石獣退魔聖戦 第二話 神に仕えし者達

作:牧師


翌日、祓い衆宗家の命により、石像にされたテニス部の部員二名が転校したと
院長から学院の生徒達に伝えられた。

「祓い衆の巫女達が動き出したみたいね。樹里、石獣は私達が退治するわ」
白い法衣に身を包んだ女が樹里に向かって呟いた。
「はい、杏樹様。私達の力を祓い衆に見せ付けます」
白い法衣に包まれた、六人少女達は石獣を探索する為に、院内に散っていった。


純白の聖女。キリスト教の信者による、悪魔祓い組織。
彼女達は白い法衣に身を包み、妖かしや悪魔から人々を護って来た。
日本では明治頃から勢力を伸ばし、信者数を増やしていく。
祓い衆とは考え方や仕える神が違う為、対立する事が多く、院内でも敵対していた。


石獣が出現した翌日の放課後

中等の手芸部が部活を行っていた部室を結界で封じ、それはイキナリ沸いて出た。
黒い頭部に緑色の巨大な腹を持つ、蜘蛛の様な石獣だった。
腹の先からは細く青い触手が無数に蠢いていた。
触手は突然の事態に驚く十人の部員達を、一人残さず青い触手で絡め上げた。
「ふぐっ、んんんっ」
「いやっ、助け・・・うんぐっ」
助けを求めようとする部員の口にも、何本もの触手が潜り込み、声を奪って行く。
青い触手は少女達の手足を灰色の石に変え、抵抗する力を失わさせた。
『手が石に!!いやっ、動かない!!』
『わたしの指が!!助けて、先生っ、お母さん!!』
少女達は体が石に変わり行く恐怖で、目に涙を浮かべ、助けを求めた。
蜘蛛型の石獣はギチギチと口を鳴らしながら、ゆっくりと精気を吸い上げていく。
石獣は腹の先から細く黄色い触手を出現させ、少女達の胎内に何本も進入させると、
ピンク色の霧の様な物を噴出した。
『融ける・・・。気持ち良い・・・』
『なんだかフワフワする・・・、良い感じ・・・』
蜘蛛型の石獣は口を開けると、透明なホースの様な触手を出し、
少女の口に差し込んで行き、金色に輝く魂を一人ずつ吸い尽くしていった。
魂を吸われた少女は、虚ろな瞳に薄っすらと涙を浮かべ、抵抗する事も無く、
体温と肌の色を失い、全身を冷たい灰色の石に変えて行った。
蜘蛛型の石獣は石に変えた少女を、次々に床にゴトゴトと落とした。


「結界破壊!」
純白の聖女の一人、牧瀬詩音は石獣の結界を発見すると、迷う事無く破壊した。
僅かに開いた結界の穴を潜り、詩音は結界内部に突入していく。
「みんな大丈夫?あ・・・」
結界内で詩音が見たのは、既に石像に変えられた手芸部の少女達だった。
「そんな、遅かったの・・・、この気配!まだ石獣が居る!」
詩音は聖水の入った瓶と十字架を手に、石獣の気配を探る。
「そこですっ!!」
蜘蛛型の石獣に目掛けて、詩音は聖水を瓶ごと投げ付けた。
聖水は石獣に命中すると、蒼い炎を上げ、左前足を一本焼き尽くした。
「効いてるみたいね、え?」
石獣は燃えた後から、グニュグニュと新たな前足を出現させた。
「再生するなんて・・・、きゃっ」
詩音の手足を、無数の青い触手が絡み付き、ゆっくりと持ち上げていった。
「十字架を・・・、手が石に!!」
詩音は十字架を触媒に神の力を使おうとしたが、石獣の触手により阻まれた。
石獣は、素早く詩音の手足を肘と膝の関節まで灰色の石に変えると、
ゆっくりと腹の先から細く黄色い触手を出現させると、詩音の目の前でちらつかせた。
「あ・・・その黄色い触手は確か魂を融かす・・・、いやっ、消えたく無い」
純白の聖女の書に黄色い触手の記述があり、詩音もその内容を熟知していた為、
魂を吸い尽くされる恐怖を知っていた。
体がゆっくりと石に変えられている事も恐怖に拍車をかけていた。


遠見の護符を使い、結界で起きている事を見守る二人の人影があった。
「助けに行かないの?」
祓い衆の野々宮千尋は、同級生の牧瀬詩音と知り合いだった。
「天音先輩は手を出すなって言ってた筈ですよ。詩音さんは私も知り合いですが
 今行くと私達も同じ目に遭うだけです」
祓い衆の一人、絹川光が千尋の質問に冷静に答えた。
「ごめん光、私やっぱり友達が石に変えられるのを見ているなんて我慢できない」
千尋は光にそう言うと、手に破魔札を持って手芸部の部室に駆け込んでいく。
「詩音さん、今助けます、破魔火炎符!!」
千尋は火の破魔札を使い、ソフトボール大の炎のつぶてを石獣に放った。
炎のつぶては石獣の大きな腹部に命中した、真っ赤な火柱をあげ燃え上がる。
「今のうちに詩音さんを・・・、あ・・・、なに?」
千尋の足には赤紫色の触手が巻き付いていた。
「他にも居たの!、ああっ、詩音さんが・・・」
蜘蛛型の石獣は後ろ足を使い、燃え上がる腹部の炎を掻き消した。
詩音の手足を完全に灰色の石に変え、黄色い触手を詩音の胎内に潜り込ませていった。
「ああっ、入ってくる。千尋さん、ごめんなさい、私のせいで貴方まで消えてしまう」
石獣はピンクの霧を詩音の胎内で噴射した。
「ひゃぅん融ける、魂が融けて行く・・・。でも、こんなに気持ち良いなんて・・・」
魂を融かされる快楽に、詩音は淫靡な表情に変わって行く。
透明な触手が詩音の口に滑り込み、キラキラと金色に光る魂を吸い出して行く。
「消える・・・。私・・・消されちゃう・・・。あ・・・」
石獣が魂を吸い尽くすと、真っ白な法衣を着た灰色の石像が出来上がった。
千尋の破魔札で焼け爛れた腹部は、見る間に元通りになって行く。
「これが石獣の力・・・。天音さんの言ってた事が正しかったんだ・・・、いやぁっ」
床からイソギンチャク型の石獣も姿を現し、千尋の真っ赤な袴を触手で引き裂いた。
「どうして裸に?!ひぃっ生暖かい、まさかこのまま食べるの?いやぁぁっ!!」
イソギンチャク型の石獣の上部の口に裸にされてあてがわれた千尋は、
石獣が何をしようとしているのか理解して、心の底から恐怖した。
「食べる気?私を食べるの?あ・・・」
ゴブッと音を立てて、イソギンチャク型の石獣はくの字型にお尻から千尋を飲み込んだ。
「石獣のお腹の中・・・。いや、ここから出してよ!!」
千尋が首を左右に振ると、左に束ねた長い黒髪がゆらゆらと揺れた。
壁肉から無数の細く白い触手が現われ、千尋に吸い付き、白い煙を上げ石に変え始めた。
「ああぁっ、石にされちゃう、え、いやっ、それだけは許して、消えたく無い!!」
何かが胎内に侵入したのを感じた、千尋はそれが黄色い触手である事に気がついた。
黄色い触手はピンクの霧を噴出し、頭の中を真っ白く染める程の快楽を与え、
千尋の魂を融かして行く。
石獣は透明な触手を千尋の口に差込み、キラキラと金色に輝く魂を吸い上げていった。
「気持ち良い、でも・・・、私・・・消え・・・て・・・、」
魂を吸い取られ、千尋の意識は徐々に希薄になって行った。
やがて石獣が魂を吸い尽くすと、千尋の体は魂の無い冷たい石像に変わり果てた。
イソギンチャク型の石獣はただの石像になった千尋を口から吐き出した。
二体の石獣はしばらくその場に留まっていたが、やがて床に消えていった。
「千尋、詩音さん、ごめんなさい・・・」
一部始終を見届けると、涙を流しながら光は社務所の天音の元に向かった。

光は手芸部の部室で起こった事を、事細かに天音達に説明した。
「そんな、千尋お姉ちゃんが石に・・・」
千尋の双子の妹の千鶴が光の話を聞くと、黒い瞳から涙を流し放心状態になった。
「ごめんなさい、私・・・」
光も涙を流し千鶴に謝る、その時、天音が冷たく皆に話し始めた。
「光の判断は正しいわ、おかげで少なくとも二体の石獣の情報が手に入ったのよ
 それと、純白の聖女達が動いてるって話もね」
「天音!そんな言い方は無いだろう?千鶴の気持ちも考えろ」
優菜が天音の言葉を聞き、声を荒げ言い放つ。
「千尋は光るの制止も聞かず、石獣に戦いを挑んだ、戦闘行為は私も止めていた。
 石獣に戦いを挑めば、魂を吸い尽くされ石にされるのが解っていた筈よ」
天音は淡々と冷徹に言葉を綴る。
「明日、宗家から強力な破魔札や破魔矢が届くわ、千尋の仇はそれで討つのよ!
 後、千尋と手芸部の石像の回収はこちらで手配しておくわ。皆、お疲れ様」
そう言って、天音は祓い衆を帰らせると、古文書のページに目を落とした。
「蜘蛛型にイソギンチャク型の石獣か・・・、人型や棺型には及ばないけど強力ね。
 純白の聖女達がこれ以上手出しをしなければ良いけど・・・」

学院内大聖堂の一室

「詩音・・・」
杏樹は石像に変わった詩音を抱きしめると、石の唇に優しくキスをした。
「貴方をこんな姿に変えた石獣を、私が必ずこの手で地獄に送るわ」
石に変えられた愛しい後輩に、杏樹は何度もキスをしていた。

つづく


戻る