デッド・エンジェル 第3話「目覚める堕天使」

作:幻影


 キースの被害者たちが、デッド・エンジェルの正体の目撃者となった。
 その中には、ロウやメイたちと同じクリスシティ第一大学の在学者も混じっていた。
 その夜を境に、ロウ・シマバラがデッド・エンジェルであることがクリスシティ中に知れ渡った。
 一抹の不安を抱えて登校したロウを、大学の生徒、講師たちが冷たい眼をして待ち構えていた。
 その光景が、ロウの中に押し殺していた恐怖をさらに強めた。
 講師の1人が重い口を開いた。
「君には非はない。だが、君がいるだけで、私たちはその存在に怯えることになる。悪いがここから、この街から出て行くんだ。」
 哀れな堕天使、デッド・エンジェルは、人間の肉体、その感覚の生成過程、速度が全く異なっている。
 その強大な力のため、人々からは忌み嫌われている。
 それが現実となってロウに荒々しい津波のように押し寄せていた。
 そして街中の人々も、ロウに冷たい視線を向けている。
「このバケモノめ!」
「お前がいると、オレたちは安心して暮らせないんだよ!」
「早く出て行け!」
 人々が罵倒を浴びせ、ロウを嫌悪する。
 心を打ちひしがれながらも、ロウは何も言わずに後ろに振り返った。
「待って!」
 1つの声が歩き出そうとしていたロウを止めた。
 群衆の中からメイが息を切らして飛び出してきた。
 メイは切羽詰った面持ちで人々に声をかけた。
「どうしてロウを追い出そうとするの!?ロウが何をしたの!?誰かを傷つけたの!?ロウがデッド・エンジェルだからって、何も悪いことしてないのに邪見にするのはやめて!」
「存在するだけで罪ということもある。特に強大な力を持った堕天使は。」
 メイの悲痛の言葉をさえぎって群衆の波をかき分けて現れたのは、正規の軍人たち数人だった。
 軍服に身を包み、手に銃を所持している。
 軍人の登場に人々が危機感を覚えて次々と後ろに下がっていく。
「そんな・・軍隊まで現れるなんて・・」
 メイも困惑を抱えたまま、人に引っ張られながら下がっていく。
「オレを殺しにきたのか?オレがデッド・エンジェルだから。」
 軍人たちを鋭く睨むロウに、指揮官と思しき軍人が前衛に立つ。
「君に恨みはない。だが、人々の不安を取り除くために、我々は君を始末しなければならない。悪いが、死んでもらおう。」
 指揮官の覇気がロウの心を威圧する。
「撃て!」
 指揮官の命令が響き、銃を構えた軍人がいっせいに発砲した。
 ロウが身をひるがえして、何とか弾をかわしていく。
「やめて!」
 メイが再び群衆を抜けて弾が飛んでいく真っ只中に飛び出した。
「おい、君!くっ、発砲やめ!」
 ロウへの発砲をメイに妨害され、指揮官が舌打ちしながら発砲中止を促した。
 その合い間を縫って、ロウは街外れのほうへ走り去っていった。
「ロウ!」
 その姿を眼にしたメイも彼の後を追っていった。

 人々に追われて逃げ延びたロウは、息を切らしながら街外れの海辺へと飛び出した。
 疲弊しきった体を休めるため、彼はそのまま砂浜に腰を下ろした。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 いつも平凡に暮らしていたはずの街。
 自分がデッド・エンジェルであることを知った瞬間、それが自分に牙を向けた。
 堕天使であるだけで忌み嫌われる。
 非情の心理に、ロウは胸を締め付けられるような思いをしていた。
「だ〜れだ?」
 暖かいものがロウの眼を覆い隠した。ロウは優しく微笑み、
「お前だろ?メイ・アーマイン。」
 ロウは眼を塞ぐ両手を掴む。
 彼の背後からメイが笑みをしながら見下ろしていた。
 彼女はロウに視線を向けたまま、彼の隣に座った。
「あのときもこんな出会いだったよね?」
「・・ああ。確か不良にからまれてる子供を助けようとお前が飛び出して、それをオレが助けに飛び出したんだよな。」
 少年を助けようと無謀にも不良たちに挑んだメイをロウが助け不良を撃退したその後、この海辺に腰かけていたロウにメイが声をかけたのだった。
 それが2人の出会いだった。
「出会ったばかりなのに話が進んで、お前と意気投合しちまって。」
「そうね。何か惹かれるものがあったのかもね。」
 青い空と海を眺める2人。しかしロウの心は、この海原のように澄んではいなかった。
 沈黙をおいて、メイが再びロウに聞いた。
「まさか、ロウがあのデッド・エンジェルだったなんてね。」
 そしてロウがメイに視線を向けて話す。
「がっかりしたかい?憧れの堕天使がこんな男で。」
「ううん。逆によかったのかもしれない。あのデッド・エンジェルが、こんなに近くにいたなんて、夢にも思ってなかったよ。」
「そうか・・・」
 作り笑顔をするロウには、未だに辛さが残っていた。
 彼は立ち上がり、そのまま砂浜を立ち去ろうとする。
「ロウ!」
 その姿に気付いたメイも立ち上がり、ロウに抱きついた。
「メイ・・」
 メイの切羽詰った態度に、ロウが動揺する。
「どうしても行っちゃうの!?あたしたちのいるこの街にはいられないの!?」
 メイの悲痛がロウの心に重くのしかかる。
 嫌悪される存在である自分を、そこまで想ってくれている。
「メイ、これ以上オレに関わらないほうがいい。」
 それでも、その想いを裏切らなければならない。メイの幸せを思えばこそ。
「デッド・エンジェルのオレと一緒にいたら、お前は真っ当な生活を送れなくなる。」
「何が真っ当よ!?ずっと真っ当でしょ!?あたしも、あなたも!」
 ロウに突き放されても、メイはロウが出て行くのを止めたいと思っていた。
「お前には夢がある。刑事になりたいっていう夢が。」
「ゆめ・・・」
 ロウを抱きしめるメイの腕から力が一瞬緩む。
 メイは父に憧れて、街の人たちを守りたいという理由で刑事を目指している。
 ロウと初めて会った日に、メイはそのことを切実に話したのだった。
「オレがあのときお前を助けたのは、不良に追い詰められていたお前の姿を見かねたわけじゃない。お前の勇敢さと正義感が、オレに勇気を奮い立たせたんだ。だから、オレはお前が幸せになってくれることを1番に願っているんだ。」
 ロウが語るメイへの想い。それが彼女の心を揺さぶる。
「オレのそばにいたら、刑事になる夢も叶わなくなるぞ。」
「そんなこと・・」
 メイの眼から涙がこぼれる。
 ロウと離れ離れになりたくない。だがロウはメイの幸せのため、あえて彼女と別れることを望んでいる。
 お互いがお互いを想いながらも、その考えはすれ違っていた。

 ロウとメイに強い風が吹き付ける。
「何だ・・!?」
「さ、さむい・・」
 海風ではない。吹いてくる方向が海とは全く違い、あまりに冷たい。
 寒風とともに、青白い光が飛び込んできた。
「危ない!」
 ロウはメイを突き放し、自分も後方に下がった。2人の眼の前を光が砂を撒き散らしながら通過していく。
 やがて光が止まり、そこから1人の人間が姿を現した。
 透き通った水色の長髪をたらし、魅力的な雰囲気を放っていた。
「お前は誰だ!?」
 ロウがその人に声をかけた。
「私の名はマリナ。カオス・クラインの契約により、デッド・エンジェルを始末する。」
 流れる水のように振り返った女性、マリナから荒々しい突風が吹きつける。
「うわっ!」
 冷たく強い風にロウは後ろに吹き飛ばされる。
「ロウ!」
「次はあなたよ。」
 倒れて砂まみれになったロウに駆け寄ろうとしたメイに冷たい風が吹き付ける。
「さ・・さむい・・・」
 寒風に耐え切れなくなり、メイは体を震わせる。
 彼女の体に氷が張り付き包み込み、一瞬にして彼女を氷の塊に閉じ込めた。
「うく・・う・・メイ!」
 うめきながら起き上がったロウは、氷漬けにされたメイを見て驚愕する。
 虚ろな表情のまま、彼女は氷の中に封じ込められていた。
 マリナが素早い動きでメイの入った氷塊のそばまで詰め寄った。
「この子を助けたかったらついてきなさい。あなたなら追ってこれるはずよ。」
 マリナはメイとともに、再び光に包まれて宙を飛んだ。
 光はゆっくりとした速さで離れていく。まるでロウを、デッド・エンジェルを誘い出しているように。
「許さない!」
 ロウは怒りを秘めて、体に力を込める。
 上着が裂け、黒い翼が広がり、眼が紅く、髪は白くなった。
 哀れな堕天使、デッド・エンジェルとなったロウは、背中の翼を羽ばたかせて空を飛び、光を追っていった。

 光が降り立ったのは、クリスシティの中で最も海岸に近いビルの屋上だった。
 凍れる美女となったメイを見て笑みを浮かべ、マリナはロウが来るのを待ち構えた。
「さぁ、早く来なさい、デッド・エンジェル。ここがあなたの処刑場よ。」
 マリナが虚空を見つめる視線の先に、黒い翼の天使が血相を変えて向かってきていた。
 へこみのある段差へと降りたマリナの前に、ロウが息を切らして着地した。
 ロウは怒りのこもった鋭い視線でマリナを睨みつけている。
「メイを解放しろ!さもないと力ずくでも取り返す!」
 声を荒げるロウの姿を見つめながら、マリナが口元に指をあててくすくすと笑う。
「あなたを始末したら、彼女を助けてあげてもいいとも考えているわ。」
「そうかい・・なら闇に還れ!」
 ロウが右手をマリナに向けて広げた。
 手から衝撃波が飛び出し、マリナを吹き飛ばして壁に叩きつけた。
「うっ!」
「剣よ!」
 痛みにうめくマリナに、ロウは紅い剣を手にとって追撃を加えようとする。
 マリナは素早く身をひるがえして、ロウが振り下ろした剣をかわし、両者の位置が入れ替わる。
「くっ!」
 思わず舌打ちをして、ロウは後ろに振り返って再びマリナを見据える。
 彼女は未だに妖しい笑みをやめていない。
「すごい力だわ。さすがデッド・エンジェルといったところね。だけど・・」
 マリナが右手を上に向けて、ロウがその行動に身構える。
「こうしたらどうなるかしら。」
 ロウがはっとして後ろを振り返ると、無数の氷の刃が宙に漂い、狙いを氷塊に閉じ込められたメイに向けられている。
「メイ!」
「あまいわ!」
 一瞬のスキを狙い、マリナが左手で激しい寒風をロウに吹き付けた。
「ぐあっ!」
 壁に叩きつけられたロウに、マリナは寒風を操り、両手両足を氷に包み込んだ。
「があぁぁーーー!!」
 ロウが顔を歪めてうめき声を上げる。
 氷漬けにされた手足に、無数の針が刺さったような激痛が襲う。
「これで君は身動きが取れなくなった。」
 マリナの背後から聞こえる声。
 蒼い短髪に蒼い瞳をした男が、氷漬けのメイとともに音もなく姿を現す。
「お前は・・!?」
「私の名はカオス・クライン。君と同じデッド・エンジェルだよ。」
 ロウの驚愕を前に、カオスは黒い翼を広げた。
 今の自分と特徴が全く同じ。自分以外の堕天使を、ロウは目の当たりにした。
「どうして・・デッド・エンジェルであるお前が、なんで魔と行動を共にしている!?」
 問いかけるロウを、カオスは小さく笑う。
「おかしなことを言うね、君は。デッド・エンジェルは人から忌み嫌われる存在。天使でも悪魔でも人でもない哀れな種族。人々に嫌悪されているのだから、その人間を糧としている魔と力を合わせるのは当然のことだよ。むしろ、魔に敵対している君のほうが間違った行動を起こしているんだよ。」
「そんな、そんなことで・・」
 ロウは困惑した。
 人々守るために振るっていた力が、デッド・エンジェルとして間違った使い道をしていたのではないかと。
「君も私たちに協力の意を示すんだ。現にこの街の人々は君を突き放し、命まで奪おうとした。この壮大な力を認めない人間たちに、私たちのすばらしさを見せ付けるんだ。どうかな?」
 カオスが妖しい笑みを浮かべて、ロウに誘いを促す。しかし、困惑していたロウは真剣な面持ちで、
「悪いがそれはできない。オレはこの力を、みんなを守るために使うんだ。たとえそれが間違ったことであっても!」
 ロウの示した決意に、カオスは意表を突かれたような顔になる。しかしすぐにまた笑みを浮かべる。
「そうかい。残念だよ。この力を消してしまうのはもったいないけど・・マリナさん、彼を始末していいよ。じっくりと長く苦しみを与えてあげるんだよ。」
「言われるまでもないよ。」
 カオスに促されて、マリナが壁に貼張り付けにされているロウに近づいていく。
「すぐには殺さないよ。長い長い苦しみを与えて楽しませてもらうわ。」
 マリナは右手を突き出して、寒風をロウに向けて放った。
 氷のつぶてが、次々とロウに襲いかかる。
「がはっ!あっ・・」
 ロウは、体に弾丸が貫通するような激痛にさいなまれる。
 その姿を見つめながら、カオスは指を鳴らした。
 すると氷塊に閉じ込められていたメイの氷が割れた。
 氷が粉々になり、メイが床に倒れ込む。そんな彼女の顔を、カオスは優しく叩いた。
 メイがうめきながら意識を取り戻した。
「ここは・・・」
「気がついたかい?見てごらん。おもしろいショーが始まってるよ。」
 頭痛に頭を抱えているメイは、眼の前の悲惨な出来事に驚愕した。
「ロウ!」
 ロウが手足を氷漬けにされて壁に張り付けにされ、マリナがさらに氷のつぶてをぶつけていた。
「やめて!お願いだからやめてよ!」
 メイの悲痛の叫びが響くが、誰もそれを聞き入れる者はいない。
「お願い!やめさせて!ロウを助けて!」
 メイがカオスの腕を掴んで頼み込む。気が動転していて、彼もデッド・エンジェルであることに気付かない。
 その姿を見てカオスが笑う。
「助けてほしいなら、自分で助ければいいことだよ。君の中にも眠っているはずだよ。彼を助けることができるほどの強靭な力が。」
「・・デッド・エンジェル・・・」
 カオスの言葉を聞いて、メイは呆然となる。
 力がほしい。傷ついたロウを助けることのできる力が。
 彼女の思いと願いが募り、自然と体に力がこもった。

 凍てつく痛みがロウの体を覆いつくし、感覚が麻痺し始めてきた。
 意識が遠のきそうになりながらも、必死にこらえる。
「このままじゃやられる・・どうにかして手足の氷をなんとかしないと・・・えっ!?」
 ロウが焦りを隠せないでいたそのとき、激しい力の変動に気付いた。
 マリナの冷気でも、カオスの力でもない。
「この力は・・・」
 ロウは自分の感覚を疑った。
 漏れ出していた力は、体を震わせているメイから放たれていた。
 そしてその力は紛れもないデッド・エンジェルとしての力だった。
「う・・うぅぅ・・・」
 メイがうずくまってうめき声を発している。
「やめろ・・メイ、やめろ!」
 メイがデッド・エンジェルになろうとしている。
 怯えるような表情で、ロウがメイを止めようと体を前に体重をかけるが、まだ手足が凍り付いている。
「彼女も目覚めるか。」
 カオスが不敵に笑い、小さく呟く。
 自分の体を抱きしめるメイから、白い煙のようなものが発生しているのを、ロウたちには見えていた。
 力の放出に備えてか、カオスは黒い翼を広げて飛び上がった。
「ダメだ、メイ!ぐわっ!」
 メイを制止しようとする叫ぶロウに、マリナの氷のつぶてが飛び込んでくる。
 それでもロウの視線は、メイに向けられていた。
「お前は、お前は、人のままでいてくれぇぇーーー!!!」
 ロウの悲痛の叫びがこだまする。
 メイには夢がある。刑事になり人々を守り救うという立派な夢が。
 もしデッド・エンジェルの力を覚醒させてしまったら、その夢さえ叶うどころか、人間としての安息も失われてしまう。
 ロウは今までにない恐れを抱いていた。
 しかしそんな彼に、メイが笑顔を作る。
「ダメだよ。だって、今ここであなたを助けなかったら、刑事になる意味、なくなっちゃうじゃない。」
 メイが刑事になろうとしているのは、困っている人、苦しみ悲しんでいる人を助けるためである。
 このままロウを助けなかったら、刑事になる意味を失ってしまう。
 メイのポニーテールを形作っていたひもが切れ、ブラウンの長髪がふわりと浮かぶ。
 着ているシャツが破れて上半身があらわになり、背中から黒い翼が広がる。
 髪も白くなり、ロウを見つめる眼も紅く染まった。
 メイは華やかな雰囲気を放っている堕天使に姿を変えた。
「デッド・エンジェルがもう1人!?」
 振り返ったマリナが驚愕する。眼の前に現れた2人目の堕天使の姿に。
 メイの紅い瞳がマリナを捉える。
「いいわ。あなたから始末してあげる!」
 マリナは標的をメイに変えて、右手から荒々しい寒風を放った。
(分かる・・今のあたしの力が・・)
「はね返って!」
 向かってくる寒風に、メイは両手を突き出した。
 寒風が見えない壁にさえぎられたように霧散し、マリナのほうに逆流する。
「そんな!?キャアッ!」」
 はね返された冷気を浴び、マリナは驚愕の表情のまま氷塊の中に封じ込められた。
 荒々しい風の勢いがまだ治まらず、氷塊が弾き飛ばされビルの屋上から投げ出される。
 上空から様子をうかがっていたカオスの眼に、落下して小さくなっていく氷塊が映る。
 そして氷塊が見えなくなった直後、鈍い音が響き渡った。
「ふふっ。肉体までも粉々になってしまったようだ。あの2人の行く末を期待するとしよう。」
 不敵に笑うカオスは翼を羽ばたかせてオレンジ色の空へと去っていった。
 彼の言った通り、ビル沿いの道で氷塊は粉々に砕け散っていた。閉じ込められていたマリナの肉体さえも。
 意識がもうろうとしているロウを張り付けにしていた手足の氷が分解された。
 彼の体力は限界に達し、デッド・エンジェルとしての力が失われ、前のめりに倒れこもうとしていた。
 そのとき、彼の体を支えこむ力がかけられた。
 自分はどうなっているのか。どういう状況の中にいるのか。
 それを考えようとしても、体の疲れがそれを阻む。
 そんな中でなんとか意識をはっきりさせようとするロウ。
 暖かい温もり、優しく流れる涼しい風を感じる。
 彼の視線の先には見覚えのある顔があった。
 普段と違って見えたのは、彼女の髪が白く、背中には黒い翼が広がっていた。
「・・メイ・・・」
 傷ついたロウを助けたのはメイだった。
 デッド・エンジェルとして覚醒した彼女は、ロウを抱えて夜空を飛んでいた。
「・・天使・・・」
 ロウは思い出していた。幼い時に見た天使の姿を。
 その美しさと鮮やかさに魅了され、憧れを抱いた白い翼の天使。
 ロウの眼には、それと今のメイの姿が重なって見えていた。

つづく


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