ガルヴォルスinデビルマンレディー 第20話「女神」

作:幻影


 アスカの創り上げた女神の楽園。そこでジュンは蜂の姿をしたデビルビーストと対峙していた。
 ビーストが繰り出してくる針を、彼女は次々とかわし、悪魔の爪を向ける。しかしビーストは動きが速く、彼女の攻撃を難なくかわしていく。
(ダメだわ。相手の動きが速くて、私でも追いつけない・・何とかして捕まえないと、私もどこまでもつか分からないし・・)
 胸中で毒づきながら、打開策を必死に考え巡らせるジュン。
 しかし思考に時間をかければかけるほど、ビーストの針がジュンを捉えていく。彼女の体に傷が増え、体力を消耗させていく。
「キャッ!」
 さらにその針の攻撃を受け、ジュンは楽園の花園に落ちる。
 力が入らなくなり、その場で仰向けのまま動けないジュン。そんな彼女を、ビーストが不気味に吐息をもらしながら見下ろしてくる。
(速すぎて追いつけない・・・このままじゃやられる・・・)
 心身ともに追い詰められ、焦りを隠せなくなるジュン。
 そこへビーストがかん高い咆哮を上げながら彼女に飛びかかっていく。その針が彼女の左肩に突き刺さる。
「ぐ、ぐああぁぁぁ!!」
 激痛に襲われたジュンが、獣の雄叫びにも似た悲鳴を上げる。肩から紅い鮮血が飛び散り、楽園の花をぬらす。
 彼女の脳裏に徐々に死がよぎり始めていた。しかし同時に五感が研ぎ澄まされてきた。
 窮地に追い込まれるほど、生物は自分の中に秘めている力を解放する。その獣の眼光が、自分に牙を突き立てているビーストの、止まったその一瞬を捉えた。
 その本能に駆られて、ジュンはビーストの針を持つ腕をつかんだ。そして力任せにその腕をねじる。
 今度はビーストが絶叫を上げる。激しい痛みのあまり、持っていた針から手を離す。
 ジュンはその手をつかんだまま、つかんでいない逆の手の爪でビーストのはらわたをえぐる。さらなる血が蜂の獣からあふれ出す。
 急所を突かれた獣が昏倒してその命を閉ざす。事切れたその獣を、ジュンは眼を見開いて見下ろしていた。
 考えてやったことではない。本能の赴くままにやったことだった。生への執着心と死の恐怖が彼女を駆り立てたのだった。
 全ての力と気力を使い果たし、ジュンは完全に脱力して、獣の姿から人に戻る。
「何とか倒した・・・早く・・アスカを追わないと・・・」
 安堵する間を置かず、ジュンは足を進めようとする。しかし傷ついた体は思うように動かず、逆に前のめりに倒れてしまう。
 花園に伏したまま、満身創痍のジュンは立ち上がることができないでいた。

 アスカと対立することを覚悟した夏子。たくみと和海もアスカと戦う覚悟を決めていた。
 夏子の言い分を聞いたアスカは、落胆のため息をつく。
「分かったわ。私とあなたの意見、考えが違っていたことは。でも、あなたたちは私には勝てない。」
 アスカが妖しい笑みを浮かべて、右手をゆっくりと夏子に伸ばす。その手には淡い光が宿っていた。
「そう・・あなたたちは、もう私のものになるしかない。」
「あれは・・!」
 それを見た和海が大きく見開く。
「ダメッ!なっちゃん、逃げて!」
 たまらず駆け出し、当惑の表情を見せた夏子を退ける。たくみも思わず和海を追う。
 彼女に突き倒されて横倒しになった夏子が顔を上げる。夏子をかばった和海の眼に、アスカの手の光が映る。和海を追ったたくみが、彼女を抱きとめる。
 その直後だった。アスカの女神の力が発動されたのは。

     ドクンッ

 抱き合ったたくみと和海に強い胸の高鳴りが襲った。その衝動で、2人は大きく眼を見開く。
「傷ついた悪魔を誘うのは本心ではなかったけど・・・まぁいいわ。これで不動たくみ、長田和海・・悪魔と天使が私のものになった。」
「くっ・・・」
 笑みを消して淡々と呟くアスカ。彼女の力を受け、うめくたくみ。
「たくみ、長田さん、私をかばって・・・」
 当惑する夏子。すると和海が彼女に笑みを向けて、
「気にしないで、なっちゃん。私がそうしたかっただけだから・・」
「でも・・!」
「オレはこれ以上、オレを思ってくれてる人を失いたくなかった。なっちゃんを助ける理由は、そんなもんで十分だろ?」
 和海に続いて、たくみも笑みを見せる。そんな2人に、夏子はただ戸惑うしかなかった。
 友達を大事にしたい。2度と友達を失いたくない。その自分の友情と、たくみと和海の思いにどんな違いがあるのだろうか。
 そう思うと、夏子は彼らに語りかける言葉が見つからなかった。
「フフ・・バカね。夏子さんをかばったために、あなたたちは著しく勝機を失うことになったのよ。」
 アスカがたくみたちに妖しく微笑みかける。
「さて、そろそろあなたたちの心を解放してあげるわ。まずは足から。」
  ピキッ ピキッ ピキッ
「あっ・・!」
 アスカの言葉が終わった直後の光景に、驚きの声を上げたのは夏子のほうだった。
 アスカが意識を向けると、たくみと和海のジーンズが引き裂かれた。さらけだされた2人の素足が、白く冷たい石に変わっていた。
「この力・・この石化・・・まさか、アンタ・・・!?」
 アスカのかけた石化の力に、たくみは驚愕する。彼に視線を向けられ、アスカが妖しく微笑む。
「そう。これは元々は不二あずみの力。そして私はアスカ蘭であり、不二あずみでもあるのよ。」
「バカな・・あずみ、だと・・・!?」
 たくみはアスカの言葉にさらなる驚愕を覚える。和海は事前に彼女に言われていたため、困惑だけが心を渦巻いていた。
「あずみは死んだはずだ!あのとき、アイツごと・・・!」
 たくみの脳裏に、あずみの死の瞬間がよみがえる。神になろうとしていた彼女だったが、飛鳥総一郎とともにたくみの手にかかった。
 だから眼の前にいる人物がアスカ蘭であっても、不二あずみであるはずがない。
「そう。そして私も1度はジュンによって殺された。でも私たちの魂が合わさって、こうして蘇ることができたのよ。」
「そんな・・・!」
「さて、ここだといろいろとあなたたちには不都合でしょう?移動しましょう。私の描いた楽園へ。」
 アスカが上に向けて右の人差し指を伸ばした。すると周囲の景色が歪み始めた。
「な、何・・!?」
 夏子がこの変化に動揺を浮かべる。
「これは瞬間移動の一種・・・逃げろ、なっちゃん!」
「もう遅いわ。私たちは今いた場所から隔離され、別の場所へ移動を始めている。」
 感付いて叫ぶたくみ。しかし夏子は既にアスカの空間移動に巻き込まれていた。
 歪んでいた空間が落ち着きを取り戻し、別の場所への移動を完了する。それは草花に恵まれた園だった。
 自然にあふれたその園には、裸の女性の石像が何体か立ち尽くしていた。
 アスカの描いた神の楽園である。
「ここは・・・?」
 気がついた夏子が、当惑しながら周囲を見渡す。その視線が妖しく微笑むアスカに止まる。
「ようこそ、私の楽園へ。歓迎するわ、夏子さん。」
「楽園!?・・アスカさん、あなたいったい・・・!?」
 アスカに対し動揺を隠せなくなる夏子。アスカの横には、石化をかけられているたくみと和海の姿があった。
「たくみ!長田さん!」
「なっちゃん!」
 夏子と和海が声を荒げる。たくみはただ愕然としているしかなかった。
「なっちゃん、この人、人間じゃない!ビーストかガルヴォルスかは分かんないけど・・」
 和海が当惑しながら呼びかける。するとアスカが哄笑をもらす。
「アスカさん・・・そんなはずは・・・」
 困惑してしまう夏子。アスカが手の指を、ピアノを弾くように滑らかに動かす。
 すると彼女の長い金髪が大きく広がり、着用していた赤紫のレディーススーツが引き裂かれる。その背から大きく翼が広がった。天使の翼にも思えるものだった。
 アスカが閉じていた眼をゆっくりと開き、夏子を見つめる。一切のけがれのないまっすぐな瞳だった。
「これが私の本当の姿。この世界の混沌を取り除く、希望の光を宿した神なのよ。」
  ピキッ ピキキッ
 彼女の視線が移ったとき、たくみたちの石化が進行する。2人の下腹部を石に変え、さらなる束縛を与える。
「うく・・石化が進んで、体が・・・はぁぁ・・・」
 たくみが石化の影響を感じてあえぎ出す。
「フフフ、感じ始めてきたようね。そう、その心地よさが、あなたたちのけがれを消し去ることを意味しているのよ。」
 アスカが背中の翼から羽根をまき散らしながら、たくみたちに歩み寄っていく。
「ち、ちょっと・・・?」
 和海が再びアスカに困惑の表情を見せる。それを見て微笑ましくするアスカが2人を抱く。
「怖がることはないわ。これはあなたたち2人だけの時間よ。」
「な、何を・・!?」
「たくみくん、長田さん、私に全てを預けなさい。そうすればあなたたちはずっと一緒にいられるのよ。」
 アスカがたくみたちに妖しく語りかける。その言葉に2人の困惑が広がる。
 そして彼女は衣服の隙間から手を伸ばし、和海の胸に手をかけてくる。
「や、やめて・・・」
「お、おい、やめろ・・!」
 胸を触られあえぐ和海。それに対し、声を荒げるたくみ。しかしアスカはやめようとしない。
「そのぬくもりは本物ね。さてそろそろいいかしらね。」
 しばらく和海の胸を揉み解した後、アスカは手を離して、2人の体に意識を向けた。
  ピキキッ パキッ
 石化が2人の上半身に及び始めた。2人の衣服がほとんど引き裂かれ、半裸状態に陥った。
「あはああぁぁぁ・・・ぁぁぁ・・・」
 その石化の束縛に刺激を感じ、あえぐたくみと和海。
「どうしたの、たくみ!こんなのに囚われてないで、戦って!」
 2人の様子に耐えかねて夏子が叫ぶ。
「もうムリよ。この2人は完全に石化の快楽に身を委ねている。戦意を失くし、あなたの声さえ耳にしないわ。」
 アスカが彼女に妖しい笑みを送る。
「さぁ、これから私がそのけがれを取り除いてあげる。悪魔もそのけがれを消せば、神の楽園に住まうこともできるのよ。」
 そして刺激を感じて顔を歪めているたくみの頬に、優しく手を添える。
「フフフフ、感じるわ。あなたの、あなたたちの心が・・」
「なっ・・ぁぁ・・・」
 心を見透かされる一言をアスカに言われ、たくみが驚愕するが、石化とアスカの抱擁による快楽にかき消される。
「あなたは死ぬことを恐れているわけではない。死ぬことでみんなを傷つけることを恐れている。知り合いが死んで、自分が傷ついた経験からの恐怖ね。」
「みんな・・・」
 たくみの脳裏に大切な人々の姿がよみがえる。しかしガルヴォルスと人間との争いに巻き込まれて、命を落としてしまった。
 そのとき、たくみと和海はかつてないほどの悲しみを味わった。もうこんな打ちひしがれる思いはしたくない。
 だから、死で生まれる悲しみを与えたくない。それ故の決意だった。
「そしてあなたはガルヴォルスとビースト、人間との共存を理想としている。でもその理想は、あなたの友人からの受け売りだけどね。」
 さらにたくみの心を読み取っていくアスカ。その理想は、元々は飛鳥総一郎の理想だった。しかしその理想を実現できなかった彼に代わって、たくみと和海が引き継いだのだった。
「安心しなさい。その理想は私が叶える。神となる私の手で。この楽園こそがその理想の境地なのよ。」
 語りかけながら、アスカが和海の石化した胸に再び手を当てる。
「ぁぁ・・あはぁ・・・」
 胸を触られてあえぐ和海。その反応を確かめながら、アスカがさらに胸を撫で回す。
「フフフ、石になってもそのふくらみは心地いいわね。その肌を抱き寄せられるなんて、あなたは恵まれているわね、たくみくん。」
「お、お前・・・!」
 アスカの指摘にうめくたくみ。快楽を感じていく2人を、神の翼が包み込み、快感の海に沈めていく。
 その抱擁に、たくみと和海は脱力していく。
「さぁ、愛に堕ちなさい。あなたたちを縛るものはない。私のこの楽園の中で、あなたたちの理想は叶うのよ・・・」
  パキッ ピキッ
 石化が2人の手足の先に到達する。その快楽に囚われたたくみと和海は、互いにすがりつくように口付けを交わす。
 もう相手に触れることしか考えられない。触れずにはいられない。2人は完全に快感の中にいた。
  ピキッ パキッ
 その唇さえ白い石に変わり、瞳に向かって石化が包み込んでいく。
    フッ
 その瞳にも亀裂が入り、たくみと和海は完全な石像となった。
「これで2人もこの楽園にいる資格を得た。私に全てを委ねれば、あなたたちはずっとこの安楽の中にいられるのよ。」
「ああ・・・」
 虚ろな表情のまま石化した2人を、アスカは微笑ましく見つめる。それを見て夏子が愕然となる。
「たくみ!長田さん!」
 たまらず叫ぶ夏子。もうみんなを救う勝機は絶たれてしまった。たくみと和海でさえ、アスカの石化に囚われてしまった。
 石の頬に手を当てながら、アスカが夏子に視線を向ける。
「大丈夫よ。2人は死んだわけじゃない。私の石化に囚われただけ。ちゃんと意識もあるわ。」
 手を離し、困惑する夏子に数歩だけ近づく。
「アスカさん、なぜこんなことを!?・・あなたはこんなことをする人じゃなかったはずです!」
 夏子が必死にアスカに呼びかける。
 彼女は信じていた。アスカは上司であり、かけがえのない恩人であることを。
 しかしアスカはそれをあざけるように妖しい笑みを浮かべて、
「ビーストとガルヴォルスが、人間に牙を向けているからよ。」
「えっ・・!?」
 その言葉に夏子が戸惑う。
「彼らはいつの日か私たちに牙を向ける。たくみくんだってガルヴォルスの本能に囚われて、ついには人を殺めてしまった。彼らは人間にとって恐るべき脅威であることは否めないことよ。」
「だから、ビーストやガルヴォルスを連れてきて、石像に変えていると・・・!?」
「そうよ。脅威とはいえ、人の進化系。それを否定することは、人間そのものを否定することになる。だからその凶暴性だけを抑えるため、彼らに快楽の石化を与え、安らかにしてあげているのよ。」
「そんなことが・・・」
「彼らも、戒めていたもの全てから解放されてとても気分がよくなっている。その心の声が、私には聞こえてくるわ。」
 優越感に浸りだすアスカ。歓喜の笑みを浮かべて、たくみと和海を抱き寄せる。
「そう。この2人も解放感に浸っているはずよ。これから私が、2人の心を完全に沈める。」
「えっ・・!?」
 その言葉の意味が分からず、夏子が唖然となる。女神の翼が、石化された2人を覆い隠す。
「完全に見させてもらうわ。あなたたちの心を・・その奥底まで・・」


次回予告
第21話「楽園」

ついにアスカの魔手に堕ちたたくみと和海。
快楽に沈んだ彼らの心は虚ろになっていた。
そんな2人に迫る、アスカのさらなる接近。
闇に堕ちていく2人の運命は?
様々な思いが交錯する中、夏子は引き金を引くことができるのか?

「あなたたちの心は、あなたたち自身の愛の中で朽ちていくのよ。」

つづく


幻影さんの文章に戻る