Schap ACT.1 ignited

作:幻影


 自由で朗らかな校風を持つ霜月(しもつき)学園。
 共学でああるものの、その校風と、理事長が女性であることから、割合としては女子の人数が多い。
「はいはい、みんな席について。」
 その2年C組の教室。担任の大谷(おおたに)が気さくな態度で教室に入り、雑談などをしていた生徒たちが自分の席につく。
「はい、今日は出席を取る前に、このクラスに新しく入る転入生を紹介します。」
 大谷の言葉に教室中がざわめく。男子か女子か。どんな人なのか。どこから来たのか。そんなことを考える生徒はほとんどだった。
「それじゃ、入ってきて。」
「は〜い!」
 大谷が呼びかけると、元気のある声が返ってきた。その声から女子であることが分かり、喜んだり残念そうにしたり、生徒たちがいろいろな様子を見せる。
 教室に入ってきたのは、かわいらしい女子だった。肩の辺りまである茶色がかった髪。ふくらみのありそうな胸。なぜか幸せになりそうな笑顔を持っていた。
 しかし彼女が黒板の前まで進もうとしていたそのとき、
「うわっ!」
 突然彼女が倒れた。教壇との段差に足をつまづき、前のめりに倒れてしまった。
 その出来事にざわついていた教室内が静まり返る。みんな唖然となっていた。
「いった〜い・・」
 彼女はうめきながら何とか立ち上がった。顔面をぶつけて額が赤くなっていた彼女の眼に涙があふれている。
「ちょっと、大丈夫?」
 大谷がそわそわしながら彼女に心配の声をかける。
「い、いえ、大丈夫だから。あたし、ちょっとドジなところがあって。エヘへ・・」
 彼女は苦笑いを浮かべて、舌を見せていた。それを受けて、静まっていた生徒たちが笑いをこぼしていた。
「そ、そう?・・じゃ、自己紹介して。」
 何とか冷静になろうとしている大谷が、黒板に書き始めていた。おそらくその女子の名前だろう。
「飛鳥(あすか)ますみ、16歳!12月8日生まれ!O型!好きな食べ物はケーキとカレー!あ、ただしカレーは甘口ね。あと、好きな科目は体育!バレーやバスケットとかでみんなと試合するのがいいんだよね!それから、それから・・」
「もういいです。これ以上の紹介は後々といたしまして。」
 必要以上に自己紹介する女子、ますみを大谷は少し呆れ気味にさえぎった。
「あっ・・・」
 やりすぎたという面持ちで、ますみは押し黙ってしまった。
「それじゃ飛鳥さん、窓側のその席について。」
「はーい!」
 座席を指示されると、ますみは再び元気のある返事をして席についた。
「じゃ、朝の連絡を・・」
 そして大谷が諸連絡を述べ始める。ますみはまじまじと彼女の連絡に耳を傾ける。
 そんなますみの肩を、後ろの席の女子が軽く指をつついてきた。ますみはそれに気付いて後ろを振り向く。
「ねぇ、朝から元気があるね。」
 後ろの席にいた女子が小声で話しかけてくる。
「いやぁ、元気だけがとりえというか何というか・・」
 返答に少し困ったように見せるますみ。それを見て女子が満面の笑みを浮かべる。
「わたし、神尾(かみお)ユキ。よろしくね。あ、後でいろいろここのことを教えてあげるから。」
「え?ホント?ありがとう。」
 ユキとますみが喜び合う。
「ホラ、そこ、おしゃべりしない。」
 そこへ大谷の注意が飛んだ。ますみとユキは思わず口に手を当てていた。

 街外れにある大公園。自然環境が整っているこの公園は、いろいろな球技のコートが隣接している。そのため、このコートを予約する人が多かった。
「ねぇ、これからクレープ食べにいかない?」
「そうね。あ、そうだ。近くにクレープの出店あったよね?」
 その中のテニスコートを利用していた女子大生2人。それぞれ茶色のショートヘアと黒のポニーテールをしていた。
 テニスをしていた2人は、小腹がすいたので、それぞれの運動服のまま、公園内を移動していた。
 時間はまだ昼前だったので、見つけた出店にはまだ列はできていなかった。
「えっと〜、チョコとバナナと、ミックスもいいかも・・」
「もう、贅沢して食べ過ぎると太っちゃ・・」
 何を食べるか思い浮かべているショートヘアの様子に呆れていたポニーテールが、足を止めて表情を一変させる。
「どうしたの?」
「あ、あれ・・・!?」
 疑問符を浮かべたショートヘアが、ポニーテールの指す方向に振り向く。その先の小さな丘の上、1本の大木の横に、巨大なカエルが立ちはだかっていた。
「キャアッ!」
 2人の女子大生が同時に悲鳴をあげる。その直後、カエルが口から緑がかった半透明の液体を2人に吐きかけた。
「ち、ちょっと、なにっ!?」
 液をかけられた2人が動揺する。液はぬめり気があって不快な感触がしていた。
「いやぁ、気持ち悪いよぉ!」
 ショートヘアが不快さを表す言葉を発する。しかし本当の恐怖はここからだった。
 液が付着したその部分が思うように動かせない。緑色に変色して固くなっていた。
「どうなってるの・・・体が・・・!」
 驚愕する2人の女子大生の体を、その変色が広がっていく。そして完全に包まれた彼女たちは、全く動かなくなってしまった。
 それを見送ったカエルが不気味な咆哮を上げて、水のようになって姿を消した。
(ご苦労さんだったね、ケロロンZ。)
 その光景を冷ややかに見つめていたのは、出店をしていた女性だった。

 一通りの授業を終えて、ますみは女子寮にやってきていた。この学園での授業が始まる日に荷物が届くことになっていて、彼女は少し頭を抱えていた。
 といっても、他の生徒と同室となるので、それほど多い荷物は運んでいなかった。
 寮の管理人から自分の部屋を確認し、その部屋の前までやってきた。B棟の2階の階段寄りの部屋だった。
(誰と一緒の部屋なんだろう?同じクラスの人だったらいいなぁ。)
 にわかに期待と不安を募らせるますみ。ひとつ息をついて、部屋のインターホンを押す。
「はーい。」
 それを受けて返事が返ってきた。しかし聞き覚えのある声だった。
 ドアが開くと、今朝話しかけてきた水色の髪の女子が出てきた。
「あっ・・」
 2人の声が重なる。この部屋にはユキの姿があった。
「もしかして、この部屋って・・・?」
「もしかして、ここに新しく来るって・・・?」
 ますみとユキが疑問を投げかける。そしてその直後、2人が満面の笑みを見せる。
「やったー!ますみと同じ部屋になるなんてね!」
「とにかく、ここでもよろしくね、ユキちゃん!」
 玄関で手を取り合って喜び舞う2人。これからますみの新しい生活が始まる。

 そして夕方、問題は早速起きた。
「ん〜・・・」
 ユキが台所で包丁を手にし、まな板の上に置かれた人参や玉ねぎたちをにらみつけていた。
 実は彼女は家事が苦手なのだ。普段はコンビニやファーストフードなどで食事を済ませるのだが、ますみのためを思って料理を試みていた。
 しかし思い切ってやろうとしたものの、なかなかうまくいかず、調味料などの分量にも不安が残るものがあった。
「大丈夫?あたしがやるよ。」
「う、ううん、平気、平気!」
 1人椅子に腰かけているますみが声をかけてくるが、ユキは首を横に振った。しかしそわそわした様子は消えない。怪我をしないのが幸いなところだった。
「いいよ。あたしがやってあげる。」
 ますみは微笑みながら立ち上がり、台所に足を運んだ。そしてユキから包丁を受け取り、まな板にある食材に手を伸ばした。
 的確に切り分け、調味料も適量だった。
「すご〜い・・・」
 その手際よさに思わず唖然となるユキ。その間にも調理は進み、味見に到達していた。
「うん、今回もなかなかね。」
 味見したますみが笑みをこぼす。カレーの完成である。

「おいしい!・・私が作るのより何倍もいいよ!」
 カレーを食したユキが感嘆の声をもらす。
「そんな誉めるほどのものじゃないよ。ただ1人で作るのに慣れちゃっただけだよ。」
 照れ笑いを見せるますみ。
「いいなぁ。わたし、うまくやろうとしてもうまくいかないからなぁ。」
「さて、腹ごなしの意味もこめまして、ちょっと出かけてくるね。」
 ますみは立ち上がり、大きく背伸びをする。
「え?ここの辺り、分かる?私も一緒に行くよ。」
「ううん、いいよ。探検してみるのもなかなかいいんだよね。それじゃ。」
 ユキの言葉に首を横に振り、ますみは外に出かけていった。

 外はすでに日が落ちていて暗くなっていた。街灯に照らされている道を、ますみは1人で歩いていた。
「さ〜て、この辺りには何があるのかな〜?」
 冒険心と期待感を胸に秘めて、ますみは周囲を見回していく。
 学園から少し離れた辺りに商店街があり、コンビニやファーストフード店がところどころに並んでいた。
「へぇ、けっこういろいろあるもんだね。」
 思わず笑みをこぼしていたますみ。ワクワクした気持ちを抑えきれないまま、彼女は町を進んでいった。
 しかししばらく進んでいくと、いつしか人気がなくなっていた。
「あれ・・・?」
 ますみは立ち止まり、疑問符と冷や汗を浮かべ始めていた。ここは街灯の明かりだけが淡く照らされている、大公園の中央広場だった。
「これって・・・もしかして・・・」
 ますみの中に不安がふくらんでいく。彼女は迷ってしまった。町の店を見回しているうちに、いつの間にかここに来てしまっていた。
「どうしよう・・・帰り道が分かんないよ〜・・・」
 不安のあまり涙眼になる彼女。その場にへたり込みそうな気持ちを何とか抑え込んだ。
「と、とにかく、近くにいる人を何とか探して、寮の場所を聞くしかないわね・・・」
 思い立った彼女は、来たと思われる道を戻りながら、人を探した。しかし夜の公園の道は人気がなく、なかなか人が見つからなかった。
 しばらく歩いていくと、彼女はついに人影と思しきものを見つけた。
(も、もしかして・・)
「おーい!ちょっとー!」
 ますみは喜び勇んでその影に駆け寄った。大きく息をついて、その影の正体、1人の女性の前にたどりつく。
「どうしたの、あなた?こんなところで?」
 街灯に照らされ始めた女性が、ますみに声をかける。赤茶けた色の長い髪をした大人びた女性だった。
「あの、すいません、霜月学園は、どっちなんでしょうか・・?」
 息をつきながら、ますみが絶え絶えに女性にたずねる。
「え?学園ならこの先の町を抜けたところだけど?」
 女性が指差した方向には、町の街灯と思われる明かりが灯っていた。またもや知らず知らずのうちに、ますみは町に戻ってきていたのだ。
「あ、ありがとうございます・・」
「ところであなた大丈夫?よかったらこれでもどうそ。」
 そういって女性は、肩にかけていたバックから1本のペットボトルを取り出した。色からしてお茶だとますみは思った。
「し、親切な方ですね・・ホントに感謝しても・・・」
 笑みを浮かべるますみが、そのペットボトルを受け取ろうとする。だが、汗だくになっていた彼女の手から、そのペットボトルがすり抜け、地面に落ちて中身がこぼれてしまう。
「あっ!すいません!」
 ますみは謝りながら、そのペットボトルに手を伸ばそうとする。そこで彼女が手を止める。
 中身がかかった雑草が、風に揺らめくことなく固まっていた。
「あれ?固まってる・・」
「くっ!もう少しでセンブロ茶の効果を試せたんだけどね。」
 疑問符を浮かべるますみの横で、女性が舌打ちをする。その直後、彼女の背後から巨大な何かが出現する。緑を主な色とするそれは、巨大なカエルだった。
「まぁいいわ。機会はいくらでもあるんだからね。」
「ちょっと、コレっていったい・・・!?」
「私は蛭野玉緒(ひるのたまお)。こっちはカエルのケロロンZ。」
 その女性、玉緒が名乗ると、ケロロンZが咆哮を上げる。
「ちょっと、それって違うでしょ!?カエルがそんなに大きいわけないじゃない!」
 ますみがわけの分からない抗議を上げている。混乱のあまり、考えがつかなくなっていた。
「そんなのどうだっていいでしょ?だって、あなたもケロロンZにブロンズ像にされちゃうんだから。」
 玉緒のその言葉の直後、ケロロンZが口から液体を吐きかけてきた。ますみはとっさにそれをかわす。
 代わりに液を浴びた街灯が緑に変色して固まり、灯っていた明かりが消失する。
 ケロロンZはさらに舌を伸ばす。これもますみは回避する。舌はブロンズ化した街灯を巻きつけ、それに力を加えて曲げてしまう。
「ちょっとぉ、襲ってくるなんて聞いてないよぉ!親切に道を教えてくれたのに〜!」
 さらに抗議の声をあげるますみ。しかし玉緒は聞いていなかった。
「なかなか素早いわね。ならこれならどうかしら?ケロロンZ。」
 玉緒の号令がかかると、ケロロンZの体が液状化を起こす。
「えっ?消えた・・?」
 カエルがいなくなったと思い、ますみが周囲を見回す。そのとき、何かが足を捕まえているような感覚に襲われる。
「えっ!?何!?」
 足元を見たますみが驚愕を表す。ブロンズ化させた液体が、彼女の足に取り付いていたのだ。
 いや、それは液状化したケロロンZだった。液体となったカエルは地面を這って進み、彼女を捕まえたのだった。
 液体は一気に膨れ上がり、やがて彼女を包み込んでいく。
 それに完全に取り込まれたますみは、水の底にいるような息苦しさを感じていた。
 そんな彼女の体が、徐々に液と同じ緑に変色し始める。
「そうよ。そういうふうに苦しみながら固まっていくのも乙なものね。」
 その姿を妖しく微笑む玉緒。息のできない苦しさ、そして固まっていく体の悲鳴に、ますみはついに力を抜いてしまう。
 脱力しもうろうとなっていく意識の中、彼女は完全にブロンズの像に変わっていった。
「もういいわ。ご苦労だったね、ケロロンZ。」
 玉緒が合図を送ると、ますみを取り巻いていた液がその体を離れ、再びカエルの姿かたちに戻る。
「運が悪かったわね。こんなところで迷子になって、私に道を聞こうとするから。」
 玉緒は振り返り、その場を去っていった。ケロロンZも水蒸気のように霧散して姿を消した。

(これって、どうなってるのよ〜・・)
 ますみが胸中でうめく。ブロンズ像にされた彼女は身動きが取れず、ただただ心の中で悲痛の声を上げるしかなかった。
(ぜんっぜん体が動かせないし、ワケ分かんないし・・あぁ、いったいこれは何なのよ〜・・・)
 しかしそんな彼女の声は、周囲には届かない。それ以前に、周囲に人ひとりいない状況だった。
(このまま動けないなんてイヤだなぁ。動きたい。動け。動け!動けぇーー!!)
 心の声の語気が強まる。しかし彼女の意思に反して、体は言うことを聞かない。
「動きたいのかい?」
 そのとき、どこからか声が聞こえてきた。無邪気な少年と思えるような声だった。
 ますみは耳を澄まして、その声のした方向を調べる。しかし周囲に人の気配はない。
「探してもムダだよ。今の私は君の心の中にいるんだから。」
(心の、なか・・・?)
 ますみが不安とともに疑問符を浮かべる。声はするものの、その主は依然として姿を見せない。
「君は今、彼女のスキャップにやられて、ブロンズ像にされてしまったわけ。彼女が解除の意思を示さないと、君はずっとブロンズ像のままだよ。」
(え〜っ!ずっと動けないままなの!?)
「でも、それ以外に元に戻る方法がひとつだけあるよ。」
(ホントに!?それって何なの!?)
「ただし、それを行うには、君は自分の全てを賭けなければならなくなる。」
(全てを、賭ける・・?)
 声のいうことの意味が複雑すぎて、ますみが眉をひそめる。
「それでもかまわないなら・・」
 声がそこで途切れる。彼自身、戸惑っているようだ。
 ますみは考えあぐねた。全てを賭ける?それはどういう意味なんだろうか。
 命?大切なもの?それとももっと別の何か。
 それらを巡らせても、ますみには混乱を増やすことにしかならなかった。今、考えることはひとつ。
(何だかよく分からないけど、助かるならその方法でいいよ。)
 ますみは笑みを見せて、その方法を受け入れた。
「分かった。それじゃ私が君の力になる。そうすれば自動的に元に戻れるはずだから。」
 すると彼女の眼の前にまばゆい光が集まり、それが形となって具現化する。その姿は人。肩のあたりまである髪は白。着ているものも白。白一色に彩られた少年の姿だった。
(あ、あなたは・・・?)
「私はクラウン。君の中にあったスキャップさ。」
 困惑するますみに、少年の姿をしたスキャップ、クラウンが優しく微笑んだ。

つづく

Schap キャラ紹介1:飛鳥ますみ
名前:飛鳥 ますみ
よみがな:あすか ますみ

年齢:16
血液型:O
誕生日:12/8

Q:好きなことは?
「体を動かすこと。あとは料理ね。」
Q:苦手なことは?
「おしゃべりのしすぎ、かな?夢中になっちゃうと止まんなくなっちゃうのよね。」
Q:好きな食べ物は?
「ケーキとカレー。あ、カレーは甘口ね。」
Q:好きな言葉は?
「前向きにいってみよう!」
Q:好きな色は?
「スカイブルー」


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