Blood File.21 引き裂かれた友情

作:幻影


「何をするんだ、ワタル!?僕が何をしたっていうんだ・・!?」
 殴られた拍子で口から垂れた血を拭いながら、海気がワタルに疑問を投げかける。ワタルの海気に対する怒りと悲しみは頂点に達していた。
「あのとき、オレはマミを、お前の妹を見殺しにした。オレはお前に殴られて当然だと思って、お前がマミを忘れられない気持ちもオレには分かる。しかし、だからと言って、お前がこんなことをしていいはずがない!自分の欲望のために、周囲の人たちを束縛するなんて、絶対に許されることじゃない!」
 ワタルは苛立ちが治まらないまま、動揺する海気の胸ぐらを掴む。
「今のお前に、マミやあゆみちゃんを、幸せにできるか!」
 怒りを込めた叫びを上げるワタル。それは友を思えばこそのことだった。
 瀕死の重傷を負ったマミの願いをワタルは聞き入れず、彼女は帰らぬ人となった。ワタルは彼女を見殺しにした責任を強く感じていた。
 故に、久しぶりの再会を果たしたとき、ワタルは海気との友情を大切にした。過ちを犯していた海気を、ワタルは何としても止めたかったのだ。
「ぐっ!」
 海気がワタルの掴む手を払い、後退して見据える。
「僕は、あの肌に触れていないと、満たされないんだ!」
 言い放った海気がきびすを返し、いちごを突飛ばしてそのまま部屋を飛び出していった。
「海気!」
 ワタルも後を追おうとするが、頭を抱えて痛がっているいちごに振り返り、手を差し伸べた。
「大丈夫か、いちご!?」
「うん、平気。」
 ワタルの手を借りながら、いちごは立ち上がった
「オレは海気を追う。いちごはあゆみちゃんを頼む。」
 いちごが頷いたのを確認して、部屋を出て行った。
 その後ろ姿を見送ってから、いちごは倒れたままのあゆみに近づいた。彼女は眼を開けたまま気を失っているようだった。
「あゆみちゃん!あゆみちゃん、しっかりして!」
 いちごは必死にあゆみを呼び起こすが、あゆみは全く反応しない。
「あゆみちゃん・・・」
 いちごは悲痛に顔を歪める。海気にここまで弄ばれたあゆみは、まさに生ける屍のように生気を奪われていた。
 いちごはそばに置かれていたあゆみの衣服を見つけ、それを彼女に着させた。出かけたときと同じ格好に戻ったが、彼女は未だに生きた心地が見られない。
「あ〜あ。身も心も完璧に奪われちゃったね。まさに骨抜きって感じ。」
 突然扉のほうから声がかかり、いちごは振り返った。部屋の前の廊下に、あゆみの妹、いずみが呆れた様子を見せていた。
「あなたは・・?」
「私は水島いずみ。あゆみお姉ちゃんの妹だよ。」
 いずみの言葉にいちごは立ち上がり、困惑した表情で彼女を見つめる。
「ワタルとあゆみちゃんから聞いてるよ。あゆみちゃんをブラッドにして、彼女の家族や友達を殺したって・・どうして!?あなたは、あゆみちゃんの妹なんでしょ!?」
 打ちひしがれる思いでいずみに問いかけるいちご。するといずみが妖しく笑う。
「だって許せないじゃない。あんな幸せなお姉ちゃんと違って、私はいつも辛い思いをするばかり。こんな差別は私は認めない!あなたも邪魔するなら、私のブラッドの力で殺してやるから!」
 いずみは憤慨して、右手を金属質の手刀に変えた。いちごはあゆみを優しく床に下ろして、ブラッドの力を発動させて紅い剣を作り出した。
「どうしても戦わなくちゃいけないの・・!?」
 抵抗を感じながらも、いちごは跳躍して剣をいずみの手刀目がけて振り下ろした。いずみは手刀で剣を受け止め、そのまま切り払う。
 その威力にいちごは驚愕する。手刀の斬撃は、いちごの剣の刀身を消し飛ばし、石像の何体かをなぎ倒した。しかし海気に石化された女性たちは倒れた衝撃に対する強度が強いのか、壊れる様子が全くなかった。
「今の私はこの前とは違う。Sブラッドにはなってないけど、それを越えるくらいの力はつけたからね。取り込んだ人たちの中には、お姉ちゃんを追ってた刑事さんも入ってたわね。」
「刑事さんまで殺したっていうの!?」
 いちごの悲痛は怒りへと変わっていた。彼女の眼にも、いずみが心を凍てつかせた非情の人として映っていた。
「どんなに腹を立ててもムダだよ。今のところSブラッドの力を発揮しているのはワタルだけなんだから。アンタじゃ、私の相手も務まらないよ。」
 いずみが手刀の切っ先をいちごに向けて前に進む。金属の刃が迫り、いちごは徐々に追い詰められて、ついに壁にまで追い込まれた。
「あゆみちゃん・・・」
 あゆみの姿を眼にやったいちごが小さく呟く。その直後、いずみが手刀を突き出す。
 刃はかわそうとしたいちごの左肩をかすめ、壁を削り取る。痛みに顔を歪めるいちごは、傷ついた肩を押さえてあゆみへと近寄る。
「もうここまでだね。アンタと一緒にお姉ちゃんを殺せば、手間がかからなくて済むだろうね。」
 笑みを浮かべるいずみが、昏倒するいちごとあゆみに向けて手刀を振り上げた。2人の心臓を一突きにしようと狙いを定める。
(あゆみちゃん、ゴメンね。こんな辛い思いをしたのは、私のせいかもしれない。私がもっと強かったら、あゆみちゃんに楽しい思いをさせて上げられたのに・・)
 いちごはあゆみを守れなかった責任と自分の無力さを感じていた。ワタルに血を吸われてブラッドになったものの、自分の力で敵を倒したという実感が彼女にはほとんどない。
 ワタルの力に甘えていただけ。いちごは知らないうちに、自分の力を信じられなくなっていたのかもしれない。
「守りたい。力がほしい。あゆみちゃんを守れるだけの力を。自分を貫くことのできる、力を!」
 いちごがあゆみを守ろうとする強い意志を見せた瞬間、彼女からまばゆい光が発せられた。
「この光は!?」
 いずみはこの光に驚愕する。ワタルがSブラッドとして覚醒したときの光と同じだった。
 立ち上がって振り返ったいちごが真剣な眼差しを見せる。ブラウンだった髪の色は白くなり、神々しい閃光が彼女の体を取り巻いていた。
「そんな・・アンタもSブラッドに・・!」
「私はワタルを、ああゆみちゃんを守りたい。めぐみちゃんを助けたい。ただ、それだけだよ。」
 その直後、いちごの姿が消え、意標を突かれたいずみの背後に回りこんでいた。いつの間にか具現化された紅い剣で彼女を狙う。
 いずみも振り返ってそれを迎え撃つが、切りつけた剣は彼女の手刀を切り裂いていた。
「速い!」
 いずみが驚愕する間もなく、いちごの剣が彼女のわき腹を貫いた。金属質に変えられる体が、剣の威力によって突飛ばされる。
「私が、全く反応できない。さらに強くなった私が・・!」
 倒れたいずみが動揺しながら、剣を下げたいちごを見上げる。
「あなたやワタルが教えてくれたわ。Sブラッドは時を操るって。だから、どんなに強くなっても、時間の流れという大きな差は縮まらないのよ。」
 いちごに剣の切っ先を向けられるいずみが苛立って体を震わせる。
「私の・・私の邪魔はさせない!」
 いずみの体が弾けるように歪む。金属質の物体となった彼女が大きく広がり、いちごを取り込もうと迫った。
 金属の物体は確実にいちごを包み込んだように見えた。しかしいちごを取り込んだ感覚がない。
(いない!?)
 いずみが思考を巡らせた直後、鋭い刃がいずみの体に突き刺さった。再び背後に回ったいちごが、いずみの固い体を捉えたのだ。
 Sブラッドは時を操る。その眼にも映らない動きに、いずみはいちごを見失っていた。
「ああぁぁぁーーーー!!!」
 荒々しい絶叫を上げるいずみが廊下に、そして窓を突き破って外に放り出される。金属の塊となっていた体は元に戻り、裸で庭に投げ出され、転倒してうつ伏せで動かなくなった。
 その姿を見送って、大きく息をつくいちご。Sブラッドとして覚醒していた白髪はブラウンの色を取り戻し、手に持っていた紅い剣を消失させる。
 いちごは振り返り、あゆみの姿を見つめた。依然として放心状態のまま意識が戻らないでいた。
 そのとき、いちごは今まで感じたことのないほどの、強烈な力を感知して体が反応した。
「何っ!?」
 いちごは振り返って、力の行き先を探った。
(すごい力・・こんなにすごい力を感じたのは、初めてだわ。)
 力はこの屋敷のどこかに留まり、動かなくなった。いちごの中に、かつてない胸騒ぎが押し寄せた。
 いちごは横たわるあゆみに視線を送り、物悲しげな笑みを見せる。
「あゆみちゃん、私はワタルのところに行くね。悪い予感がしてるの。」
 いちごはきびすを返して、部屋を飛び出した。

 逃げ出した海気を追って、屋敷内の廊下を駆け回ったワタル。ついに食事部屋にまで海気を追い詰めていた。
「海気、いい加減に眼を覚ませ!自分の欲望に囚われちゃいけないんだ!」
 ワタルが必死に海気に呼びかける。しかし、海気はワタルの声を聞こうとはしなかった。
 2人とも、廊下を走り回ったために息が荒くなっていた。
「ワタル、君が僕の親友なら、僕の邪魔をしないでくれ!僕はあの心地よさがなくちゃ、生きていけないよ!」
 海気が体を震わせて、ワタルに言い放つ。そのあまりの悲痛さに、ワタルの心は揺さぶられる。
「海気・・」
 ワタルはしばらく苦悩した後、覚悟を決め、ブラッドの力を発動して紅い剣を具現化させた。
「海気、人間に1番必要なものを、取り戻してくれ。」
 ワタルの切実な願い。しかしその反応は、海気を失望に追い込む結果となってしまった。
「ワタル、僕を殺すのか?マミを見殺しにし、僕まで殺そうというのか!?」
「今のお前はオレの知ってる海気じゃない。お前を闇の力から解き放つ!」
 声を荒げる海気に、ワタルは剣の切っ先を向けた。
 完全に敵意を向けられた海気。困惑して顔に恐怖が浮かび上がっている。
「ああぁぁぁーーーー!!!」
 激しい絶叫を上げて、海気は紫色の石化の眼光を放った。その瞬間、ワタルはSブラッドの力を発動し、瞬時に海気の背後に回って石化の呪いをかわした。
 時間の流れを操るSブラッドの力で、白髪になったワタルが振り返る海気に剣を構える。
 しかしワタルは剣で切りつけず、刀身を海気に押し当てた。切られることはなかったが、ブラッドの力による衝撃が襲い、海気は弾き飛ばされて、並べられた椅子をなぎ倒す。
 うめき声を上げながら、海気が椅子を払ってゆっくりと立ち上がる。
「オレはお前に間違いを正してほしいんだ。間違ってると分かってることは間違っていると言いたい。そしてそれを正したい。お前がオレの親友だからこそ。」
 ワタルはSブラッドの力を解いて、剣の切っ先を海気の眼前に突き立てる。
 海気は完全に怯えた様子で、もはや返す言葉も無くなっていた。
「海気、お前が石に変えた、めぐみちゃんや他の人たちを元に戻すんだ。」
 ワタルは海気に剣を向けて要求する。ワタルが発した言葉には、断れば親友でも殺すという思いが込められていた。
 それが海気にさらなる恐怖を植えつけ、混乱にまで追い込んでいた。
 そのとき、鋭く細い光線が海気の胸を背後から撃ち抜いた。
「海気!?」
 その一瞬に、ワタルは眼を疑った。海気自身も何が起こったのか分からないまま、崩れるように倒れる。
「海気!」
 ワタルは剣を床に落として、海気に駆け寄った。
「海気、しっかりしろ!海気!」
 悲痛な面持ちで必死に呼びかけるワタルに、海気が力なく手を差し伸べる。
「ワ、ワタル・・ぼく・・は・・・」
「海気、死ぬんじゃない!生きるんだ!生きてオレを助けてくれ!」
 ワタルの荒げる声に、海気は小刻みに震える唇を曲げて笑みを見せる。
 握りしめられる手が脱力して抜け落ち、海気はだらりと体を下がって動かなくなった。
「お、おい・・海気・・・海気!」
 ワタルが涙ながらに呼びかけるが、海気は全く反応しなかった。
 命を失った体を強く抱きしめるワタル。悲しみに打ち震え、同時に怒りが込み上げてきていた。
「私をあんな目にあわせるなんて、海気お兄ちゃんはひどいよね?」
 突然発せられた幼さの残るその声に、ワタルは顔を上げた。聞き覚えのある声。記憶に新しい面影。眼の前にいる少女の姿に、ワタルは驚愕した。
 本来より少し大人びていたが、その少女は霧原めぐみに間違いなかった。
「めぐみちゃん・・・これは、いったい・・・!?」
 ワタルは今起こっている現実を理解できないでいた。一糸まとわぬ姿で背中に白い翼を広げていためぐみが、海気を絶命へと追い込んだのだった。
「驚いた、ワタルお兄ちゃん?私もびっくりしちゃったよ。まさか私が、ディアスというものの神様の、ディアボロスの力を持ってるっていうんだからね。」
「ディアボロス!?」
 めぐみの言葉にワタルは驚愕する。彼の脳裏に、夢の中でディアボロスが語った言葉がよぎってきた。
 ディアボロスを受け継いだ者。それはめぐみだったのだ。
 ワタルが視線をそらすと、めぐみの隣には見覚えのある人物の石像があった。
「なる・・!?」
 それはマリアとともにめぐみを連れて行ったなるだった。彼女も海気がかけた石化のように、白みがかった灰色の裸の石像に変えられていた。
「めぐみちゃん、どうして!?君は海気に石にされて、なるとマリアさんに保護されたはずだ!それなのに、なんでなるが石像にされてるんだ!」
 困惑するワタルの問い詰めに、めぐみは明るい笑顔で答えた。
「それはね、海気お兄ちゃんの力が、私が上げた力だからだよ。」
「なん・・だと!?」
「私は海気お兄ちゃんに、もうひとつの人格を与えたんだよ。だからワタルお兄ちゃんたちは今まで気付かなかったんだよ。もちろん、ディアスの神様になった私の力にもね。」
 そう言ってめぐみは、棒立ちのまま石化されたなるを優しく抱きしめた。
「いきなり私が元に戻って、お姉ちゃんたちびっくりしてたよ。なるお姉ちゃんはこの通り石像にしたけど、マリアお姉ちゃんには逃げられちゃった。」

 ワタルといちごに全てを託し、マリアはなるとともに、運転手の協力を借りながら、海気に石にされためぐみを自宅へと保護した。
 マリアの指示により、めぐみは彼女の部屋へと運ばれた。
「これでひとまず安心だな。それにしても、マリアの家で働いてる人たち、おかしな出来事に平気になりすぎ。」
 部屋のドアを閉めて、なるがマリアの家の関係者たちの態度に呆れていた。その言動に普段から平然としているマリアの対応にも。
 マリアが小さく笑いながら、石化されためぐみの頬に触れる。
「とにかく、いちごたちが帰ってくるのを待ちましょう。私たちにできることは、ここまでです。後は、みんなが無事に戻ってくることを祈るだけです。」
「ああ。そうだな。」
 他愛のない話をしながら、ワタルたちの帰還を待つことにしたなるとマリア。
 そのとき、めぐみの石の体が突然光り出し、マリアが驚いて数歩後退した。
「えっ!?」
「な、何だ!?」
 この出来事に驚愕するなるとマリア。まばゆいばかりの光がめぐみから放たれ、背中から天使のような翼が広がった。
 やがて光が治まったその場所には、大人びた少女の姿があった。海気の石化により、ツインテールにしていた髪はさらりと垂れ下がり、衣服を一切身に付けていなかったが、ブラウンの髪の色と面影から、その少女がめぐみだということはすぐに分かった。
「め、めぐみちゃん!?」
「これって、どうなってるんだよ!?」
 マリアとなるは動揺を隠せなかった。ゆっくりと眼を開いて、めぐみが2人に視線を送る。
「びっくりしたでしょ?私、実はディアスだったの。しかもその神様、ディアボロスの力をもらってるのよ。」
「ディアス!?」
 めぐみの言葉に、なるがさらに驚きの声を上げる。
「海気お兄ちゃんの力はね、もともとは私の力なの。だから私が石化を解くことなんて簡単だよ。さらに・・」
  ピキッ ピキッ ピキッ
 めぐみがなるに視線を向けた瞬間、なるの服が突然弾けるように引き裂かれ、さらけ出された体が白みがかった灰色に変わってヒビが入った。
「なる!?」
「こ、これって!?」
 マリアがなるの変化に戸惑い、なる自身も自分の体の石化に動揺する。
 かつて彼女たちの親友だったあかりから受けた石化とは違っていた。触れられてもそれらしい力を受けた感覚もなく、石化されても恐怖が取り除かれていない。めぐみの意思ひとつで、石化がかけられたように。
「海気お兄ちゃんの石化もなかなか面白いね。着てた服がみんな破けちゃうんだから。」
「どうなってるんだ!?あたしはそれらしい力とか呪いとか受けてないのに!」
  パキッ ピキッ
 めぐみに問うなるの石化がさらに広がり、左腕、左胸、お尻と秘所が完全に石になった。
「ディアボロスの力はね、思ったことがすぐに現れるんだよ。つまり、私がお姉ちゃんを石に変えるって思えば、お姉ちゃんは本当に石になるんだよ。」
 驚異的なめぐみの力に、なるもマリアも圧倒される。
 ディアスの神、ディアボロスの力は、思い描いたイメージを簡単に周囲に影響させるという恐ろしいものだった。
 めぐみが石化されるなるをイメージし、それが現実にすぐに現れたのである。
「マリア、逃げろ!」
 なるに言われ、マリアが振り返る。
「でも、なるは・・!?」
「あたしにかまうな!早くいちごたちに知らせるんだ!」
 なるの必死の願いを受けて、マリアは頷いて部屋を飛び出した。その後をめぐみは追わずに、石にされていくなるを見つめる。
「追わなくていいのかい?あたしたちはワタルといちご、そしてマリアを信じてるんだよ。絶対に何とかしてくれるって。」
  ピキッ ピキキッ
 石化が体を浸食されていくなるが、強気な笑みをめぐみに見せる。しかしめぐみは明るい態度を崩さない。
「言ったでしょ?ディアボロスの力をもらった私に、思い通りにならないものはないんだよ。だからマリアお姉ちゃんがいちごお姉ちゃんに知らせても、意味ないのよ。まぁ、どっちにしても、私はなるお姉ちゃんと一緒にワタルお兄ちゃんのところに行くから。」
「ワ、ワタルに!?」
「大丈夫だよ。みんな一緒だから。ワタルお兄ちゃんもいちごお姉ちゃんも、そしてあゆみお姉ちゃんも。」
  ピキッ パキッ
 めぐみに抱き寄せられながら、なるにかけられた石化は彼女の頬を、唇を固めていった。
   フッ
 そして瞳に亀裂が入り、なるは完全な石像に変えられた。
「これから行こう。お兄ちゃんたちのところに。驚くお兄ちゃんたちの顔を、なるお姉ちゃんにも見せてあげるね。」
(いちご、ワタル、ダメだ・・逃げろ・・)
 ワタルたちへの必死の願いも空しく、めぐみはなるを連れて、部屋から姿を消した。白い羽を撒き散らしながら去った光景は、まるで天使が飛び立つようにも見えた。

つづく


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