喜んでくれるかな

作:サトキチ


舞と綾は仲良しで可愛い女の子。
今日も学校からの帰り道、赤いランドセル背負って楽しくお話中。
「あっ」
舞が声を上げる。
彼女らの目の前を見て見ると、大きな三角帽子とマントを着た人がいる。
帽子が大きくて、その人の顔が見えない。
だけど、多分女の人だろう。
若くはなさそうだ。
「ごめんなさい。ちょっといいですか?」
声からすると、やはり女の人だった。
舞たちは、見知らぬ人に話しかけられて少し警戒している。
そんな舞たちに、女の人は「怖がらなくていい」と言う。
その格好で怖がるなという方が難しい。
女の人は、さっきよりも優しい声で話しをする。
どうでもいい、雑談。
でも、少し話せば舞たちの緊張は解れる。
緊張が解れたところで、女の人は小さな棒を取り出して言う。
「チョコレートとクッキー。どっちのお菓子が好き?」
2人は少し悩む。
そして、
「チョコレート!」
「クッキー…かな?」
と、舞、綾は順番に答えた。
それを聞いて女の人は、
「そう」
と言って持っていた棒を振る。
その瞬間、三人の意識は闇に包まれた。



最初に目を覚ましたのは舞だった。
大きな空間。
体育館くらいの広さはあるかもしれない。
そことの違いは、左右上下全てがガラスという点だろう。
ペットショップの籠が近いかもしれない。
だが、舞が最初に感じたのはそれらではなく、寒さだった。
自分の肩に手を触れた時、気づく。
舞は、服を着ていない。
下着も着けてない。
つまり裸。
隣を見る。
綾がいた。
当然自分と同じく裸で、まだ寝ている。
彼女を起こそうと立ち上がった瞬間、地面が大きく揺れる。
地震?
思わず伏せようとする。
その時、上から何かが降りてくる。
大きい。
舞の倍以上はある。
それは肌色だった。
シワがあって五つの異なる長さの指。
手だ。
大きな、手だ。
悲鳴を上げて逃げる舞。
そんな舞をいとも簡単に捕まえる手。
舞を掴んだまま、その手は上へ消えていった。


手は、舞を籠からだすと銀色のボールの中に置く。
その手は、さらに大きなものに繋がっている。
巨大な三角帽子の女の人。
さっきまで一緒に話していた人だ。
笑っている。
そして、片手に茶色い液体。
それを舞の頭上まで移動させ、注ぎ込む。
もう片方の手で舞を押さえながら、注いでいく。
甘い香りに味。
分かる。
チョコレートだ。
チョコレートまみれになる舞。
やがて、舞の全身が冷たさと共に感覚がなくなってくる。
チョコレートが身体に染み込んでいるようにも感じられた。
冷たい中、巨大な手は舞の姿勢を無理矢理動かす。
足をしっかり伸ばし、両手を両側に綺麗に添える。
気をつけの姿勢だ。
時間がたち、舞を離す。
長い時間浸けられていたせいか、気をつけのまま動かない。
それを見て女の人は、笑いながら舞だった物を取り出す。
それは、舞の形をした茶色いチョコレートだった。
喋らず、動かない。
驚きの表情のまま、中まで綺麗にチョコレートになっていた。
舞チョコの完成だ。
女の人は、舞の周りの液体を拭きとる。
そして、近くに置いてあった箱を寄せる。
蓋を開けると、緩和材が敷いてある。
綺麗になった舞チョコをその上に乗せた。



籠の中の綾はまだ寝ている。
裸で仰向け。
すぅすぅと寝息を立てている。
まだ起きそうにない。
そんな綾に大きな手が降りてくる。
綾を掴んで持ち上げた。
綾はまだ起きない。


女の人は寝ている人形のような綾を取り出した。
そして、それを白い粉末の上に置く。
器用に綾の体を広げさせ、粉末を余すとこなく漬ける。
コロッケに衣をつけるように。
真っ白になった綾。
でも綺麗だ。
女の人は綾を丁寧に両手で掬う。
それをオーブンの中に入れた。
黒板の上に置いて、両手両足を綺麗にそろえる。
動かないから揃えやすい。
そして、蓋を閉める。
オーブンのスイッチを入れる。
その間、舞チョコが溶けないように冷蔵庫に入れた。


しばらくの間。
オーブンから香ばしい匂いが漂ってくる。
音が鳴る。
蓋を開けた。
黒板の上には美味しそうなクッキーが一つ。
目を閉じ、安らかそうな表情を浮かべている。
少し薄い焦げ目があって、綾の形をしていた。
綾クッキーの完成だ。
女の人は、鼻歌を歌いながら冷蔵庫から箱を出す。
舞チョコはキンキンに冷えて美味しそう。
逆に綾クッキーは出来たて、香ばしさ満点。
両方とも手のひらサイズでとってもコンパクト。
女の人は、2個のお菓子にリボンでラッピング。
それを丁寧に箱に入れる。
蓋を閉め、さらにラッピング。

「あの人喜んでくれるかな?」

女の人は、るんるんと部屋を出て行った。


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