時の腕輪:第1話

作:月影悪夢


これはとある高校生、遠野志貴のとある出来事である。
志貴がいつもの学校からの帰路の途中でとても重そうな荷物を担いでいた老人が苦しそうに歩いていた。
流石に見ていられたくなってその老人を助けることにした。
「大丈夫ですか、荷物をお持ちしますよ」
「すまないのう、助かったわい・・・・わしの家はここからなら近くじゃ」
こうして無事に彼を家まで送り届けて荷物を手渡した。
「有り難う若いの・・・・おかげで助かったよ」
「いえ、それではこれで」
志貴がお辞儀して帰ろうとしたとき
「ちょっと待ちなさい、君のしている眼鏡は「魔眼殺しの眼鏡」ではないかね?」
そう聞かれて彼は少し驚いた表情を見せた。
志貴の両目はその昔、臨死体験がきっかけで「モノの死」を見ることの出来る『直死の魔眼』を得る。
しかし、脳に非常に重い負担をかけるのだ。
そんなある日世界に五人しかいない魔法使い「蒼崎青子」から「魔眼殺しの眼鏡」をもらってそれをかけることにより力を抑えているのだ。
「なぜそれを?」
「立ち話も辛いじゃろ・・・中で話そう」



こうしてその家の老人からお茶をご馳走になって話を進めた。
「お爺さん、魔術師なんですか」
「名もない無名の魔術師じゃがな・・・・しかしその眼鏡は魔術師の間では少々有名じゃからのう」
「へぇ・・・そうなんですか」
「普段は占い師をしとるんじゃが・・・お前さん吸血鬼と知りあっとるのか?」
「えっ・・・何で?」
「お前さんの体にそやつの力がわずかに残っておる・・・わしにとってこれ位は当たり前じゃ」
「凄いですね」
「それに、お主には女性関係でなにやら苦労しておらんか?」
「えっ・・・・何でそれを?」
「占い師じゃからのう・・・・ここであったのも何かの縁、話してみてはくれんか?」
彼の言葉につられて志貴は話し始めた。
真祖の吸血鬼「アルクェイド・ブリュンスタッド」
埋葬機関の「シエル」
妹の「遠野秋葉」
自分の家の使用人の「翡翠」と「琥珀」の姉妹
これらのことを話していたが途中から愚痴に近い会話になった。
「お主も苦労しているようじゃな」
「はい、愚痴を言ってしまったようですみません」
「話を聞いたところだと、お前さんにも問題はあると思うが・・・・」
「そ・・・そんな・・・」
そう言われて苦笑いするしかなかった。
「しかし、お主が苦労しているのう・・・よし、わしがプレゼントをやろう」
老人は押入れのタンスから小さな箱を持ってきた。
中を開けると腕時計の形をした腕輪のようなものだった。
「これは?」
「わしの遠いご先祖さまが作った・・・クロノスの腕輪と呼ばれるものじゃ」
「何ですか?」
「ギリシャ神話の時間の神クロノスの力を封じ込めて作ったものらしいが詳しくは不明じゃが時間を操る代物らしい・・・・お主にこれをやろう」
「いいんですか、もらっても」
「構わんよ、荷物を運んでもらったお礼もかねてな
使い方は腕にはめて念じればいいだけじゃ」



その後帰路についたがすっかり長居してしまったらしく少し暗くなってしまった。
「しまった・・・・かなり遅くなってしまったな、心配しているだろうな」
案の定門の前ではメイドの翡翠が出迎えに出ていて志貴は物陰に隠れていた。
「弱ったな・・・・このままだと秋葉になんていわれるか・・・」
妹の秋葉は怒ったときがとても怖く彼もそれがとても苦手であった。
そんな時腕につけた腕輪のことを思い出した。
「もし本当なら・・・・試してみよう」
目を瞑り時間が止まるように念じた。
するとあたりが静寂につつまれた。
周りを見るとカラスが空中で静止し風で舞っている落ち葉も固まっていた。
そして翡翠に近づいてみるとまったく反応しないどころか瞬きひとつしていない。
「翡翠・・・おい、翡翠」
頬を軽くたたいてみるがまったく反応しない。
「本当に時間が止まっているみたいだ・・・」
そして塀からよじ登り家の中へ入ることができた。
すると玄関では妹の秋葉が腕組して立っていたが
まったく反応していなかった。
「しかし、秋葉も黙っていれば可愛いのにな・・・」
秋葉の腕組をといて優しく抱きしめた。
そして優しく口付けをした。
「ごめんな、今日はこれで許してくれよ」
時間が止まった世界で妹は何も言わず人形のようだった。
そして髪をなでるともう一度口付けをして部屋へと戻ったのだった。


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