Schap ACT.13 twin

作:幻影


 激情に駆られた扇が、舞と萌に向かって拳を振り上げた。
「あたしからやっていいかな、舞姉ちゃん?」
「いいけど。あんまり遊びすぎちゃダメだよ。」
「うん、分かってる。」
 萌と舞が語りかけ合う。それが扇の感情をさらに逆なでする。
「なめんじゃ、ねえ!」
 ナックルを装備した拳を繰り出す。舞と萌は分断してそれをかわす。
 萌は反転して、意識を集中する。両手に集中させた光が、銀色の弓として具現化される。
「行くわよ〜、あたしのスキャップ、シルバーライトニングアロー!」
 言い放つ萌が、扇に向けてスキャップの弓を掲げる。
「それがテメェのスキャップか。そいつで街のヤツらを銀にしたってわけか。」
 扇が不敵に笑って、萌の銀の弓を見据える。そしてそれを見守っている舞にも眼を向ける。
「テメェも似たようなヤツを使うんだろ?」
「まぁね。でもあなたの相手は萌だよ。」
 舞の言葉で視線を萌に戻す扇。萌はスキャップの弓を構え、光の矢を構えていた。
「その手にはめてるのが、あなたのスキャップね。本格的な的当てゲームってところだね。」
 萌が好奇心を見せながら、扇に狙いを定める。彼のナックルは小さく、攻撃時には金属化の効果の他に強烈な衝撃をももたらす。よってナックルだけを狙うのは並大抵の難易度ではない。
 しかし萌にとっては逆に喜ばしいことだった。困難であるほど、難関であるほど、彼女の心は躍らされるのである。
 1本目の銀の矢を放つ。スキャップの能力者に対してはその効果が無効であることは分かっていたが、扇はあえてそれをかわし、再び萌に飛びかかった。
 萌は素早い身のこなしで扇の拳をかわし、ナックルに向けて矢を構える。
「あまいんだよ。」
 そこへ扇が体を反転させ。その反動を生かして拳を繰り出す。矢を射かけた萌の右肩に拳が叩き込まれる。
「うわっ!」
 悲鳴を上げて吹き飛ばされる萌。扇が間髪置かずに追撃を繰り出す。
 そこへ金色の弾丸が2人の間に撃ち込まれ、その追撃を阻む。扇が足を止めて振り向くと、金色の銃を持った舞の姿があった。
「テメェ・・!」
「妹が危ないのに姉が助けないわけにはいかないからね。私のスキャップゴールデンショット。この金色の弾丸を撃たれたものは金に変わるってわけ。」
 微笑みながら、舞が扇に金色の銃口を向ける。しかしすぐにその銃を下ろす。
「といっても、不意を突いてもかすりもしなかった。だから私でも太刀打ちできそうもないわね。」
「フンッ!諦めたんならさっさと力を解いて失せろ。」
 扇が不敵な笑みを見せて舞に言い放つ。
「そう慌てないでよ。まだ諦めるなんて言ってないよ。」
「もしかして舞姉ちゃん、アレをやるんだね?やってあげようよ。あたしと姉ちゃんのホントの力をね。」
 舞が語りかけると、萌が頷いて飛び上がり、扇を飛び越えて舞の横に降り立った。
「スキャップの中にはね、特殊な力を持ってるのもいるんだよ。例えば、2つ以上のスキャップを合体させる、とかね。」
 舞がそういって金の銃を構えて、萌がその上に銀の弓を乗せる。すると2つのスキャップが光り出し、溶け込むように融合していく。
「何だ・・?」
 扇がその変化に眉をひそめる。金と銀の光がきらめき、やがて1つの銃砲へと形作られる。
「これが私たち姉妹のスキャップの結集、シルバルド!」
「これから発射する金と銀の砲撃は、受けたものを全部金と銀に変えちゃうのよ。でもまばらになっちゃうのが難点てところかな?」
 舞と萌がシルバルドを構えて、扇に言い放つ。
「これは固めるだけじゃない。集中させれば目標を壊すこともできる。」
「つまりどんなに小さいスキャップでも、一気に固めて壊すことができるってわけ。」
「フーン。」
 言い放ってくる舞と萌の話を、扇は淡々と聞いていた。
「ずい分と余裕あるんじゃない。でも、いくらあなたのスキャップでも、このシルバルドの攻撃には打ち勝てないよ。」
「あなたがどんなふうに固まるか、あたしたちがちゃんと見てあげるからね。」
 舞と萌がシルバルドの引き金に手をかける。銃口を向けられている扇は、身構えようとさえしない。
「もしかして諦めたとか?それもいいんじゃないかな?」
「それじゃ、いい感じに固まってちょうだい!」
 舞と萌が引き金を引くと、銃口から金と銀の閃光が放たれる。閃光は扇に向かって一直線に飛び、街の中の建物や施設をものみこんでいく。
 閃光を受けた街や人々は、変色して逃げ惑う姿のまま固まっていく。それは金と銀がまだら模様になっていた。
 舞の金のスキャップと萌の銀のスキャップの融合の効果で、対象に及んでいる金化と銀化の効果まで融合していた。色だけでなく質まで分割されていた。
 やがて街を覆い隠していた閃光が消え、そこには金と銀を織り交ぜた世界が広がっていた。その中で、スキャップを破壊され固まってたたずんでいる扇がそこにいるはずだった。
「やったね。舞姉ちゃん。これで終わりだね。」
「もしかして一気に固まって、そのまま壊れちゃったのかな?彼の姿が見えないけど・・」
 喜ぶ萌。舞が周囲を見回して扇の姿を探す。しかし金と銀の像と化した人々と建物の中には、彼の姿が見当たらない。
「そうかもしれないね。クローバーには悪いけど、仕方ないよね?」
「残念無念また来週ってことで、私たちはそろそろ戻りましょ、萌。」
「うんっ!またきれいな金と銀ができてよかったね、舞姉ちゃん。」
 勝利を喜ぶ舞と萌。固まった街を眺めながら、振り返って立ち去ろうとする。
「おい。」
 そこへ鋭い声がかかり、舞と萌が足を止めて再び振り返る。
「まだケリがついてねぇのに、しっぽ巻いて逃げんのかよ・・!」
 舞と萌が初めて驚愕をあらわにする。2人の眼の前に、扇が悠然と立っていた。
「そんな!?あの広い範囲の砲撃をどうやって防いだのよ・・!?」
 叫ぶ舞に、扇は鼻で笑いながら答える。
「フンッ!あんなもの、わざわざ受けてやる必要がどこにあんだよ。」
「よ、よけたっていうの!?」
「そうだよ。テメェらがそいつを撃つ前に、オレはコイツで地面を殴って飛び上がった。それでオレはテメェらの攻撃をかわしたってことだ。」
 扇はシルバルドが砲撃を行う直前、ナックルをはめた拳を地面に叩きつけた。その反動で飛び上がり、金と銀の閃光をかわしたのである。
 ナックルを見せ付けるように拳を構える扇に、姉妹の力を結集させたスキャップをかわされた舞と萌は愕然となり、打つ手を見失っていた。
「そう何度もかわせるものじゃないよ。」
「そうだよ。今度はちゃんと狙いを定めてから・・」
 舞と萌が再びシルバルドを構える。しかし彼女たちが引き金に手をかけた瞬間、扇が一気に間合いを詰めてくる。
「言っただろ?そんなのをわざわざ受けてやる必要はねぇって!」
 言い放つ扇がシルバルドにナックルを叩き込む。強い衝撃を受けて、自分たちのスキャップとともに舞と萌が吹き飛ばされる。
 何とか体勢を立て直す2人だが、ナックルの効果でシルバルドが鉄に変質し始めていた。
「あ、あたしたちのスキャップが・・!」
 鉄になっていく自分たちのスキャップを見て、萌がさらなる驚愕に襲われる。扇はそんな彼女たちを見据える。
「街のヤツらを元に戻せ。でないと今度はそいつをブッ潰す。壊されたら、テメェらは金と銀になっちまうんだろ?」
 扇が舞と萌に忠告する。このままスキャップを壊されたら、その効果である金化と銀化が2人に及ぶ。
 それを恐れた彼女たちは、
「わ、分かったよ。街は元に戻すよ。だからシルバルドを元に戻してよ。」
 萌がそう言うと、扇は舌打ちをしながら彼女たちの次の行動を見送る。
 舞と萌が意識を集中し、人々や建物を元に戻す。金と銀の粒子が散らばり、逃げ惑う様子を見せたまま固まっていた人々の拘束が解かれる。
「これでいいんでしょ?早くシルバルドを戻してよ。」
 困惑した面持ちで舞が言いかける。すると扇は意識を向けて、鉄になりかかっていたシルバルドを元に戻した。
「これ以上、こんなマネをすんじゃねぇぞ。今度はそいつを粉々にしてやるからな。オレのいる場所で勝手なことするなよ。」
 扇が低い声音で舞と萌に言い放つ。そして振り向くことなく、そのまま彼は立ち去ろうとする。舞も萌も何とか安堵しながら、スキャップを消そうとする。
 そのとき、どこからかまばゆい光が飛び込み、シルバルドに命中する。光に包まれたスキャップが、土が凍りつくような音を立てて動かなくなっていく。
「この光・・!?」
 舞と萌が再び驚愕を見せる。彼女たちの眼の前で、シルバルドが凝固されて出現した壁の中にめり込まれていく。
「これは・・!?」
 扇もこれを見て眼を見開く。光が放たれたほうに振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。
「ずい分と無様なものだな。期待させておいて。」
 女性が扇たちを見下ろして哄笑を上げる。外見はほとんど男と変わらない彼女は、トランプメンバーの1人のクローバーだった。
 彼女の横には1台の銃砲があった。これが彼女のスキャップ、ガードナーである。
「クローバー・・」
 舞と萌が驚愕の表情を浮かべる。シルバルドがガードナーの力を受けて、赤茶けた壁に埋め込まれて固まった。
「初めましてと言っておこうか。オレはレオナ・シュナイダー。ASEのクローバーだ。」
 不敵な笑みを見せるレオナ。
「オレのスキャップ、ガードナーの砲撃を受けたヤツは、体内の二酸化炭素を強制還元され、その炭素を凍てつかされて固められる。」
 説明を続けながら、レオナはガードナーに意識を傾ける。再びその銃口から閃光が放たれる。
「つまり、炭素凍結、カーボンフリーズということさ。」
 その砲撃が、炭素凍結されたシルバルドを今度は粉々に粉砕する。
「シルバルド!」
 自分たちのスキャップを破壊された舞と萌が驚愕する。その直後、2人の体が足元からそれぞれ金と銀に変わり始める。
「お、お姉ちゃん・・あたし・・!」
「萌、しっかりして・・!」
 不安の表情を浮かべながらも、舞と萌が手を取る。姉妹の絆から、手を取らずにはいられなかった。
「萌、たとえどんなことになっても、私たちはいつも一緒だからね・・・」
「お、お姉ちゃん・・・ありがとう・・・」
 必死の思いで励ます舞に、萌は笑みをこぼす。互いを思い合いながら、2人はそれぞれ金と銀の像に変わった。
「浅はかだな。あれだけ期待に胸を躍らせていたのに、こうもたやすく負けるとは。」
 そんな姉妹の変わり果てた姿をあざ笑うレオナ。そこへ強烈な拳の衝撃が飛び込んでくる。
 レオナはガードナーとともに飛び上がり、別の建物の上に着地する。視線を移すと、苛立ちをあらわにした扇が拳を向けていた。ナックルを装備した拳を。
「テメェ・・そいつらはダチじゃねぇのかよ・・何、勝手なマネしてんだよ・・・!」
「ダチ?笑わせないでくれ。そんな非力なのは、オレの仲間どころか、部下にも値しない。このガードナーのいい成果になってもらうだけでも幸運なくらいだ。」
 扇の激昂さえあざ笑い、レオナはガードナーとともに姿を消した。
「待て!逃げるな!」
「今度はお前の力を見くびらない。オレの全力をお前に捧げよう。」
 怒る扇にそう言い放ち、レオナはこの場から立ち去った。
 心の奥底から湧き上がる憤りを抑えきれず、扇は歯がゆくなっていた。強く歯を噛み締めた口から、強く握り締めた右拳から血があふれ出す。
 そこへバイクを走らせてきたハルが、メットを外して周囲を見回す。
「スキャップはどうした!?」
 ハルが問いかけるが、扇は憤ったまま答えない。
 彼女の視線が、スキャップの破壊の影響で固まって動かなくなった舞と萌を捉える。
「金と銀を操るスキャップか・・」
「いや・・」
 ハルが呟くと、扇がそれを否定する。
「金と銀に変えてたのはその2人。ヤツらはスキャップを破壊されて、そんな姿にされたんだ。」
「もしかして、お前が・・」
「やったのはオレじゃねぇ。そいつらを操ってたヤツだ。確か名前は、レオナ・・ASEのクローバーだとか言ってた・・」
「何っ!?ASE、クローバーだとっ!?」
 扇の言葉に声を荒げるハル。
「まさかハートだけでなく、クローバーまで出てくるとは・・!」
「何だと・・!?」
 うめくハルに、扇は突っかかって問いつめる。
「ASEはスキャップを集めた暗殺部隊。その中でも4人のトランプメンバーは、強力なスキャップを持った能力者だ。」
「フンッ!そんなことは関係ねぇ。ヤツはナメたマネをしてくれたからな。オレがブッ潰す。」
「待て!トランプメンバーは生半可なスキャップではない!迂闊に攻めればやられるぞ!」
「関係ねぇって言ったよな?」
 声を荒げるハルに、扇は冷淡に言い放つ。倒すべき敵を見据え、彼はこの場から立ち去った。

 街の一角の建物の屋上にレオナは着地した。そこには冷静な態度を示すアインスの姿があった。
「今野姉妹はどうした?」
「使えなかったんで、処罰してきた。しかし、あの京極扇は強力だ。オレも迂闊には攻められないな。」
 レオナがため息をつくと、アインスが苦笑を見せる。
「以外だな。クローバーという方が、恐れを抱くとはな。体まで震えているとは。」
 あざけるような態度を見せると、レオナも苦笑を浮かべる。
「まさか・・武者震いだと言ってもらいたいな。オレはあの男を倒すことに喜びを感じてるんだ。どうやって倒してやるかをな。」
 彼女の苦笑はいつしか歓喜の笑みに変わっていた。それを確認して、アインスはこの場から姿を消した。

 困惑の面持ちを隠せないまま、ユキと女子寮に戻ろうとするますみ。
「ますみ、ホントに大丈夫?」
「う、うん・・」
 ユキの心配の声に、ますみは気のない返事をする。
 そんな2人が寮の門の前までやってくると、そこには幻の姿があった。
「幻ちゃん・・・」
 真剣な視線を向けてくる幻に、ますみは未だに戸惑っていた。
「ますみと2人だけで話がしたい。構わないか?」
 幻がユキに視線を移して問いかける。
「わ、私は構わないけど・・・」
 ユキはそういって幻から眼をそらした。彼女の答えを受けて幻は歩き出し、ますみもその後に続いた。
 寮から少し離れた場所で足を止め、幻はますみに振り返った。
「いったい何なの、幻ちゃん・・?」
 ますみが困惑を抱えたまま幻に問いかける。
「アインスさんのことを気にかけてるんでしょ・・あたしなんかより、彼女のほうがしっかりしてるからね・・」
「何を言っているんだ・・オレはそんな思い入れなどない。オレは空手を通じて、常に己の強さと向き合っているんだ。」
「そうは思えないよ、今は。」
 ますみが言いがかりをつけると、幻は彼女の両肩をつかんで言い放った。
「違うと言っているだろ、このたわけ者が!」
 彼の顔が間近になり、ますみは完全に困惑しきってしまう。その反応を目の当たりにして、彼は嘆息する。
「ますみ、お前はいったいどこに行ってしまったんだ・・?」
「えっ・・?」
 幻の言葉の意味が分からず、ますみは一瞬きょとんとなる。
「今のお前はいつもの飛鳥ますみではない。少なくとも、オレの知っているますみではない。」
 歯がゆい思いを抱える彼に、ますみは何も言い返せなかった。
(今のあたしが・・あたしじゃない・・・)
 その言葉が気がかりになり、ますます気落ちしてしまう。
「おやおや、いけませんよ。」
 そこへアインスが現れて2人に声をかけてきた。ますみと幻が困惑の眼差しをアインスに向ける。
「ケンカをしてはいけません。仲良くしないと。」
「アインスさん・・・」
 淡々と語りかけてくるアインスに、ますみが戸惑いを見せる。それを気に留めているのかいないのか、アインスはさらに続ける。
「ますみさんと鳳くんは仲良くなってほしいです。そうでないと、私も気が引けるというものです。」
 アインスが妖しい笑みを見せると、右手に冷気を収束させる。そして1本の氷の刃を具現化し握り締める。
「ア、アインスさん・・!?」
「これは、どういう・・!?」
 ますみと幻が驚愕の表情を見せる。
「あなた方2人は、私のこの氷月の舞の中で凍てついてもらうわ。」
 2人に眼を向けながら、アインスが氷月を構える。その刀身には、白く冷たい冷気が収束していた。

つづく

Schap キャラ紹介12:今野 萌
名前:今野 萌
よみがな:こんの めい

年齢:17
血液型:O
誕生日:9/8

Q:好きなことは?
「RPGをやることね。」
Q:苦手なことは?
「難しいことを考えるのはちょっと・・」
Q:好きな食べ物は?
「チョコレートパフェ。」
Q:好きな言葉は?
「夢を見ること。」
Q:好きな色は?
「銀色」


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