石獣退魔聖戦 第九話 石獣の陰謀

作:牧師


 四箇所に現れた石獣をかろうじて撃退した日の深夜。
天音は、体力を消耗しきって中等医務室のベットで休んでいる優菜の見舞いに訪れていた。
「確かに受け取ったわ、コレが石獣を封じた壷ね」
 天音は眠りについている優菜の変わりに、美月から石獣が封じられた壷を受け取った。
先程の戦いで天音も優菜以上に体力を消耗してはいたが、そんな事は微塵も感じさせないように、
美月と接していた。
その後、この時間になっても連絡のつかない清音や結衣の事は伏せ、美月と十分程会話をし、
美月に優菜を任せて天音は社務所へと帰っていった。
 
 翌日、朝礼が始まる前に天音は職員室に呼び出されていた。
ここ最近石獣対策の為とはいえ、あまりにも授業に顔を出さずにいた事が主な原因だった。
「いいですか?何をしているかまでは聞きません。ですが少しは授業に出ないと出席日数が…」
 一時間目に授業の無かった担任の説教は、一時間目終了の僅か十分前まで続いた。
「いい事、今日はちゃんと授業に出るのよ」
 最後にきっちり念を押して、担任は職員室を後にした。

 一時間目終了の数分前、天音はようやく教室の前に立っていた。
説教が終った後、急いで教室へ向った結果、何とか一時間目中に教室に着く事が出来た。
「遅れてすみませんでした…!!」
 教室に入った天音を待ち構えていたのは、遅刻した天音を冷やかな目で見る教師でも、
奇異の目をした同級生でも無かった。
 教室の中には椅子に座ったまま石像と化したクラスメイトの姿と、黒板の前で立ったまま石像と化した、
数学担当の教師の姿があった。
 いつもの天音なら、例え職員室にいても教室の異変に気がついていたはずだったが、
昨日の戦闘で精気と体力を限界まで消耗した天音は、教室に入るまでその異変に気がつく事が出来なかった。

 天音が教室を歩くと、床一面に広がった愛液が、掃いていた上履きにネチョネチョと糸を引いた。
「そんな…、皆魂を吸い尽くされて石にされてる…、それに全然抵抗した後が無い」
 数学担当の教師もクラスメイトの石像も、快楽で顔を緩ませ、秘所から大量の蜜を滴らせてはいたが、
何かと争ったり、逃げようとしたり、自慰をしようとした形跡すら見られなかった。
 今までの石獣の襲撃ではありえない光景だった。
「一体何が…!!」
 天音は黒板に書いてある文字に気がつくと、全力で教室を飛び出した。
〈クラスメイトの石像は気に入って貰えた?医務室のお友達はどうかしら?〉と黒板には、書き記されていた。

 教室を飛び出した天音が中等医務室に着いたのは、僅か三分後だった。
高等部にある天音の教室との距離を考えれば、驚異的な速さだ。
「優菜!!美月!!入るわよ」
 天音は医務室のベットを仕切っていた白いカーテンを開き、優菜が寝ていた筈のベッドを確認しようとした。
ベッドの上には、大きな白いシーツに包まれた何かがあった。
 シーツに隠れて優菜が美月を襲っている可能性が無いでもなかったが、それにしてはベットが軋んでいなかった。
「優菜…、シーツを取るわよ。こ…これ…」
 シーツを取り除いた下から現れたのは、クリスタル像に変わった優菜と美月の姿だった。
美月のクリスタル像の左肩には、一枚のメモ紙が張られていた。
 天音はそのメモに目を通すと、その紙を右手で握りつぶし、優菜達のクリスタル像があるベットを結界で封じて、
足早に中等医務室を後にした。

 天音は一旦社務所に戻り、破魔札と聖水を懐に忍ばせて、メモに書かれていた場所に向った。
その場所は学院長室だった。
 天音は学院長室の前に着くと軽くノックし、凛香の返答を待った。
「天音さん?良く着たわね。今は貴方に手出しをしないから安心してはいってらっしゃい」
 ドアを開けると、そこにはいつも通り大きな机で書類に目を通している凛香の姿があった。
いつもと違う所といえば、黒色だった筈の凛香の髪の毛が、美しい黄色に変わっている事くらいだった。
「話って何でしょう?信じられないです、クラスメイトや優菜達をあんな姿にしたのも凛香さんなんですか?」
 凛香は今まで天音が見た事の無い妖艶な微笑を浮かべると、部屋の右手に視線を走らせた。
「そう、私が貴方のクラスメイトをあんな姿にしたのよ。彼女達みたいにね」
 天音が凛香の視線の先に目をやると、そこには連絡のつかなくなった、真由と梓の石像が立ち並んでいた。
「真由…梓…」
 魂を吸い尽くされ、ただの石像に変えられた梓達の姿に、天音は肩を落とした。
凛香が天音に精神的な揺さぶりをかけるため、わざわざ学院長室に運び込んでいた。
「この子達は簡単に石像に変わったわ。そういえば優菜ちゃんと美月ちゃんだったかしら?あの子達も他愛無かったわ」
 天音に止めをさすように、凛香は優菜達をクリスタル像に変えた時の事を話始めた。

 昨夜、天音が社務所に戻ってから二時間後、医務室では意識を取り戻した優菜と美月が身体を重ねていた。
体力と精気を消耗した優菜を気遣い、美月の方から優菜にキスをし、胸や秘所を小さな手で愛撫していた。
 その時、結界を張っていた筈のベットを囲むカーテンを開け、凛香が優菜達の前に現れた。
「ああ、いいのよ気にしなくても、私は前の学院長じゃないんだから、そういった事にも目を瞑る事にしているの」
 前学院長は学院外での交際だけでなく、学院内での風紀の乱れに五月蝿く、良くて停学か謹慎、
身体を重ねている所など見られたら、確実に退学にされる程だった。
 一方、凛香が学院長に就任してからは、停学者さえ一人も出てはいなかった。
「あなた達に天音さんに言付けて貰いたい事があるの、内容はこのメモに書いてあるわ」
 凛香は二つ折にした紙片を見せると、ベットに近づき、優菜と美月の首筋にそっと手を触れた。
「それじゃあ、頼んだわよ」
 凛香が人差し指の爪を伸ばし、優菜と美月の首筋に突き立てると、二人の体は見る間に透き通っていく。
「え?ひゃぁぁああぁぁあっ」
「あああっ」
 優菜と美月は自分達の身体に何が起きたのか理解するまもなく、押し寄せる快楽の濁流に飲み込まれ、
透き通ったクリスタル像に変わり果てた。
 一瞬のうちにクリスタル像に変えられた優菜と美月の秘所からは、まだ固まりきっていない愛液が滴り落ちていた。
その光景を楽しそうに眺め、細いクリスタルの糸に変わった美月の髪の毛の先を、指先でシャラシャラと奏でていた。
 クリスタル像に変わった優菜と美月、凛香は二人の身体を探り、ある物を探していた。
二人の体から調べ始め、周りの机や椅子の上、シーツの影や、ベットの下まで確認をしていたが、
やがてそれが此処に無い事を確認すると、美月の肩にメモを貼り付けて、新しいシーツを取り出し、
二人を隠すようにかぶせると、ゆっくりと医務室を後にした。

 凛香は薄っすらと光を放つ人差し指の爪を天音に見せると、妖しい笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「この爪をほんの少し突き立てるだけで、訓練を積んだ祓い衆の巫女でも、あっという間にクリスタル像になるのよ。
もっとも、天音さんには説明する必要もないでしょうけど…」
 天音は十年程前に人型淫獣に同じ術をかけられ、クリスタル像に変えられた経験を持っている。
凛香も当然その事を知っていた。その上で同じ術を使い優菜と美月をクリスタル像に変えたのだった。
 幾ら強靭な精神で過去の忌まわしい記憶を封じ込めてはいても、身体は甘美な快感と恐怖を忘れてはくれない。
天音は全身から冷たい汗が噴き出すのを感じ取っていた。
「クラスメイトはもっと簡単だったわ、私が以前から授業中に見回っているのは知っているわね?」

 虐めや教師や生徒の授業態度などを監視する為に、凛香は淫獣になる前から授業中の教室に入り、
五分から十分程、教室の後ろから授業風景を眺めていたりしていた。
 それ故に、天音のクラスメイトも数学担当の教師も凛香が教室に入って来た事に戸惑う事無く、授業を受けていた。
しかし、その日の凛香はいつもと違う目的で、天音のクラスを訪れていた。
 黄色に輝く髪の毛を誰にも気付かれない様に、教室の床中に張り巡らし、一瞬の内に少女達の胎内に忍び込ませて、
少女達が悲鳴を上げるより早く、高濃度のピンク色の霧を噴射して、魂を融かし尽くしていた。
「ふふふ…、蕩ける程気持ち良かったでしょ?んっ…」
 凛香は快楽で緩んだ少女達の口に、伸ばした透明な舌を潜り込ませて、次々に魂を吸い尽くしていく。
少女達は自らの身に何が起ったのか知る事も無く、凛香に魂を吸い上げられ、石像へと変わり果てていった。
 最後に数学担当の教師の魂を吸い上げ、教室中に張り巡らせていた髪を元に戻して、黒板にあのメッセージを書き、
凛香は無数の石像の残された教室を後にした。

「それで…、話は何ですか?そんな話をする為に呼び出した訳ではないのはわかってます」
 忌まわしい記憶と恐怖に震える体を、天音は気力を振り絞って押さえ込み、震える口からそれだけを言い放った。
「流石天音さん、物分りが良くって助かるわ。用件は他愛無いお願いよ、貴方の持っている封印の壷を、
一つ残らず渡して欲しいの。勿論今まで貴方が封じた物だけでなく、この学院に封じてあった物も全て」
 天音は凛香の話に息を呑んだ、それが何を意味するのか天音は十分理解していた。
もし封印の壷を凛香に渡せば、残らずその封印を解き、無数の石獣を呼び起こす事がわかりきっていたからだ。
そうなれば学院にいる初等の幼い少女達も、教鞭をとる教師も誰彼の区別無く襲われ、石像へ変えられる事だろう。
そして、学院の少女達を石に変え尽くし、十分に力を得た石獣は、学院を離れ、近くの街を次々の襲い、
無数の石像を作り上げるに違い無かった。
「そ…そんなことできる訳が無いわ!!」
 天音の返事を予想していたのか、凛香の表情は変わらない。
凛香は髪を何本か黄色に変え、天音の胎内に潜り込ませた。
「なっ…」
 一瞬の出来事だった、手出しをしないと言ってはいたが、天音も十分に凛香の動向に注意していた。
にも拘らず、凛香はまるでマンホール程の穴に釣り糸でも垂らすかの様に、易々と天音の膣内に黄色の髪を送り込んだ。
「ここで貴方の魂を吸い尽くして石像に変える事も出来るのよ。最も約束があるから今は見逃してあげるけど、
いつでも簡単に石像に変える事が出来るわ」
 凛香はゆっくりと歩を進め、天音の横で立ち止まると、耳元で囁いた。
「貴方の大事な妹、清音ちゃんを預かってるわ、まだ魂を吸って石像に変えていないのよ」
 凛香は天音に後ろから抱き付き、天音の反応を待った。
「清音…」
 もう既に魂を吸い尽くされ、石像に変えられているとばかり考えていた。
不意に涙が天音の頬を流れた。清音を生かしておくという考えを、石獣が持つ筈が無いからだ。
「もし封印の壷を渡してくれるなら、貴方と妹は見逃してあげるわ。でも、もしも貴方が断った時は…、
どうなるかわかるわよね?その時は社務所の奥にある封魔の結界を破壊して、力ずくで壷を奪うだけ」
 凛香も元祓い衆の一員である。能力が実戦レベルまで伸びなかった為、学院長として送り込まれていた。
だからこそ、封印の壷の存在も、それを守る結界の存在も熟知していた。
 数日前、凛香は一度結果以内への侵入を試みたが、石獣であるがゆえに、簡単には進入出来ない事に気がついた。
そこで、天音を使い封印の壷を手に入れる為に、昨日、石獣を暴れさせたのだった。
 結果、清音を連れ去る事に成功し、封印の壷と交換する材料が手に入った。
 凛香は天音の胎内から黄色に輝く髪の毛を引き抜くと、机に着いた。
「二日だけあげるわ、その間に封印の壷を差し出す気になったら、いつでもいいからここに持ってきなさい」
 敗北感に打ちのめされた天音は、力なくとぼとぼと理事長室を後にした。

 翌日の放課後、社務所の一室で天音は一人悩んでいた。
石獣と化した凛香を倒すには、人も力も装備も不足している、向って行った所で返り討ちになるのは目に見えていた。
逃げ出して宗家に助けを求めるにしても、往復で早くて三日、悪ければ一週間後になる。
そんなに時間が掛かれば、当然清音は助けられず、学院の生徒も一人残らず石像に変えられている事もわかっていた。
 一週間前、宗家に救援の手紙を出してはいたのだが、この時点で救助が着ていないと言う事は、
学院長である凛香が手紙を握り潰しているに違いなかった。
 結局、天音に残された道は、服従かそれとも玉砕覚悟で戦いを挑むしかないように思えた。
「天音さん、少しいいかしら?」
 ドア越しに聞こえた声は、杏樹の物だった。
天音が返事をすると、ドアを開けて杏樹達、純白の聖女のメンバー四人が室内に入ってきた。
「学院長から私達にも宣戦布告があったわ、明日、貴方の返答次第で全員石像に変わる事でしょうとか言われたの」
 その場で戦いにならなかったという事は、杏樹も凛香の力が十分にわかっているのだろう。
天音の予測では、この場の全員が力を合わせても、残り三匹の石獣を全て倒せる確率は、ほぼ零だった。
「正直、人型石獣になった学院長があそこまで強いとは予想できなかったわ、凛香さんが本気だったら今頃、
私も学院長室で石像に変わっていたでしょうね…」
 杏樹も今の状態で、三匹の石獣を倒せない事くらい気がついていた。
「天音さんに協力して欲しい事があるの。それは…」
 杏樹の提案を聞き、天音は一通の手紙をしたためた。
「それでは、作戦を実行に移すわね。美鈴と樹里はこの手紙を持って、祓い衆の宗家に救援要請に向って。
クリスと天音さんと私は、時間切れ寸前まで待ってから学院長を封じてみるわ」

 その日の深夜、美鈴と樹里は裏門からひそかに学院を後にした、その様子を伺う人影に気が付くことも無く…。

つづく


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