秘密の温泉

作:鮭フレーク


>20XX年!
世界は、温泉ブームに包まれた!
日本、いや、世界中の温泉と言う温泉に、毎日、多数の女性達が現れるという凄い状況になっていたのだ!


しかし、それも過去の話。
全女性が温泉めぐりをするという異常事態に反応した大企業が、大量の温泉を作り出す。
が、大量の温泉が出来たその頃にはブームも終わり、結局大企業に作られた温泉の殆どが、大した客数を迎える事なく、閉鎖する事になったのだ。


だが、ブームの終着を生き残り、今だに儲かっている温泉があった。
都内某所にある「八王女風呂」は、そんな温泉の一つだと言えるだろう。



八王女風呂の特徴の一つに、文字通り「女性」…しかも、「20歳以下」しか入れないというものがある。
更にいうなれば、普段女風呂に入っても許される年齢の男児もダメというわけである。
完全女性向け。その一点に絞った経営理念がこの温泉の成功の一つだが、
もう一つ、この温泉が今まで生き残るに至った理由が存在した。


「それが、秘密温泉です!!」
何故かハイテンションな女性従業員が、説明をその叫び声で絞める。
その声に、今回遠足で来ていた、某私立の女子校のじど… いや、生徒達が、一瞬引く。
しかし、年齢的に好奇心旺盛な彼女達だ。
30人の女子生徒達の 「秘密温泉」に対する興味は、従業員の妙なテンションでは絶対に消え去らないだろう。

「リピーターさん向けの、一週間ずっと気持ち良さを感じる事が出来るスーパー温泉。
これが、わが八王女温泉の最大の魅力です!!
それでは、今日来てくださったロリっ子たちよ!存分に楽しむがいいです!!」
その言葉とともに、制服姿の30人が一斉に更衣室に走り出した。
そんな彼女達をしり目に、従業員が呟く。
「……まぁ、楽しい!と思うのは、ほんの一日だけかもしれませんがね…。」



:秘密1 更衣室。

秘密温泉の更衣室は、他の温泉とは切り離されてはいるが、それでも構造自体は変わらない。
「ねーねー、こころちゃん?」
既に全裸になっている、ツインテールの少女が、今からぱんつを脱ごうとしているポニーテールの少女に話しかける。
「何?えみりちゃん?」
「いや、……秘密温泉と言うからには、更衣室も最新機材満載かなぁと思ってたんだけど、案外普通ね?」
確かにと思いつつ、こころと呼ばれたポニーテール少女が、周りを見渡す。
「前来たところよりは広いけど、それだけだね?」

「…本当にそう思いますか?」
そんな2人の会話にに、まだ制服姿で、しかも眼鏡すら外していない少女が割り込む。
「わ! お 驚かさないでよ?夏帆ちゃん!」
「夏帆ちゃんじゃない!委員長でしょ!?」
いや、正直どちらでも良いと思いつつ、委員長がほほ笑む。
「……秘密の温泉なんだから、更衣室にも秘密があるに決まってるでしょう?
二人とも、案外視野が狭いんですから…。ふふ、算数の文章問題が苦手でしょう?」
図星であるためか、二人とも黙りこむ。
いつの間にか、自分たち以外のクラスメイトの姿が無くなっていた。
「で、でも!えみりは更衣室も特別だと思ってたもん!」
「そうです。 ここも特別だという、えみりさんの予想は間違っていません。
それがあそこにある。『個室』です。」
委員長が指をさした先には、…確かに、微妙に怪しい個室がある。
「あれ、シャワー室かと思ってた。
秘密温泉にはプールもあるから……。」
「まぁ、とにかく入ってみればわかりますよ。ふふふ♪」
ズレた眼鏡を上げながら、委員長が不気味な笑みを浮かべる。


3人はその個室の中に入っていった。
個室の中には……何もない。
因みに、えみりは全裸で、こころはぱんつ一丁だ。
「…服くらい着てくるべきだったかな?
ねぇ?えみりちゃん?」
こころが、ツインテールの少女に話しかける。
しかし、返事がない。
「聞こえなかったの?ねぇ?えみりちゃん!!」
今度は大声だ。 だが、それでもえみりは反応を示さない。
「無駄ですよ?」
代わりに反応したのは、委員長だった。
「…どういうこと?」
「足元をご覧になってください。」
こころは委員長の言うとおりにし、…刹那、声も出ない恐怖に襲われる。
なんと、自分の足もとが、凍り始めているのだ!
氷の中に、自分の足が入っているといった方が正しいか?
「…こころちゃんはもう、喋りも動きもしません。
何故なら……ふふ、既にカチンコチンに凍っているのですから……。」
そういう委員長の足も、氷の中に入っている。
しかし眼鏡の少女は、なぜか嬉しそうだ。
「…どういうこと?委員長!!」
「ここはいわゆる冷凍スパですね?
一週間、体が氷の中に入れられて……その間…ああ♪」
説明を途切れさせ、委員長が悦に入る。
彼女の体にまとわりつく氷は、既にスカートにまで手を出そうとしていた。
「……その間……どうなるの!?」
喜んでいる委員長とは対照的に、こころは恐怖の表情を浮かべている。
えみりはと言うと、軽い驚愕の表情だ。
どうやら、何か体に異変を感じた刹那、意識を失ったか、顔を動かす事もできなくなったのだろう。
「えみりちゃん!助けて!!えみりちゃん!!!」
動く事も出来ない友達に、助けを求めるこころ。
そんなこころの、特徴的なポニーテールが、ガシッと何者かに掴まれる。
「……ああ!だめ!! やっぱり気持ちいい……♪
私の体を、拘束して…冷やして……私、どうにかなっちゃいそう……♪」

離して!! と叫びながら、こころは委員長を振り払おうとする。
しかし、手が動かない。
「何……うそ!? 動けない!?」
今まで当たり前のように動いていた全身が、足もとから動かなくなっていく。
それに、冷たい、異常に冷たい!!
「……怖いのは最初だけですよ♪ まぁ、私は…その時は妹と抱き合ってたから、怖くも何もなかったのですが♪」
そんな事は聞いていない!!
「助けて!!! たす……け……!!」
首が冷たい!!
全身に鎧を着たかのようだ。実際に着たことはないけど、とにかく、そうとしか表現できない重みと冷たさ。
「……!!」
声が出なくなり、やがて視界も白くそまっていく。
だが、意識が落ちる、その一瞬前…こころの全身に、異常な感覚が走る。

(………)
それは、ちょっと前…えっちな本を見てしまった時に、「あそこ」を触っている時の感覚に、似ていた……。


氷に包まれた、3人の少女。
全裸で、驚いた表情のまま、直立不動になっているツインテールの少女。
パンツ一丁のまま、何かを叫んだまま固まっている、ポニーテールの少女。
そしてそんな彼女のポニーテールを掴んだまま、非常に嬉しそうに凍っている、眼鏡の少女。
彼女達が入った場所は、「冷凍マッサージ室」
体を凍らせて生命を維持させながら、一週間、癖になる快楽を与え続けるというもの。

その快楽はどちらかというと性的なもののため、本来は大人用なのだが…、
非常に怪しい個室のため、よく子供が迷い込んで凍らされてしまうらしい。




:秘密2 砂風呂

「お客様ですね!!」
先ほどのハイテンションな従業員が、喜んだ顔で少女達を迎え入れる。
お客様は一人、長い髪をタオルで纏めた、元気印の「るみほ」だった。

「いや、僕はその、プールの位置を聞きたくて……。」
彼女は水泳部に所属しており、シーズン以外でも良くプールに行く、「泳ぐのが大好き」という少女である。
その為か、全裸である今の状況でも、体を全く隠さずに、逆に髪の毛をまとめている状況だったりする。
「プールは、ここから右にいった突き当りにありますよ。」
あ、でも…と従業員が続けようとすると同時に、るみほが走りだそうとする。
「ありが――」

途切れた言葉は、感謝の言葉だったのだろう。
しかし、彼女は、走り出そうとしたその瞬間、静止してしまった。
まるで、時間が止まったかのように、動かなくなってしまったのだ……。
いや、それは例えではない。
「……ふぅ、説明くらい読んで欲しいものですね……。」
ここは「砂風呂」
……入ってから一定時間が経過した場合、その人間の時間が止まり……後は一週間の間、砂に埋まり続けるというコーナーだ。
本来なら寝転がり、足を上にあげて血液の流れを良くしたポーズで固まる筈なのだが……。

「……仕方ないですね。ここに来た以上、どうあがいても一週間止まりっぱなしです。」
溜息をつきながらも、従業員は、笑顔のまま走り出しているるみほのポーズを変える。
そして、体に付着する砂を、全身に塗られていく。
笑顔だけを露出させた後は……、ずっと、保管だ。
これで後4年の健康が約束される…と、専門家は言っている。
プール目当てで来たこの少女は、ここから先一週間、まったく体を動かすことなく、砂の中を泳ぎ続ける事になる……。



:秘密3 ジャングル風呂

ボブカットが魅力的な「ありな」という少女は、植物だらけのジャングルの中にあった「石像」に、興味津津だった。
何故ならその石像は、自分より先に入っていった友達にそっくりだからである。
「けど……。」
そっくりではあるが……、表情はゆったりとしている。
みつあみの少女は、眠るような表情で、湯船に肩まで浸かっている。
そういえば、この友達は前に一度、この秘密温泉に入った事があると言ってたような……。
「そうか!ここは石像を作ってくれる温泉なんだ!!」
ありなは、正直、夢見がちな一面がある。
故に、魔法少女や非科学的な事もすぐに信じてしまうのだ。
想像力が他人と比べ、かなりぶっ飛んでいる…ともいっていい。
「……でも、だとしたら佳奈ちゃんはどこだろう?」
佳奈というのは、みつあみの石像にそっくりな、彼女の友人である。
「ま、良いか、ここで待っていればすぐに来るでしょう。
にしてもそっくりだな〜……。」
ありなは温泉やジャングルよりも、その佳奈そっくりの石像の方に興味があるらしい。
「にひひ〜、毎朝頑張って編んでるもんね。」
精巧に作られたみつあみを掴みながら、石像に話しかけるありな。
刹那、
「あ……。」
非常に大きな音をたてて、みつあみが「折れて」しまう。
「ご!ごめん!! ……ても 本人じゃないのか?」

その刹那、ありなの小さな体を、大きな植物が飲み込んだ。
完全に石像に夢中だったありなは、一瞬にして赤くなった視界に、目を白黒させる。
「え……?」
それが、彼女が発する事の出来た、唯一の言葉だった。
大きな植物の中に入れられた少女の体が、重くなる。
そして全身から、石の割れるような音が大量に響き…… ありなは、状況が全く把握できないまま、意識を失う。
みつあみの石像を持ったまま驚いた少女は、その表情のまま硬くなっていく。
植物の中にある粘着質な液体に全身を包まれ、肌と肉が、石になっていくのだ!

あの佳奈に似た石像は、似ていて当たり前。
何故なら本物の「佳奈」が、石になった姿だからだ。
そして、そんな石像に、仲間が出来る。
植物が、ぺいっと、一人の少女を吐き出した。
しかしポーズが安定しておらず、彼女はそのまま湯船の方に倒れてしまう。

ここはジャングル風呂。
特殊な「石化」を体に施し、温泉に入った時の気持ち良さを常に体感できるお風呂だ。
しかし、その石化方法が大胆故に、入る前にぜひ、風呂の前に立て掛けてある看板を読んで欲しい。





一日目が終了した時、風呂の中に「動いている」生徒はいなかった。
更衣室の冷凍マッサージ。時間が止まる砂風呂。石化するジャングル風呂。
他にもたくさんの風呂が存在するが、その全ての風呂が、「一週間、動きを止める」という内容なのである!
しかし、30人の女子生徒全員は、いまだに温泉を満喫している。
ここは八王女温泉。

ここの秘密温泉の魅力は、一週間の間、「動けなく」される代わりに、その間快楽をずっと保障するという、
ものすごく画期的な温泉だったのだ。


……最も、その秘密温泉にもう一度行きたがる人間は、実はあまりいなかったりするのだが、それはまた、別の話と言う事で。


戻る