作:七月
幻想郷には知的で華麗なる戦闘ルールがある。
それが“スペルカードルール”だ。
弾幕ごっこと呼ばれるこのルールは、力の優劣の激しい幻想郷で誰もが平等に戦えるという斬新的な決闘法式であった。
だが、このルールは遊びとは言え命の危険を伴うものであった。
ナイフは当たれば刺さるし、魔法弾も当たり所が悪ければ命の保証は無いだろう。
そこで新たな特性がこのルールに追加されたのだ。
それは・・・
「行きなさい、戦操『ドールズウォー』!!」
少女の周りに何十体というほどの人形達が現れ、一様に剣を構えた。
その人形たちはくるくると回転しながら剣を振り回し、相対する少女へと一斉に襲い掛かった。
襲い来る刃たちに、少女はあくまで冷静な顔をしながら一枚の符を取り出し叫ぶ。
「なんの、霊符『夢想封印 散』!!」
少女が叫ぶと少女の周りには大量の札と陰陽球が出現した。
そして郡を成し飛翔する人形達を、出鱈目にばら撒かれた札と陰陽球が撃墜していく。
「く、やるわね。」
人形を操っていた金髪の少女が言う。
「ふん、こんなの朝飯前よ。・・・朝飯なんて最近食べれてないけどね!
貧乏で悪いかこんちくしょー!!」
対する札を操っていた、黒髪に赤いリボンが印象的な少女が逆切れしながら言った。
金髪の少女はアリス・マーガトロイド。そして、黒髪の少女は博麗霊夢だ。
二人は今、博麗神社の上空にてスペルカードルールに則った決闘の真最中である。
アリスが新しく何かを発明したとのことで、その試験対象として霊夢を決闘に誘ったのだ。
そして、決闘してくれたら御飯を一回分おごるという約束に霊夢はあっさりと食いついた。
「よし、じゃあそろそろ本番行くわよ。」
「さっさと来なさい。そしてとっとと飯を奢りやがれー!!!」
「はいはい・・試験中『ゴリアテ人形』!」
アリスが叫ぶとアリスの背後にボンッ、と音を立てて盛大に煙が吹き上がった。
そしてその中に巨大な影が見える。
煙が晴れて姿を現したそれは、いつものアリスが操る人形の姿をしていた。
だが大きさが桁違いだった。神社の屋根など軽く越えようかというほどの大きさだ。
「ゴリアテ人形・・・私の新しい発明、人形巨大化計画の第一歩よ。さて霊夢、存分に付き合ってもらうわ。」
アリスが手を前にかざすと同時に人形が動き出した。
それは大きさに似合わず俊敏なもので、一気に霊夢との距離をつけると両手に備えられた・・・こちらも優に数メートルはある剣を振り下ろした。
ビュン、と振られるそれを霊夢は寸でのところでかわす。
「あっぶないわね!死んだらどうするのよ!」
「あら、あのルールがあるから何があっても死ぬ事はないわよ。でしょう?」
「まあそうだけどね。」
そう言うと霊夢は一枚の符を取り出した。
「あんたには悪いけど即行で終わりにするわ。そして飯!飯!飯!」
「な!ちょっと!その符は・・・」
霊夢の周りに6つの陰陽球が浮かび、それが一つずつ薄紫の光を放っていく。
「あれはやばいわね。一気に行くわよ。」
ブンッと人形の刃が振るわれるが大振りの粗雑な一撃は霊夢にたやすくかわされた。
「くそっ、やっぱり精度が問題ね・・」
「さーて、いくわよーっ!」
霊夢の周りの陰陽球が全て輝きだした。
その輝きは次第に膨れ上がり、あたり一面を照らす。
「夢想天生!」
膨大な量の光が霊夢に集まり、そして勢い良く爆散した。
「きゃあああっ。」
アリスを襲うのは光の猛攻。
光の波が何重にも折り重なりアリスの体を包み込んで言った。
「ああっ・・」
アリスの悲鳴が途絶え、光に覆われたアリスは力なく落下していく。
霊夢の勝利だった。
「ふーっ・・・さーて、御飯♪御飯♪」
光を放ち終えた霊夢はすがすがしい表情で、先ほどの攻撃で地へ落下して行ったアリスの元へと向った。
しかし・・・
「げ・・・」
霊夢がそこで見たのは、苦しげな表情で地面に横たわっているアリスの石像だった。
夢想天生をくらった瞬間のまま固まってしまったアリス。
綺麗な金色の髪の、色鮮やかな衣装も灰色一色に染まっていた。
また、落下の衝撃で石になった服は所々かけており、そのつつしまやかな胸や、艶やかな太ももが露わになっていた。
「ちょっと!なに石になっちゃってるのよ!」
石になったアリスの肩をつかみがたがた揺らしながらアリスに詰め寄る霊夢。
だがアリスの見開かれた目は焦点を失っており、大きく開かれた口から声が発せられることは無かった。
霊夢がアリスの石像を揺らすたびに、衝撃でアリスの服がボロボロ壊れていくが、アリスは一切反応を見せる事も無い。
「スペルカードに新たに付け加えられたルール。それは弾幕に当たったら傷つくのでは無く固まってしまうということ。」
不意にアリスの石像に掴み掛かっていた霊夢の背後から声がした。
そこに立っていたのは白と黒の魔女服に身を包んだ少女、霧雨魔理沙だ。彼女は神社の縁側で二人の戦いを見学していたのだ。
「この前加わった新ルールだ。忘れてたのかよ、霊夢?」
「うう・・・」
霊夢はうな垂れながら悔しそうな声を出した。
そう、今のスペルカードルールには弾幕に被弾したら固め効果が発揮されるというものが加わったのだ。
実際今の霊夢たちが出す弾幕には何故か固め効果が付与されていた。
どういう風に固め効果を発揮させているのか霊夢たちには理解できてはいないが、きっと紫辺りが何か絡んでいるのだろう。
とにかくこれで死ぬ前に固まって事なきを得るため、弾幕ごっこで命を落とす人がいなくなったのは事実だ。
そして霊夢は完全に御飯に気をとられ、その事を失念していたのだった。
「ねえ・・・御飯奢ってくれるって言う約束はどうなったのよ!?」
「アリスが石になっちまってるんだから・・・無理だろ。」
「そんなあああああっ!?」
霊夢は再びアリスに掴み掛かり
「元に戻んなさい!そして飯を奢りなさい!」
がたがたアリスの石像を揺らしながら必死の表情で言った。
「元に戻るには一日掛かる・・・だろ?」
魔理沙も霊夢の行動によってどんどん服が壊れて肌が露出して行くアリスの石像をチラチラ見ながら言う。
やがて業を煮やした霊夢は
「一日も待ってられるかー!こうなったらアリスを食ってやるー!!」
「おいコラ待てや!私だってまだなのにそんなの許さな・・」
ガリッ
「固ーーーっ!?」
「当たり前だー!!」
「でもうまい!ガリガリ。」
「やめろー!!」
アリスの石像に噛り付く霊夢を必死で止めようとする魔理沙。
霊夢が空腹でへばるまで、それは続いた。
後日談・・・というか翌日
「はっ!?」
とアリスが目を覚ますとそこは見覚えのある部屋だった。
そこら中に散らかっている本やキノコ。
どうやら霧雨邸のようだ。
「そっか、負けちゃったんだっけ・・・」
と、昨日のことを思い出しすぐ横を見ると
「!?」
同じベッドに横になっている魔理沙がいた。それも裸だ。
そして良く見ると自分も裸のようだった。
「!????」
アリスがあたふたしていると、やがて魔理沙が目を覚ました。
「ん・・ああ、おはよ・・」
眠たげな目をこすりながら魔理沙が言った。
「魔理沙?これはどういうことかしら?」
そんな魔理沙を見てニコッと薄ら暗い笑顔を浮かべるアリスに対し
「えーっと・・な・・・」
頭をぽりぽり掻きながら魔理沙は言った。
「美味しくいただきました(^q^)」
ドゴォ
とアリスの蹴りが炸裂した。
その日、霧雨邸の窓を突き破り、一人の少女が星になったという。