石獣退魔聖戦 第三話 新たな石獣

作:牧師


学院内で起きている石獣に襲われた事件は、生徒達には完全に情報が伏せられていた。
襲われて石に変えられた生徒達は、大聖堂の一室か、社務所の一室に保管され、
公式には転校や、退校とだけ伝えられていた。

祓い衆の宗家から破魔札や破魔矢が天音の元に届けられた。
「これで石獣に対抗ができるわ」
天音は届いた四聖獣の破魔札、石獣退魔専用の破魔矢、封印の壷などを確認していた。

「朱美が転校するなんて、そんな相談聞いてません」
高等に所属する渚は後輩の朱美の転校について、手芸部の顧問の双葉を問い詰めた。
「ご両親からの急な話だったそうです。私にも相談がありませんでしたし」
顧問の双葉にも事の真相は話されては居ない。
「話になりません、私は今の回答に納得してませんから、では失礼します」
渚は踵を返し、中等の職員室を後にした。
『納得いきません、わたくしの朱美が一言も話さずに転校するなんてありません』
幾度と無く朱美と肌を重ねた経験がある渚には、今回の件が信じられなかった。
渚の足は中等の手芸部に向かっていた。
「朱美・・・」
誰も居ない中等の手芸部の部室で、渚は朱美がいつも座っていた席に手を置いた。
その時、渚はあることに気がついた。
「この時間にどうして部員が誰も居ないの?朱美が転校した事と何か関係が・・・」
空間が揺れ、辺りが急に暗くなった。
「何?何が起きてるの?」
床に黒い影が現われ、そこから蜘蛛型の石獣が姿を現した。
「きゃぁあ、く・・・蜘蛛の怪物!!」
渚は入り口に向かって走り、部室から逃げ様としたが、扉は一寸も開かなかった。
「どうして?鍵は開いてるはずなのに!!誰か!!ここから出して!!」
扉を叩き続ける渚の後ろから、細く青い触手が無数に迫っていた。
「いやっ、こっちに来ないで!誰か助けて!!きゃぁぁあっ」
青い触手は渚の手足に絡みつき、体を中に持ち上げながら精気を吸い上げていく。
「何この感覚?指が動かな・・・、イヤッ!!石に!!指が石に変わってる?!」
違和感を感じ、指先を見た渚の視線の先には、灰色の石に変わって行く指が見えた。
石化は指先から手首を超え、肘まで進み、そこで進行を止めた。
足も膝まで灰色の冷たい石に変わり、白いソックスから石になった足が覗いていた。
「あ・・・足も、この蜘蛛何なの?あぁああっっん」
蜘蛛型の石獣は渚の胎内に黄色い触手を差込み、ピンクの霧を噴射した。
「なんなの?いやぁっ、気持ち良いっ、ああっ体が蕩けていきそう」
銀の雫が渚の股から滴り、石に変わった足を伝い、青い触手に触れ石の粒に変わって
床で次々と跳ね返っていた。
透明な触手がゆっくりと渚の口に潜り込んで行った。
『んっ、ちゅぅぷ。ああっ、気持ち良くて消えて・・・行き・・・そ・・・う』
後輩の朱美と同じ様に、渚も蜘蛛型の石獣に魂を吸い尽くされて行く。
〈渚先輩〉
『朱美・・・、あぁ、ここに居たのね』
魂が完全に吸い尽くされる瞬間、渚は名前を呼んで微笑む朱美の姿を見た気がした。
石に変わった渚の表情は、優しく微笑んでいた。

同時刻、初等水泳部用屋内プールサイド

「きゃあぁぁぁっ、センセイ、ママーーーー、助けて!!」
「いやぁっ!!」
「イヤッ、来ないで、うぁぁああん」
結界に封じられた屋内プールでスクール水着姿の少女達の悲鳴がこだましていた。
悲鳴の中心には、ゾウガメ型の石獣が甲羅から伸びる無数の茶色い触手の先で
少女達を次々と包み込んでいった。
茶色い触手の先には透明な球が付いており、そこに少女達は閉じ込められて行く。
「出して。ここから出してよー」
「みよをここからだして、かめさん、みよをだしてっていってのに〜」
二十人の少女達がゾウガメ型の石獣の甲羅から伸びる触手の先に包まれていた。
そして、一部の球に薄いピンクの霧が噴射され始めた。
「ふわぁぁぁっ、なにこれ?気持ち良い」
「力が入らないよ・・・、でも、体がフワフワしてる」
少女達は初めて感じる心が融けるような感覚に戸惑っていた。
幾つかの球の内部から伸びた黄色い触手が少女達の幼い胎内に侵入し、
奥でピンクの霧を噴射した。
「すごい、すごいよっ、これ気持ち良い!!」
「ひゃぁぁん、融けちゃうっ」
ゾウガメ型の石獣の口から透明な触手が伸び、無常にも一人の少女の球に進入し、
そのまま口内に滑り込んで行った。
『チュゥプッ、ンッ。消える、私、消えていっちゃう・・・』
キラキラ輝く魂を吸い上げられると同時に、少女の体は徐々に石に変わって行く
石に変わり行く髪がシャリシャリと音を立て、透明な壁で軋んで音を立てていた。
やがて紺色のスクール水着を着たまま完全に冷たい灰色の石に変わった少女は、
石獣にプールに投げ込まれ、石獣は次の少女に黄色い触手を伸ばして行く。
「結界破壊!!」
結界の中に飛び込んできたのは、純白の聖女の鳶木霧愛(とびききりあ)と
高遠美鈴(たかとうみすず)だった。
二人は比較的近い中等に所属していた為、即差に結界にたどり着く事が出来た。
「よかった、何とか間にあったわ。まってて、今助けてあげる」
霧愛と美鈴は十字架に力を込めると十字架が眩しく輝き始める。
「はぁっ!!」
十字架から放たれた光がゾウガメ型の石獣を捉え、何本かの茶色い触手を切り離し
少女達を解放して行った。
「早く逃げて。他の子も助けないと」
霧愛が解放された少女達を誘導し、美鈴が十字架を使い、触手を切り離して行く。
解放された十人程の少女達は結界の端で肩を寄せ合い怯えていた。
しばらくされるがままだった石獣は、透明な触手を口に収めると、紅い管を出し
そこから美鈴目掛けて透明な一本の針を飛ばした。
「痛いっ、あぁぁぁっん」
美鈴の肩に針が刺さると、鋭い痛みの後に凄まじい快楽が体を駆け抜けた。
定期的に押し寄せる快楽で顔は緩み、体は小刻みに震え続けていた。
「美鈴!!大丈夫?しっかりして!!」
霧愛は美鈴の肩の針を引き抜くと、肩を掴んで体を揺らした。
「ひやぁぁっ」
霧愛が肩を掴んで揺らすと、衝撃で美鈴は絶頂に達し、体が僅かに透き通っていく。
「美鈴が・・・。石獣がこんな事も出来るなんて聞いて無いわ」
石獣は少女達から霧愛に標的を変え、茶色い触手を彼女に伸ばして行く。
「よくも美鈴に可笑しな真似をしてくれたわね。聖水で燃え上がりなさい」
霧愛の放った聖水を浴び、迫り来る茶色の触手は蒼い炎を上げ燃え上がっていった。
石獣は燃え上がる触手を切り離すと、新たに茶色い触手を生み出し、霧愛を捕えた。
「そんな。再生速度が速すぎます。あぁぁああん」
透明な球に閉じ込められた霧愛に、薄いピンクの霧が降り注いでいった。
「十字架を・・・、ああぁっ、力が入りませんわ・・・杏樹・・・様・・・」
石獣は黄色い触手で霧愛の魂を融かし、透明な触手で魂を吸い尽くしていった。
十字架を両手で持ち、祈るような格好で霧愛は灰色の石像に変わり果てた。
白い法衣に包まれた霧愛の石像も、石獣はプールの中へと投げ棄てた。
石獣は再び少女を捕えようと、背中から触手を伸ばし始めた。

後ろを向いた石獣の甲羅を目掛け、結界の端から一本の破魔矢が突き刺さった。
石獣の体は大きく穴を開け、そこから激しく燃え上って行った。
「これで終わりよ!!」
結界に入った天音は二本目の破魔矢を引き絞り、石獣の頭を目掛け放った。
破魔矢は空を切り裂き、石獣の頭部を貫きそのまま胴体まで粉砕した。
「淫獣から進化した石獣ね、この子達には悪いけどたいした敵ではないわ」
天音はプールに投げ込まれた霧愛の石像と、透明な水晶像に変わった美鈴を見つめ
冷たく呟いた。
「水泳部で石にされた女の子は二人、この件に関しては感謝しないといけないけれど
 この娘達が石に変えられて、また杏樹が悲しむわね。可哀想に」
天音は石にされた二人の少女を運び、残った少女達も護符を使って催眠術を施し、
石獣の事を忘れるように記憶を操作した。

石獣により渚が石像に変えられた件が発覚するのは更に後の事だった。


学院内大聖堂の一室

「霧愛、美鈴。貴方達までこんな姿にされるなんて」
杏樹は二人の衣服を剥ぎ取り、自らも裸になって抱擁を続けていた。
「霧愛、貴方の声でもう名前を呼んで貰えないのね」
「美鈴、もうかわいい仕草で恥かしがってくれないのね」
霧愛と美鈴に対する杏樹の抱擁は深夜まで続けられた。

つづく


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