作:ヴィレド
「畜生!ちくしょおおぉぉ!!」
月面上・旧連邦軍基地跡
一機のMSが制御を失い、煙を吹き出しながら月面へと落下していく。
ガンダムXX。高機動大出力を武器にあらゆる戦場に対応するA・W(アフターウオー)屈指のMSだ。
ニュータイプ保護を目的とするジャミル・ニート率いるフリーデンのメンバーは、ニュータイプの少女、ティファ・アディールに導かれ月を目指していた。
ニュータイプ個体を探し出し保護するという方式をとっていたジャミルだが、ティファはジャミルに月面の施設を利用してニュータイプという枷を外し解放することを提案した。
それを了承したジャミルは一足先にガンダムXXとガロード・ランを宇宙へと送りだした。
ガロードはMSの機動力を活かして施設の探索をすることを提案、ジャミルもこれを承認したのだがフリーデンが大気圏を離脱中、ガロードが連邦のパイロットであるフロスト兄弟と接敵してしまったのだ。
ジャミルは格納庫に収納されているエアマスターB・レオパルドD・ガンダムXディバイダーの発信準備を命令したが、エンジンとスラスターの交換が間に合わずウイッツやロアビィと共に足止めを食らうことになってしまった。
慣れない空間戦闘にガロードはどんどん疲弊していく。フロスト兄弟の駆るガンダムヴァサーゴ及びアシュタロンは巧みな連係でXXにダメージを与えていく。
シールドは既に砲撃で溶解し、ライフルの残弾もあと少しとなっていた。おまけに機体自体のエネルギーもあとわずかとなり、ビームサーベルも使えない。背中に積んだツインサテライトキャノンは条件が整わないと使用できないため、ガロードは必死に回避するしかなかった。
そんなガロードをフロスト兄弟は獲物を追いこむように攻撃していく。そして・・・
ズガンッ
アシュタロンのビーム砲がXXの下半身を蒸発させた。
戦場に到着したジャミルが見たのは煙を吹きあげながら落下していくXXだった。
「ガロード!」
ジャミルの横に立つ小柄な少女、ティファ・アディールは咄嗟に彼の名を呼んだ。だが気絶しているのか、彼からの反応はなかった。次第にブリッジが騒がしくなる。下半身の損傷である以上、コックピットは避けられているため無傷とは行かないまでもガロードが無事である可能性は高かった。だがそれでも月面に激突すればただではすまない。
彼女は眼を閉じた。喧騒が徐々に薄れ、自分の声しか聞こえなくなった。彼女は念じた。自分をここまで呼びよせた声に。
(お願い・・・ガロードを助けて・・・)
その願いを聞き入れるかの様に彼女の頭に声が響いた。
(そのまま直進だ・・・30秒後に15秒だけ扉を開ける・・・)
再び目を開いた彼女は、隣で指示をだすジャミルに告げた。
「ジャミル、船をそのまま直進させて。あと30秒で正面のゲートが開くから。」
「あれが・・・ゲートなのか・・・?」
「そう。ガロードも一緒に入ってくると思うから。」
「わかった。キッド!XXの予備パーツをくみ上げろ!フリーデン、全砲門展開、一清掃射しつつ全速前進!」
「「ラジャー!」」
バーニアを全開にし、フリーデンが加速する。そのフリーデンに連邦軍やフロスト兄弟が砲撃を仕掛けるも、ことごとく突破される。
「おい!地面が開くぞ!」
射撃管制をしていたロアビィが声を上げた。月面に設置されたゲートが開いていく。そのわずかに開いた隙間にジャミルはフリーデンを潜り込ませた。同時に落下してきたXXもゲートの中に収容される。強行着艦したフリーデンとXXがネットに受け止められる。同時にゲートが閉まった。
シャギア・フロストはヴァサーゴの中で苛立っていた。探していたゲートが近くにあるのに発見できず、撃破しかけたXXを逃し、さらにはフリーデンまでも取り逃してしまった。弟のオルバや連邦兵に開閉スイッチを探させるも一向に発見できず、結局彼らはその場を去り、別のルートからの侵入を試みるしかなかった。
「全員・・・大丈夫か・・?」
よろよろと立ちあがるジャミル。フリーデン各クルーもそれに続く。格納庫ではレオパルドに搭乗したロアビィが、組み立てられたXXの下半身やエアマスターを押さえつけ、キッドや整備班は道具箱にしがみついていた。
「ガロード!」
立ち上がったティファは一目散に船外へ飛び出す。その彼女が目にしたのは、下半身を無残に切り取られ、サテライトキャノンと放熱板も失った満身創痍のXXだった。
「ガロード!イヤァッ!」
叫び崩れ落ちるティファ。だが一向にコクピットが開く様子はなかった。
XXに駆け寄ろうとしたティファを、追いかけてきたジャミルが抑える。
「離して!ジャミル!行かせて!」
「まて!お前が行って何ができる?私に任せろ!」
「ジャミル・・・」
ティファを落ち着かせ、ジャミルはXXのコクピットによじ登った。落下の衝撃でフレームがゆがんだのか、配線がショートし手動でしか開けなくなっていた。
コックをひねり、ハッチを無理やり開けるとガロードは中にいた。おびただしい量の血を流しながら。
すぐに駆け付けた医療班の手によって、ガロードはフリーデンの医務室に運ばれていった。ティファは手術が終わるのを部屋の外で待っていた。その隣にジャミルが座る。
「ティファ・・・」
「ここにいてもいい?」
「ああ。ただし、しっかりと睡眠はとるんだぞ。」
「・・・分かった。」
「ティファ、ここは何なんだ?一体何があるんだ?」
ジャミルは少女に問う。
「ここはあなたが目指した場所。そして私達に必要な場所。その名はD・O・M・E。」
「D・O・M・E?」
「そう。ここはニュータイプの研究を行う連邦軍最初のニュータイプ基地だった。でもまだ別の役割も持ってる。」
「別の役割?」
「それを言うのはガロードが起きてから。」
「しかたあるまい。」
「ここは48時間は確実に安全だから。」
「48時間?なぜ具体的な数字が?」
「D・O・M・Eが言ってる。」
「わかった。信じよう。」
その時、医務室の扉が開き、手術を終えた医師・テクスが出てきた。
「テクス、ガロードは?」
「心配ない。まあすぐに目が覚めるだろう。少しばかり縫う場所があっただけだ。」
「そうか。ありがとう。」
「礼を言うくらいなら、この一件が片付いたら酒でもおごってくれ。」
「ああ。必ず。」
テクスは右手を挙げて自分の部屋へと向かった。
ティファとジャミルが見守る目の前で、ガロードは寝息を立てていた。そっと手を取るティファ。その時、ガロードが目を覚ます。
「ティ・・・ファ・・・」
「無理しないで。時間はあるからゆっくり休んで。」
「ああ・・・ここは・・?」
「ここはD・O・M・E。詳しい事はあなたが回復してから話します。」
「ああ・・・」
短く答えたガロードは再び眠りに落ちた。ブリッジで指揮をとるためその場をジャミルが離れた後も、ティファはガロードの手を握りしめていた。そしていつしか彼女もガロードにもたれかかるようにして眠りに落ちて行った。
「・・ファ・・・ィファ・・・ティファ!」
体を揺すられティファは眼を覚ます。包帯だらけのガロードがティファを覗き込んでいた。
「よっぽど疲れてたんだな・・・」
「ガロード、体は・・・」
「ああ、もう大丈夫だ。XXは?」
「今組み上げてるころだと思う。大気圏を抜ける少し前から予備のパーツを組んでたから・・・」
「そうか。そういやティファ、俺が眠る前に何か言ったか?」
「・・・ガロード、私についてきてくれる?」
「?ああ。どこへ行くンだ?」
「着いてから話す。」
二人は医務室を出ると、ジャミルがいるであろうブリッジへと向かった。ティファの予想通り、ジャミルはブリッジでフリーデンとXXの修理状況、レオパルドとエアマスターの換装作業の報告を聞いていた。
「ガロード、もういいのか?」
「ああ。それよりティファが・・・」
「ジャミル、一緒に来て。他の皆も。」
ガロードとブリッジクルー、そして格納庫にいたキッドとウィッツとロアビィにも声を掛けた。
フリーデンから降りた一行はティファの後に続いて施設の奥深くへ入っていく。暫く歩いたところでティファは大きな扉の前で足を止めた。
「ここ。」
「ウィッツ、ロアビィ、ガロード。」
「「「おうよ」」」
三人で扉に手をかけ全力で左右に開いたが、扉はびくともしない。
「なんだこれ・・・重すぎるだろ・・・」
「力仕事は・・・得意じゃ・・・ないんだけどね」
「うおおおお!!」
顔を真っ赤にして扉に挑む3人にティファは言った。
「それ、押し戸なの。」
「「「あら・・」」」
ガクリとバランスを崩す3人。気を取り直し、扉を押した。思いのほか軽く、開けるのに3人も必要がなかった。
ティファは全員を部屋の中に誘導する。すると扉が勝手に閉じ、部屋の明かりがついた。
だだっ広い、フリーデンの格納庫くらいはあるだろうその部屋には様々な書類や装置が置いてあった。ただ一つを除いて装置は停止していた。ティファはその起動している装置のまえに全員を連れてきた。
「ジャミル、これがD・O・M・Eよ。」
「これが・・・」
その装置には透明な緑色をした液体が詰まったカプセルが接続されており、淡い光を放っていた。
「ティファ?」
「ジャミルはわかってたと思うけど、これはこのカプセルの中身は元は私たちと同じ人間だった。」
「なっ・・」
「大戦期、連邦はニュータイプを兵器として利用し、人間とみなしていなかった。D・O・M・Eはそのニュータイプを研究するための連邦の施設。そしてここを知っているのはほんの一握りの人間だけ。」
「ジャミルも知らなかったのか?」
「ああ。多分ウィッツ、お前たちを含めティファ以外は全員知らないはずだ。」
「この施設はとても優秀な成果を上げていた。でも、連邦はここを廃棄したの。」
「なぜだい?」
「この施設には秘密が多すぎる。もしコロニー軍に占拠された場合、一気に連邦の解体にまでつながりかねない。そう言った理由もあって、彼らはここを廃棄し、地上に新たな研究所を建設した。そしてここで研究していたことを各地に分散させた。私が昔いたのもそのうちの一つだったの。」
「なるほど・・・」
「この基地は表向きはただの補給基地扱いだった。でも、この施設にはニュータイプ研究所という裏の顔を持っていた。でも、それすらも実はカモフラージュでしかなかった。」
「「「なんだって?」」」
「今までの戦闘で皆が見てきた兵器。Gビットやサテライトキャノン。どれも恐ろしい威力を持っていたでしょ?」
「ああ。」
「それらの兵器を製造・運用するのがこの施設の本当の姿。そしてその全てを統括するのがこの・・」
「D・O・M・Eってわけだ。ってことはまさか・・・」
「そう。サテライトキャノンの発射に必要だったマイクロウェーブは、ここから送られていたの。」
「ここが・・・」
「D・O・M・Eにはもうひとつ役割があるの。」
「役割だ?」
「私たちニュータイプの能力強化。その精神を増幅させることで、6機が限界だったGビットの運用が、最大15機まで増えた。ただ、それを実行し続けるには機体自体にこれと同じようなユニットを組み込むか、D・O・M・Eにニュータイプを永久的に固定し続けるしかなかったの。確かに、機体に取り付ければ、更なる効果はあったかもしれない。でもそうすると、ニュータイプの数が足りなくなる。だから最終的にはその案は却下され、この方式がとられた。Lシステムを見たでしょ?これはあれの試作型なの。」
Lシステム。以前ローレライの海で戦闘を行った際発見された装置。その正体はニュータイプを生体ユニットとして装置に組み込み、MSの制御を奪うというものだった。そしてそれに使用されていたのは、ジャミルのかつての上官であり、密かに思いを寄せていた女性、ルチル・リリアントだった。
「このシステムにはある安全装置がかけられているの。そしてそれを破壊するのが、ジャミルの・・・そして私の目的なの。」
「それは?」
「ニュータイプの能力無効化。」
「なっ・・・」
「反逆を恐れた上層部は、この装置にそれを施した。ただ、この装置が発動しても完全にニュータイプ能力がなくなるわけではないの。その状況でもニュータイプ機体に組み込まれれば、従来と同じ力を発揮できる。ただ、それに対応した機体はこの世に二つだけしか存在しない。」
「その機体は?」
「ガンダムX、そしてガンダムXX」
「「「「!!」」」」
「私達はこの装置の安全装置を破壊した後、この施設自体を破壊する。そうすることで、D・O・M・Eは解放され、私達は唯の人間になる。」
「世界には、まだ自分がニュータイプとしての自覚をもっていない人間が多い。そんな人間達にはこの能力に気付かないほうが幸せなのかもしれない。今ここを新連邦に奪取されれば、奴らは根こそぎニュータイプを探し出し、兵器の一部にするだろう。それを防ぐためにも、この施設は破壊しなければならないのだ。」
「でもね、ただの爆弾や銃ではこの施設は破壊できないの。破壊できるのは、一定以上の出力を持ったレーザーのみ。そして、それができるのは、ガンダムXXだけ。」
「でもティファ、サテライトキャノンは・・」
「サテライトキャノンは残ってる。」
「はぁ?」
「来て。」
ティファはそう言うと、再びガロード達を誘導した。部屋の奥には小さな扉があり、その先には下に続く階段があった。暫く降りたところにあった扉を一行は開ける。
そこにあったものを見てガロードは驚いた。
「これは・・・」
だだっ広い空間に並ぶMS用の重火器。全て白で統一されたそれは、まさしくXX用の武装だった。そしてその中にひときわ目立つ武装が。
「これは・・・」
「サテライトキャノンMk3。これがこの施設を破壊できる唯一の兵器。」
「こいつがあれば、ジャミルやティファは解放されるんだな?」
「そう。ただし条件があるの。」
「まだあるのかい?」
「連邦は悪用を恐れて、それらに様々な制約をつけていった。Mk3もそう。鍵がないと発動しない。」
「鍵?」
「そう、鍵。そのカギとは、ニュータイプ。」
冷静に言い放つティファ。
「まさか・・・」
「サテライトキャノンMk3はマイクロウェーブとニュータイプの精神波を電流化したものを合わせてやっと発動可能になる。そしてそれを実行するには、XXに生体ユニットを装備する必要がある。」
「おい、ティファ・・・まさか・・・」
「そう、ガロード・・・私をXXに、生体ユニットとして組み込んで。」
ティファの発言に驚く一同。ジャミルだけは冷静でいた。
「そんなのできるわけないだろ!もっとほかの方法考えようぜ!」
そのガロードの言葉にティフアは首を横に振った。ウィッツもロアビィも同じようにティファを説得にかかった。ローレライの海で目の当たりにしたLシステムの惨劇。それをティファに強いることなどできるはずもなかった。だが、そんな彼らをジャミルが止めた。
「分かっているんだろ?ティファも、お前たちも。いま決断しなければ、連邦の思惑にはまるしかなくなるんだ。」
「ジャミルはそれでいいのかよ!」
「いいわけないだろう!代われるなら私が代わっている!だが現状、ティファに頼るしかないんだ・・ガロード、まだ時間はある。投降して連邦に銃殺されるか、ティファをユニットに組み込んでこの戦いを終わらせるか、お前が選べ。皆、先に戻ろう。」
そう言うと、ジャミルは残りのクルーを連れて出ていった。
重苦しい空間に、二人だけが残された。
「ティファ、残り時間は?」
「あと36時間。」
「どうしてお前はそんなことまで知っている?」
「D・O・M・Eが、あの人が話してくれた。」
「そうか・・・確かにファーストニュータイプなら知っててもおかしくはないな。でも、それでも他に方法はあるだろ?」
その問いにもティファは横に首を振る。
「何で!?」
「理由はさっき言ったとおり。お願いガロード。」
「嫌だ!」
「ガロード!」
「嫌だ!絶対に嫌だ!」
「・・・ごめんなさい。貴方のことも考えず、こんなことばかり言って・・・」
「ティファ・・・」
「ねぇ、少し昔話を聞いてくれる?」
「?」
「私があなた会う少し前のこと。当時、私はあの研究所にいた。モルモットとして。」
「そこをジャミルに助けられたんだろう?」
「そう。でも貴方に言ってないことがある。あの施設で行われていた実験、それはこのD・O・M・Eを複製し、完全なものにすること。そしてそのユニットに選ばれていたのが私。」
「何だって!?」
「もちろん、そのころの私はD・O・M・Eの存在何か知らないし、自分の人生もあきらめていた。でもそこに来たのがジャミルだった。あと5分彼が来るのが遅かったら、私はファーストと同じような眼に会っていたかもしれない。そしてあなたと会うこともなかったかもしれない。事実、ジャミルが私を助けた時、私は既に装置には固定されていたから。」
「そんなことがあったのか・・・」
「私を研究してた人たちは、毎日のように私にこう言った。(お前は素晴らしい部品だ)だから私は自分を部品だと、部品でいいと思っていた。そんな気持ちで装置に固定されていた。でもユニットにされる直前、私は思った。部品なんかじゃない。このまま何もできずに言われるがまま機械に組み込まれるのは嫌だ。だから助けられた時、ジャミルについていこうと思った。そして貴方に会った。」
「ああ。」
「初め、私はあなたを拒絶していた。人の心に遠慮なく入ってくるから。」
「それは・・・ごめん」
「でもなぜかあなたといることが楽しくなっていった。貴方がいると満たされた。怖い事があればいつの間にか貴方の名前を呼んでいた。そして貴方は来てくれた。」
「ティファ・・・」
「ガロード、私はあなたが好き。貴方と一緒にいたい。平和になった世界で貴方と・・だから、それを実現するために、私をXXに組み込んで。」
「ティファ・・・」
「大丈夫。全部D・O・M・Eから聞いた。作る場所があるから戻す場所もある。ただ、はっきりとは分からない。だから・・・」
「わかった・・・ティファがそこまで言うならそうしよう。この戦闘を終わらせてニュータイプを、ティファを開放する!」
「ガロード・・・ありがとう。」
「いったんジャミルの所に戻ろう。」
「ええ。」
そして二人は部屋を後にした。フリーデンに戻った二人はジャミルに会いに、ブリッジへ向かったのだが、そこにジャミルはいなかった。
「ジャミルなら格納庫よ」
トニヤにそう言われて格納庫に向かう二人。お互い無意識のうちに手をつないでいた。
格納庫では各MSの改修作業が急ピッチで行われていた。その内の一機、ガンダムXのコクピットにジャミルは居た。
「おーいジャミル。」
ガロードは開かれたコクピットに向かって手を振る。顔をのぞかせたジャミルが下りてきた。
「答えは出たか?」
「ああ。俺がティファを守る。」
「・・・そうか。わかった。ティファ、残り時間は?」
「あと34時間。何とか間に合いそうだな・・・ウィッツ、ロアビィ、キッド、ブリッジに来てくれ。」
「あいよ。」
「ほいほい。」
「おっけー」
三者三様に返事をしてジャミルの後に続く。
「みんないるな?」
全員が頷いた。
「これより作戦を説明する。本艦は34時間後、ゲートオープン後最大船速で離翔アルファ中域を目指す。その際、レオパルド、エアマスターは同時に発進、ガンマ中域へと侵攻、連邦艦隊の殲滅戦へと移行する。フリーデンが中域へ到着すると同時にX、XXが発進。こちらはフロスト兄弟が追ってくると予測する。XXは戦闘に参加せず、エネルギーの充填を行う。ウィッツ、ロアビィは戦闘終了後、こちらの援護に回ってくれ。ガロードは私達の事は気にせず、エネルギーの充填を優先しろ。充填完了次第、ポイントNにフルパワーでサテライトキャノンを打ち込め。フリーデンは戦闘を避け、Z中域に離脱せよ。以上だ。」
「「「了解。」」」
「サラ、トニヤ、今からユニットおよび武装の搬入を行う。ティファは女の子だ。ユニットに組み込む時はお前達が手を貸してやれ。」
「「了解」」
「ガロード、XXは今から改修する。他の機体より完成が遅くなる。お前はしっかり体を休めておけ。」
「分かった。」
「では解散。」
そしてクルー達は自分の持ち場に戻って行った。
ガロードは部屋のベッドで寝ていた。ジャミルの言うとおり、体調を万全にしておくためには寝て体を休めるしかないからだ。少し転寝を始めたころ、部屋のドアがノックされた。
「ガロード、いる?」
声の主はティファだった。
「おお、入れよ。」
扉を開け、おずおずと中に入ってくる。ガロードが体を起こすと、何も言わずちょこんとその隣に座った。
「どうしたんだ?」
「ガロード、私まだ返事聞いてない。」
「へ?」
「どうしても貴方の口から聞きたいの。」
「え〜っと・・あ・・・あれか・・・」
「・・・」
「そりゃ、ティファは可愛いし、ちょっとドジだけど一生懸命だし、その・・・」
「はっきり言って。」
「す・・好き・・・」
「え?」
「好きだ。ティファの事が好きだ!」
「ガロード・・・ありがとう。」
そう言ってティファは目を閉じて顔を近づけた。ガロードは少しぎくしゃくしながらも同じように近づけ、そして口付けを交わす。ガロードは小ぶりな乳房に手を当てる。そしてそれを揉みしだきながらそのままティファをベッドに押し倒した・・・
「ハァッ・・ハァッ・・・ハァッ・・・」
ベッドの上でガロードはティファから身を離した。同時に零れおちる種。満たされたような笑顔を見せるティファ。それはガロードも同じだった。
「ガロードの、温かい・・・」
「何か、恥ずかしいな・・・」
「私、嬉しい。」
「俺もだ。」
そして再び軽く口づけを交わす。その時・・・
ガゴン!
音に反応した二人は窓の外を見た。黒い、金属の箱が搬入されていく。さっきの部屋にあったパーツ類だろう。エレベーターでフリーデンの中に上げられていった。
「搬入始まったね。」
「ああ。そろそろか・・・」
「そうだね。」
「ティファ・・・行こうか?」
「うん。」
服を着た二人は再び格納庫を目指した。格納庫では、キッド以下作業班がXXの改造を急いでいた。既に改修の終わった残りの3機には各パイロットが搭乗していた。
副長のサラがジャミルと交戦ポイントの確認をし、トニヤはウィッツと語らっている。ロアビィはコクピットを閉じている。
「ジャミル!」
ガロードが呼びかけると、格納庫にいた全員がガロード達の下に集まる。
「ティファ、本当にいいんだな?」
「うん。」
「分かった。キッド、行けるか?」
「気は進まないけどね。準備はできてるよ。XXの改造ももうすぐ終わる。」
「わかった。サラ、トニヤ。後はお前達に任せる。」
「「了解」」
「ガロードはティファについてやれ。」
「ああ。」
「これが最後の決戦だ。我々の目的を果たし、新連邦の野望を阻止する!各員の健闘を祈る!落ちるなよ!」
「「「了解」」」
各々決戦に向けて持ち場に散らばった。ガロードはティファ達の後に続こうとしたとき、ウィッツとロアビィに肩を掴まれた。
「お前、XXを落としたら承知しねぇぞ!?」
「そうだぞ〜。お姫様を守るのが騎士の務めだ。」
「お前ら・・・」
「行けよ。」
「でっかい花火を手土産にお前達と合流するからよ!」
「ああ!必ずまた後で会おうな!」
3人で拳を合し、それぞれの戦場へと赴く。二人はコクピットで待機シフトに入る。その二人を見送ってから、ガロードはティファを追いかけた。
格納庫の奥にその部屋はあった。キッドが武器の設計、試作モデルを作る設計室。処理はそこで行われる。
部屋の中央には大きな装置が設置されており、床にはサイコロを展開したような板が置いてあった。その装置の中央には、窪んだスペースがあり、数本のケーブルが収納されていた。
トニヤとサラはキッドから説明を受けていた。キッドも処理が始まったら退席するらしい。その様子をティファはじっと見つめていた。
「ティファ?」
「あれが・・・Tシステム。あのまん中の窪みが見える?」
「ああ。」
「あそこに生体ユニットを接続するの。そして装置をブロック状に覆い隠し、それをMSに繋げる。それでXXは史上最強のMSになる。」
「・・・」
「これで・・・全てを終わらせて・・・」
「わかった。それじゃあ俺からも一つお願いをしていいかな?」
「何?」
「この戦いが終わったら、ティファを元に戻す旅をする。そしてティファが元に戻ったら、一緒に世界を回ろう。」
「ガロード・・・うん・・・」
ティファは顔を赤らめて俯いた。ガロードもなぜか恥ずかしくなってそっぽを向いた。
「準備ができたよ。」
キッドがそう言ったのはそのすぐ後だった。
「オイラはXXの最終チェックに取りかかるから。トニヤ、サラ、任せたよ。」
「ええ。しっかりお願いね。」
「覗くんじゃないわよ?」
「覗かねぇよ。」
そう言ってキッドは部屋を出て行った。その直後サラは扉に内側から鍵をかけた。
「ティファ、残り時間は?」
「後33時間。」
「そろそろ始めないとね。準備はいい?」
「ええ。」
「ガロード、何があっても手を出さないでね。」
「分かってるよ。ティファが決めたんだ。俺は止めねぇよ。」
「そう・・・じゃあティファ、始めましょうか。」
「はい。」
小さく返事をしてティファは自分の服に手をかけた。スミレ色の服と同じ色のロングスカート、上下で一体となっているそれを、少し重そうに脱ぎ棄てる。サラがそれを受け取り綺麗に畳んだ。はいていた靴と靴下も脱ぎ、純白のかつ質素な下着にも手をかける。小ぶりながら張りと艶を併せ持つ美乳がこぼれ、年相応に育った性器が姿を現す。最後にいつもしている髪留めを外し、ティファは生まれたままの姿になった。
「ガロード、これを。」
ティファは髪留めをガロードに差し出した。
「ユニットになれば解放されるまで私とは会えなくなる。だから私の代わりにこれを」
ガロードはそれを受け取り左の手首にはめた。
「ああ。戻ったら、またこれを付けてくれよ。」
「うん。」
ティファは優しい微笑みを見せた。
「ティファ、そろそろ・・・」
「うん・・・じゃあガロード・・・」
「ああ。トニヤ、頼む。」
トニヤは頷くと、装置の窪みから赤い腕位の太さのパイプを伸ばす。
「ティファ、そこの長椅子に寝て。」
言われた通りの場所に寝るティファ。サラはティファの体を抑え、軽く足を開かせる。
「ティファ、大きく呼吸しなさい。ちょっと苦しいけど我慢するのよ。」
無言で頷くティファ。トニヤは手に持ったパイプの先端をティファの股にあてがった。そしてゆっくりそれを中に滑り込ませる。
「うっ・・・ふーー・・ふーー・・あっ」
「しっかり!大きく深呼吸!」
「サラ、お腹押えちゃダメ!戻されちゃう。抑えるなら肩を!」
「わかった!」
トニヤがパイプを押し込むたび、ティファは歯をグッと食い縛る。時折ビクンと大きく体が跳ねるが、それをサラが抑え込む。下腹部にはパイプの形が浮き上がり、ティファの内臓を圧迫する。それが進むたび、ティファは眼を大きく見開く。
「くっ・・・よし、全部入ったわ。ティファ、もう少し深呼吸して呼吸を整えなさい。」
「う・・ん・・・」
体を押さえていたサラがその手をどける。肩も上下させて、ゆっくりと体を落ち着ける。
「立てる?」
「・・・うん」
トニヤの問いにティファは弱弱しく答えた。サラは装置を操作している。ガロードはただ壁にもたれて待つしかなかった。
ティファは体を起こすと、長椅子から立ち上がった。だがまだ疲労が残っているのと異物の挿入でバランスを崩しよろめく。すかさずガロードがそれを支えた。
「ありがとう。」
「気にするな。」
ガロードから体を離したティファは装置に向かって歩き始めた。歩くたびに股間に突き刺さったパイプが揺れ、そのパイプは装置に収まっていく。ふらつきながら、ティファは装置にたどり着いた。
「手伝おうか?」
「お願い。」
ティファは装置に片足をかけ、よじ登る。それをトニヤとサラが支える。そしてティファはその体を窪みの中に横たえた。トニヤとサラは窪みの中にあったケーブルのつながった端子を取り出した。その端子の先には鋭い針が付いている。
端子を取り出し終えた二人は、ティファの手足の位置を調節すると、ヒンジで留められた金具を閉じた。これによりティファは肘と膝の関節から先で装置に固定された。
「ティファ・・・ごめんなさい・・・」
サラはそういうと、固定され身動きできないティファの左の乳首に端子の針を差し込んだ。
「あっ!」
一瞬目を見開き、息を詰まらせる。端子が刺さった所から血が一筋流れる。反対側の乳首にトニヤが同じように差し込む。他にもあばらの下、臍、太もも、側頭部、尿道と体の各所に端子を接続していく。そのたびにティファはくぐもった悲鳴を上げ、体からは血が流れる。
全ての端子を接続し終えた二人はティファの体についた血を拭きとってやった。体を固定され、端子を接続されたティファはこれだけでも既に機械の一部に見えた。
「次の処理に移行するわ。」
装置を操作していたサラがそう言った。サラがボタンを押すと、装置についたランプが点滅し、起動を始めた。重低音を響かせ、Tシステムが動き出す。
「うぁ!ぁあぁぁああぁぁぁああぁ!!」
暫くして、ティファが突然苦しみ出した。先ほどよりも激しく体をびくつかせよじる。その体をよく見ると、端子の刺さった所から枝のような膨らみが見えた。
「何が起きてるんだ!?」
「私たちもわからないわ・・・」
結局ガロード達は暫く苦しむティファを見ているしかなかった。枝状の膨らみは最終的に各端子から10センチくらいの所まで広がった。
一旦装置が停止し、辺りに響くのはティファの呼吸だけとなった。トニヤとサラはティファの体を乾いたタオルで拭いてやる。暫くして、呼吸を落ち着かせたティファにガロードは尋ねた。
「何が起こってるんだ!?」
落着きを取り戻したティファは説明を始めた。
「私の体の奥深くにまで・・・装置が・・入り込んできてる・・・」
「戻せるのか?」
「大丈夫・・・設備があれば・・・ガロード・・・私は大丈夫だから・・・最終段階に進んで・・・」
「最終段階?」
「生体ユニットの破損を防ぐため・・・ユニットは金属化加工される・・・」
「何だって!?」
「生身の部分を金属に変えることで・・・精神エネルギーを電気化した際・・伝動効率を上げる・・・同時にユニットを完全に機械化し・・・演算速度を飛躍的に向上させる・・・これがGビットの操作限界数上昇の仕組み・・・そして・・・ここまで処理が進めば・・・専用の設備以外での・・・解放は不可能・・・」
「そんな・・・」
「私が・・・守るから・・・あなたを・・」
「ティファ・・・」
「だから・・・ガロード・・・お願い・・・続けて・・・」
「くっ・・・分かった・・」
血が出そうなほどに拳を握りしめ、割れんばかりに歯を食いしばるガロード。
「サラ、トニヤ、続きを頼む・・」
その言葉に二人は無言でうなづいた。
「ティファ、あと少しよ。」
「しっかりとガロードを守るのよ。」
「うん・・・ガロード・・・最後に・・キス・・・して」
「・・・最後じゃないだろ?元に戻ったら、またいっぱいしよう。」
「うん・・・待ってる。」
ガロードは眼を閉じたティファに顔を近づけ、口付けをした。それはとても長い時間続いた。それでも二人にとってはほんの一瞬だったが。だが決戦の時はそんな二人を容赦なく引き裂く。
「ガロード、最終処理に移行するわ。離れて。」
そう言われれば離れざるを得なかった。ガロードが顔を離すと、サラは再び機械を操作した。
再び重低音が響き、装置が明滅を始める。最終処理が始まった。
ティファが入っている窪みがさらに一段深く沈む。そしてそれを覆うように、強化ガラスの蓋が競り上がる。それはゆっくりとティファを覆っていく。
ウィイイイイイイィィィ・・・ガチャッ
ティファはガラスの向こう側に封じられた。暫くすると、ティファの股間に刺さるパイプがビクンと蠢く。そしてその形に膨れていた下腹部からお腹が膨らんでいった。暫くすると、その膨らみはしぼんでいき、やがて元のサイズに戻る。すると再びパイプが脈動し、ティファのお腹を膨らませて行った。何かが注入されるたび、ティファは苦悶の表情を見せ叫びをあげるのだが、防音性があるらしくガラスの向こうのガロード達にそれは一切聞こえなかった。
「あれは?」
「分からないけど、多分ティファの言ってた金属化処理に関係のある何かが注入されているとしか思えない。」
5回程それを繰り返し、パイプは脈動を停止した。体中に玉のような汗をかいたティファ。胸と肩を上下させながら荒い呼吸を繰り返す。
やがて膨れていたティファのお腹は元に戻ったが、それを見計らったかのように装置が再び作動し始めた。
キュオォオオオオンキィイイイイイイイ
初めはタービンを回すような激しい音がしていたが、それはやがて耳を劈くような不快な音に代わっていた。呼吸を落ち着かせていたティファの顔に再度苦悶の表情が浮かんだのはその直後だった。目をギュッと閉じ、口を大きくあけて聞こえることのない叫び声をあげる。何が起きたのかが分からず狼狽するガロード。苦しみ悶えるティファの異変に最初に気づいたのはサラだった。
「ティファの足を見て!」
全員が装置の中に固定されたティファの足を見る。固定している部分と、生身の部分の間にわずかだが銀色に光る部分があった。ティファの金属化が始まったのだ。
膝の上まで浸食した金属化の波は、止まることなくその幼さの残る体を鈍く光る金属に変えていく。しなやかな少女らしい太腿や、その付け根に位置する女性の象徴である器官にも固体化の流れが押し寄せる。その付け根の器官が金属化するとき、ティファは一層目を見開いた。
金属化の勢いは衰えることなく体を這い上がる。下腹部に申し訳程度に生えた(もしくは処理していた)陰毛もただの鋼線に置き換えられ、少女から女性へと変化を遂げようとしていた腹部もそれに飲み込まれていった。
金属化の浸食はなおも止まることなく上昇を続け、年相応に育った乳房に差し掛かる。乱れた呼吸に合わせて上下していたそれも、押し寄せる金属化によって柔らかさと温もりを失っていく。腕から進行した金属化が肩口まで迫る。乳房を侵食するそれは、ついにその頂点にある乳輪と乳首にさしかかった。少し大きめの乳輪。度重なる刺激により、乳首と共にぷっくりと膨れている。その赤い頂に、銀色の波が押し寄せる。
再び敏感なところを刺激され、ティファの体が跳ねた。その刺激で体をよじろうとするも、既に金属化した部分が動くはずもなく、激しく頭を振りかざすだけだった。それも体力がなくなってきたのか、動きが緩慢になっていく。手足は明るい銀色に変わったが、乳首や乳輪は暗い鋼鉄のような色になった。それを過ぎると、もうその美乳が跳ねることはなかった。やがて、鎖骨の辺りで腕から来た金属化の波と合流すると、それは残った頭部の変換にかかった。
いてもたってもいられなくなったガロードは、装置に近づきその中を覗き込む。意識が朦朧としながらも、それに気がつき無理やりほほ笑む。直後、口元が侵食されティファは気を失った。完全に眠ったような表情になったティファの顔を、装置は無機質な金属に変えていく。そして腰まで伸びた髪も陰毛と同じように一本一本余すことなく鋼線に変化した。
こうして、ティファ・アディールはMSのパーツTユニットとして生まれかわった。
変わり果てたティファの裸体にガロードは見とれていた。まさに芸術と言わんばかりのその銀像は、ガロードの心をつかんだ。じっと見とれるガロードに、トニヤが声をかける。
「さあ、封印処理をするから離れて。」
サラとガロードが装置から離れると、床に展開されていた鉄板が組み上がりTユニットを覆い隠していく。やがて大きなサイコロのようになった装置は動作を終了した。
駆動音が小さくなっていき、やがて辺りに静けさが訪れた。
「私達はキッドを呼んでくるわね。」
そう言って、サラとトニヤは部屋を出て行った。残されたガロードは、ティファが封入されたその箱を見つめていた。
「ティファ・・・必ず・・・必ず守るから」
キッドが部屋に入ってきたのはそう呟いた直後だった。
グォーーン・・・ガゴン カチャカチャ
開かれたXXの胸部、マイクロウェーブ受信機のある位置にTユニットは納められた。すぐに配線が行われ、ティファとXXが一つになっていく。
優秀なメカマン達のおかげで、ユニットの接続はおよそ3時間で終了した。ただ、ティファを変換するのに相当な時間を要したため、D・O・M・Eが保障してくれた48時間まであと1時間しか残っていなかった。
サテライトキャノンMk3が新たに装備されたXXで、ガロードは着座調整を行っていた。
「これでユニットの力をフルに出せるはずだ。ブースターと装甲、シールドの強化もしてあるから、ある程度までのダメージは当てて受け流すこともできるはずだよ。」
「ああ、助かるぜキッド!」
「あったりまえよ!このキッド様をなめちゃいけねぇぜ!さぁ、作戦時間まであと少しだ。ガロード・・・帰ってこいよ。」
「もちろんだ。さぁ、ハッチ閉めるぞ。」
キッドが離れたのを確認し、ガロードはコックピットを閉じた。その直後、ジャミルから全艦全MSに通信が入った。
「間もなく作戦開始だ。各自くれぐれもしくじるなよ。」
「わぁってるよ!」
「まかせなさ〜い」
「落ちてたまるかよ!」
「その粋だ。それでは行くぞ!」
フリーデンを固定している発射台が角度を上に向ける。辺りにジェット煙が立ち込める。
そしてフリーデンが完全に上を向くとほぼ同じくして、D・O・M・Eのハッチが開いた。
「今だ!!」
ジャミルの命令に従い、フリーデンが発進する。
ドドドドドドドド!
こうしてフリーデンは目標を破壊すべく、D・O・M・Eから飛び立った。
「兄さん!ハッチが開くよ!」
オルバ・フロストはアシュタロンの中から兄にテレパスを放った。
「気をつけろ・・・来るぞ!」
シャギアが言ったとおり、開いたハッチからフリーデンが飛び出してきた。そのフリーデンに猛攻を仕掛ける連邦軍。そんな連邦軍艦やMSにミサイルの雨が降り注ぐ。
「何!?」
「兄さん、レオパルドだ!」
みると、フリーデンの先端に乗ったレオパルドDがこれでもかと言わんばかりに弾薬を惜しむことなく放ち続けていた。それにあたり次々と轟沈、爆散する艦隊。
「オルバ、チェストブレイクを!」
シャギアの命に従い、アシュタロンを変形、合体させるオルバ。強力なビーム砲となったそれの照準を、フリーデンに向ける。
「これで!」
その時、直上からビームの雨が降り、彼らの機体に当たった。
「くそ!エアマスターか!」
「おちつけオルバ!ここは他の奴らに任せて私達はフリーデンを追うぞ!」
「分かったよ、兄さん。」
それぞれ分離した2機は、最大船速で目標地点に向かうフリーデンの追撃を始めた。
それを追おうとしたウィッツ、ロアビィだったが、予想以上に弾膜が濃くジャミルとガロードに通信を入れるのが精いっぱいだった。
「フロストがそっちに行ったぞ!」
「わかった。ジャミル!!」
「ああ、ガンダムX発進!」
赤青白の三色でカラーリングされたMSがフリーデンから出撃する。
「よし、行くぜティファ・・・XX起動!!」
Tユニットを組みこんだ新生ガンダムXXのカメラアイに光が灯る。ブースターを点火し、ガロードは機体を発進させた。
「あれは・・・」
「XX・・・か?まぁいい。相手はたかだか2機。我ら兄弟の敵ではないわ!」
「うるさい!俺はお前たちを倒す!そしてティファやジャミル、他のニュータイプを開放するんだ!」
そう言って、新しく装備されたビームライフルを発射し、リアアーマーに装備されたビームサーベルを抜き放つ。それと同時にジャミルがディバイダーのハモニカ砲を撃ち、弾幕に華を添える。
「くっ・・奴らめ、一体どれだけ武装を積んでるんだ・・」
「解放などできるものかぁ!!」
弾膜を抜けてアシュタロンがXXに肉薄する。射撃の隙をつかれ、ガロードは真横に接近を許す。
「ガロード・ラン、その首もらったぁぁぁ!!」
「しまった!」
アシュタロンがサーベルを振り上げた瞬間、XXの胸部が発光し始めた。
「何だ!?」
「これは・・・ティファか!?」
(守るから・・・私がガロードを・・・)
ガロードの頭にティファの声が響く。その瞬間・・・
ズギャンッ!
アシュタロンの左手をピンク色のビームが消し去る。
「何だ!?」
「離れろオルバ!」
立て続けに飛来するビーム。その場にいた全員がその発射された方向を見る。
「あれは・・・Gビット!!」
「クッ厄介な物が!」
月の表面から現れた15機のGビット。そのどれもがXXを、そしてXを守るように攻撃を加えていた。
「ちっ・・オルバ!邪魔なハエから落とすぞ!」
「分かったよ兄さん。」
再び2機のガンダムが変形・合体し、砲門をガロード達に向けた。
「「消え去れ!!このウジ虫どもが!!」」
ズドオオォン!!
赤く太いビームが数機のGビットをデブリに変える。
「やったか?」
周囲に目を凝らすオルバ。残骸をみて少し口下をゆがめた。だがその瞬間、シャギアがヴァサーゴを横滑りさせた。
「オルバ!回避だ!」
バシュッ
さっきまで二人がいた空間をビームが走り抜ける。
「やっぱりな・・・回避していたか。ジャミル・ニート!!」
上方から砲撃をするXにヴァサーゴが肉薄し、抜き身の刀での近接戦闘が始まった。その間にオルバはガロードと対峙し、飛び回るGビットを破壊していく。次々と破壊されるGビット。だがそれと同時にアシュタロンにも少しずつダメージが蓄積されていく。
「クソッ何であいつに攻撃が当たらない!」
先ほどからXXに攻撃を放つも、見透かされたかの様に回避され続ける。
「すげぇ・・・これがティファの預言能力・・・見える・・・次の攻撃が!」
その時、打ち続けたライフルのエネルギーが切れた。
「しまった!」
その瞬間、オルバは予備のサーベルを抜き放ちXXに接近した。
「ガロード・ラン!その首貰ったあああぁぁぁ!!!!」
「うわああ!!」
サーベルの歯が目前まで迫った瞬間、アシュタロンの動きが止まった。アシュタロンだけではない。この戦闘中域にいる全ての戦艦、MSの動きが止まっていた。ただ一機、XXを残して。
「何だ!?動けアシュタロン!」
「おい、どうしちまったんだよ?」
「操作を受け付けない・・・それは敵さんも同じみたいだぜ。」
「クッ次から次へと・・・」
「これは・・・」
全員がXXの方を見る。機体中央から光を発するXX。その武装に変化が起き始めていた。
「何だ・・・?サテライトキャノンMk3起動・・?これか?」
モニター横に着いたボタンを押すと、各所に装備された武装が展開を始める。
腕部、脚部、胸部、背部に増設された放熱フィンが展開する。サイドアーマーの代わりに装備された砲門と、肩部に装備された砲門が展開していく。それら全ての展開が終ると、さらにまばゆい光が辺りに散らばる。その時、XXはまるで大天使のようだったと後にジャミルは書き記した。
内部ではTユニット、基ティファの体が発光していた。その光が外にまで漏れる。
戦場にいるだれもがその光景を目にしていた。
その時一筋の光が月面の、D・O・M・Eから発射された。一足先に我に返ったシャギアが叫んだ。
「誰でもいい!!マイクロウェーブをXXに届かせるな!!」
だがだれも、どのMSも動かない、いや動けなかった。そしてマイクロウェーブがXXの受信機に到達した。それは更に中にいるティファにも到達し、まばゆい輝きを月の光のように青く落ち着いた光に変えた。
やがてその光がおさまると、XXが場所を移動し始めた。
ガチャッガチャッ
操縦桿を何度も動かすオルバ。光がおさまると、止まっていたMSが動き出した。
「XXを止めろ!あれを撃たせるな!」
ヴァサーゴとアシュタロンがブースターをふかし、XXを追撃し始めた。その時、Xがヴァサーゴに組みついた。
「離せ!ジャミル・ニート!」
「行かせん!私達は、これで全てを終わりにする!」
「ニュータイプの解放など出来るわけがない!我々は、オールドタイプを抹殺し、同志を救済するのだ!」
「そんな事はさせない!」
「うるさい!どけ!」
一瞬のすきをつき、ヴァサーゴがXをけり飛ばす。
「我らの野望のために塵となれ!ジャミル・ニートォ!!」
絶叫しながらXをビームサーベルで切り刻む。腕や武装がそれにより溶断される。そしてバックパックに一撃が加えられるとXはその機能を停止した。
「手間をかけさせる・・・お前はXXを破壊した後でゆっくりと抹殺してくれる。」
そう言い残し、先行したオルバを追いかけた。
XXは予定通りのポイントで停止した。あとはサテライトキャノンを打てば全てが終る。照準はすでにD・O・M・Eに向けられた。後はトリガーを引けば全てが終る。Gコンのトリガーに指をかけたガロード、その時満身創痍のアシュタロンとヴァサーゴが追い付いてきて、その射線上に入ってきた。
「我らの野望、砕かせはしない!」
「どけ!お前たちも打ちたくはない!」
「ほざけ!その砲門、下ろさないのなら今すぐ地獄に送ってやる!オルバ!」
「ああ、兄さん!僕達の方が正しいってことを証明してやる!」
そして再度二人は機体を合体させた。
「「我ら兄弟の目的のため!けし飛べ!ガロード・ラン!!!」」
「チックショオオオオオ!!この分からず屋あああああ!!」
双方同時にトリガーを引いた。強大なエネルギーが3機の間でぶつかり合う。だが新型サテライトキャノンの威力を持ってしても、フロスト兄弟の威力に押されてしまっている。
「クッ・・・うあああああ!!!」
「「うおおおおおお!!」」
そのビームがXXの手前まで押し戻される。
(ガロード・・・心を・・・心を合わせて!)
再びティファの声が頭に響く。
「心を?・・・」
(そう、心・・・)
その言葉を聞いたガロードは眼を閉じた。脳裏にティファの顔が浮かぶ。いつもの無表情な顔、怒って眉をひそめた時の顔、優しく微笑んだ時の顔、そして照れながら頬を赤く染めた時の顔、いろんな表情のティファが浮かんでくる。ガロードは体に温かさを感じた。それはティファと体を重ねた時の温かさと同じだった。トリガーを握る手に、まるでティファが手を重ねているようにさえ感じた。
(そう・・・これで全力を出せる・・・あなたがいたから・・・守ってくれたから・・・だから、今は私があなたを守る・・・)
「ティファ・・・だったら!」
XXの眼が突然青く光る。
「俺も!!」
ビームの出力が上がり始める。
「「何!?」」
徐々にビームを押し返していく。
「お前を!!」
「「ばかな!」」
黄色いビームが青く変色していく。
「守る!!」
「「くっ・・・やられるわけにはいかんのだ!!」」
再び赤黒いビームが押し返す。
「お前の野望を打ち砕く!」
再び青いビームが盛り返す。
「そして・・・」
一段と威力が上がり、砲身に罅が入る。
「俺が!!」
右腰の砲門が溶解する。アシュタロンの装甲にもひびが入る。
「ティファを守るんだあああああああああああ!!!!!!!」
ガロードの雄たけびと同時に一気に出力が限界を超えた。同時に右肩の砲門を残して二つの砲門が爆散した倍近くに膨れ上がったビームが、2機のガンダムに襲いかかる。
「「うおおおああああああああああぁぁぁぁ!!!」」
青い光の奔流に巻き込まれ、フロスト兄弟と2機のガンダムは光になった。そしてビームは月面のD・O・M・Eに直撃し、その施設を焼き払う。資料が炎に包まれ、装置が爆発する。生き残ったGビット達も、その中に特攻していく。そしてそれはD・O・M・Eを司るファーストニュータイプも例外ではなかった。
(ありがとう・・・これで自由に・・・)
最期の瞬間、ガロードの頭の中に優しい男の声が響いた。爆煙の中から一筋の光が宇宙の彼方に飛んでいくのが見えた。だが、ガロード以外にそれを見た者はいなかった。
それを見届けるかの様に、XXはエネルギー切れを起こし機能停止した。
数日後・・・
「元時刻を持って、フリーデンは解散とする。今まで私についてきてくれた諸君には感謝しても足りない。またいつか会う日があれば、その時はゆっくりお酒でも飲もう。諸君のこれからの人生に、月の光があらんことを。」
ジャミルがサングラスを取ってクルーに敬礼をする。それに応じて、全員が敬礼で返した。そして暫く別れを惜しんだ後、みなそれぞれの道へと別れて行った。
レオパルドが、エアマスターがフリーデンのカタパルトから最後の発進をしていく。整備班が不眠不休で修理したおかげで、各機体新品同様になっていた。
ジャミルはXをローレライの海に沈めた。ウィッツはトニヤと共に故郷に戻る。ロアビィはまた新たな契約者を探してフリーランスのパイロットに。キッド達は技術を生かしてジャンク屋を始めた。
ジャミルとサラはこの事件で解体され、新しく生まれ変わった連邦軍に赴き、和平交渉の手伝いをしている。
そしてガロードは、ティファを元に戻すため、その施設を探す旅に出た。サテライトキャノンを外したXXに乗って。銀像となったティファは、今もXXの内部に収納されている。あの戦闘以来、ガロードの頭にティファの声は聞こえない。だが、ガロードには自信があった。ティファを元に戻す自信が。その目的を達成するために、ガロードは今日もガンダムで荒野を行くのだった。