。全速力で駆けてきた彼女は大きく息をついていた。
「ハァ・・ハァ・・何とか逃げられたね・・」
 何とか笑みを作ろうとするますみ。しかし彼女の視線の先の幻は、鋭い眼つきをしていた。
「なぜ逃げる必要があった!?彼女は・・アインスくんはどうしたんだ!?」
 困惑しているのか、それとも憤慨しながら疑念をぶつけているだけなのか。幻がますみに問いつめる。
「いったい何者なんだ!?あの氷の刃は!?・・まさか、妖怪や物の怪の類だとでも・・!」
「違う!」
 憤りをあらわにする幻にますみが言い放つ。
「違う!違うよ・・・!」
 彼女の必死の抗議に、幻は思わず押し黙ってしまう。
「あれは妖怪でも何でもないの。あれは・・」
「そう。ますみんの言うとおりだよ。」
 言いかけたますみをさえぎって、横から声をかけてくる人がいた。彼女と幻が振り向くと、公園の入り口に1人の少女が立っていた。
「デュールちゃん・・・!?」
「やぁ、ますみん、久しぶりだね。」
 戸惑いを見せるますみに、デュールが満面の笑みを見せて手を振る。
「知り合いなのか・・?」
 幻が唐突に問いかけると、ますみは小さく頷く。するとデュールが幻に視線を移して、
「まぁ、知り合いといったら知り合いかな?」
「まさかお前も、先ほどのあの出来事やアインスくんについて、何か知っているのか?」
 無邪気に微笑んでいるデュールに、幻が困惑しながら問いかける。
「まぁね。でもあんまり教えたくないなぁ。この戦いは君の手に余ることだからね。ますみんが教えたがらない意味も入れたらなおさらだよ。」
「何ぃ!?ますみが・・!?」
 答えようとしないデュールの言葉を耳にして、幻がますみに振り向く。ますみは未だに困惑の面持ちを見せていた。
「さて、私は遠くから見守ることにするね。ますみん、後はお任せ。」
 デュールはそう告げると、背後に桃色の河馬、メルディが桃色の霧を吐き出す。
「待て!」
「幻ちゃん!」
 彼女を追いかけようとする幻。しかしますみが彼を止める。その直後、デュールの姿は晴れた霧から姿を消した。
「ますみ、なぜ止める!?」
「幻ちゃん、あの霧に触ったら石になっちゃう!それがあの子の力なんだよ!」
「あの子の・・力・・・!?」
 ますみの言葉にまたも眉をひそめる幻。
「そう。その霧があのスキャップの効果というわけか。」
 その疑念に口を挟んできたのはアインスだった。彼女の声にますみと幻が振り返る。
「いい加減戦うことね、ますみさん。でないと・・・」
 微笑をもらす彼女に、ますみはどうしたらいいのか分からなくなっていた。

 その頃、帰宅途中の千尋は、1人で駆けてきた千沙と出会う。
「あれ?千沙ちゃん、出かけてたの?」
「うん。たまには外に出てみようと思って。お姉ちゃんは帰りなの?」
 千尋が頷くと、千沙は小さく微笑んだ。千沙の腕の中には、1体の着せ替え人形がいた。スキャップで人間が変えられたものではなく、ちゃんとした人形である。
「今日は特に買うものもないし、一緒に帰ろうね。それとも、何か買う?」
「ううん。一緒に帰ろう、お姉ちゃん。」
 千尋がたずねると千沙は首を横に振る。彼女と2人で一緒に帰路に着く。
 街から外れ、自宅の近くの道に差しかかった。そこで2人の足が止まる。
 2人の前に、1人の男が立っていた。しかしそれは外見上での見方で、実際には女性なのだが。
「京極扇の妹、京極千尋だな?」
 その女性、レオナが低い声音で問いかける。千尋は頷こうともせず、否定の反応も示さず、ただ困惑の表情を見せるだけだった。
「まぁいい。人質さえ取れば、扇に対する勝機が上がる。」
 レオナが右手を千尋たちに向け、意識を集中させる。
「ガードナー。」
 彼女の呟きの直後、銃砲、ガードナーが出現する。ガードナーの銃口が、2人の少女に向けられていた。

 出現させた氷月の切っ先を向けるアインス。ますみをかばうように、幻が前に出る。
「もう逃げられないと分かっている。オレは逃げるつもりはない。相手になってやる。」
 幻がアインスを鋭く見据えて構える。しかしアインスは微笑を崩さない。
「あなたの力量はある程度把握できます。しかし、それでも私には及びません。スキャップでない、あなたでは。」
 アインスが氷月を振り抜く。すると冷気が幻とますみに押し寄せる。
「ぐっ・・!」
 冷たい風を吹き付けられて、幻が眼を伏せてうめく。それでも前に出ようとするが、足が思うように動かない。
 視線を足元に向けると、氷に包まれている自分の両足が飛び込んでくる。
「あ、足が、凍り付いている・・!?」
 幻が凍てついた足を見て驚愕を覚える。
「幻ちゃん!」
 冷風が治まったところでますみが叫ぶ。幻は足の自由を奪われてうめいていた。
「だから言ったでしょう。あなたでは到底、私と戦うことさえできないと。」
 アインスが笑みを消して、氷月を構えなおす。
「さぁ、あなたのスキャップを見せなさい、ますみさん。でないと、私は鳳くんの息の根を止めます。」
「えっ!?」
「なっ!?」
 アインスの忠告に、ますみと幻が驚愕の声をもらす。
「このまま体を凍らせ、強い衝撃を与えれば、鳳くんは粉々になるでしょう。そうなれば、たとえ私でも元に戻すことはできなくなるわ。」
 微笑をもらすアインスが再び氷月の切っ先を幻に向ける。
「ますみ、早く逃げろ!オレに構わず行け!」
「でも幻ちゃん!」
 幻の叫びに、ますみが悲痛の抗議をする。
「アインスくんがお前を狙っているのは明らかだ!早く逃げろ!ますみ!」
 幻はますみを逃がす思いでいっぱいだった。身動きが取れなくなった自分ができるのは、こうして促してやることだけだと彼は思っていた。
 しかしますみは違った。このまま幻を見捨てることはできなかった。
「幻ちゃんを助けて、クラウン!」
 真剣な眼差しを見せるますみの呼びかけを受けて、白い少年が姿を現す。クラウンは氷月を構えるアインスを見つめる。
「僕とますみと戦うために、普通の人にまで手を出すなんて、感心しないスキャップだね。」
「ようやく姿を見せてくれましたか。あなたがますみさんのスキャップですか。」
 互いに笑みを浮かべるクラウンとアインス。
「かわいらしいスキャップさん、あなたの力はどうなのかしら?」
 アインスは氷月をクラウンに向けて振りかざす。白く冷たい風が少年に向かって飛んでいく。
「クラウン!」
 ますみの呼びかけで、クラウンが両手を掲げる。石化を引き起こす波動が冷気を弾き飛ばし、氷のつぶてを石のつぶてに変えて、さらにアインスに向かって飛んでいく。
 冷気を収束させた氷月を構えて、クラウンの波動を防ごうとする。
(ぐっ!強い!)
 その強さに押されたアインスが、身をひるがえして波動から逃れた。標的を見失った波動は、その奥の木々の緑を灰色に変色させる。
 クラウンとますみが視線を移して、別の場所に着地したアインスを見据える。
「なかなかのものね。危うく氷月がやられるところだった。」
 アインスは氷月を消して、未だに動けずにいる幻に眼を向ける。すると彼の両足を凍てつかせていた氷が消失する。
「とりあえず鳳くんは解放するわ。でも次に会うときは、今度こそあなたを倒すわ、ますみさん。」
 そう言い残して、アインスは跳躍してその場から姿を消した。
 戦いがひとまず終わり、安堵の吐息をつくますみ。しかしその落ち着きがすぐに消える。
 振り返った先で、幻が困惑を見せていた。今まで見てきた彼女が、全くの別人になってしまった。そんな眼つきを彼はしていた。
「ますみ・・お前は・・・!?」
 その困惑を振り切ろうとしながら、ますみに声をかける。
「お前は人ではないのか・・お前から、この子供が・・・!?」
「幻ちゃん、これは・・」
 ますみが説明しようとしたとき、幻は彼女に背中を向ける。
「オレはまだまだ未熟、ということだ。アインスくんにも歯が立たず、逆にお前に助けられる始末。オレは己が情けなくて・・」
「違う!幻ちゃんは強いよ!ただ、これは・・」
「そんなのは関係ない。オレが無力な存在であることに変わりはない。」
 弁解しようとするますみだが、幻は聞く耳を持たず、そのまま歩き出した。2人の間にあった溝がさらに深まってしまった。
「幻ちゃん・・・」
 どうしたらいいのか分からず、ますみはその場に立ち尽くしていた。

 街の近辺の通りを走る1台のバイク。扇は1人、ツーリングをしつつ家に戻ろうとしていた。
 不快な思いをさせた相手、レオナを追い求めていた彼だが、彼女の行方や手がかりはつかめないままだった。
(レオナとかいうヤツ・・オレがゼッテーにブッ潰す!)
 胸中で敵意をたぎらせる扇。仲間を平然と切り捨てる相手を、彼は許すことができなかった。
 そんな憤りを抱えながら走行していると、道の真ん中に立っている少女を発見し、ブレーキをかける。
「おい、こんなとこに突っ立ってると危ねぇぞ。」
 扇がぶっきらぼうにその少女に言い放つ。すると少女は小さく微笑む。
「あなたが京極扇だね。あたしと遊んで。」
「あ?何言ってんだ?オレは小娘と遊ぶつもりはねぇ。早くどけ。」
 扇が促すと、少女は意識を彼に傾ける。すると彼女の手の中から透き通ったビー玉のようなものが出現し、そこから一条の光が彼に向かって飛んでいく。
 この玉こそ少女、トランプメンバーのダイヤのスキャップ、チェリッシュ・エナジー。放たれるレーザーのような光に貫かれたものは、全て水晶の中に閉じ込められてしまう。
 放たれた光は扇の胸を貫いた。しかしスキャップである彼には、その効果を受けなかった。
「そんなふうに誰かをやったってわけか。」
「そうだよ。チェリッシュ・エナジーで、みんな水晶に閉じ込めちゃうの。でもあなたはスキャップだからそれはできないけど。」
 扇の低い声音に、ダイヤは淡々と答える。
「そんなことより、いいこと教えてあげるよ。クローバーがさ、今あなたの妹と遊んでるみたいだよ。」
「何っ!?千尋がヤツと!?」
 ダイヤの言葉に扇が驚愕を覚える。
「今頃、ガードナーで妹が壁の中に埋め込まれちゃうよ。」
「くっ!」
 舌打ちする扇が、バイクのアクセルを全開にする。バイクの機体を転回させて、千尋に向かって走り出そうとしていた。しかしその前方に、ダイヤが立ちふさがる。
「悪いんだけど、あなたはあたしの遊び相手だから。」
「ケッ!小娘のくせに勝手を言ってくれるぜ。ブッ飛ばされたくなかったらそこをどけ!」
「ダメだよ。あなたはここであたしと遊ぶんだから。」
 いきり立つ扇を見つめながら、ダイヤがチェリッシュ・エナジーを掲げる。すると水晶に輝きが宿り、前方に道を塞ぐほどの光の壁を作り出す。
「水晶の光を持ったこの壁は、普通のスキャップじゃ壊せない。あなたはここであたしの遊び相手に・・」
「つまんねぇんだよ!」
 語りかけるダイヤの声を一蹴し、扇がナックルを装備した拳を、光の壁に向けて振りかざす。その激しい拳圧で、光の壁はガラスのように粉砕される。
「えっ?」
 あまりの出来事にきょとんとなるダイヤをよそに、扇は再びバイクを走らせた。

「お姉ちゃん、逃げて。」
 千沙が千尋に逃げるように促すが、千尋は困惑したまま動こうとしない。恐怖のあまりに動けないのだ。
「逃げてもムダだ。オレはお前を捕獲する。扇を倒すための切り札として。」
 レオナの意識を受けて、ガードナーの銃口が千尋を捉える。
 千沙が意識を集中して、スキャップ、マリーを呼び出そうとする。だがそこへレオナが間合いを詰めて、彼女の首筋に手刀を打ち付ける。
「千沙ちゃん!」
 千尋の眼下で、千沙は気絶させられてその場に倒れる。
「この娘も捕まえてもいいのだが、人質は1人で十分だからな。それに、この娘はそれほど力は高くない。」
 倒れている少女を見下ろして、レオナが呟く。
「千沙ちゃん!」
 千尋がたまらず千沙に駆け寄ろうとする。それをレオナは見逃さなかった。
「ガードナー。」
 彼女の呟くような指示を受けて、ガードナーの銃口から閃光が放たれる。閃光は千沙に近づこうとしていた千尋の体を包み込んだ。
 千尋は自分から何かが抜け出て、それで体が固くなっていくような感覚に襲われた。光に束縛されたように、自由に動くことができなかった。
 光は徐々に彼女の体を浸食し、赤茶けた硬質に変えていく。しかし彼女はそれほど辛さは感じていなかった。
 ガードナーのカーボンフリーズが行われる際、対象の中にある二酸化炭素が強制還元される。その炭素だけが凝固されるため、中には酸素だけが残る。人間の活動のエネルギー源のひとつである酸素の蓄積で、千尋は心地よさを感じていたのだった。
 しかし別のものに変えられていく恐怖が強く、快楽はそれをわずかに和らげるしかなかった。
「お・・おにい・・ちゃん・・・」
 兄のことを思いながら、千尋は意識を失った。その直後彼女を完全に包み込んだ光がまばゆいばかりの輝きを放つ。
 やがてその光が治まったその場所には、壁に埋め込まれた形のまま固まった千尋の姿があった。彼女は虚ろな表情のまま、ガードナーのカーボンフリーズに落ちたのである。
「これで妹は私の手中に落ちた。また、オレのコレクションにするにも十分価値がある。だが・・」
 固まった少女の頬にそっと手を当てるレオナが、不敵な笑みを浮かべて振り返る。そこには、丁度バイクで駆けつけた扇の姿があった。
「彼女の利用価値は、彼女の兄に対して最大のものとなる。」
 レオナが不敵な笑みを浮かべて、メットを取る扇に不敵な笑みを向ける。彼は変わり果てた千尋に驚愕した直後、憤りに顔を歪める。
「テメェ・・ここまでナメたマネを・・・!」
「そう焦るな。お前の家の前を戦いの場にしたくはないだろう?」
 レオナは壁に埋め込まれた千尋に触れたまま、ガードナーとともに姿を消した。
「千尋!」
 扇がバイクから降りて駆け出そうとしていたときには、既に彼女たちの姿はなかった。
 扇とレオナ。2人のそれぞれの挑戦の幕が切って落とされた。

つづく

Schap キャラ紹介14:レオナ シュナイダー
名前:レオナ シュナイダー
よみがな:れおな しゅないだー

年齢:19
血液型:B
誕生日:12/27

Q:好きなことは?
「射撃だな。銃の種類、系統は問わない。」
Q:苦手なことは?
「いい人ぶってるヤツは目障りだ。」
Q:好きな食べ物は?
「ビター味のものなら何でも好きだ。イライラしたときなんかに丁度いい。」
Q:好きな言葉は?
「勝利」
Q:好きな色は?
「黒」


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