SOLID X'mas

作:ヤカンヅル
イラスト:ぶろんず


「やっと部活終わったよー」
今日は一年に一度のクリスマス。彼氏というものがいる私は、今日一日彼と過ごすつもりなのだ。
早速、ポケットから携帯を出して、彼の電話にかける。
「お、やっと終わったか〜、待ちくたびれたぞ」
「そんなに待たせたつもりはないんだけどなぁ?」
「クリスマスなんだから、早く会いたいに決まってるだろ」
「………うん、そうだね」
それもそうだと思い、私は近道をしようと人通りのない秘密の近道(路地)を使うことにした。
「そういえば、待ち合わせた後、どうする?」
「うーん。どうしよっか?」
「俺は、お前が決めたことに従うよ」
「じゃあ、先にご飯を食べようか?」
「お、いいねぇ。じゃあ、どこがいいと思う?」
「そうだねぇ、学生の身分なんだし、お金が高いところは遠慮したいなぁ」
「じゃあ、妥当にファミレスにするか?」
「うんっ。じゃあ待ち合わせ場所から近い、アンミ」 
そこで、私の意識は飛んだ。
近くには誰もいない…。しかし、彼女は彼女自身が気づかないほど一瞬で誰かに凍らされたのだ。後に残ったのは、静まった路地裏に響く、携帯からの彼の声だけだった…。




「はぁ…。パーティーに出れば男が出来ると思った 私が間違ってた…」
今日はクリスマス。彼氏もいない私は、一人でいるのも癪なのでパーティーに出ることにした。あわよくば、そこでいい男を見つけてクリスマスの夜をその人と過ごそうとか企んでいたりとかもする(笑
しかし、世の中はそんなに甘くはないようだ。大体いい男には付き物がいる…。
「はぁ…、こういうところに一人で来る(いい)男なんて、いないのかなぁ…」
と、一人で飲み物を飲みながら小言をこぼしていたら、
「君、もしかしてひとりかい?」
「ええ、まあ一人きりですけど…」
来ました、こんな私にもチャンス到来…しかも顔もバッチリ。これはいけるんじゃないでしょうか?
「僕も一人で、ちょうど話し相手を探していたんだ。よかったら、向こうの部屋で話さないかい?」
「いいですね。それでは、お話にお付き合いさせていただきます」
しかも、向こうの方から二人っきりになるお誘いです。これは、期待大♪
「椅子はないから、立って話すことになるけど、いいかな」
「ええ、全然大丈夫ですわ」
「よかった、それではこちらに」
さあ、ついに周りにはだれもいない空間へと訪れてしまいました。少なからずどきどきしてまいりました。
「君は綺麗だね、それにそのネックレスも似合っているよ。一人でいるなんて、もったいない」
「そんなことを言ってもらえるなんて、光栄ですわ」
さあ、口説きに入りましたっ。これなら、こちらから何もしなくとも相手から誘ってくれそうですっ。
「……だからこそ、固める対象に選んだのだがね」
「………え?」
そこで思わず耳を疑うような発言を聞き、とまどって振り返ったのがいけませんでした。
その男の瞳を見た瞬間、視界が真っ暗になり、意識が落ちていきました…。
その後そこに残ったのは、落ちて割れた飲み物が入っていたグラスだけでした…。




「まったく、なんでこんな日に撮影なんてしなくちゃいけないのかしら…」
今日はクリスマスイブ。いきなり知らないグラビア雑誌のカメラマンから電話がかかって来て、
「今日撮影をしたいんですが、どうでしょうか?」
なんて電話がかかってきたもんだから、彼氏もいないし、やることもなかった私は引き受けた。
「去年は町で、逆ナンパしてたんだけどなぁ…」
まぁ、収穫はなかったけどね。 今年もそんな予定だったんだけど、あてのない男探しをするんなら、直接収入に結びつく撮影を選ぼうと思ったのだ。
そんなこんなで、来た事もない場所で、知らない雑誌のカメラマンさん一人相手に、色々打ち合わせをしているところだ。
「あなたには、是非水着を着てもらいたいのですが」
「はい?今は、そんな水着なんて季節でもないでしょうに」
「そのギャップが良いんですよ。冬に水着が見られないからグラビアの方が水着になる。これって良いと思いませんか?」
「ふぅん。まぁ、そこまで言うなら水着に着替えるわよ」
ーーーーーーーーーーーー水着に着替え中ーーーーーーーーーーー
「はい、着替え終わったわよ」
「おお、いいですねぇ、さすがグラビアアイドル。スタイルも良いし、胸もでかい」
「そんな当たり前のこと言ってもお世辞にならないわよ。ほら、わかったらとっとと撮影しましょ」
実は、スタイルなどを褒められるのは結構嬉しいということは、秘密にしておく。
「では、まず最初は、ありきたりにその大きい胸を強調するようなポーズで」
「わかったわ。………こんな感じかしら?」
腕を胸の下で交差させ、胸を前に突き出し、相手から谷間が見えるような姿勢をとる。
「いいですねー。それでは、一枚目っ」
パシャッ
「じゃあ、次はどんなポーズをとれば…」
(………て、あら?)
なぜだろう、体が、まったく動かない…。指一本から、瞬き一つまで見事に出来ないのだ。
(ちょ、これ一体どうなってるのよ!?)
「ふふふ、どうです?1ミリたりとて体を動かすことなど出来ないでしょう?これは少しいわくつきのカメラでしてね…。 このカメラで写真を 撮られた人間はまったく動けなくなるのですよ。まぁ、硬直みたいなものですかね。」
(ですかね、じゃないわよこのカメラマン!)
と叫んでるつもりなのだが、口も動かないのでただのうめき声にしか聞こえない。
「大丈夫ですよ…。意識があるのは今だけ、今からブロンズ像に仕立て上げて差し上げますから」
(ちょっと、そんなの無理に決まってるでしょ!?そんなこと人間なんかに出来るわけがないじゃない!)
「ふふ、あいにくと私は人間ではないもので…それでは、その美貌を保ったまま、永遠にお眠りください」
どうやらこっちがうめき声しか出せなくとも、相手には伝わっているようだ。
(嫌…やめて………おねがいだからやめてーーっ!)
必死にうめき声をだしたが、願いもむなしく、そこで私の意識はなくなった…。
そして、そこにあったはずの撮影場所は、忽然と姿を消していたのであった…。




「いらっしゃいませ、本日はようこそおいで頂きました。」
今日はクリスマス。高級中華料理店で働いている自分には休みなんてものはなく、しかもクリスマスに来るVIPのお相手を頼まれたのだ。                      
このVIP、どこのお偉いさんだかは知らないが、なんで一人で来るのかと最初は思った。しかし、お偉いさんには一般人の常識なんて当てはまるかどうかも怪しいものだ、と考えるのをやめた。
「今日一日お相手をさせていただくものです。どうぞよろしく」
「おお、これまたチャイナ服がよく似合うべっぴんさんだ。店長も気を利かせてくれるなぁ」
お偉いさんの相手をするのははっきりいって疲れるのだが、店長が自分を綺麗だといってこういう席に出してくれるのなら、悪い気がしないでもない。給料もちょっと高くなるし。
「それで、私はどのようにすればよろしいですか?」
「うむ、見たとおり一人なのでな、有り体に言えばお相手をしてくれないだろうか」
「お相手と申されますと、お酌とかですか?」
「ああ、それから話し相手にもなってくれると助かる」
そのとき、料理が運ばれてきた。さすがお偉いさんだけあって、出てきたのは当店最高額のフルコース。私も、一度で良いからこんなお料理を食べてみたいと思う。
「どうだね、この金華豚。食べてみないかい?」
「え?頂いてもよろしいのですか?」
「ああ、私の相手をしてくれるのだ、それくらいはせんとな」
口ぶりは落ち着いていましたが心の中は興奮状態まっしぐらです!まさか、本当に食べれるとは…
「では、このまま立ったまま失礼させて…」
パク
「…………非常においしいですわ」
「それはそうだろう。なんせ、この店の最高食材を使わせているからね」
この口の中に入れた瞬間とろける脂…この濃厚な味わい…ああ、生きててよかった〜。
「金で思い出した。君の金髪は、本当に綺麗だねぇ」
「ええ、自分でも気に入っております。
 でもこの髪を保つのも苦労しますわ」
「そうか、では君は髪の色にならって黄金像にしよう」
「え?」
表情を変える前に、全身の肌が張ったような感覚がしました。足元から、何か冷たい感触が上ってきている様な感覚さえします。私は、自分の髪に触れている状態で、動けなくなりました。
(一体これはどういうこと?)
「ふふふ、さきほどの金華豚には少し細工を施してあってね。食べ るとまず筋肉が硬直し、そのあとじわじわと金に変化していくようにしておいた」
(そんな、そんなことを人間が出来るわけないじゃないの!どんな麻薬を入れたのよっ!)
そうです、現実では考えられません。何か薬を仕込んであって、幻覚を見せられているに決まっています。                              
「ふぅ…。そのセリフを言うのも今日で二度目だな。出来るのだよ、私は人間ではないのだから」
(人間ではないですって!?じゃああなたは何者なのよ!)
「それはね、―――――――――――――――」
もうすでに金の侵食は耳まで来ていて、その男セリフを最後まで聞くことは出来ませんでした。
(なんで私が……まだ、やりたいことはいっぱい残ってるというのに…)
そうして、彼女はつま先から髪の毛の一本まで、完全な金に成り果てました…。
結局、本当の人生を終わる前に叶えられたのは、美味しい物を食べたいというささやかな願いだけでした。




「うーん、今年も良作が集まったわねー、ありがと、トナカイちゃん♪」
「………頼むから、そのトナカイちゃんというのはやめてくれ…」
そうあきれた風に言いつつも、口の端が歪んでるのを見ると、少し恥ずかしいようだ。
ま、そこがこのトナカイちゃんのかわいいところなんだけど☆
「まったく、お主も良く飽きないものだな…」
「いいじゃない、サンタだってクリスマスプレゼントが欲しいのよ?」
「正確には黒サンタだろうが…」
「ん?なんか言った?」
「いや、なんでもない」
「んふふー、それにしても皆、今にも動き出しそうな状態で固まってるわねー。」
「お主が、『なるべく自然な感じで固めてね♪』と言うから、わざ わざそうしたのだろうが…」
「それにしたって、こんな芸術品そう簡単にできるもんじゃないわ よ?やっぱりトナカイちゃん最高♪」
「まったく…お主のほうがそういうことに慣れているのだから、自分でやったらどうだ…」
「だって私は仕事があるし、それにトナカイちゃんみたいに【変化】の能力持ってないから自然体で固められないじゃない?」
そうなのである。実はこのトナカイ、いろんな者に変化できる能力を持っているため、例えば「どこぞのカメラマン」や、「ルックスのいい男」や、「偉そうなおじさん」になるのも可能なのである。
「うん、これで来年のクリスマスまでは、飽きそうにないわね〜」
「また、例の【彫像館】へ運ぶのか?」
「もちろん♪今まで固めた女の子達にプラスさせて、さらに萌え萌えな空間をつくるのよ!」
「はぁ…まったく、その意気込みをなぜ仕事の方に費やせないかね…」
「ほら、愚痴をこぼす暇があったらさっさと持って帰りましょ、トナカイちゃん♪」
「だからトナカイちゃんはやめろと言っとるだろうが…」
そうして、今はもう動かない少女達をそりに乗せ、黒サンタ達はクリスマスの夜を駆けていったのであった…。

END


ちなみに、このままだと女の子達は行方不明扱いになるので、どこぞの小説に出てくる【トーチ】なるものを彼女達の代わりにおいて、徐々に皆から忘れさられるように出来ているとかいないとか……。


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