血石妖虫・四章

作:幻影


 血石妖虫の群れをかいくぐり、武はようやく音葉のいる正門付近にまでたどり着いた。
 しかし、そこに妖虫の死骸が何体かあり、血まみれの女性が棒立ちになっている少女を抱きしめていた。
「音葉ちゃん、真希ちゃん・・」
 武は2人の少女の名を呟いて近づいた。
 すると彼はその光景に驚愕する。
 泣きじゃくっている音葉に抱かれて、真希の体が灰色に変わっていた。
「真希ちゃん、ゴメンね・・私の、私のために・・」
 音葉が涙ながらに真希に語りかける。そんな彼女の肩に武が手を添える。
「武さん、真希ちゃんが、私をかばって・・」
 涙で赤くなった顔を向けてきた音葉の言葉に、武が悲痛な面持ちで、薄っすらと笑みを見せている真希に視線を向ける。
「真希ちゃん・・どうして・・・」
 石に変わっていく少女の姿を目の当たりにして、武にも涙がこみ上がってくる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、私、みんなの役に立ちたかったの。2人とも家族や友達をあの怪物に殺されて辛くなってるのに、何もしないでじっとしてるなんてできなかったの。」
 必死に笑顔を作る真希が苦悶に悶える。石化の毒が彼女の命の灯を縮めていた。
「真希ちゃん・・イヤァ、真希ちゃん!」
 悲しみをさらにこみ上げて、音葉が石化していく真希の体を再び抱きしめた。
「お姉ちゃん、短い間だったけど、お姉ちゃんたちと一緒に過ごせて、私はホントに嬉しかったよ。ママのところに行くけど、お姉ちゃんたちは幸せにしてね。」
 眼から涙をこぼす真希の体の石化が進み、首から上を残すだけだった。
「ありが・・とう・・おねえ・・ちゃ・・ん・・・」
 あふれる涙が頬を流れ落ちた瞬間、真希は完全な石像へと変わっていった。
 決して揺れ動くことがない彼女の優しい笑みが、音葉には悲痛に感じた。
「真希ちゃぁぁーーん!!・・あはぁぁ・・・ぅうぅ・・・」
 音葉が命を閉じて固まった少女にすがって泣き叫ぶ。
 その後ろで立ち尽くす武の眼にも涙が浮かんでいた。
 彼は真希の死を、咲乃たち大学のゼミ仲間の死を重ねていた。
 しかし、音葉のこの悲しい様を前にして、彼は泣き叫ぼうとはしなかった。心が荒々しく揺らいでいる彼女に、そんな弱い姿は見せられないと思っていたからだった。

 その夜、音葉は自分の部屋に閉じこもっていた。
 血石妖虫を斬りつけた際に降りかかった返り血で紅く染まった衣服を着替えることなく、暗い部屋で1人寂しく泣いていたのである。
 真希は自分をかばって石にされて死んだ。
 自分が憎しみに駆られて妖虫に戦いを挑まなければ、彼女は死なずに済んだかもしれない。
 自分が幼い少女の命を奪ったと思い、音葉は自分の愚かさを悔やみ続けていた。
 思い空気の漂うこの部屋のドアが静かに開く。
 武が彼女を心配して部屋に入ってきたのだ。
「音葉ちゃん・・・」
「武さん、私はどうしたらいいの?」
 武に声をかけられても、音葉はうつむいたまま顔を上げない。
「私は殺されたみんなを思って戦ってきた。だけど、妖虫はまだたくさんいるし、戦えば戦うほど周りの人を傷つけてしまう。真希ちゃんも、私をかばったために・・あんな幼い女の子まで・・」
「音葉ちゃん、辛いのは君だけじゃない。オレだってみんなだって、あの妖虫の犠牲にあって苦しい思いをしてるんだよ。」
「あなたに、私の何が分かるの!?」
 そっと伸ばした武の手を強く振り払い、音葉が怒りと悲しみに満ちた叫び声を上げる。
「私は、みんなの仇をとりたかった。でもそれがさらに命を失わせる結果になってしまったのよ!こんなことって・・」
 自分の体を抱きしめる音葉。払われた手を押さえて武が悲しく彼女を見つめる。
「分かるよ、君の気持ちは。オレだって同じ被害者なんだから。」
 作り笑顔を見せる武。しかし、それは音葉の悲しみを煽るだけだった。
「いいえ、分からないわ!仇も討てず他人も守れない、そんな私の気持ちなんて!」
 音葉の悲しみは、彼女自身を混乱へと導いていた。
 倒したい敵も倒せず、大切な人を誰一人守れない自分を責め続け、心を乱してしまっていた。
 そんな彼女の姿を、武は哀れむように見つめる。
「だったら・・」
「えっ!?」
 武は小さく呟き、音葉の肩を掴むと、無理矢理ベットに引き込んだ。
 呆然と仰向けになっている音葉を、武はまじまじと見詰める。
「お前の全てを見せてもらう。」
 そう言うと武は、血の染み付いた音葉の服のボタンを外し始めた。
「ち、ちょっと、武さん!?何するの!?や、やめてよ!」
 音葉が必死に抵抗するが、武は力づくで彼女をベットに押し付け、身動きを取らせなくしたところでさらにボタンを外していく。
「お前の心の傷が言葉で伝わらないなら、お前の全てをさらけ出してもらう。そうすれば、心の傷も自然と見えてくるはずだ。」
 全てのボタンが外れたシャツが開け、下着が現れる。武は続けてスカートに手をかけていく。
「っもう!好きにして!」
 音葉がふてくされながら、武に自分の体を預けた。

 そして音葉は、返り血に染め上げられた衣服を全て脱がされ、武も上着を全て脱ぎ捨てた。
 彼女の体には、ところどころに妖虫の紅い血が染み付き、ベットのシーツも薄赤に染み込んでいった。
「私を裸にしてどうするの?こんなんで私の気持ちが分かるっていうの?」
 顔を赤らめている音葉がまじまじと武を見つめる。しかし武はその問いには答えない。
 しばらく音葉を見つめていると、武が彼女の体にすがってきた。
「た、武さん!?」
 一糸まとわぬ音葉が困惑する。
 武がひとつ息を吐き、突然彼女の胸を掴んだ。
「ち、ちょっと、武さんっ!」
 音葉の困惑がさらに強まる。
 武が悲痛と快楽に顔を歪めながら彼女の胸を揉み解していく。
「あっ・・・ぁぁ・・」
 音葉も武のこの行為に悲痛と快楽の声を漏らす。
 そんな自分の姿が彼女自身、心苦しかった。
 血石妖虫によって姉や親友を奪われた。全てを失った彼女がその憎しみをぶつけようとしたが、それが逆にいたいけな少女の命を失わせることになってしまった。
 今の自分の姿はそんな憎しみと悲しみ、そして死んでいった大切な人たちを裏切ることだと思っていた。
 それでも、このこみ上げてくる快感を止められずにいた。
 今までにない気分に陥った彼女の胸を、武は甘えるように揉み解す。
 続けて武は、紅い血のついた音葉の肌を舌で舐め始めた。
「いやぁ・・あはぁ・・ぁぁ・・」
 痙攣するように口を小さく開いて震える。
 舌がなでるこの感触が、彼女の気持ちを高く昇らせる。
 抵抗しようとすればやれるはずだった。しかし、力ずくで押さえ込まれてさらにその抱擁に身を沈めることになるだろう。
 今の彼は自分の気持ちを強いていた。
 普段は音葉のほうが自分の気持ちを押し付けることが多かったが、今は彼が彼女を強いていた。
 武はただ舐めたいから舐めているだけではなかった。彼女の肌に染み付いた血を落とすように舌を撫でていた。
 だが、その行為が音葉の気分を逆撫でしていく結果となっている。
「あぁ・・はぁぁ・・ぁ・・・」
(なんで、なんでこんな気分になるの?武さんは私の体を弄んでるのよ。私、まだキスさえしたことないのに、なんでこんなことされて何の抵抗も見せようとしないの?)
 息を荒げながら、音葉は今置かれた自分の姿を苛立った。
 いくら強引にこんな状況に置かれたとはいえ、何の抗いもしないで快楽に漂っているのはあまりにおかしかった。
 そんな彼女の気持ちなど構わずに、武は血のついた肌を舌で撫で、さらに胸を揉んでいく。
 音葉はいつしか何かを耐えているような表情に変わっていた。
「はぁ・・はぁ・・ダメ・・もう、出ちゃう・・ぅぅ・・・はっ!・・ぁ・・・」
 ついに耐え切れなくなり、音葉が大きく息を吐く。すると武が彼女に寄り添っていた体を起こし、彼女の裸体を見つめた。
 彼女の秘所から愛液があふれ、赤く染み付いたベットのシーツをさらに濡らしていた。
「あ・・ぁぁ・・・」
 どうしたらいいのか、何を考えたらいいのか分からず、音葉が怯えるように困惑している。
 しばらく彼女の体を見つめていた武が、自分の体をかがめてきた。
「えっ!?」
 ふと顔を上げた音葉は、武の行動に眼を疑った。
 今度は愛液あふれた秘書を舐め始めていた。
「ダ、ダメよ、武さん!そんなところ・・あはぁぁ・・・」
 抗議の声を上げる音葉だが、それもこみ上げてくる刺激にかき消された。
 武は彼女の秘所を舌で撫で、あふれる愛液をすくい取っていく。
 その息づかいが彼女にさらなる刺激を与え、さらに愛液をあふれ出させていた。
 悲痛と快感に溺れた彼女の腰が、弓のように反れる。
「こんな・・・汚くなっちゃうよ・・はぁぁ・・・」
 漏れる声を言葉にすることも、今の音葉には辛いことだった。
 強く込みあがってくる刺激。その中に込められた快感。
 これは天国の祝福なのか、それとも地獄の罰なのか。
 理性を保てなくなった音葉がシーツを強く握りしめていた。
 ひとしきり舐めたところで、武は顔を上げた。彼の口から音葉の秘所から流れた愛液が垂れていた。
 激しく息をつきながら、音葉がうっすらと武の顔を見つめる。
「武さん・・どうして・・どうしてこんなこと・・ハァ・・ハァ・・」
 動揺する彼女を少し見つめてから、武は口を開いた。
「これが、全てを見せるっていうことだ。」
「えっ!?」
「全てを見せるってことは、自分の体や心の内、見られたくないものまで全部さらけ出すってことなんだよ。」
「でもどうしてそんなことするの!?こんなことしてまで、どうして私をそこまで心配してくれるの!?」
 音葉が必死に声をかけると、武は彼女の胸の谷間に顔をうずめて叫んだ。
「だってオレ、もうこれ以上大切な人を失いたくないんだよ!」
「くぅ・・んぅぅ・・・」
 落ち着きを取り戻そうとしていた音葉にさらに刺激が伝わる。悲痛に顔を歪めて武は心の叫びを続ける。
「オレは幼い時に両親を亡くした!親戚に引き取られたオレは、友達を作ることが嬉しかった!本当の家族を失ったオレにとって、仲間は最高の存在なんだよ!だけど麻奈も、大学のゼミの仲間も、今はいない。その上お前までいなくなったら、オレはとても生きていけないよ、音葉!」
 武が音葉の胸にすがって大声を上げる。彼女を呼び捨てにするほどに、彼の心は揺れていた。
「ひとりぼっちはイヤなんだよ!オレは誰かに甘えてないと強くいられない、弱い人間なんだよ!」
「でも私よりは強いよ、武さんは!私はお姉ちゃんやみんなを殺されて、血石妖虫が憎くて、たまらなかったんだよ!」
 悲痛と快感に溺れながらも音葉も叫ぶ。
「オレだって憎く思ったよ!でも妖虫を全滅させても麻奈やみんなが戻ってくるわけじゃない!第一、みんなお前に傷ついてほしくないはずだよ!」
「分かってる!そんなこと分かってた!だけどこのままみんなの苦しみを心の片隅に置いて、私だけ幸せでいるのなんて耐えられなかったのよ!」
「音葉も寂しかったんだよな。だけどオレだって寂しいんだ!それに、音葉にはオレがついているんだ!どういうことを考えても、それだけは忘れないでくれ!」
 その言葉を聞いて、音葉は眼から涙をこぼした。
 強い心を持っていたと思っていた武が、これほど甘えを見せてくるとは思わなかった。
「音葉、オレのそばから離れないでくれ。お願いだから。」
 懇願する武が顔を上げる。眼から零れ落ちた涙が彼女の胸と肌を伝う。
「今のオレには、お前しかいないから・・」
 音葉の返事を待たず、武は彼女と唇を重ねた。
「ん・・・んくぅ・・・」
 口を押さえられて音葉がうめく。
 2人の唇の間で2つの舌が絡み合う。
 頭の中が真っ白になっている彼女には、この行為にも逆らえなかった。
 やがて自分の口の中に、自分のものでない何かが流れ込んでくるのを彼女は感じた。
 武の唾液が彼女の口の中に入ってきたのだ。
 吐き出したい気持ちになるが、口付けで口を塞がれているためそれもできず、耐え切れなくなった彼女はこの唾液を飲み込むしかなかった。
 音葉はさらに眼から涙を、秘所から愛液をあふれさせる。
 自分はもう自分ではなく、悲しみに耐えかね自分に甘えてきている武のものとなっていた。
 今の音葉をどう弄ぼうと、武の思うがままだった。
 しばらくして武は音葉から唇を離した。小さく開いた彼の口から唾液が小さく垂れていた。
「分かったよ、音葉。お前は麻奈や友達を殺されて、いても立ってもいられなかった。妖虫を倒さないとみんなが浮かばれず、自分も未来を進めない。そう思ってたんだよね?」
 涙が耐えない音葉は笑みを作って小さく頷く。
「でも、それが結局真希ちゃんを死なせてしまった。どうしたらいいのか分からなくなっていたんだよね。だけどこれだけは分かってくれ。お前のそばにはオレがいることを。」
 武は再び音葉の裸体を、包み込むように抱きしめた。
「音葉、オレの心の傷は、お前には見えたのか?」
 まじまじと見つめる武を見つめながら、音葉は呼吸を落ち着けてから話し出した。
「伝わったよ。武さんの気持ち。私の胸を打つように。ひとりぼっちで寂しかったんだよね?」
「ああ。でももう大丈夫だと思う。お前が、音葉が一緒だから。もうオレたちは運命共同体。死ぬも生きるも一緒だ。」
「私は今でも妖虫を倒したいこの気持ちは変わっていないと思う。だから、私と一緒にいたら、武さんも・・」
 顔を背ける音葉。すると武は彼女の体を自分に寄せた。
「生きよう。」
「えっ?」
「オレたちがこれからどうなるか分からない。だけど、オレはまだお前を抱き足りない。」
「武さん・・」
「この先、何回もお前を抱きたい。これがオレの正直な気持ちさ。だって、こんなオレをここまで受け入れてくれるのは、この広い宇宙でお前だけだよ。」
「武さん、私もだよ・・」
 音葉が笑みをこぼして武に寄り添う。
 すると武は、音葉に満面の笑顔を見せる。
「これからは、武って呼んでほしい。」
「・・分かったわ、武・・」
 そして2人はお互いの気持ちを確かめるように抱き合い、薄く血の染みたベットの上でそのまま眠りについた。

つづく


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