大妖精と氷像恋娘

作:夢


こんにちは、そしてこんばんは。
私は、湖に棲む大妖精という者です。
幻想郷も、もうすっかり秋の色に染まり、
私達妖精にとっても、やはり過ごしやすく感じられます。
巫女―博麗霊夢―の住処の方が何だか騒がしいような気がしますが、
紅魔館界隈は最近黒白―霧雨魔理沙―の来襲も無く、
一種不気味なほどに平和です。

―ま、ここまで平和だと逆に気性の荒い妖精が動き出すわけで。
「大ちゃん大ちゃんっ!何ボーっとしてるのさ!」
ほら来ました。
彼女は私の友達でチルノちゃん。
冷気を操る能力で、ありとあらゆる物を凍らせることが出来ます。
(その手の趣味の方なら、垂涎モノの能力ですね)
正直この能力を使えば巫女も黒白も目じゃない気がするんですが、
彼女は相当頭が弱いので、そんな事には気づいていないようです。

「黒白もこないし、本当にヒマね!ちょっとカエル凍らせてくるわ!」
一方的に会話を打ち切ると、
彼女は何処かへと飛んでゆきました。
私は他人の秘密に干渉するような性格じゃ無いので、
普段なら無言で見送る所ですが、今日は猛烈にヒマなので
彼女を尾行する事にします。
何か面白いものが見れるかもしれませんし。

<大蝦蟇の池>

こんな所に―こんな場所があるなんて。
湖の周りにしか行動範囲を広げない私にとって、この池の景色はとても新鮮です。
新しい景色を必死に記憶に留めた私は、チルノちゃんを探すことに。

数分も掛からずに彼女は見つかりました。凍った蛙が目印でした。
ただ...彼女は腰の辺りまで大蝦蟇に丸呑みにされかけていました。
イボイボの舌はしっかりと彼女の腰に巻きついているようで、
じわじわと彼女を口の中へと引きずり込んでいます。
「こっ、このぉ!離しなさいよぉ!」
粋がってはいますが、完全に丸呑みされるのも時間の問題でしょう。
私?私は巻き添えになるのも嫌ですし、傍観ですよ。
そんな事を言っている間にも、もう残すは頭のみです。
「ぅぅぅ...誰か、助けてよぉ...」
涙目でそんなことを言われても、ここには全く助ける気のない妖精一匹と
大量の蝦蟇蛙しかいません。助かる見込みは、まず無いと思います。

それから程なくしてチルノちゃんは大蝦蟇の胃袋の中に収まり、
大蝦蟇は大物を捕食した満足感から眠りに就きました。
帰ったらお墓でも立ててあげようかな、などと
不謹慎なことを考えている傍で、何やら変化が起こり始めました。

何と、大蝦蟇の体が凍結し始めたのです。
きっとチルノちゃんが、体内で冷気を操ったでしょう、
見る見るうちに大蝦蟇は見事な蛙の氷像となり、
やがて粉々に砕け散りました。
氷像が砕け散った後に残ったのは...

蛙の胃酸で衣服を全て溶かされたため、
全裸で凍結してしまったチルノちゃんの氷像でした。
体をUの字に曲げ、手を前に突き出した形で
絶望した表情のまま、儚くも華奢な体躯を氷により永遠の物としていました。

私はその氷像を見て単純に綺麗だと感じ、
次いでこのチルノちゃんを独占したい...そう思いました。
私は周囲に誰もいないことを確認すると、
チルノちゃんの氷像を抱えて自分の住処へと急ぎました。

<翌日>

そこには元気に湖の上を飛び回るチルノちゃんの姿が!
妖精は例え死んでも、翌日にはその存在が復活するのです。多分。
彼女はあの池で起こった事を何ら記憶しておらず、
いつものように一緒に馬鹿をやって楽しんでいます。

あ、チルノちゃんの氷像はちゃんと保管してありますよ?
時々出してみては、変態な妄想に浸りながらイケナイコトに勤しむ...
そんな夜を過ごしています。

幻想郷は、明日もきっとおおむね平和です。


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