Schap ACT.8 ghost

作:幻影


「お疲れ様でした〜!」
 体操部の部活を終えて、親しい先輩に挨拶をする女子。霜月学園中等部の女子である。
 運動をして疲れているにも関わらず、彼女は元気のある笑顔を見せてから、更衣室を後にして帰路についた。
 外は既に日が落ちて暗くなっていた。校庭の道は、わずかに照らし出している明かりだけが道しるべになっていた。
「あ〜あ、大会が近いから練習厳しくなって、すっかり遅くなっちゃったよ〜。」
 同じ部の仲間には元気を装っている彼女だが、日に日に熱の入る部活につい弱気な呟きをもらす。
 そのとき、彼女は何かの不気味な気配を感じ取った。薄暗い道では何が出てくるのか分からず、不安になるのは不思議ではなかった。
 女子は怖くなり、せわしなく周囲を見渡した。すると道の脇の草木の中に、1つの人影があった。
「あの、あなたは・・・?」
 女子は恐る恐るその人に声をかけた。するとその人影が突然淡く光りだした。
「えっ!?」
 彼女はその光に驚きを見せた。しかし本当に驚いたのはこの後だった。
 人影からの光を浴びた女子の体が、徐々に色を失くし始めていた。
「か、体が動かない・・!?」
 女子は変わりゆく自分の体に恐怖を感じていく。その光が治まり人影が消えたときには、女子は人間とは違うものへと変わり果てていた。

「そんな・・・ハルちゃんにそんなことがあったなんて・・・」
 ハルの話を聞いて、ますみが沈痛の面持ちになる。ユキや千尋、千沙も戸惑いを隠せない。
 扇は平然としていたが、胸中では困惑を抱えていた。
「だから、私はそのスキャップを探している。みんなを石に変えたあのスキャップを探し出し、私の手でみんなを助け出す。」
 ハルは決意を固めていた。自らの手でリリス、メフィストを探して倒すことを。
「だったら私も手伝うよ、ハルちゃん。」
 それを聞いたますみが、ハルの力になろうと意気込みを見せる。
「ダメだ。」
 しかしハルはそれを拒んだ。
「これは私の問題と戦いだ。お前たちが首を突っ込む必要はない。手を出さないでもらおう。」
 言い切るハル。すると扇が突然哄笑を上げ始める。
「何がおかしい?」
「ケッ!何つまんねぇ振る舞いしてんだよ。これだけ悲劇のヒロイン様みてぇな話しといて、1人でしょいこもうなんて虫のいいこと考えてんじゃねぇよ。」
「何っ?」
 扇のあざける言葉にハルが苛立つ。
「町のためとかみんなのためとか言っといて、結局テメェは自分のしたいことをやってんだ。お利口な理由つけてんじゃねぇよ。」
 扇は立ち上がり、不機嫌そうに立ち上がって部屋を出て行く。しかし千尋は困惑することはなく、追おうともしなかった。
「いいの、千尋ちゃん?追わなくて・・・」
 ますみが聞くと、千尋は眼を閉じて首を小さく横に振った。
「大丈夫です。お兄ちゃん、ああ言ってますけど、けっこう気にかけてますから。」
 小さく微笑む千尋。千沙は人形を抱いたままじっと彼女を見つめている。
「お兄ちゃん、言葉は悪いですけど、人一倍思いやりがありますから。信じたり頼ったりしても大丈夫ですよ。」
「そうか・・」
 ハルは千尋の言葉を聞くと小さく頷く。そして彼女も立ち上がり、部屋を出て行く。
「いろいろと世話になったな。」
「もう、帰るの?これからいろんなこと話そうと思ってるんだけど?」
 帰ろうとするハルにユキが声をかける。ハルは振り返らずに答える。
「言ったはずだ。これは私の戦いだ。だから私1人で終わらせる。」
「どうして?こうしてみんないるわけだから、力を合わせていこうよ。ますみも力になるって張り切っちゃってるし。」
「余計なお世話はやめてくれ。私は群れるのが好きじゃないんだ。」
「なんで?みんなが傷つくと思ってるの?大丈夫だよ。私たちがそう簡単にやられたりしないから。」
「そう思うならそう思え。私は個別に行動する。」
 そういってハルは家を出て、メットを被ってバイクを走らせた。彼女が走り去るのを、ますみたちは見送るしかなかった。
「行っちゃった・・・」
「チームワークが・・・」
 ますみもユキも唖然となるしかなかった。
 しかしハルの本心は違っていた。彼女は仲間ができたことを快く思っていた。
 自分の誓いが揺らぐことを恐れて、その気持ちを表に出せなかっただけだった。

 その翌日。霜月学園では不吉な噂が出回るようになった。それは学園内に出るという幽霊のことだった。
 幽霊は日が落ちた頃に現れ、生徒たちを次々と石に変えているという。
 しかしそれはただの噂に留まらなかった。実際にその被害が起きていたのだ。
 何らかの理由で夜に校内にいた生徒の何人かが、石のように固められて動けなくなっていた。
 警察はこの事件を、変質者の犯行と見て調査を始めていた。しかしあまりに非現実的なため、調査は難航していた。
 その結果、教師や保護者たちの会議の末、午後6時以降、生徒のみでの外出を全面的に禁止した。
「ハァ・・厄介なことになっちゃったね、ますみ。」
 ユキがこの現状に対しため息をつく。
「うん・・これじゃバイトに行けないよぉ・・」
 泣き言をもらすますみ。
「それにしても、これってスキャップの仕業かな?被害者は石にされたって。」
「うん・・・」
(クラウン、どう思う、この事件?)
 ユキに頷きながら、ますみは心の中でクラウンに呼びかけた。
「うん・・その可能性はあるけど、断定するには不十分な点があるね。もう少し調べてみる必要があるかもしれないよ。」
(そう・・)
 クラウンの言葉にますみは渋々納得した。するとその会話を聞きつけていたのか、ますみとクラウン、ユキの心にフブキが呼びかけてきた。
「あ、そういえば、いいこと思いついたんだけど。」
(いいこと?)
 フブキの言葉に、ますみとユキが疑問符を浮かべる。
「私が夜の学校に出て行って、みんなを脅かすっていうのはどうかな?あっ!ちょっと凍らせてみるのもいいかも。」
 期待感と好奇心に駆られて喜ぶフブキ。しかしますみもユキもクラウンも、彼女の言動に呆れるしかなかった。
「おい、ますみ!」
 そこへ幻が声をかけてきた。
「あっ!幻ちゃん!」
 ますみが振り向いて、満面の笑顔を見せる。
「ますみ、お前も聞いているだろう?あの幽霊事件のことを。」
「う、うん。みんな石にされちゃったって・・」
「摩訶不思議な事件だ。幽霊といった類はこの歴史上にもいくつか見られているが、人が石になるというのはあまりに非現実的だ。」
「うわぁ・・・」
 力説する幻に唖然となるますみ。
「噂の中には魔法だとかくだらんものまで飛び交っている。そんなもの、この世には存在せん。」
「幽霊とかオバケとかは信じてるのに?」
 ますみが思わず呟くと、幻がムッとして彼女をねめつける。
「全く鵜呑みにしているわけではない。ただ、歴史の中には霊や呪いによる出来事はいくつか挙げられている。」
「魔法も歴史にはあるよ。」
「日本の歴史にはないだろう。」
 幻にきっぱりと言われて、もはや返す言葉がなくなったますみ。
 彼は古風の生活に慣れ親しんでいるため日本の歴史には詳しいが、世界の歴史には興味を示さない。純粋な日本人の心得を持っているともますみは思えた。
「とにかく、おかげで空手部の練習が5時で打ち切りだ。生徒の安全を保障するためとはいえ、これではなまってしまうな。」
 空手のできないことを嘆きながら、幻はますみとユキから離れていった。
「う〜ん、幻ちゃん、けっこうガンコなんだよねぇ。」
 彼が見えなくなったところで、ますみは呟いた。
「ねぇ、ますみ、アレ!」
「えっ?」
 そのとき、ユキが窓越しから外を指差してきた。その先から見える空き教室にますみが眼を向けると、1人の中等部の女子が数人の高等部の女子たちにからまれていた。
「もしかして、いじめ・・!?」
 緊迫を感じたますみとユキが、とっさに駆け出した。階段を駆け下りて、一気に教室に飛び込んだ。
「やめなさい!」
 ますみたちが飛び込んできて、高等部の女子たちが気まずい顔になり、焦りながら逃げ出した。
 彼女たちをムッとした顔で見送るユキ。ますみは教室の隅で泣いている女子に駆け寄る。
「ねぇ、きみ、大丈夫!?」
 ますみが呼びかけると、女子は落ち着こうとしながら小さく頷く。するとますみとユキが安堵の笑みを浮かべる。
「どうしたの、こんなところで?」
 ますみが問いかけると、女子が呼吸を整えてから答えた。
「あの人たち、仲間が石になったの、私のせいだって言ってきて・・」
「石に?」
「はい・・最近起こっている幽霊の話は知ってますよね?」
「えっ?う、うん・・」
「その被害者の中に、今の人たちの仲間も含まれていて、それを私のせいだって言ってきて・・」
 女子の説明を聞いて、ますみがムッとする。
「もう、ひどいなぁ!内容だけでも謎だらけなのに、何の根拠もなく疑うなんて!」
 そして真面目を装って、女子の肩に手を当てる。
「大丈夫だよ。あなたはそんなことしてないんでしょ?だったら、気に病むことなんて何もないよ。」
「ありがとう、ございます・・・」
 ますみの励ましの言葉を受けて、女子に笑みが戻る。
「ところで、名前、何ていうの?あたしは飛鳥ますみ。」
「私は神尾ユキ。」
 ますみとユキがそれぞれ自己紹介をする。
「私は、白夜(びゃくや)アリアです。」
 小さく微笑んだ女子、アリアも自己紹介をする。
「あ、あの・・」
 そこへ千尋がやってきて、ますみたちに声をかけてきた。
「あ、千尋ちゃん。」
「何かあったのですか?・・・あ、アリアちゃん・・」
 教室に入ってきた千尋が、アリアの姿に気付く。
「えっ?千尋ちゃん、アリアちゃんの知り合いなの?」
「はい。同じクラスです。」
 ますみの問いかけに千尋が答える。
「ところで、どうかしたのですか?」
「ううん。何でもないよ、千尋ちゃん。」
 心配そうに聞いてくる千尋に、アリアは笑みを作る。そしてそそくさに教室を後にする。
「あの、本当にアリアちゃん、何があったのですか?」
 千尋がますみとユキに問いかけてくる。
「今、アリアちゃんがいじめられてたの。あたしたちが来たら、その女子たち逃げちゃったけど・・」
「そうだったのですか・・・アリアちゃん、自分のことをあまり話さないから、いろいろ心配することが絶えないんです。」
 千尋の言葉に、ますみは納得と同時に困惑の表情を見せる。
 いじめられる人によくある傾向である。不条理を押し付けられながらも、誰かに話せばそれがさらに過激化することを恐れて、周囲に打ち明けることができないでいる。
 アリアもその1人なのだとますみは思った。
「とにかく、アリアちゃんをよろしくね。同じクラスなら、いろいろと打ち明けられると思うから。」
「はい。分かってます。」
 ユキの言葉に、千尋は小さく頷いた。

 ホームルームが終わり、ますみとユキは屋上に来ていた。スキャップに詳しい人物に会うためだった。
「デュールちゃーん!デュールちゃん、どこー!?」
 ますみが中等部の女子、デュールに向かって呼びかける。
「ここだよ、ますみん。」
 すると屋上の出入り口の上で寝そべっていたデュールが、起き上がりながら彼女たちに声をかけてきた。
「やぁ、君も久しぶりだね、ユキちゃん。」
 デュールは気さくな笑みをユキにも見せる。
「ところで、今起きてるあの事件、いったいどういうことなの?あれってスキャップの仕業じゃないの?」
「う〜ん、そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないね。」
「は?何言ってるのよ?」
 ますみの問いかけをはぐらかすデュールに、ユキが眉をひそめる。
「要するにまだハッキリしたことは分からないってことだよ。」
「でもあんなことができるのは、スキャップの力ぐらいしか・・」
「だけどそう決めてかかるのはまだ早いんじゃないかな?」
 戸惑うますみに、デュールは無邪気な言動を続ける。
「あまり急ぎ足になりすぎると、逆に君たちが危険な目にあったりするもんだよ。あえて様子を見るのも一手だよ。」
 彼女たちに様子見を促すデュール。しかしますみたちは納得しなかった。
「でも、みんながひどい思いをしてるのに・・それを黙って見てるなんて・・あたしにはできないよ。」
 沈痛の面持ちになるますみ。
「私も・・もしかしたら、次に石にされちゃうのは、私の友達かもしれないし・・」
 ユキもますみと同意見だった。友達を失いたくない。それが彼女の思いだった。
「分かったよ、ますみん、ユキちゃん。でも私は君たちのためを思って言ってるってこと、忘れないでね。君たちのスキャップは、あくまで君たち自身のためにあるんだからね。」
 そういってデュールは立ち上がり、出入り口の上から飛び降りた。ますみたちが眼を凝らすが、彼女の姿は消えていた。
「き、消えた・・・」
「な、何なんだろう、デュールちゃんって・・・」
 一抹の疑念を抱きながら、ますみたちはデュールの消えた先を見つめていた。

 その日の夕方、ユキと別れたますみは道場の前に来ていた。たまには幻と一緒に帰ろうと、空手部の稽古を終えた彼を待っていた。
「ん?ますみ?」
「やぁ、幻ちゃん、一緒に帰ろう!」
 道場を出てきた幻に大きく手を振るますみ。
 2人は林道の傍らを回っていくことにした。
「早く解決してほしいね。この幽霊騒動。みんな、不安になって安心できないでいるよ。」
「同感だな。たとえ戯れたたわごとだろうと、あまり長引くと、面白いものではないな。」
 空元気を見せるますみに、淡々と答える幻。彼らの見る先では、未だに警察の調査が続いていた。
「ところでお前、何か悩みとか抱えているのではないのか?」
「えっ?」
 唐突に質問され、ますみが一瞬きょとんとなる。
「こうして空手の稽古に打ち込み、心身ともに鍛えていくと、いつの間にか、身近にいる者の考えが自然と読めてしまうようになってしまってな。」
 頭に手を当ててひとつ息をつく幻。彼の優れた動体視力は、身近な人間の顔つきの変化さえ見逃さなくなっていた。
「昔のお前は本当に無邪気だった。無邪気で、本当に素直だった。この前再会したとき、その性格は変わっていなかった。だが、ここ最近お前はいろいろと考え込んでいるように思える。いったいどうしたんだ、お前は?」
 幻の問いかけに対し、ますみは返答に困る。それを見た幻も、しまったという表情を浮かべる。
「す、すまない・・もしも打ち明けられないことなら、ムリに言わなくていい。だが、オレにできることがあるなら、いつでも言ってくれ。」
 幻の言葉に戸惑いを抱きながらも、笑みを見せて頷くますみ。しかし彼に自分の抱えていることを打ち明けることはできなかった。
 スキャップによる、人の理解を超えた力、事件、そして戦い。それらに幻を巻き込みたくはない。それがますみの思いだった。
 彼の身の安全のため、彼女はあえて話すことをためらった。
「キャアッ!」
 そのとき、どこからか悲鳴が聞こえ、ますみと幻に緊迫が走った。
「まさか・・!」
「行くぞ、ますみ!」
 幻が先に走り出し、ますみも後に続く。林道の木々をかき分けて、悲鳴のしたほうに駆けつける。
 そこには既に数人の警備員たちがやってきていた。そこでますみと幻は驚愕をあらわにした。
 夜の林道の中にたたずむ2人の女子。1人は昼間、アリアをいじめていた女子の1人。恐怖を顔に焼き付けたまま、灰色になって固まっていた。
 そしてもう1人は、
「千尋、ちゃん・・・!?」
 ますみは変わり果てた千尋に愕然となった。千尋はノートを抱いたまま、困惑の表情を浮かべて石化していた。
「知ってるのか・・?」
 幻が動揺を浮かべながら、ますみに声をかけた。
「この前、知り合ったの・・・大人しいけど、優しい子で・・・」
 困惑を抱えたまま答えるますみ。その口調は落ち着きが感じられない。
 学園内で続発する幽霊事件。千尋までもが、その石化の犠牲となってしまった。

つづく

Schap キャラ紹介8:白夜 アリア
名前:白夜 アリア
よみがな:びゃくや ありあ

年齢:14
血液型:A
誕生日:1/21

Q:好きなことは?
「本を読むことです。」
Q:苦手なことは?
「争いごとは好きではありません。」
Q:好きな食べ物は?
「チョコレートです。頭の活性化に効くと聞きましたから。」
Q:好きな言葉は?
「友情です。心に響くいい言葉だと思います。」
Q:好きな色は?
「ライムグリーンです。」


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