おもかげ〜Love is heart〜 vol.7.「救いの手」

作:幻影


 危機感を感じた章は、ハルカの待つ千影の自宅に急いでいた。
(ハルカ、頼む!無事でいてくれ!)
 その不安をかき消そうとハルカの安否を思う章。
 そしてやっとのことで千影の家に到着したところで、章は疲れきり、大きく息をついた。
 覚悟を決め、玄関のドアノブに手をかける。そこで一息ついてから、思い切ってドアを開けた。
 間髪入れずに部屋を探り、ハルカを追う章。この家にいるように言い聞かせているので、家のどこかにはいるはずである。
 そして寝室のドアを勢いよく開け放った。
「ハルカ!」
 ハルカを追い求めて寝室に飛び込んだ章。そこで彼は驚愕して、足を止める。
 彼の視線の先、ベットの上にハルカはいた。しかし彼女は着ていたものを脱がされ、完全に脱力して放心したように横たわっていた。
「ハルカ・・・!?」
 章はやや混乱気味になりながら、ハルカに声をかけた。しかしハルカは全く答えず、反応さえしない。
「ハルカ!おい、ハルカ!」
 章は剣幕な表情で、ハルカに駆け寄った。力を失った体を抱き起こし、揺すりながら呼びかける。
「ハルカ!しっかりしろ、ハルカ!」
 大声で叫ぶが、それでもハルカは答えない。心の崩壊した彼女に、章は打ちひしがれてうなだれた。
「・・お前の仕業か・・千影・・・?」
 章が息をのんで、背後に視線を向ける。寝室の出入り口に、千影が妖しい笑みを浮かべて章たちを見つめていた。
「やっと気付いたみたいね、章。もっと早く気付いてくれると思ってたんだけど・・まぁ、そのほうが私には都合がよかったんだけどね。」
「どうして・・・どうして、ハルカを!」
 苛立ちを困惑が交じり合いながら、章が千影に振り返る。いかんともしがたい憤りに体を震わせていた。
「いや、それだけじゃない!くるみちゃんや七瀬さん、他のみんなを石に変えてたのもお前なのか!?また、同じ間違いを繰り返すのか!?」
「間違い?」
 いきり立つ章の言葉を聞いて、千影は哄笑を上げた。
「間違ってるのはあなたのほうよ、章。どうして私のやり方に納得してくれないの?」
 千影が微笑みながら章に問いかける。章は思いつめながら千影に答える。
「納得できないのは当たり前だろ!女の子を石に変えるだなんて!いくらオレのためにしていることでも・・!」
 沈痛の面持ちで語る章。しかし千影はそれを鼻で笑った。
「あなたは私を想ってくれているのでしょ、章!?あなたの心が他の女に移らないように、私がこうしてきたじゃない!」
「それは違う!オレはあのときはお前を愛していた!けどお前は、関係のない人を巻き込んで危害を加えたんだ!」
 必死に訴えかける章の眼に涙が浮かぶ。
「だからオレは、そんなお前を止めようとしたんだ。その結果・・・」
「私を谷底に突き落とした、と・・」
 章が言いかけたことを千影が続ける。
「不本意だったことは知ってるわ。でも、人を超えた私は、普通では死んでしまうことも無事でいられるんだから。」
「千影・・・」
「私の石化を解くには、私の力が消える以外にない。その方法は1つ。私が解くか、私が死ぬか。もちろん私は、みんなにかけた石化を解くつもりはない。章と私のためだからね。」
 千影の体から黒い霧が吹き出す。妖しく笑う彼女の姿が暗闇の中に消えていく。
「私のところに戻ってきて、章。私は待っているから・・・」
 期待を込めた言葉を残して、千影は寝室から姿を消した。
「千影・・どうして・・・」
 呆然と立ち尽くし、やるせなさを感じる章。おもむろに振り返った先には、未だに心の壊れたハルカの姿があった。

 それから、章はハルカを連れて自宅に戻った。ハルカも、章自身もかなりに疲労を抱えて、そのままベットに横になった。
 どうしたらいいのか、何をすべきなのか分からなくなり、章の心は途方に暮れていた。
 ふと眼が覚めた彼は、くるみのいるリビングにやってきた。椅子の1つに腰を下ろし、ため息をつく。
 くるみも2人の事態に困惑していた。完全に脱力して気を失っていたハルカの姿を目の当たりにした瞬間、たまらない息苦しさを痛感した。
 章が視線をくるみに移すと、ゆっくりと彼女の右手に触れてきた。
(大丈夫なの、ハルカは・・・?)
 くるみが沈痛な面持ちで、章に心の声をかける。
「完全に心をやられてる。何とかしてやりたいとは思ってるけど、どうしたらいいのか、オレにも分からないんだ・・・!」
 自分の無力さに打ちひしがれる章。そのやりきれない思いが、くるみの心にも流れ込んでくる。
(章さん、諦めちゃダメだよ。ハルカを元気付けられるのは、章さんしかいないんだから。)
 ハルカの心を呼び覚ませるのは章しかいない。そう思ったくるみは、章に励ましの言葉をかけた。
「けど、オレは千影のような強い力を持っているわけじゃない。どんなに願っても力が身に付かない。だから・・オレには、何もできない。何もしてやれない・・・」
(違う。力を持つことが強さじゃないわ。そばについてくれるだけで、元気を取り戻せることだってあるわ。)
「そばに・・・いるだけで・・・」
(章さんが千影さんを想っていることも分かる。でも今は、あなたはハルカのことを想ってるんでしょ!?)
 必死に叫ぶくるみ。泣き叫びたい面持ちなのだが、石化した瞳からは涙が流れない。
(誰だって人である限り弱い。でも、誰かを想うことで、人はどこまでも強くなれる!)
「くるみちゃん・・・」
(私は、そう信じてるから・・・)
 心の中で笑みを作るくるみ。
 彼女の言葉が、絶望のどん底に落とされた彼の心に勇気を与えていた。打ち震え、沈んでいた肩を上げて立ち上がる。
「そばに、いてやる、か・・・」
 くるみの言ったことをくり返し、笑みを浮かべる章。
「そうだな。オレがしっかりしなくちゃ、千影もハルカも戻ってはこないよな・・・」
(・・ゴメンね、章さん・・私が力不足なために、七瀬もハルカも守れなくて・・・)
「心配するな。お前は大切な人を守るために、必死に戦ってくれたんだ。オレは、感謝している。」
 石化したくるみの右手と左肩をつかみながら、章が微笑みながらひとつ頷く。
「ハルカと千影はオレに任せてくれ。そして、お前たちにかけられた石化を、必ず解いてみせる。」
(うん・・ありがとう、章さん。)
 くるみの感謝の言葉を聞いてから、章は彼女から手を離し、ハルカの休んでいる寝室に向かった。

 寝室のドアをゆっくりと開ける章。その視線の先、ベットの上には、ハルカが眼を閉じて眠っていた。
 彼女を千影の寝室で発見してから、彼女は意識を取り戻してはいない。そのときの彼女の姿を、章は見るに耐えなかった。
 千影にその体を弄ばれ、放心していたハルカ。その眼からは涙が流れていた。
(千影・・ハルカ・・・オレは・・)
 章がベットに横たわり、ハルカに寄り添う。
(オレはお前たちを救いたい。どっちも救いたいなんてわがままかもしれないけど・・それでもオレは・・)
 章は自分の顔をハルカの顔に近づけた。
(お前たちを救いたい・・・そう思ったんだ・・・!)
 章とハルカの唇が重なる。暖かい感触が唇を通じて章に伝わってくる。
(ハルカ、起きてくれ・・眼を覚ましてくれ!)
 まるで白雪姫と王子の心境だった。
 口付けを交わした直後、ハルカがゆっくりと眼を開いた。彼女の眼に、じっと見つめている章の姿があった。
「・・・あき・・ら・・・?」
 ハルカがおぼろげに呟く。意識は戻ったものの、いつもの明るい元気さが戻っていない。
「ハルカ、オレはずっとお前のそばにいるから・・・」
 章がハルカの衣服に手をかける。千影の家を出る直前、何とか衣服を着させたのだが、それを再び脱がそうとしていた。ハルカの心を完全に呼び覚ますために。
 上半身を裸にされたハルカは、おぼろげに章を見つめてはいるが、依然として眼を覚ます気配はない。
 章はそんな彼女の胸にそっと手を当てた。
 冷たい。ハルカの心が冷たい。
 いつもなら気持ちよくなるはずの胸の感触が、今は息苦しく感じる。
 どうしてなんだろう。これが、心の壊れた人の気持ちなんだろうか。
 やるせなさを感じながら、章はハルカの胸を揉み続ける。それでもハルカは何も答えない。
「ハルカ・・・今は何も言わなくていい・・・ただ、そばにいさせてくれ・・・」
 一途の願いを込めて、章はハルカの乳房を舐め始めた。母親に甘える赤ん坊のように、彼女の胸にすがりつく。
 さらに胸の谷間にうずくまり、その吐息をハルカに吹きかける。
 するとハルカが少しずつうめきはじめた。彼女は徐々に意識を明確にして、章の与える快楽を感じ始めていた。
「ハルカ!・・そうだ。もっと感じ取ってくれ、オレを!」
 章はいったん体を起こし、ハルカの下腹部に視線を落とす。わずかながら、彼女の秘所から愛液があふれてきていた。
(たまってきてるな・・・だったら、オレが吸い出して楽にしてやる。)
 章はハルカの股間に顔を入れた。そして秘所にあふれている愛液を舐めてすくい取っていく。
「ぅ・・・ぅぅ・・・」
 ハルカの反応が次第に大きくなっていく。章がさらに彼女の秘所に介入していく。
「ハルカ、起きてくれ!・・うわっ!」
 そのとき、ハルカの愛液が飛び散り、章の顔にかかる。思わず顔を背け、その後顔を拭いながらその愛液を口に入れる。
 その愛液を口に含んだまま、再び章はハルカと唇を重ねた。ハルカの愛が、2人の口の中で絡みつく。
(あき・・ら・・・)
 ハルカの意識が鮮明になっていく。触れ合う唇が、互いの心を活性化していく。
(章・・・!)
 ハルカの視界に、積極的に触れ合ってくる章の顔が映った。
「章・・・わたし・・・」
「ハルカ!眼が覚めたんだな!・・よかった・・・」
 章は喜びをあらわにして、困惑しているハルカを抱きしめた。
「あ、章・・・痛いよ・・・」
「よかった・・・もどってきて、ホントによかった・・・!」
「章、苦しいから、もう少し力を緩めて・・・」
「ハルカ・・・しばらく、こうさせてくれ・・・」
 章はひたすらハルカを抱きとめた。彼女の心が、やっとのことで彼のもとに帰ってきたのである。
 絶対に離れたくない。絶対に離れたくない。
 今の章は、ただそれだけを願っていた。

 この日の夜、千影はまた1人、女性を連れ去って石化させていた。
 彼女は千影たちの通う大学の美人女性教師、桜井恵美。生徒からはお姉さん扱いされるほど人気があった。
 しかし千影に力を奪われ、脱力して石像になるのを待つしかなかった。
「真野さん、これはどういうことです?・・・これらはみんな、あなたのしていることなんですか・・・?」
 おぼろげな意識の中、妖しく微笑んでいる千影に語りかける恵美。
「そうですよ、恵美先生。私がみんなをオブジェに変えてたんですよ。」
「どうして、そんなことを・・・!?」
 動揺する恵美に、千影は恵美を消さずに寄り添う。そして人と石の境目にある恵美の胸に手を当てた。
「全ては章のため、そして私のためですよ。」
「章?」
「私の愛した人です。でも今は神崎さんと付き合っているみたいで。だからこうしてみんなをオブジェにして、章の心を取り戻そうとしているのです。」
 千影が恵美の胸を揉み始めた。恵美の困惑がさらに広がる。
「フフ・・先生もけっこう感じてしまうほうなんですね。大丈夫です。私がしっかりいい気分にさせてあげますから。」
「やめて・・・やめて、真野さん・・・!」
 恵美が声を荒げるが、千影は抱擁をやめようとしない。徐々に快楽に身を沈めていく。
「先生も実はそういうことに慣れてるんですね。体の反応で分かりますよ。」
「ああぁぁ・・・もう、ダメ・・・!」
「それに、ここを見ればすぐに分かるのですけどね。」
 叫ぶ恵美の秘所から愛液があふれてきていた。それを見下ろして微笑む千影。
「これこそ至福の喜び。全く動けない女性の肌を好き放題にできる幸せ。そしてその人も心地よくなれる。お互い、いい気分になれる・・・」
 千影が身をかがめ、恵美の秘所を舐め始めた。
「あああぁぁ・・・イヤァッ!」
 絶叫を上げる恵美。体にさらに力が入り、さらに愛液があふれ出てくる。秘所を舐めていた千影の顔にも付着する。
「いい味ですね、先生の味は。でも、これで勢いは止まりそうですね。後はじっくりとオブジェになるのを見届けますよ。」
 顔に付いた愛液を手で拭きながら、呆然となっている恵美を見つめる千影。
 意識を集中させると、恵美の石化が進行を始めた。力を奪われた彼女の体から煙が立ちこめ、着ていた衣服も石の殻になって剥がれ落ちていた。
「さぁ、綺麗になってください、先生。あなたがこのオブジェたちの中で最年長ですよ。」
 哄笑を上げながら、恵美の石化を見つめる千影。
 思えば自由に動くはずの手足が次第に固まっていく感覚に陥っていく。棒立ちのまま、恵美の体の質が人から石に変化していく。
「やめて、真野さん・・・こんなことは・・・もう・・・」
 千影を呼び止める恵美の声は、石化によって弱々しくなっていた。彼女の人としてのぬくもりが次第に消えていく。
 そして完全な石として固まり、恵美は白い石像となった。
「先生、すみませんが、この喜びをやめるつもりはありませんよ。なぜなら、章と私のためなんですから。」
 裸の石像になった自らの教師を見つめて、千影は満面の笑みを浮かべる。
「先生はここで、私と章の愛が確立するところを見ていてください。そして先生も、すぐにこの石の心地よさに慣れると思いますよ。」
 恵美の石の乳房をいじるように指で触れる千影。
(真野さん・・・真野さん・・・!)
 心の声でも千影を呼ぶ恵美。それでも千影は彼女の石の体を弄んでいく。
 今の彼女を突き動かしているのは、章に対する愛だけだった。

つづく


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