青い蛙 4

作:牧師


畑に向かったリアンの目に、遠くで畑で仕事をしていると思われる、
幾つかの人影が映った。
「すみません。少し訪ねたい事があるんですが」
リアンが呼びかけても、彼らから返事は返ってこなかった。
「聞こえてないのかしら?もう少し近づいてみないと」
畑を荒らさないように気をつけながら、リアンは人影に近づいていく。
「少しお尋ねしたい事があるんですが、話を聞いていただけませんか?えっ?」
そこにあったのは、男性が畑仕事をしている姿の青いサファイヤの彫刻だった。
青いサファイヤの彫像に、緑色のインゲンなどの作物の蔓が絡まっていた。
「こ・・・・これは。まさか」
辺りを見回すと人影と思われた物は、全てサファイヤの彫像だった。
腰をかがめた格好の女性の彫像。立ったまま動きを止めた女性の彫像、
そのそばには小さな女の子の彫像もある。
目の前の男性の彫像は、作物に手を伸ばした形で動きを止めていた。
「何の為に畑にこんなにたくさんの彫像が?カカシとも思えないですし」
鳥害防止のために、畑にカカシを置くことはあるが、サファイヤの彫像を
カカシ代わりにするなんて、聞いた事が無かった。
「こんなに雑草が生い茂ってるなんて・・・。いたっ!!」
他の彫刻の元に移動をはじめたリアンの足に、何かが当たった。
それは仰向けに寝転んだ女性の彫像だった。
「こんな所にも・・・。え?こんな。ありえない!!」
近くで見たサファイヤの彫像の細部を、見てリアンは驚愕した。
その長い髪の一本一本まで再現した、彫像の髪の間に作物の葉が挟まっており
それはどう考えても、後から挟み込む事も、差し込む事も不可能な角度で
髪の毛に何本も絡まっていた。
「これは・・・間違いなく人がサファイヤの彫像に変えられた物ですね。
 おそらく周りの彫像も全て・・・」
雑草や作物の影になって、正確には何体あるのか分からなかったが、
リアンの目に入る彫像だけでも、その数は十数体に及んだ。
「一体この村に何が起こってるの?レミ・・・。早くレミ達に知らせないと」
何かあれば村の入り口に集合。
そう言われていたので、リアンは全力で村の入り口へと走っていった。

「はあ・・・はあ。まだ誰も戻ってきてませんね」
入り口にたどり着いたリアンは、息を切らしながら辺りを見回した。
「レミ達はルナを見つけることが出来たかしら?無事ならいいのですけど」
辺りにレミたちの姿が無い事に、リアンは不安を覚えたが言われた通り
村の入り口で少し待つ事にした。
その時リアンの背中から蛙の鳴き声が聞こえた。畑の中を走った時、
リアンの背中に、一匹の青い蛙が張り付いていたのだ。
「なに?何だ蛙さんですか。さっきの畑から連れて来てしまったのね
 ごめんなさい。ほら畑にお帰り」
青い蛙を手に取ると、リアンは蛙を近くの草むらに逃がす為に腰を落した。
だが蛙はリアンの手の平から草むらには向かわず、そのままリアンの手に
舌を吸い付けた。
「何をして?きゃあぁぁっ」
蛙は吸い付いた手の平に中心に、リアンの体を指先や手首に向かって
透き通ったサファイヤへと変えていった。
「さっきの人たちを襲ったのもこの蛙なのね。何とかしないと」
手の平の蛙を取り除こうとした時、草むらから無数の蛙がリアン目掛けて
次々に襲い掛ってきた。
「そんな、こんなにたくさん居るなんて。そんな服が!!」
服に飛びついた蛙は背中から粘液を出して服を砂に変え、
リアンの肌を露出させていく。
「ああぁ・・・体が・・・、体がサファイヤに変えられていく」
吸い付いた蛙を中心に体のいたる所が、透き通った青いサファイヤへと
その姿を変えていく。
「体が動かない。ああっ、いやん」
蛙が服を完全に砂に変えたことで、リアンの豊満な胸があらわになった。
「ああぁ、蛙が胸に張り付いて・・・。いやぁぁっ、な・・何をするの」
数匹の蛙がリアンの二つの乳房に張り付いたと同時に、
リアンの下腹部では、胎内に侵入しようとしている蛙たちが
無数にうごめいていた。
一匹の蛙が何とか侵入に成功すると、後続の蛙も次々に進入を試みる。
「痛い!!いやだ入ってこないで。んっ、ああぁぁっ」
何匹もの蛙が膣内に進入した為、リアンには痛みが襲い掛かってきた。
流石に進入が難しいと判断した蛙は、背中から粘液を出して、
次々にリアンの膣壁に擦り付けて行く。
「あれ?痛くなくなって行く。何?このジンジンする感じは?」
粘膜から蛙の粘液を吸収したことで、リアンは破瓜の痛みが和らぎ
それどころか、切ない快感に戸惑いを隠せなかった。
「これ?気持ち良いの?あ・・・。いや、冷たい!!」
とうとう子宮にたどり着いた蛙が産卵を開始し、その冷たさにリアンは
言い知れぬ不安を感じていた。
「胸がサファイヤに変わって・・・。いや、見たくない」
リアンの二つの豊かな乳房に舌を吸い付けた蛙は、その二つの膨らみを
ゆっくりと透き通ったサファイヤに変えていく。
首筋から下を、完全に透き通ったサファイヤに変えられたリアンは
ゆっくりと目を開け、恐る恐る自分の体を見た。
「一体何をしたの?ああっ」
産卵を終えた蛙が全て胎内から出ると、リアンは自分の胎内にある
白い泡に気が付いた。
「そんな。こんなの酷すぎます。神様、私はここまでされないといけないほど
 罪深かったのでしょうか?」
神官であるリアンは神に祈った、今までの行いが悪いとは思って居なかった。
しかし神から返事が帰ってくることは無かった。
「もう意識が・・・。あ・・・、目が・・・、何も見え無く・・・。」
リアンが完全にサファイヤの彫像にその姿を変えた時、
民家でもアリシアが、その姿をサファイヤへと変えようとしていた。

リアンの身に着けていたもので唯一、砂にならなかったのは、依頼で渡された
羊皮紙に書かれた手紙だった。その手紙にはこう書かれていた。


《村長さまへ》
 
先日、村長さまから報告のあった、珍しい蛙の件で連絡させていただきます。
その青い蛙は森青蛙(モリアオガエル)といい古代魔法時代に絶滅されたと
古文書では記されています。
ですので、その蛙が類似した他の蛙の可能性もあります。
オスは無害ですが、メスの蛙は哺乳類の胎内に産卵する習性があるらしく
その際、対象を透き通ったサファイヤの彫像に変えるとされてますので、
もし仮に、近くの森の鹿、猪、熊。村で飼育している牛などの家畜が、
サファイヤの彫像に姿を変える事があれば村を捨てて何処かに移住される事を
お勧めします。
その場合、人間もその対象となる可能性が高く、非常に危険です。
蛙に襲われると、透き通ったサファイヤに変えられ、胎内に卵を産みつけ
胎内で孵化したおたまじゃくしは精気を吸い取りながら成長し、
精気を吸い尽くされた犠牲者は、青いサファイヤに姿を変え死んで行くと、
古文書には記されております。
また、産卵に適さない個体(オス・未成熟なメス)は襲われた時点で精気を
そのまま吸い尽くされ、産卵の為の栄養とされるらしく、男性であっても
その脅威は変わらないため、男性だから平気と判断して安易に退治などに
踏み切らない事をお勧めします。
念のためこの手紙は冒険者に託す事にします。
手紙を受け取る際に渡さないといけない代金も、事前にこちらで支払って
おきます。
近くの森などの調査も冒険者に依頼しておきますので、村の状況に寄っては
役立ててください。
この手紙が届くまで、村に何事も無い事をお祈りしておきます。


           王立魔法学院 古代生物調査係 シリス・ドイル

つづく


戻る