ガルヴォルスinデビルマンレディー 第21話「楽園」

作:幻影


 アスカはたくみと和海の心の中に入り込んでいた。2人の心は想いの寄り添いあいによって混ざり合っていた。互いへの想いがもたらす現象だった。
 その心の世界では、2人の記憶がよみがえってきていた。深層心理が画像を一場面ごとに送っているように、アスカの眼の前に映し出される。
 2人の出会い。ガルヴォルスとしての恐怖、不安、宿命、脅威。それを目の当たりにした和海との別離。
 幼なじみの死。人間とガルヴォルスとの紛争。それに巻き込まれた知人の死。
 彼らの死と思いを受けて、たくみと和海は共存の理想を引き継ぎ、生きることを決意したのだった。
「なるほど。これがたくみくんと長田さん、2人の通い合った心の中というわけね。」
 心の中をかいま見たアスカが微笑む。記憶の中を漂い流れ、彼女はさらに進んでいく。
 そして彼女はついに、2人の魂を発見する。彼らは一糸まとわぬ姿で、互いを寄り添いあいながら心の中を漂っていた。
 アスカは再び妖しい笑みを浮かべて、2人に近づいた。虚ろな眼をしたまま、たくみと和海がアスカに視線を向ける。
「こんにちは。どう?私の楽園の中で感じる永遠は。」
 アスカがいざなうように、たくみたちに語りかける。しかし彼らは脱力しきっていて、答える様子はない。
「フフフ、快楽に囚われて抗うこともできなくなっているようね。それでいい。それがあなたたちの安息なのだから。」
 アスカがたくみと和海の頬を舐める。それでも2人は反応を見せない。
「さて、これからさらなる快楽を堪能してあげる。そうすれば、あなたたちの心は、完全に沈黙する。」
 眼つきを鋭くしたアスカが、和海の左胸に手を当てた。胸を揉まれ、和海が小さくあえぐ。
「あなたたちは私がかけた石化が心地よくて仕方がなくなっている。体が人のものとは違う別のものに変わったことで、人として背負っていた枷が外れて解放感を感じている。」
「ぁぁ・・・ぁぁぁ・・・」
「そう感じているのはあなたたちだけではない。石になった人たちは誰も、その心地よさを堪能しているのよ。」
「ぅぅ・・ぅく・・・」
「でも、あなたたちには、もっと心地よくなってもらうわ。」
 アスカは大きく見開き、密着しているたくみと和海の下腹部に手を伸ばす。
「あなたたちの心は、あなたたち自身の愛の中で朽ちていくのよ。」
 そして2人の下腹部をさすり始めた。そしてたくみの性器に手を当てる。
「思ったとおり、心地よさがここまできているようね。」
「な、何を・・・」
 アスカの行為に困惑するたくみ。彼女の視線が彼から和海に移る。
 そしてたくみの性器を和海の秘所に押し当ててきた。
「い、いやあぁぁぁーーー!!!」
 和海が悲鳴を上げる。心の中を満たすほどの絶叫だった。
 たくみの一部が彼女の体に浸入し、今までにない刺激に襲われていた。
「いやあぁっ!何なの、この感覚は・・!?」
「あはぁ・・オレが・・和海の中に・・・!」
「そうよ。2人が完全に交わること。それが愛の骨頂。この強い刺激の中で、あなたたちは本当の安楽に堕ちるのよ。」
 たくみも強い刺激を感じ取っていた。2人の体が実際に入り混じり、その激しい衝動に2人はあえぎ叫んでいた。
「後は私が手を出さなくても、あなたたちは自然と快楽の仲に堕ちる。天使と悪魔、相容れない存在同士の禁断の愛を、神である私が実らせてあげる。」
 アスカは抱き合ったままあえぎ続けるたくみと和海から体を離し、ゆっくりと離れていく。叫ぶ2人を高みから見下ろして、彼女は妖しく微笑む。
「ああぁぁ・・・たくみ・・わたし・・・!」
「和海・・ダメだ・・・この感じを・・抑えきれない・・・!」
 互いの肌をかきむしりたい心地に陥る2人。アスカのもたらした行為は、2人の心を完全に混乱へ導いた。
 全身からほとばしる汗が弾け、黒一色の空間に落ちていく。
「くぁぁぁ・・・早く・・・早く何とかしないと・・・!」
「たくみ・・ぃゃ・・動かないで・・・!」
 2人の心を快感が満ちていく。それを外に出したいという衝動に2人は駆られていた。
「私の中に・・・私の中にたくみの・・・うああぁぁ・・・!!」
 和海の中にたくみの愛液があふれ出す。そして和海自身の愛液と入り混じる。
 そしてたくみの性器が和海の秘所から抜かれた瞬間、大量の愛液が空間に満ち足りた。その衝動と解放感に2人は脱力し、そのまま倒れこんだ。
 横になった2人を支えたのは、空間の見えない床だった。たくみと和海は昏倒したまま動かなくなった。
 2人の心は完全に崩壊した。心身ともに力が抜け落ち、下腹部から愛液があふれ出していた。
 何もかもが消えた空間に、愛の雫が広がり、2人の床についた部分をつからせる。それでも2人は反応しない。
 その瞳も互いの顔しか映らず虚ろになっていた。

 アスカをまとっていた光が治まった。たくみと和海の心の疎通を終え、現実に戻ってきたのだった。
「たった今、2人の心は完全に堕ちたわ。」
「そんな・・・!?」
 妖しく微笑むアスカの言葉に、夏子は愕然となる。たくみと和海は、アスカの石化と抱擁に完全に囚われてしまった。
 つまり、2人はアスカに完全に支配されたということになる。
「2人はもうあなたたちのことは考えていない。それどころか、自分たちをどうしようとしているのかさえ、ちゃんと考えていない。」
 アスカがまたもや、たくみと和海の石の頬に優しく手を添える。
「2人が今考えているのは、互いに寄り添うことだけ。まるで赤ん坊のように、互いにすがり付きたがっている。互いの肌に触れ合うことで、自分たちの心を満たそうとしている。ただそれだけなのよ。」
 アスカには2人の心の姿が見えていた。
 たくみと和海は何もない心の空間の中で、横たわって抱き合っていた。2人とも互いの肌を撫で、ときに肌を舐め合い、ときに口付けを交わしていた。
 下腹部から愛液があふれ2人の体を浸らせていても、2人は構わずに抱擁を続けていた。
 周囲の声は届いていない。周囲の状況は見えていない。
 ただ互いを愛し合うことだけしか考えられなくなっていた。
「もう2人を救うことはできない。完全に私の中に身を委ねたのよ。」
「つまり、たくみと長田さんはもう、心のないただの石像になってしまったということですか・・・!?」
「それは少し違うわ。2人にはまだ心がある。ただ、その心はもう崩壊しているだけ。」
 石の頬から手を離し、夏子に視線を戻すアスカ。夏子は完全に困惑しきってしまい、その場に座り込むしかなかった。
「次はあなたの番よ、夏子さん。あなたにも安息を与えてあげるわ。」
「待ちなさい・・!」
 夏子に歩み寄ろうとしたアスカを呼び止める声。2人が振り向くと、そこには満身創痍のジュンの姿があった。
「ジュン・・・」
 ジュンを見つめるアスカの笑みが強まる。ジュンは傷ついた体を引きずって、じっとアスカを見据えていた。
「あなたはもう何もできない。たくみくんも長田さんも、滝浦さんも快楽の海に沈んだ。あなたも私が誘ってあげる。」
「そうはいかないわ・・私はあなたを倒す。みんなを助けるために。みんなの笑顔を守るために!」
 微笑を見せるアスカに言い放つジュンの眼に、不気味な眼光が宿る。長い黒髪が揺らめき、その姿が悪魔へと変わる。
 アスカも背中から翼を生やし広げた。女神と悪魔。2人のビーストが再び対峙した。
「あなたとはまた決着をつけていなかったわね。あのとき、あなたは死の淵から這い上がり、私の体を切り裂いた。あなたは悪魔として、神となった私を殺した。でも、今度は私を殺せない。」
 アスカの眼が大きく見開かれる。
「私は不二あずみの力の一部を手にしているし、あなたも万全な状態ではない。あのときの優劣が通じないことは明白よ。」
「それでも、それでも私は下がらない。もう2度と、大切な人を失いたくはない・・!」
 余裕を見せるアスカと、鋭い視線を向けるジュン。
 和美やたくみたちを失くしたくない。それだけが今のジュンを突き動かしていた。
「失うことはないわ。私がいる限り、彼らがこの楽園にいることを拒絶しない限り、そしてあなたも私に身を委ねれば、あなたは何も失うことはない。私の楽園の中で、永遠を生きるのよ。」
 あくまで微笑を崩さないアスカ。全ての決意を秘めて、ジュンがアスカに飛びかかった。
 鋭い悪魔の爪が、神と名乗るアスカの喉元を狙う。しかし軽やかにそれをかわし、逆に自分の爪で悪魔の体を切り裂く。
 声にならない悲鳴を上げるジュンが昏倒しうめく。傷つき吐血を引き起こす。
「これで分かったでしょ?私と今のあなたでは力の差があるのよ。万全ならどうかとも思うけど、これでもうあなたは終わりね。」
 アスカが妖しい笑みを浮かべて、うめくジュンを見下ろす。ジュンは完全に満身創痍の状態に陥り、人間へと姿が戻っていた。
「あなたは石にはしない。私がゆっくりとけがれを消してあげる。悪魔という呪われた運命から、私が解放してあげる。」
 そういってアスカは身を屈め、ジュンの体を支えて、その唇に自分の唇を重ねた。その感触を堪能するアスカだが、ジュンは困惑に満ちていた。
 神を装う魔性の誘惑。それは彼女にとって不快以外の感情を与えてはくれなかった。
 必死に抗おうとするジュンだが、傷ついた体は思うように動いてくれない。
「ジュン、あなたは私のもの。あなたがビーストとして、デビルマンレディーとして覚醒したときからね。そしてそれは、これからも変わらない。」
「うぅ・・・ぅぅぅ・・・」
 唇を離し、微笑をもらすアスカ。ジュンが不快感と苦痛にうめく。
「あなたの呪われた宿命は、この楽園でしか拭い去れない。」
 さらにジュンの体に迫ろうとするアスカ。
 そのとき、凄まじい轟音とともに、アスカの左肩から紅くおびただしい血が噴き出した。一瞬動きを止めたアスカが振り向くと、夏子が銃を構えていた。
 彼女が放った弾丸が、アスカの肩を射抜いたのだった。
「これはどういうことですか、夏子さん?」
 アスカが眉をひそめて夏子に問いかける。肩に痛々しい傷を負いながらも、彼女は微笑を消してはいない。
「あなたのしていることは間違っています、アスカさん。そんなことをしても、あなたは神にはなれない。ここも楽園とは言えません。」
 真剣な眼差しでアスカに言い放つ夏子。困惑を抱えながらも、彼女は銃を下ろさない。
「私は今まであなたの恩を抱きながら、刑事という職務に務めてきました。私もあなたも、人の進化と人間との共存を心から願っていると信じてきました。ですが、あなたは違ったのですね・・・」
「あなた・・・」
「あなたは人もその進化も、自分の欲情のためのおもちゃとしか考えていない。人の心を弄び、自分の思惑通りに事を進める。そんなあなたが、共存なんて理想を実現させるはずもない!」
 発する声を大きくして叫ぶ夏子。かすかに震えていた銃身が、完全にアスカに向けて定まる。
「アスカ蘭!石化した人たちを解放し、大人しく投降しなさい!さもなくば、この場で発砲する!」
 今まで自分に助力を与えてくれた人と決別し、銃口を向けて警告する夏子。仲間のため、親友のため、自分の大切なもののために、彼女は今まで尽くしていた職務を放棄し、かつての恩人にさえ反抗の意を示した。
「なるほど。私を追い詰めようというわけね。でも、あなたに私は止められない。人であるあなたには。」
 それでもアスカは余裕の態度だった。
「あくまで警告に従わない、と・・・」
 覚悟を決めた夏子が、アスカの胸元に銃口を定める。そして躊躇を振り切って、指をかけていた引き金を引く。
 銃口から弾丸が放たれ、アスカに向けて飛んでいく。彼女は笑みを見せて、回避する素振りさえ見せない。確実に当たると夏子は思った。
 しかしその弾丸は、アスカに当たる直前、見えない壁に阻まれたかのように彼女の眼前ではじけ飛んだ。
「えっ・・!?」
 何が起こったのか分からず、夏子が一瞬呆然となる。
「だから言ったでしょ?あなたでは私を止めることもできないと。」
 未だに笑みを浮かべているアスカの眼の前で、弾けた弾丸が霧散しながら地面に落ちる。
「もう諦めなさい、夏子さん。あなたはもう私のものになるしかないのよ。」
「たとえそうだとしても、私はあなたを受け入れない。ここで下がったら、私は大切なものを失う。もうあんな思いは・・繰り返したくはない!」
 殉死した親友のことを思い返し、今いる仲間たちを思いながら、夏子は再び引き金を引いた。さらに数発の弾丸が放たれる。
 しかしアスカの眼前で、全ての弾が弾かれる。構わず発砲を繰り返す夏子だが、ついに銃の中の弾が切れる。
 それを見切ったアスカが、背中の翼を広げる。そして弾を詰め替える暇を与えず、彼女は夏子に一気に詰め寄った。
 眼の前に現れた彼女に、夏子は眼を見開いた。構えている銃を押さえられ、彼女は身動きが取れなくなっていた。
「捕まえたよ、夏子さん。」
 アスカが妖しい視線を、困惑する夏子に向ける。
「さぁ、あなたの素肌を見せてもらうとしようね。」
 アスカが夏子を捕まえたまま、右手に力を集め光を灯した。

    ドクンッ

 夏子の胸に強い高鳴りが襲った。しかしアスカに体を押さえられていたため、立ったまま動くことができない。
「これであなたも私のものよ。けがれを消し去り、快楽へと誘ってあげる。」
  ピキキッ パキッ
 アスカが意識を向けると、夏子の着ていたレディーススーツの上着が引き裂かれ、さらけ出された右胸が白く固まっていた。
「体が、石に・・!?」
 石に変化し始めた自分の体に驚愕を覚える夏子。
「あなたにかけた石化、あなたの体の変化は私の思うがまま。無意味な抗いはやめて、私に全てを委ねなさい。」
 アスカが微笑みながら、石化した夏子の胸に手を当てた。顔を歪める夏子の反応をうかがいながら、その胸を撫でていく。
「く・・ぅぅ・・・」
 押し寄せてくる刺激を必死に抑えようとする夏子。アスカによって下ろされていた銃を、再び彼女に向けようとする。
「その銃はもう何の役にも立たないわ。」
  ピキッ ピキキッ
 夏子の両手が石化し、持っていた銃が壊れる。弾丸が入っていなかったため、暴発することはなかった。
「弾が入っていなかったのは幸いだったかもしれなかったわね。まぁ、そのくらいでは私の石化を受けた体は壊れたりしないけどね。」
 アスカの視線の先で、石化に巻き込まれた銃が、夏子の手からボロボロと地面にこぼれ落ちる。
 もはや夏子は一寸の望みさえ失ってしまった。彼女の心に絶望感が押し寄せる。
「そう悲観的になることはないわ。あなたはこの楽園の永遠の住人となるのよ。」
 アスカが夏子の石化していない左胸を撫で始めた。石になって固くなった右胸と違い、左胸はまだ柔らかさとぬくもりがあった。
「う・・うくぅぅ・・・」
 押し寄せてくる快感に、夏子が顔を歪めうめきだす。それを見つめて、アスカがさらに微笑む。
「もうあなたは1人じゃない。私が見守っていてあげるから。」
「く、くああぁぁぁーーー!!!」
 さらに押し寄せてくる刺激と快楽。それを強く感じて、夏子は悲鳴を上げた。


次回予告
第22話「人間」

ついにアスカの魔手に捕らわれた夏子。
彼女の叫びとともに、希望が徐々に薄らいでいく。
そんな中、楽園の中に届く鮮明な歌声。
彩夏の声。美優の思い。
2人の心は、石化の呪縛に囚われた人々に届くのか?

「お姉ちゃんのきれいな声が、みんなに届くって私は信じてる。」

つづく


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