魔法少女まじかるルピナ 第五話 幻獣への誘い

作:牧師


「この娘達、何にしてあげようかしら?ねえレティー」
「かわいくしてあげないとね、ヴァイオレット」
二人の魔族の女は,、丸い透明な球に閉じ込めた少女達を、楽しそうに眺めながら
会話を弾ませていた。
「何をする気なの?ここから出してよ!」
ショートカットの少女が透明な球の中から、抗議の声を上げる。
「この娘は猫にしましょう。この世界の伝説にバステトという幻獣が居るそうだから」
「猫?私に何をしようというの?いやっ、何が起きているの?」
ヴァイオレットが呪文を唱えると、透明な球の中に白い液体が湧き出した。
白い液体が少女を飲み込むが、窒息する事は無かった。
「痒い、体中が痒くて堪らない」
少女は体中に、治り掛けのカサブタが出来たような痒みに襲われていた。
「耳が痛い、お尻も。いや、助けて」
しばらくすると少女は透明な球から解放されたが、耳は猫の様になり、
全身を白い毛が覆い、お尻からは尻尾が生えていた。
体毛は胸や腹部が薄く、背中や手足は白く長い毛がふさふさと生え揃っている。
瞳は猫のように丸く、頬には細かい髭まで生えていた。
「かわいくなったわ。さあ、その台座の上に座って自分の胸を吸いなさい」
命じられるまま、少女は白い台座の上に腰掛て、豊かな胸を手で持ち上げ吸った。
「何がいいかしら?白い大理石の石像にしてあげるわ」
レティーは呪文を唱える。手の平に現われた白い光を猫娘にされた少女にはなった。
『体が、こんなの酷い・・・』
パキパキと音を立て、少女の体は白い大理石の石像に変化していった。
柔らかい体毛も硬化して、白い大理石に変わって行く。
少女に出来る事は、涙を流す事くらいだった。
やがて、全身が白い大理石に変わると、足元に無数の小さな大理石の粒が転がっていた。
「この娘達は何に変えるのヴァイオレット?」
今の光景を眼にしていた他の少女達は怯えて震えていた。
「そこの長い髪の女の子達は人魚にしてあげるわ」
長い髪の女の子が閉じ込められている透明な球の中に、次々に白い液体が注入された。
「体は青に映えるよう、濃い緑のエメラルドがいいわね」
レティーは呪文を唱え、少女達を緑色に輝くエメラルドの石像に変える準備に入った。

「おじゃまします」
ルピナ達は友達の由美の家に遊びに来ていた。
「今日は何をして遊ぶ?」
遊ぶといっても何をする事も無く、他愛無い会話をしながら時間を過ごすことも多い。
「今日はビデオを見ない?」
由美がDVDの箱を持ち出してルピナ達に見せた。
「お話は何?」
一緒に来ていたエリが作品名を気にしていた。
「人魚姫だよ」
由美は楽しそうに答えると、DVDを再生させる。

「良いお話だね」
ルピナは感動して少し涙ぐみながら、由美に感想をいった。
「人魚姫、王子様と結ばれて良かったよね」
この人魚姫では泡になって消える事無く、二人が結ばれるストーリーになっていた。
「最後の最後で心が通じるなんて、王子様かっこいいです」
エリも王子様にあこがれて、頬を赤らめていた。
「でしょでしょ。ルピナちゃん達にも観て貰いたかったの」
由美が嬉しそうに話しかけてくる。
その後ルピナ達は思い思いに感想を話しながら、楽しい時間を過ごしていった。

「ルピナ、また魔族が現われたみたい」
最近の三日間程で、三十人を超える人達が行方不明になっていた。
「神の衣、聖なる力、魔を断つ剣をこの手に!!」
ルピナは呪文を唱え、大人の姿に変わって行く。
「助けを求めているひずみは・・・、あっちね」
声の方向に飛ぶルピナの視線の先に、同じ場所を目指す人影が見えた。
「他にも誰か飛んでる。あの子誰だろう?」
真っ赤なドレスに身を包んだ少女はルピナに気が付くと、近づいてきた。
「こんにちはルピナちゃん。私ですわ」
大人になってはいたが、ルピナにはその顔に覚えがあった。
「もしかして由美ちゃん?言葉遣いが変わってない?」
由美は変身した影響で、少し性格が変わっていたが、微笑みながら答えた。
「今は魔法少女プリンセスユミですわ、指輪の力で少し言葉遣いは変わってます」
ユミの手にはめられていたのは、縁日で手に入れた指輪だった。
「それより急ぎましょう、魔族を倒さないといけませんわ」
ルピナが頷くと、三人はひずみの方向にむかった。

「ダイヤの天使像、エメラルドの人魚像、トパーズのラミア像、大理石の猫娘?」
ルピナとユミの目の前には様々な姿に変えられた少女達が飾られていた。
他にも、ケンタウルスの姿でオニキスに変えられた男性の石像もあった。
「気に入って貰えたかしら?貴方達も直ぐに、石像の仲間にしてあげるわ」
その時、レティーとヴァイオレットが扉の向うから姿を現した。
「その前に、この娘が人魚像に変わるのを見てなさい」
透明な球に閉じ込められていたのは、二人の友達のエリだった。
瞬く間に白い液体がエリの体を飲み込み、可愛らしい人魚が姿を現す。
「私人魚になってる」
エリが魚の様になった足を見つめた時、レティーがエリに向かって呪文を放った。
「あああぁぁっ」
エリの体はピキピキと音を立てて、徐々に緑色に輝くエメラルドに変わって行く。
ヒレに変わったつま先も、鱗の並んだ足も、輝くエメラルドに変化していた。
ルピナたちの見守る中、魚と人の中間である腰から膨らみかけた胸にまで
輝くエメラルドに変わって行く。
「もう直ぐ完全にエメラルドに変わるわ」
エリの瞳から零れた涙が、頬を伝い、小さなエメラルドに変わって床を跳ねた。
両目に貯まった涙は、そのままエメラルドに変わり、光を失った瞳に張り付いた。
「次は貴方達よ」
ヴァイオレットが呪文を唱えると、手の平に小さなガラス球の様な物が現われた。
「それっ!!」
ガラス球は二人目掛けて、次々に高速で飛んで来る。
ルピナ達はガラス球を避けながら反撃の機会を伺った。
「アレに当たると閉じ込められるのね、そうだ、マジカルアロー!!」
ルピナは魔法の矢を出現させ、飛んでくる球を次々に撃ち落していく。
「やるわね、仕方が無いわ。貴方達はそのままの姿で宝石にしてあげるわ」
レティーが呪文を唱えると、様々な色の光の球が手の平に出現した。
「好きな宝石に変わりなさい!!」
ルピナとユミにレティーの放った光の球が降り注ぐ。
「お願い神の衣、私達を守って!!」
ルピナが願うと光の盾が現われ、降り注ぐ光の球を全て弾き飛ばした。
「ルピナちゃん凄いですわ、こんな事が出来るなんて」
跳ね返った光の一つが、偶然ヴァイオレットを捉える。
「なっ」
「ヴァイオレット!!」
レティーが見守る中、ヴァイオレットの体は真っ赤に輝くルビーに変わって行く。
「今です、マジカルブレード!!」
「マジカルノヴァ!!」
ルピナとユミの放った魔法がヴァイオレット達を貫いた。
二人の魔族は体を灰に変え、消滅していった。

「頼りになるのは王子様じゃなくて、かっこいい魔法少女だよね」
エリの記憶は、事件の部分を消したはずにも拘らず、そこだけ残っていた。
「そうかな?王子様は来てくれるよ」
「そうです、助けに来てくれるのは王子様が最高です」
ルピナと由美が話しかけても、エリは意見を変えることは無かった。
「今回も後遺症残ってるかな、しかも最悪」
プリムはエリの様子を見て、その視線に気が付いていた。
「間違いなく女の子に走ってる、ルピナ達を見る視線が、恋する乙女だわ」
プリムはやれやれと溜息を付いていた。

次回予告

「ああ、静香お姉ちゃんが」
「あの人が静香さん?ルピナの憧れの人だよね」
「ほんとのお姉ちゃんじゃないけど、いつも優しくしてくれるの」
「早く助けませんと、でもルピナちゃんも気をつけてね」

次回 魔法少女まじかるルピナ 水晶男爵

「この魔族、かなり強敵だよ」

つづく


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