作:七月
石化の森を抜け、氷の大地にて激闘を繰り広げているはずの私たちは・・・・
なぜか今、温泉に入っている。
「まさかこの氷原エリアに温泉があるなんてね。」
私、ティアナ・ランスターは温かい湯にゆったりとつかりながら言う。
「本当、とても体が温まるわね」
「ほかほかですね〜。」
フィーナと早苗も今はのんびりと身を休めている。
「私もこんなものがあるのは始めて知りました。」
そういうのは最近このエリアで知り合ったレイミだ。
「このエリアにいて初めて良かったと思いますよ。」
レイミも笑顔を浮かべて温泉を楽しんでいる。
「う〜ん、生き返る。」
私もついついそんな言葉が出てしまうほどにリラックスしていた。
そんな時、
「おおっ、こりゃいい湯だな。」
「本当生き返るわ。」
急に声がしたのでその方角を振り向くと金髪の少女が二人いた。
「って魔理沙にアリス!!何でここに!!」
そこにはかつて私たちを襲った少女達、魔理沙とアリスがいた。
そして二人は当たり前のように言い返してくる。
「だって番外編だもの。」
「だな。」
番外編ならしょうがない。
「いいじゃないか、温泉ぐらい皆で入っても。」
魔理沙が言う。
「まあ・・いいけど・・・」
私はなんか釈然としないながらもそう答えた。
「ふむ、こういうときは敵味方など忘れて楽しむのが一番だ。」
再び声のしたほうを向くと右目に黄金の邪眼をもった少女がいた。
この少女、どこかで見たような気がするのだが・・・
「ああ、申し遅れたな。私はアルドラ、【女王】と呼ばれている。」
「ここでネタばらししやがった!
って言うかあんた敵でしょう!!どうしてここにいるのよ!?」
「まあ番外編だしな。」
番外編ならしょうがない。
「というかそもそも私の正体なんてもうとっくに皆気づいているだろう。いまさらだ。」
「うう・・頭が痛くなってきた。」
「まあまあティア、今日くらい楽に行きましょうよ。」
「ありがとうフィーナ、励ましてくれて・・・」
「そうそう、難しいことは考えないの。」
振り向くと遠坂凛がいた。
「何であんたがここに!?
あんた確か石化されてるはずでしょ!?
ちゃんと間章に『凛の最後の姿だった』とか書かれてたじゃない!!」
「まあ・・・番外編だしねえ・・」
番外編ならしょうがない。
「うう・・もうこれ以上は増えないでよ・・・」
「大丈夫、私たちで最後だよ。ね、フェイトちゃん。」
「うん、なのは。」
なのはさんとフェイトさんがいた。
「こんな時だけ復活しないでください!!」
「いいじゃない番外編だし。」
「ね。」
番外編ならしょうがない。
「もういいです・・・」
私あきらめて温泉を楽しむことにした。
十数分後、
「ふう、そろそろ出るわ。」
そう言って凛が立ち上がった。
「あらもうでるの?」
私は凛に向って言う。
「ええ、もう十分あったまったわ。」
そう言いながら凛が温泉の外に出た瞬間。
ひゅーーー
ピキッ、パキッ
「えっ!?」
急に凛の足が凍りついた。
そしてピキピキと音を立て、足から腰、胸、両腕と凍りついていく。
「な・・なにっ!?」
やがてその顔も氷に覆われ始める。
「うそ・・そん・・な・・・」
パキィ
と音を立てて、凛は氷像となってしまった。
――――――――残り9人
「っ!!」
私たちは戦慄した。
一体何が起きたのだ。
「ふむ・・・」
アルドラが冷静に語りだす。
「考えてみれば当たり前か。
この温泉の外は絶対零度の世界。
ただでさえ寒いのにこんな濡れた体で出ようものなら・・・」
アルドラは氷像となった凛を見る。
「まあ・・・ああなるな。」
「「「「「「「「えーーーーーーっ」」」」」」」」
「はっはっは。つまりのぼせたものから脱落だな。」
「なに笑いながら言ってるのよ!!
あんただって氷像になるのかもしれないのよ!!」
「ああそのとおりだ、そして私はもう限界だ。」
「早いーーーーーーーーっ!」
バシャンと水しぶきをたてアルドラが立ち上がる。
「ふふ・・・またどこか出会おう。」
「【女王】ーーーーーーーーっ!」
やがてアルドラが温泉の外に出る。
そこに容赦なく冷気が襲い掛かった、
「くっ・・・」
【女王】であろうと凍てつく冷気には勝てはしない。
アルドラの体に氷の粒子がまとわりついていく。
「あ・・・が・・・」
微細な氷の粒子はアルドラの四肢を瞬く間に青白く包み込んでいった。
氷の侵食は顔にもおよび、その右目の邪眼をも凍結させた。
パキィン
アルドラは凍結してしまった。
そこには【女王】の氷像が残された。
――――――――残り8人
「くっ・・」
私は理解した。
これは本当にまずい状況だ。
私はアルドラの氷像を見て思った。
温泉にのぼせたものから脱落し、外に出た瞬間氷像にされてしまう。
これぞ生き残りをかけた闘い。
これぞカタメルロワイヤル。
そんなことを考えていると
「もうだめれしゅ!」
早苗が立ち上がってしまった。
「まって早苗!外に出ると・・・」
「ティアさん、私・・・」
早苗が私のほうをむいて言う。
「生きて帰ったらガンガンに暖房の効いた部屋で毛布に包まれてきりたんぽ食べるんです!」
「想像するだけで暑苦しい死亡フラグを立てていくなーーーーーーっ!!」
早苗が温泉の外に出る。
ビュウ
っと、一際強い風が吹いた。
「あっ・・」
パキンッ
と音を立て早苗の体は一瞬で霜に覆われ、早苗は青白い氷のオブジェと化してしまった。
早苗はほとんど棒立ちで、ぽかんとした表情で氷像となっている。
早苗は最早、ピクリとも動くことはない。
――――――――残り7人
「くそっ・・・早苗が・・・フィーナとレイミは!?」
「私はまだ大丈夫よ」
「・・・・・」
「レイミ?・・・・ってああっ!完全にのぼせてる!!」
そこにはすでにぐったりとしているレイミがいた。
すでに目がうつろだ。
「このままレイミを温泉に入れるのは危険よ。ティア。」
「ぐう・・仕方ない・・・」
「「そぉい!!」」
私とフィーナはレイミを抱きかかえると温泉の外に放り投げた。
すると
ビュオウ
パキパキィ
すさまじい冷気が、放り投げられたレイミを空中で瞬く間に凍結してしまった。
ドサッとその場に落ちるレイミの氷像。
レイミまるで眠るように氷像と化し、雪の上に横たわっていた。
――――――――残り6人
「ゴメン、レイミ。」
私はレイミに謝った。
そして次に
バシャンと水に何かが落ちる音がする。
「おい!アリス!」
「くっ・・・」
見ればアリスが限界のようだった。
最早意識が朦朧としているようだ、
「くそっ、今助けるぞアリス。」
魔理沙がそんなアリスを抱きかかえ、温泉の外に出ようとする。
「バカっあんたも氷像になるわよ。」
「うるせえ、アリスをほっとけるか!」
いや、結局アリスも氷像になっちゃうぞーといったところで聞きそうにない。
魔理沙もすでに結構キテルようだ。
「魔・・・・理沙・・・」
「大丈夫だアリス、私がついてる。」
「ありがとう・・・魔理沙・・・」
魔理沙に抱きかかえられたアリスはその腕を魔理沙の首の後ろに回す。
そしてお互い見つめあったままその唇が近づいて・・・
ビュオオオ
パキパキパキパキンッ
魔理沙とアリスは凍結してしまった。
――――――――残り4人
二人は氷に包まれたことにより青白く濁ってしまった目で見つめあい、抱き合いながら氷像となっている。
その唇は今にも触れ合いそうなところで止まっていた。
「やばい!なんか見てるとこっちが恥ずかしくなってくる!」
私はこれ以上体が火照らぬよう、魔理沙とアリスから視線をはずす。
するとフィーナと目線があった。
「ねえティア。」
「なに?フィーナ・・・?」
なんだろうなんだかいやな予感がする。
「人肌って温かいのよね?」
「うんまあ・・・」
えーと・・・これはまさか・・・
「二人で温めあいながら出れば凍らなくてすむんじゃないかしら?」
「フィーナあああああああああああ」
最後の希望のフィーナも壊れてしまった。
見ればすでにフィーナの顔にはかなりの赤みがさしている。
「でもやってみないと・・・」
「無理!絶対無理!」
私は何とかフィーナを正気に戻そうとする。
しかし、
「じゃあ私たちがやってみるわ。」
「うん、なのは」
なのはさんとフェイトさんが立ち上がってしまった。
しまった、こっちもすでに壊れているらしい。
「ちょっとなのはさん!フェイトさん!」
「なのは・・・・」
「フェイトちゃん・・・」
私の声も届かず、二人はお互いを固く抱きしめあいながら温泉の外に出てしまった。
そして・・・
ひゅおおおお
パキン
と音を立てて当然のことながら二人は凍りついてしまう。
二人はお互いの体を抱き合い、深く密着させたまま凍結してしまった。
――――――――残り2人
残ったのはついに私とフィーナだけだ。
そして・・・
「ティア・・・」
フィーナが覚悟を決めた顔で私に語りかける。
「私はもう駄目。あなた駄目でも生き延びて・・・」
そういってフィーナは温泉の外に出て行く。
「待って、フィーナ!」
「さようなら」
フィーナの体が極寒の風に晒される。
「ああああっ」
フィーナの体に容赦なく冷気が降り注ぐ。
そして、その美しい肢体を氷へと変えていった。
やがて風にたなびくフィーナの輝くような髪も凍りつき、動きを止める。
「ティ・・・ア・・・」
最後に私の名前を呼び、フィーナの声が途切れた。
ピキピキピキッ
氷の侵食はフィーナの喉に、頬に、耳に進む。
最後にそのキレイな目も氷に包まれて焦点を失った。
パキンと音を立てて、フィーナの全てが氷に包まれた。
そして、フィーナの氷像が完成した。
こんな時にまで彼女は美しかった。
――――――――残り1人
「くそっ!」
残ったのは私だけだ。
氷像になってしまった仲間のためにも、こうなったらなんとしてでも生き残って・・・
と思ったところで私はあることに気づく。
「なんだか温泉がぬるく・・・」
いや、どんどん冷たくなってきている。
「やばい!」
と思ったときには遅かった。あっという間に温泉が凍りつき、私の下半身は氷に捉えられてしまった。
「そんな・・・」
私は絶望に襲われた。
そんな私にも冷気は容赦なく吹きつけられる。
「あ・・ああ・・・」
パキパキと音を立て、私の体が凍結していく。
私の体が氷の像になっていくのが分かる。
私の上半身は徐々に氷に覆われ、冷たくなっていった。
やがて胸まで凍り付いてしまい、私は最後の力を振り絞り、助けを求めるように手をのばした。
もちろんそれを掴んでくれる者などいない。
伸ばした手はそのまま凍り付いてしまう。
「みんな・・・ごめ・・ん・・・」
やがて私の口も凍りつき、動かせなくなってしまった。
最後に私の瞳は氷に包まれ焦点を失い、それと共に私の意識も凍結した。
私は、ただの氷の像になってしまった。
――――――――全滅
やがて温泉を襲っていた吹雪がやむと、辺りには陽光が差し込んだ。
そして、その陽光を受けて光り輝く氷像たちがそこには鎮座していた。
ただポカンとたっている少女の氷像。
身を寄せ合うように凍結してしまった少女の氷像。
様々な氷像が、温泉だったものの周りに立っていた。
そして、唯一最後まで温泉に残っていた少女は、温泉のお湯ごと凍り付いてしまっていた。
上半身だけをあらわにし、誰かに助けを求めるような形で凍結していた。
やがて空に再び雲がかかり、ちらちらと雪が降り始めた。
降り出した雪はゆっくりと氷像と貸した少女たちへと降り積もっていく。
この絶対零度の世界の中、凍結してしまった彼女達は救われることはないだろう。
彼女達はこの氷原に、ただの氷のオブジェとして存在し続けるのだ。
そう、永遠に・・・
ティアナの氷像:(え?私たち全滅しちゃったんだけど・・・)
フィーナの氷像:(まあ番外編だしいいんじゃないかしら?)
早苗の氷像:(番外編ならしょうがない。)
レイミの氷像:(まあ番外編ですし良いのかと・・・)
ティアナの氷像:(全然よくなーい!)
皆様も、雪山で温泉に入る時は気をつけましょう
〜おわり