作:七月
「というわけでエリスちゃんと朋子ちゃんにはヌードモデルになってもらいます。」
突然の竹内部長の言葉に鳳仙エリスとその親友の藤浪朋子はあっけにとられた。
私立撫子学園美術部。
数々の優秀な画家を輩出してきた学園の由緒ある部活である。
そして今、その美術部の活動拠点である美術室にてそのやり取りは行われていた。
「えっと・・・私と朋子ちゃんが・・・?」
そう言うのはエリスだ。
金髪碧眼の美少女。
日本人とフランス人のハーフの少女だ。
「私は美術部員じゃないんですが・・・」
と、言うのは朋子だ。
銀色の長い髪を後ろで大きなリボンでおさげ状にまとめていた。
やや目つきは悪いが根は優しい少女である。
「そう。ちょうどヌードデッサンのモデルを探しててね、
描くならやっぱりかわいい女の子じゃないといけないし・・・というわけであなたたちに頼みたいの。」
そう言うのは部長である。
「お願い!こんなのあなた達位にしか頼めそうにないの。」
そう言って部長は両手を合わせ、深く頭を垂れた。
「わ・・わかりました、部長がそこまで言うなら。」
「エリスちゃんがいいなら私も。」
「本当に!?ありがとう二人とも。」
こうしてエリスと朋子はヌードモデルをすることとなった。
「部長・・・ほんとにこのポーズでやるんですか?」
「なんというかこれは・・・」
台の上に並んで座っているエリスと朋子。
二人は身を寄せ合うようなポーズをとっていた。
お互いの肌が今にも触れ合いそうな距離。
両手はお互いの指を深く絡ませた恋人つなぎ。
とにかく恥ずかしいポーズだ。
まるで恋人同士がイケナイことをする前に取るような格好じゃないだろうか。
「あら、いやなの?」
部長は平然とした顔で二人に言う。
「いや・・じゃないですけど・・」
「私もエリスなら・・いいですけど・・・」
二人とも顔は真っ赤だ。
何にせよ恥ずかしいことには変わりない。
「うんうんいいわ。」
部長は意気揚々とデッサンの準備を進めている。
「それじゃあ始めましょうか。まずは・・【愛しあいなさい】」
ドクン
部長がそう言うと、エリスと朋子はお互いに対する愛しさが急激に上がってくるのが感じられた。
心臓の鼓動が早くなる。
目の前の少女を自分のものにしたくなる。
「エリスちゃん・・・」
「朋子ちゃん・・・」
お互いを愛しそうに見つめあい、やがてその唇を求め合う用に顔が近づいていく。
「よし次は・・・【動かないでね】」
ピキン
部長がそういった瞬間、エリスと朋子は奇妙な感覚を覚えた。
(何これ・・・体が・・)
(動かない・・・!?)
エリスと朋子の体は見つめあったまま、唇が触れ合う寸前のポーズで微動だにしなくなってしまった。
口を動かすことも出来なければ瞬きをすることも出来ない。
「ふふふ・・」
部長が不適に笑う。
「動かれるとデッサンする時に困るの。だから・・・」
そうねえ、と部長はしばらく考えた後に言った。
【石になってなさい】
ピキイ
変化は一瞬だった。
エリスと朋子は部長の言葉通り、石になってしまった。
柔らかそうな肌も固く変化し、人の温かみは失われ無機的な冷たさが二人から感じられる。
灰色一色に染まった二人は決して動くことはない。
美しい調度品になってしまった二人。
部長はそんな二人をゆっくりと鑑賞する。
「これでゆっくりデッサンできるわ。」
部長はそう言って石像になった二人のデッサンを始めた。
――――そして数時間後
「よし出来た。」
一枚の絵が完成した。
そこには目の前に先ほどと同じ格好で佇み続ける石像と同じものが描かれていた。
「タイトルは・・・『愛し合う少女たちの石像』でいいかしら。」
満足げな部長。
その視線は目の前のエリスと朋子に向いた。
「絵は描き終わったけど・・・元に戻すのも勿体無いわよね。」
エリスと朋子の石像は最早一つの芸術品といっても過言ではないほどの美しさだ。
「どうせ二人が石像になってる間は周りからも存在は忘れられているはずだし・・・やっぱり美しいものはきちんと保存しないとね。」
そう言って部長は二人の石像を美術倉庫へ運んでしまった。
かくしてエリスと朋子は部長が飽きるまで倉庫に石像として眠ることとなった・・・
・・・はずだった。
後日談・・・
誰かが倉庫においてあったエリスと朋子の石像の美しさに見ほれ、この石像をコンクールに出してしまった。
そしてエリスと朋子の石像はコンクールでも高く評価され、なんと賞をもらってしまい、結果としてこの撫子学園にしばらくの間、二人の石像が大々的に飾られてしまったのだ。
こうして二人が元に戻る日は先延ばしされてしまったとのことである・・・