パックツアー

作:Shadow Man


『2泊3日ワールドカップ観戦ツアー 食事つき5万円ポッキリ!!  パックツアー株式会社』
 新聞に折り込まれていたチラシを見た優衣は姉の由里に早速それを伝えた。
「マジ!?それって変な詐欺会社とかじゃないよね?」
 それを聞いた末妹の奏は早速パソコンでその会社のことをググった。
「大丈夫みたい。ほら。」
「どれどれ?」
 由里はパソコンを覗き込んだ。いくつかの窓が開かれていて、そこにはその旅行会社を利用した人たちの
ブログや掲示板が載っていた。
『パックツアー最高!!』
『今までにない経験をさせてもらってありがとう!』
『値段にびっくりしたけど、納得しました。安全でいい方法だと思います。』
「へえ〜、結構評判いいのね。よし、ここを予約よ!」
 由里は即断して優衣に電話で旅行の予約をさせた。

「姉さん、ここに『3人まで1パックあり。要相談』ってあるけど、どうする?」
「それで、料金はどうなるの?」
「ええと、1パックなら一人につき1万円だけプラスになるんだって。」
「ということは、3人だと7万円!?」
 優衣は電話の向こうの担当者に尋ねると、その通りだと返事された。由里はそれを聞いて小躍りして、深く
考えずに1パックにすることを決断した。
「ええ、では1パックでお願いします。」
 こうして3人1パックのツアーを予約した。

――そして旅行当日――
「ご予約の3名様ですね。お待ちしておりました。」
 パックツアー社の社員と思われる女性が応対してきた。由里は早速その女性に荷物と旅行代金を渡した。
「では、こちらへどうぞ。」
 3人は女性に更衣室のようなところへ引導された。そこで筋肉系の女性が代わりに応対した。
「では、ここでこの服にお着替えください。」
「へ?着替え??」
 由里は素っ頓狂な声を出した。しかし応対の女性は眉毛一つ動かさず3人にタイツのようなものを渡した。
「どういうこと?私たちはこれから飛行機に乗って旅行に行くのに、こんなタイツみたいなものを着なくちゃ
いけないのよ!」
「そのためにこの服が必要なのです。別に何も着なくても結構ですが、おしゃれな服を着たままですと飛行機
から降りたときに困りますよ。」
 女性は食い下がる由里に低い声で答えた。由里は不満な表情を浮かべたが、所詮は安い旅行会社だと思って
我慢した。
「では、着替えが終わったらそこのボタンを押してお知らせください。」
 そう言って入ってきたところと反対側にあるボタンを指差した。

「一体、何でこんなものを着なくちゃいけないのよ!」
 女性が去って由里は不満を妹にぶつけた。
「別にいいじゃん。何があるのかワクワクしない?」
 優衣は明るく返事した。
「まったく、優衣は気楽ねえ。そう思わない、奏?」
「別に……それよりもお姉様と一緒にお着替えって久しぶりよね。」
 奏は顔を赤らめながら由里を向いた。由里はちょっと顔をひきつらせながら着替えた。
 そして着替えが終わると言われた通りボタンを押した。するとスピーカーからさっきの女性の声がした。
「では、3人ともそこの壇の上に乗ってください。」
 そう言われて3人は壇の上に乗った。その壇はあまり大きくなく、3人が乗るのがギリギリの大きさだった。
3人は何とかその壇に乗ると、再びスピーカーから声がした。
「では、そのままお待ちください。」
 そう言い終わるか終らないかするうちに天井から光が差し込んできた。
「お!?」
 光の柱にぶつかった優衣が声を上げた。その柱はただの光ではなく物理的に三姉妹を柱の中に閉じ込めていた。
それに気づいた優衣はパニックになって柱をたたき始めた。
「ちょっと、どうなってるの?ここから出してーー!」
 しかし何も反応がなかった。それどころかいつの間にか柱を叩いていた優衣を含めて三人の動きが止まっていき、
さらに3分ほどしたところで光は止まった。
 すると先ほどの筋肉質の女性が出てきて、3人が動かないことを確認すると彼女たちを持ち上げた。

――ど、どうなってるの!?ね、姉さん!!
 身動きが取れない状態で優衣は心の中で叫んだ。だが、その声はだれにも届くことはなかった。同じように
由里も奏も身動きができない状況で3人とも同じことを考えていたが、その思いは交わることがなかった。
 3人がまるでマネキンのように固まって焦っている一方で、女性は巨大なビニールのパックを持ち出してきた。
そして動かない由里を軽々と持ち上げると身を屈ませるようにして中に詰めた。
 さらに優衣も奏も同じように身体を曲げられて同じビニールパックの中にきつくぎゅうぎゅうと押し込められ、
3人を入れたビニールパックはピッチリと口を閉ざされた。さらに女性は掃除機でパックの中の空気を抜いて、
文字通り3人はひとまとめに真空パックされた形になった。
 そして女性はビニールパックを担ぐと、荷物と一緒に飛行機の貨物としてタグをつけた。その頃には同じように
パックに詰められた他の旅行客も貨物扱いをされてまとめられていた。
 それから暫くして3姉妹をはじめとした旅行客は飛行機の貨物室に運ばれ、飛行機は飛び立った。
――もしかして私たち、悪い人たちに騙されてこのままマネキン人形としてどこかの国に売られてしまうのかしら?
――私たち、どうなっちゃうの?誰か、だれか助けて……
――でも、お姉様と一緒ならこのままでも悪くないかも……
 由里と優衣は一体これからどうなるかを考えて不安になっていたが、奏だけはこの状況をむしろ喜んでいた。
しかし、そのうちに飛行機はワールドカップの開催地へと到着すると、現地の会社の人が貨物からパック詰めに
された人を次々とパックから出していった。

――あれれ?これって……
 パックの中で由里がその動きに気づいたときに3姉妹のところにも従業員が現れ、パックから3人を解放し、
簡単なテントのようなところへ運んだ。そしてその中に霧が吹き込まれると3姉妹はやがて動けるようになった。
「お疲れ様でした〜お荷物を用意しましたのでどうぞ、お着替えください。」
 テントの外から日本語で声がした。優衣はその声を聞いてもきょとんとしていたが、由里と奏は理解したとばかりに
テントから出て荷物を受け取るとさっさと着替えた。
「もう〜優衣、何をしているの?早く着替えてよ。」
 先に着替えた由里がまだ茫然としている優衣に着替えを渡しながら言った。
「姉さんは相変わらず鈍いですね。」
 奏もにやりと笑みを浮かべて言った。しかしまだ優衣は気がつかなかったので奏は紙に字で書いて説明した。
『(人間を)パック(して運ぶ)ツアー』
 それを見て優衣は腰砕けになりながら大笑いした。

 しかし彼女たちはホテルでも同じように真空パックされて、倉庫で夜を過ごすことになることまでは気がつかないのであった……

おしまい


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