魔法少女まじかるルピナ 第六話 水晶男爵

作:牧師


「気が付いたかね?」
男は床に倒れていた女の子に話しかけた。
「ここは何処?貴方は・・・誰?」
少女に呼ばれた男は、満足げにそのまま話を続けた。
「秋山静香さんだったかな?君には術がかけてある。私が楽しむ為の術がね」
静香は男が何を言っているのか理解は出来なかったが、
男が何かしようとしている事は感じる事が出来た。
「わたしに何をしたの?今すぐ家に帰してなさいよ」
怒る静香を妖しく見つめながら、男は静香にかけた術の一つを発動させた。
「まずはこの術からだ」
男が呟くと静香の着ている服は一瞬でクリスタル化した。そしてピシピシという
音を立てあちこちにひびが出来、甲高い音を立てて砕け落ちる。
「服が・・・。どうして?あ・・・、見ちゃ嫌だ!!」
豊かに膨らんだ胸と、薄っすらと毛の繁った秘所を隠そうと静香は両手を移動させる。
「ふふっ、この恥ずかしがる姿が堪らない。ほう、なかなか良い形の胸ではないか」
静香の羞恥心を煽る様に男は言葉を続ける。
「これが貴方の言っていた楽しむ為の術って訳ね。もう気が済んだのなら
 帰らせて貰いたいわ。それとも警察でも呼んで欲しいのかしら?」
静香がそう言い放つと、男は笑みを浮かべながらパチンと指を鳴らした。
「いえいえ今のはただの余興ですよ。これから貴方がどういった反応をするかの方が
 私には楽しみなわけですから」
男から離れようと後ろに下がろうとした静香は、自分の体が思うように動かない違和感
に襲われ、自らの体に視線を落した。
「えぇぇ?あ・・・体が透き通っていく」
静香の体は肌色が徐々に薄くなり透明になっていく。指先や髪の毛に至っては、
向こう側が透けて見えるほどに透明度を増していた。
「一体どうなって・・・、い・・・いや、指が動かない」
指先だけでなく、静香の体は見る間にクリスタル化して行く。
「なかなか良い反応です静香さん。柔らかい筈のここがこんなに硬くなった感想もお聞
 きしたい所ですが」
隠しきれていなかった右の乳房を撫で回しながら、男はさらに静香を言葉で嬲ってた。
「いや、触らないで。貴方最低よ!!」
静香は男に言い放つが、その間にもクリスタル化は進む。
すでに全身の殆どがクリスタルに変わり、後は首から上を残すのみとなった。
「ここも硬くなってますよ、それとも元からですか?」
クリスタル化した静香の陰核を、わざとキーンと音が立つように指で弾く。
「くっ。も・・・もう、好きにすればいいじゃない」
気力を振り絞り、それだけ言い放つと、キーンと甲高い音を立て
静香の体は完全にクリスタルの彫像に姿を変えた。
「とても満足な反応でしたよ。最後の楽しみの前に、しばらく貴方の体を鑑賞して
差し上げましょう」
男は近くのソファーに腰掛け、クリスタルの彫像になった静香の鑑賞を始めた。

「どうして由美ちゃんは魔法少女になれたの?」
ルピナは由美に、以前から気になっていた事を聞いて見た。
「えっと、縁日で指輪を手に入れた事が始まりかな」

それは、由美が縁日のクジで手に入れたルビーの指輪を、
家に帰って指にはめた時に起こった。
由美の体が光り輝き、真っ赤なドレスに身を包まれ、大人の姿に成長していった。
「これは・・・どういうことです?あれ?話し方が変わってますわ」
自分の身に起きた変化に由美が戸惑っていると、頭の中に声が響いた。
〈貴方は選ばれたのです〉
「え?貴方は誰です?」
〈私は指輪に力を封じた者です、今、貴方達の居る世界に魔族が襲い掛かっています〉
イキナリな話の内容に由美は戸惑っていた。戸惑う由美に構わず、声は話を続けた。
〈他にもこの世界を守っている少女達が居ます、しかし魔族の力は強力になっています
 その為、正しい心を持った貴方にも、力を貸して貰いたいのです〉
長い説得の後、ユミは散々迷い、力を貸して魔族と戦う事を約束したのだった。

「こんな感じだったかな?魔族ってそんなに強くなかったし、平気だったよ」
何度か苦戦しているルピナとは格段の差だった。
「この指輪の力って・・・、間違いない、神界の力だ」
プリムの説明によれば、ユミの力は神界の物で、ルピナの力は妖精界の物らしい。
二人に授けられている力の性質には格段の差があった。

「ルピナちゃん、また女の人がさらわれているみたいだね」
由美は最近の少女失踪事件の事でルピナに相談してきた。
「うん、近所の静香お姉ちゃんも、数日前から家に帰ってないんだって」
「たいへん、魔族の仕業だったら早く助けないと、香澄先生みたいにされたら・・・」
結婚して学校を休んでいる香澄の事を思い出して、由美は呟いた。
「じゃあ変身するね、神の衣、聖なる力、魔を断つ剣をこの手に!!」
呪文を唱えると、指輪から放たれた眩い光がルピナを包んだ。
「神の光、我が身に神格化の力を」
由美も祈りを捧げ、プリンセスユミに変身した。
「変身完了、えっと声は・・・」
「ルピナちゃん、あちらの方向ですわ」
ユミに続いてルピナも助けを求める声の方向に飛んでいった。

「ここですわ」
たどり着いた場所は小さな空き地だった。
「ここも何かのお店だったのかな?、由美ちゃん行こう」
二人がひずみに入るとそこには立派なお屋敷が立っていた。
「ここだね、でもこんなに大きなお屋敷を作るなんて・・・」
規模から言えば、屋敷より城に近いのかもしれない。

ユミとルピナが屋敷の一室を覗くと魔族の男がソファーに腰掛け、
全裸でクリスタル像にされた静香を鑑賞していた。
「大きな部屋だから少し距離がありますわ」
「構わない、お姉ちゃんを助けないと!!」
ルピナは心配するユミに構わず、部屋に飛び込んでいった。
「そこまでです、女の人にかけた術を解いて開放しなさい」
ルピナは男を指先し、いつも通りの台詞を言い放つ。
「そうですわ、諦めて観念して下さい」
ユミも続いて男を指差し、優雅に言い放った。
男は怪しい笑みを浮かべると、ルピナの近くにクリスタルの静香を出現させた。
『静香おねえちゃん今助けるからね』
ルピナは心の中で姉の様に慕っている静香に語りかける。
「素直に返していただけると嬉しいですわ。さあ彼女にかけた術を解いて
 元に戻してください」
男はクリスタルの静香を見つめながらルピナ達に囁く様に話し始めた。
「私はね、恥ずかしがる女の子の反応や、クリスタルに変わる時の反応が好きなのだが
 他にも堪らなく好きな事があってね。お嬢ちゃん達にはそれが何か解るかな?」
「なにが言いたいんですか?話なら後でゆっくりと聞くから早く術を解いてください」
ユミの反応に少し不満そうだが、妖しい笑みを浮かべて指を鳴らす。
「それはね、これだ」
男が指を鳴らすとクリスタル化した静香の体に、ピシピシと音を立てながら
無数の細かいヒビが生じる。
「一体何をして?!お願いだから止めてよ、これ以上ヒビが入ると・・・。あぁ!!」
ヒビは静香の全身を覆って行き、そしてピシピシとヒビの入る音を一瞬止めたかと思うと、
次の瞬間、パキーーンとひときわ甲高い音を立て砕け散った。
「あ・・・」
呆然と見つめるユミとルピナの目の前で静香は粉々に砕け散った。そしてすべての破片が
床にカチャカチャと音を立てて飛び散ると、今度は静寂が辺りを支配する。
「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
静寂を打ち破ってルピナは心が引き裂かれる思いで絶叫した。その瞳からは、
涙が止め処なく溢れていた。
「素晴らしい、最高に美しい音の響きだと思いませんか?君の反応も最高です」
「貴方は最低ですわ、マジカルブラスター!!」
ユミは魔族の男に向かって、眩しい光りの帯を放った。
しかし、男は微動だにせず、ユミの放ったマジカルブラスターをかき消した。
「そんな・・・」
ユミが呆然としていると、魔族の男が余裕の表情で話しかけた来た。
「何かしたのか?今の光が攻撃だったと言いそうな顔だな。もし仮に私を倒せた時は
 特別に褒美をやろう」
「マジカルブレード!!」
ユミと話をしていた魔族の男にルピナのマジカルブレードが放たれた。
ルピナが放った眩い光の三日月型の刃を、魔族の男は指を鳴らして消滅させた。
「マジカルブレードが消えた・・・。あんなに簡単に・・・」
ルピナも魔法が効かなかった事に対して、かなりの衝撃を受けていた。
「他の魔族と一緒にしてもらっては困るな、私は水晶男爵。爵位を持つ魔族だ」
魔族の言う爵位の意味が、ルピナにはどんな物かわからなかったが、魔法が通じない
力の差だけは理解が出来た。
「まだ負けてはいませんわ、マジカルノヴァ!!」
ユミが持てる力の全てを込めて、自分の最大の威力の魔法を水晶男爵に放った。
放たれた眩い光りが辺りを白く包んでいく。
「倒したの?あ・・・」
光が晴れた後、余裕の表情でイスに腰掛ける水晶男爵の姿があった。
「ほう、少しは威力のある魔法だ、褒美にお嬢ちゃんをクリスタルの像にしてやろう」
水晶男爵は笑いながら言うと、ユミに向かって軽く指を鳴らした。
「あ・・・」
ユミの体は一瞬、輝いたかと思うと、色を失い透明なクリスタルに変貌していった。
一秒ほどで魔法使いの格好のまま、ユミの体は完全にクリスタル像に変わり果てた。
「そんな、ユミちゃんがクリスタル像にされるなんて」
目の前でユミを一瞬でクリスタル像に変えられ、ルピナは少し震えていた。
「怯える事は無い、すぐにお嬢ちゃんもクリスタルの像に変えてやる、その後仲良く
 砕け散って、私を愉しませて貰おう」
水晶男爵の言葉にルピナは心の奥に湧き上がる感情を覚えた、それは恐れでは無く、
目の前で静香を砕かれ、ユミをクリスタルの像にされた事に対する怒りだった。
「負けない・・・、私はどうなっても構わない、だから貴方になんか絶対負けない」
ルピナが叫ぶと体が輝き、頭の中に声が響いてきた。
〈リミット開放呪文を確認しました、精霊化の力を発動します〉
声が聞こえたかと思うとルピナの体は再び輝き始め、さらに大人へと変わっていった。
ルピナは二十歳程までに成長した姿に、全身に神々しい光を纏っていた。
「何だこの力は?構わぬ、クリスタルに変わるが良い」
水晶男爵はルピナに向かって指を鳴らすが、クリスタル化が起きる事は無かった
「馬鹿な・・・。私の魔法を無力化したのか?この水晶男爵の力を!!」
圧倒的な力を誇っていた自分の魔法が無力化された事を水晶男爵は認めたくなかった。
「今なら貴方の態度が理解できます、力に驕れる物は力で倒してあげます」
ルピナはそう言うと、手に小さな光の剣を生み出した。
「エレメンタルブレード」
ルピナが水晶男爵に向かい剣を一振りすると、水晶男爵の体はそれだけで両断された。
「かはっ、こんな事が・・・、職位を持つこの私が・・・」
傷口から炭に変わり、水晶男爵は消滅しようとしていた。
「ぐほっ、私の負けだ、約束の・・・、褒美を・・・」
水晶男爵は残った力を振り絞り、最後の魔法を使い、完全に炭に変わり消滅した。

「褒美って一体何を・・・、あっ」
砕け散った静香の欠片が一箇所に集まり、元に戻って行く。
クリスタル像に変えられていたユミの体も元に戻っていった。
「・・・、あれ?貴方誰?」
「私よ、ユミちゃん」
ルピナはにっこりと微笑んで、ユミがクリスタル像になった後の説明を始めた。
「そうだったの・・・。でも精霊化って何度だろう?」
「その事なんだけど・・・」
ユミの疑問にプリムが少しずつ話を始めた
「ユミちゃんとルピナの使ってる力は、元々精霊と神の力なの、だから力を使いすぎると
 少しずつ体が、神格化や精霊化をはじめるの」
「それで、神格化や精霊化が進むとどうなるの?」
ルピナが尋ねるとプリムは言葉を続けた。
「最初に年を取ら無くなるの、変身後の姿まで普通に成長するけど、その後成長が止まる
 次に魂が神格化や精霊化をはじめ、やがて純粋な心の持ち主にしか見えなくなるの」
最初にプリムが他の人に見えなかったのと同じ原理らしい。
「でもね、まだ二人とも大丈夫、今なら少しだけ年を取りにくいだけだから」
プリムはそう言うと、二人に笑いかけて、言葉を続けた。
「今までありがとう、もう戦わなくても大丈夫だから」
「私達の世界は守ってみせる、魔族なんかに負けない」
「そうですわ、魔族にさらわれた人を見捨てたり出来ませんわ」
そういったプリムにルピナとユミは笑いながら答えた。
「ありがとう・・・。ルピナ、ユミちゃんこれからもよろしくね」

その後、ルピナ達は残った魔族を倒し、街を守りぬいた。
街には平和が訪れていた。


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