作:幻影
クラウンのことを幻に知られてから翌日。
幻は午後の稽古に打ち込んでいた。しかしいつもの彼とは雰囲気が違っていた。
何かを思いつめていて、その迷いを打ち払おうとしているような気構えをしていた。
それを先輩や他の部員たちも気おされるほどだったという。
彼はますみの真実とスキャップの存在に困惑していた。自分よりも能力の高い存在。不可思議なものは信じない彼だったが、眼に映った現実は受け入れるしかなかった。
そんな非現実的とも思える現実と彼自身の現実感が交錯し、彼に強い迷いを引き起こしていた。
そんな彼を、ますみは影から見守ることしかできなかった。彼の迷いの引き金となったのは自分なのだから。
「どうしたの、ますみ・・?」
そこへユキが立ち寄り、ますみに声をかけた。振り返ったますみがひどく困惑しているのを見て、ユキも戸惑った。
「昨日、鳳くんに呼ばれてたけど、何かあったの・・?」
ユキが沈痛な面持ちでますみに問いかける。するとますみは小さく頷いて、道場前から離れていく。幻の姿を見送ってから。
幻もますみが立ち去っていくのを眼に入れていた。しかしあえて気付かないふりをした。
「えっ!?バレた!?」
高等部の校舎裏にて事情を話したますみに、ユキが思わず驚きの声を上げる。ますみに慌しく人差し指を押し当てられて、ユキはしまったという顔を見せる。
「ゴ、ゴメン・・でも、ホントに知られちゃったの、鳳くんに・・?」
「うん・・幻ちゃんが危険になって、それで思わずクラウンを呼び出しちゃったのよ。それで幻ちゃん、自分が弱いって思い込んじゃって。多分それであんな感じになっちゃったと思うの・・」
互いに沈痛の面持ちになるますみとユキ。幻とのわだかまりを解消する解決策をなかなか見出せずにいた。
「とにかく、事情をよく話したほうがいいよ。どうしても聞こうとしないなら、力ずくにでも。でないとああいう人は、なかなか受け入れてもらえないと思うから。」
「ユキちゃん・・・」
ユキの励ましを受けて、ますみが笑みを作る。
「頑張ってね、ますみ。私はちょっと行くとこがあるから。」
「えっ?どこに?」
「うん、ちょっと病院に。そこで私の親戚の子が入院してるから、お見舞いに行ってくるね。でもそれが終わったら、すぐにますみのとこに行くから。」
そう言い残して、ユキは学園を後にした。ますみも彼女を見送ってから、幻のいる道場に戻った。
トランプメンバーのカフェバーで、レオナはコーヒーをたしなめながら休息を取っていた。そこへダイヤがつまらなそうな顔で戻ってきた。
「どうした、ダイヤ?あまりいい気分のようには見えないが?」
「うん。扇って人が遊んでくれずにすぐに行っちゃったから。でも、クローバーはちゃんと遊べたんだね。」
ダイヤが言うと、レオナは不敵な笑みを浮かべて立ち上がり、右手をかざした。そこにはガードナーによって炭素凍結されて壁に埋め込まれた千尋の姿があった。
「今回の戦利品だ。これを使って、京極扇を陥れて倒す。」
レオナは勝利を予感していた。確信に近かった。
扇の大切なものと思しき妹を手中に収めたことで、彼に対して絶対的ともいえる有利を獲得した。
「いいなぁ。あたしも遊びたいなぁ。」
「それなら、この子と遊んでみるといい。」
ため息混じりにダイヤが呟いたところで、アインスがバーに入ってくる。アインスはレオナとダイヤに1枚の写真を見せた。
「氷を使うスキャップの子よ。楽しんで来なさい。」
「うん、分かったよ。」
ダイヤはその写真を持って、1人でバーを出て行った。彼女がいなくなったところで、レオナがアインスに問いかける。
「ところで、お前のターゲットはどうした?」
「うん。面白い事態になってきてるよ。時期に追い詰められて、自分から私たちに戦いを挑むことを拒絶するようになる。私たちの仲間になるか、あるいは自らスキャップの破壊を望むか。」
「どちらに転がるとしても、彼女はこちらの手中に落ちると。」
不敵な笑みを浮かべるアインスとレオナ。
「この写真の子・・それがこの前、お前が気に入ったというスキャップか?」
「いや、神尾ユキではない。だからダイヤに譲ったのよ。」
アインスのこの言葉に、レオナは思わず苦笑を浮かべた。
「クフフ、食えないヤツだよ、お前は。」
街中にある展望ビルの屋上。関係者以外立ち入り禁止となっているその屋上には、1人の少女が写真を取っていた。
水色をメインにしたドレスを着用した水銀色の長い髪の少女。とてもビルに属する人とは思えないその少女は、屋上から様々な立ち位置、様々な角度から写真を撮っていた。
実際、展望できる場所として設置されているのは、屋上の1つ下の階である。しかし彼女は構わずに、屋上で撮影を続けていた。
「今回はこのくらいでいいかな。」
カメラの電源を切って、この場を後にしようとする少女。
そこへこのビルで働いていると思われるOLが2人、この屋上にやってきた。休憩を利用してやってきたのだろう。
「あっ・・!」
少女はしまったと言わんばかりの顔を浮かべる。OLたちも少女を見て、思わず唖然となる。
「見られちゃったよ〜・・」
気の抜けた声をもらした直後、少女は両手をOLたちに向けてかざした。その手のひらから猛吹雪が放たれ、唖然の表情のままのOLたちを氷漬けにする。
「ふう。これで一安心っと。それじゃ、今度こそ戻らないと。また心配かけちゃうと悪いもんね。」
そういって少女は飛び上がる動作を見せた直後、姿を消した。
街と霜月学園の中間にある霜月病院。様々な看護施設の整った病院にユキはやってきていた。
見舞いに行く当ての病室に行く途中のことだった。角を曲がろうとしたところで、
「うわっ!」
1人の少女が曲がってきたユキに飛び込んできた。正面衝突して、2人ともしりもちをつく。
「アタタタ・・もう、ちゃんと前見て・・・あれ?カナデちゃん?」
「あうえう〜・・・えっ?ユキちゃん?」
互いの顔を見つめてきょとんとなるユキとカナデ。
「ちょっと、片桐さん!」
「あっ!いけない!」
そこへナースの声がかかると、カナデは慌しく立ち上がって再び駆け出した。
「カ、カナデちゃん!?」
ユキの呼び止めも聞かず、カナデは走り去ってしまった。その直後、彼女を追いかけてナース2人が通り過ぎていった。
それから2分後。カナデはナースに腕をつかまれながら、病室に引き戻されていった。
片桐(かたぎり)カナデ。ユキの親戚の娘で、とある病気からこの霜月病院に入院している。
しかし時折病室を抜け出そうとしては、いつもナースたちに連れ戻されている。長い入院生活が続いているため、ひねくれていると思う人もいた。
今回も連れ戻されたところで、ユキが改めてカナデのいる病室に入った。
「今日もまた抜け出そうとしたの、カナデちゃん?」
ベットのふとんにうずくまっているカナデに、ユキが挨拶をする。するとカナデがふとんから顔を出して、満面の笑みを見せてきた。
「ちょっと外に出てみたかったんだけど、今日もまたナースに捕まっちゃった。」
微笑むカナデに、ユキは少し呆れた顔を見せる。
「あまりムチャしないでよ。カナデちゃんは心臓の病気なんだから。」
ユキがそういうと、カナデはムッとする。
彼女の長い入院生活は、重い心臓の病気が原因だった。だから医者たちは、何度も病室を抜け出す彼女の行為を快く思っていなかった。
「でも、こうして捕まっちゃうのも、何気に気分がよかったりもするんだよね。」
「迷惑もかかってるよ。いつか元気になるときがくる。そのときまで、外で遊ぶのはお預けね。」
互いに笑みをこぼすユキとカナデ。
「あっ、これから用事があったんだった。ゴメンね、カナデちゃん。」
時計を見たユキが、苦笑いを浮かべる。するとカナデは微笑んで、
「ううん、いいよ。今日もありがとうね、ユキちゃん。じゃあね。」
「それじゃ、またね。」
カナデに挨拶を交わして、ユキは病室を出た。
それから数分後、カナデのいる病室の窓に1人の少女の姿が現れた。
「ただいま、カナデ。今日もいい写真が撮れたよ。今日はビルで学校の方向を写してきたよ。あ、でも人間に見られちゃって、凍らせて逃げてきちゃった。テヘヘ。」
「えっ?また?んもう、しょうがないんだから、ヒナは。」
苦笑いを見せる少女、ヒナに呆れた面持ちを見せるカナデ。
ヒナは氷漬けの効果を持ったカナデのスキャップである。ヒナは病院から出れないカナデの代わりに外に出て、その風景の写真を撮って回ってきていた。
しかし時々誰かに見られてしまうと、その人を凍らせて逃げることもあった。その度にカナデに怒られていたが、ヒナはそれも楽しいことと感じ取っていた。
「それで、その人たちは元に戻してきたの?」
「あっ・・・」
カナデのこの言葉に、ヒナが唖然となる。
「んもう、いいよ。私が戻すから。」
「ゴメンね〜、カナデ〜・・」
呆れるカナデ。涙眼になるヒナ。
カナデは意識を集中して、ヒナがかけた凍結を解除する。それを終えて、彼女はため息をひとつもらす。
「これで大丈夫よ。あうえう〜・・ヒナのしたことが迷惑をかけてるんだから・・」
「そういうカナデだって、病院を出ようとしてナースたちに迷惑かけてるくせに・・」
珍しく意見してくるヒナに、カナデはさらに呆れだす。それを見てヒナも気まずそうな顔になる。
「あうえう〜・・」
気の抜けた声を、2人は病室でもらしていた。
この日の空手部の稽古を終えた幻。着替えを終えて校舎から出ようとしたところで、彼はますみの姿に気付く。
しかし彼はあえて気付かないふりをして、そのまま立ち去ろうとする。
「待って、幻ちゃん!」
そこへますみが幻を呼び止める。それでも彼は止まらなかったので、彼女は背後から彼を抱きしめた。
「幻ちゃんが自分のことをどうしても弱いって思うなら、もうあたしはそれを否定しない。でも、せめてあたしの話だけでも聞いて。」
悲痛の思いで幻に呼びかけるますみ。しかし幻の顔色は変わらない。
「聞いてどうしろというんだ?聞いて、お前の摩訶不思議な力を受け入れろとでもいうのか?」
「違うよ。ただ聞いてもらいたいだけ。受け入れるかどうかは幻ちゃんの自由だよ。」
突き放そうとする幻に、ますみは笑顔を見せる。彼女は彼を信じてあげたかった。
それを悟った幻は、ひとつ吐息をつく。
「とりあえずは聞いておく。」
呟くようにいうと、ますみは頷いてみせる。
彼女はスキャップと、それに関連することを知ってる限り話した。
スキャップは能力者の分身であり、石化や凍結といった効果を持っている。しかしスキャップが破壊されると、その効果が能力者を永続的に束縛する。
スキャップの戦いは、まさに命がけの戦いであることを伝えた。
「なるほど。とんでもないことに巻き込まれているようだな。」
「うん。何度かクラウンを固められちゃったことがあったけど、いつもお情けで助かってる。もしそれがなかったら、あたしはここにはいなかったかもしれない・・」
渋々納得の様子を見せる幻。悲しい笑みを見せながら、ますみは話を続ける。
「幻ちゃんはそんな力がないから弱いって言ってると思うんだけど、あたしもけっこう弱かったりするんだよね。そんなとき、幻ちゃんやみんなを見習ったりするときもあるんだよね。」
苦笑いさえみせる彼女の心境を、幻は薄々感じ取っていた。彼女は自分を弱いという。彼も自分を弱いという。互いが自分を弱く見ていたことを悟って、さらに困惑を感じ取っていた。
「今はどうしたらいいのかよく分かんないけど、少しでも強くなりたいと思うの・・・」
ますみの願いは純粋だった。しかしそれとは裏腹に、気持ちの整理はついていなかった。
「思いひとつで強くなれると思うよ。」
「えっ?」
そこへクラウンの声がかかり、ますみが驚きの声をもらす。その直後、彼女たちの前に白い少年が姿を現す。
「お前・・・!」
幻が眼を見開くと、クラウンは笑みをこぼす。
「本当の強さっていうのは、力が強いとか弱いとかじゃなくて、自分の心を貫き通すことじゃないかな?」
無邪気な笑顔を見せるクラウン。それを見てますみと幻は、心の中にあったわだかまりが和らいだように感じた。
「そう。最も戦いを左右するのは自分の意思。」
その声に3人が振り返る。その先には、氷月を構えたアインスの姿があった。
「しかし今のあなたたちには、確立した意思が欠けている。そんな状態では、私と戦うことさえできない。」
「そんなことない!あたしも、あたしも・・!」
ますみはアインスの言葉を振り払おうとしながら、クラウンに意識を傾ける。クラウンはアインスに向けて石化の波動を放つ。
それをアインスは氷月を振るい、簡単に弾き返してしまった。
「そんな・・!?」
「だから言ったわよね?強き意思がないあなたは、スキャップにその弱さが伝達させてしまっているのよ。」
動揺を見せるますみに、アインスは淡々と告げていた。
扇は今、廃工場近くの河川を訪れていた。憤りを感じていた彼に、レオナからの呼び出しがあった。
罠であることは間違いないと彼は思っていた。しかし千尋を助け出すため、彼はあえてこの罠に飛び込んだのだった。
「おいっ!誘いに乗ってやったんだ!さっさと出て来い!」
扇がレオナに向けて叫ぶ。必ず近くにいると思っていた。
どこかで不意打ちを狙ってくるかもしれない。彼は身構えながら、レオナの行方を探った。
「そんなに張り詰めなくても、オレは不意打ちなどしない。」
そこへレオナが姿を現し、扇が振り返る。彼女は不敵な笑みを浮かべて彼を見据えていた。
「おい、テメェ・・千尋はどこだ!?教えねぇとブッ潰すぞ!」
いきり立つ扇に、レオナが哄笑を上げる。
「そう興奮するな。不意打ちなんてしたら、わざわざ人質を取った意味がなくなるからな。」
レオナがそういうと、彼女の後方に1枚の壁が出現する。炭素凍結された千尋だった。
「千尋!」
扇が叫ぶと、レオナがさらに哄笑を強める。
「大人しくオレの言うとおりにしたほうがいい。妹を粉々にすることだって造作もないことだ。壊れてしまったら、いくらオレでも元に戻せなくなるからな。」
勝気な態度を見せるレオナに、扇はただ毒づくしかなかった。
「まずお前のスキャップを出せ。それを破壊したら、妹のカーボンフリーズを解除してやる。」
レオナが扇に要求を突きつける。しかし扇はそれを受け入れることを拒んでいた。
彼は他人に命令されるのを極端に嫌っていた。しかし妹を助けようとする思いと交錯して、彼は葛藤に陥っていた。
「素直に聞く気になれないか。ならば言葉ではなく、実演で証明するしかないか。」
「何だとっ!?」
レオナの言葉に扇が眼を見開く。彼女が意識を集中すると、横に彼女のスキャップ、ガードナーが出現する。
ガードナーは銃砲を反転させ、銃口を千尋に向ける。
「千尋!」
「このガードナーの攻撃はカーボンフリーズだけではないぞ。強烈な空気砲も撃つことが可能だ。それを受ければ、カーボンフリーズされたヤツは確実に粉々に粉砕される。」
叫ぶ扇にレオナが言い放つ。彼女の意思ひとつで、炭素凍結されている千尋が破壊されてしまう。
苦悩した挙句、扇は意識を集中させてスキャップ、ナックルを呼び出す。メリケンサック型のスキャップが、彼の右手に装備される。
「よし。後はそれをガードナーにかざせ。それでお前は終わりだ。」
「やめろ!」
そのとき、不敵な笑みを見せたレオナに声がかかる。直後、ガードナーに向けて一条の光が飛び込んでくる。
それに気付いたレオナがガードナーを操作する。ガードナーは巨体とは思えないような飛び上がりで、その閃光をかわす。
轟音を上げながら着地するガードナー。レオナと扇が振り返ると、そこにはハルと、彼女のスキャップ、ラビィの姿があった。
ラビィは跳躍してレオナの眼前に飛び込む。そして壁に埋め込まれている千尋を運び、元の場所に戻る。
「わざわざ言うことを聞いてやる必要はないぞ!聞いたところで、ヤツは妹を解放するつもりなどなかったはずだ!」
言い放つハルに、レオナが毒づいて舌打ちする。千尋を助けられたにも関わらず、扇は苛立った様子を見せていた。
「ケッ!余計なことを・・まぁいい。テメェよりも今はそいつだ。」
愚痴をこぼす扇が、視線をハルからレオナに移す。打開策を失ったレオナが、ガードナーの銃口を、身構えた扇に向けた。
Schap キャラ紹介15:片桐 カナデ
名前:片桐 カナデ
よみがな:かたぎり かなで
年齢:15
血液型:A
誕生日:3/13
Q:好きなことは?
「野球観戦とゲーム。」
Q:苦手なことは?
「電気とかしびれるのはイヤ。」
Q:好きな食べ物は?
「炭酸系のジュースかな。」
Q:好きな言葉は?
「先手必勝。これに限るね。」
Q:好きな色は?
「ヴァイオレッド」