カタメルロワイヤル第18話「X」

作:七月


「運営者……?」
 突然目の前に姿を現した二人に、早苗と魅音は身構えた。
 なぜなら、彼女達の名乗る『運営者』というものがそのままの意味だったとしたら……
「つまり、あなたたちがこのゲームを取り仕切っているという事ですか?」
 早苗は問う。
「まあそうなるな」
 と【女王】は答えた。
「余たちが『カタメルロワイヤル』の運営、管理、それらを一手に引き受けている存在だ」
「カタメルロワイヤル?」
「このゲームの名前だよ。この世界に呼ばれた美少女達が、己の存在をかけて互いに固めあう……なんとも楽しい祭りではないか」
 心底楽しそうな笑みを浮かべて【女王】は笑った。
(ああ)
 早苗は思う。
 この人たちが、私たちにこのくだらないゲームを強いる元凶なんだ。
 この人たちのせいで、ティアさんが、レイミさんが悲しい思いをし、そしてフィーナさんが……
 ぐっ、と自然と握り締めてしまっていた早苗の拳に力が入った。
「っていうことはさ」
 と、ここで今まで黙って成り行きを見ていた魅音が口を開いた。
「例えば今ここであんたらを倒せば、このゲームを終わらせられたりするのかね」
 その声にはいくらかの怒気が含まれている。
 そうだ、魅音さんも妹を失ったのだ。その怒りをこの大元の存在に向けているのだ。
「残念だが、ここで余たちを倒したとしてもゲームは終わらんよ。余たちは十人体制だからな。ここで余たちを倒したとしても残りの運営者がゲームを続行させる」
「なるほど。ぐわあ、我を倒したところで第2第3の魔王が……という奴ですね!」
「何だそれは」
 【女王】は話を続ける。
「それに余たちはあくまで【運営者】だ。この用意された世界を管理しているに過ぎない。いわば傀儡だな。いったい誰が、どのような意図でこのような世界のシステムを作ったかは余たちも知らん」
「ええ、私たちも気付けばこの世界に居て、【運営者】という役割を与えられていました。あなたたちと同じ、別の世界からやって来たのですよ。ただ、あなたたちとは役目が違っただけ。管理する側とされる側……とですね」
 【淑女】も言った。
「ですからここで私たちとやりあうのはあなた方にとっては何のプラスにも働きませんよ。それどころか、ここからでる方法すら分からなくなりますよ」
「その通りだ。貴様たち、今ここはどこだか分かるか?」
 【女王】が早苗と魅音に聞いた。
「えっと……そりゃあこんな暗くて狭いですし……」
「氷原エリアから穴に落っこちてこんなところに来たんだから……地下エリアかなんかじゃないのかい?」
「まあその認識で間違っては居ない。だがな、ここから重要なんだが……」
【女王】は言う。
「地下エリアなどは本来存在しない」
「え?」
 と、早苗と魅音は驚きの表情を浮かべた。
「それじゃあここは何なのさ?」
 魅音の問に女王は腕を組んで
「ここはこのASFR空間に無理やり追加されて創られたエリア……」
 答える。
「いわば、禁域エリアだ」


          *


 禁域エリア。本来ただの地面でしかなかった地下に急遽追加で創造されたエリア。
 一体どういう原理でそんな空間創造などがなされているのか、早苗や魅音には分からない。
 だが、そんなことが出来てしまうのだという事実に少々の戦慄を覚えた。
「今現在、このエリアのせいで、この世界は危機に瀕しているのだ」
 【女王】は語る。
「危機……ってなんですか?」
 対する早苗の質問に【淑女】が口を開いた。
「例えば一つの風船を思い浮かべてください。今、その風船の中は『この世界』という空気で目一杯に満たされています。一分の隙も無くです。さて、そんなパンパンに膨らんだ風船の中に新しく『このエリア』という空気が吹き込まれてしまいました。さて、風船はどうなってしまうでしょう?」
「ま、破裂するだろうね」
 パァンってね。と魅音は手左右にを広げた。
「その通りです。まあいきなりこの世界自体が破裂してなくなるという事はありませんが……このままでは危険です。今のところはまだ耐えられてはいますが、何時この世界に綻びが出来ても不思議ではありません。今も尚、この世界を圧迫し続ける要因は増え続けているのですから……」
「その要因って?」
 なんですか? と早苗が首をかしげた。
「先ほどあなたたちが戦ったでしょう? さて、よく思い出してください。あなたたちがこのゲームの参加者として選ばれた理由を……」
「理由って……」
 魅音が顎に手を当て、思案していると
「美少女であることですよね。言わせんな恥ずかしい!」
 早苗がクネクネしながら言った。
「「「…………(3人の冷たい目線)」」」
「まあとにかく、そう言うことです。では、先ほどあなたたちが戦ったのは?」
「なるほど、確かにさっきおじさんたちが戦ったのは「男の娘」だったね。本来この世界に居ないはずの……ね」
「確かにちゃんと生えてました!」
「何がさ!?」
「言わせんな恥ずかしい!」
「……話を先に進めますね。そうです。つまりここには自分に都合に良い世界を作り、さらには本来存在しない存在を次々と引き入れているの者がいるのです」
「まあ、どうもうまく引き入れられてはいないようだがな。引き入れたのは良いが、中身が破綻してしまっているようだ」
 早苗と魅音は思い出す。先ほどのまるで意思のない人形のようだった敵を。
「いくら失敗しているとはいえ、その存在がこの世界をさらに圧迫し続けているのは変わりません。なので、私たちはそれを正しに来たのです。このエリアを……そしてこのエリアを創り、世界を圧迫し続けている張本人を消す事によって」
 【淑女】の目が鋭くなる。その美しい顔に浮かんだ人外を思わせるような目つきに早苗と魅音は気おされた。
「こらこら、【淑女】よ、顔が怖くなっているぞ」
「ふん、あなただって常日頃から目つきは悪いではありませんか」
「余はまだ若いから問題は無い。お前は年だから結構きついぞ」
「ぐぎぎ……」
 何時の間にか【女王】と【淑女】がにらみ合う展開になっていた。
「はあ、とにかくこのエリアの黒幕とやらを倒す手伝いをおじさんたちにしろってこと?」
 ため息混じりに魅音が言う。
「そう言うことだ。まあどのみちそいつを倒さねばこのエリアからは脱出できんがな。さて、どうする?」
「どうするって……」
 魅音は早苗と顔を見合わせ
「選択肢なんてないようなものじゃないか」
「もちろん手伝いますよ。ただ……」
「ん? なんだ?」
「報酬として何かください」
「ほう……」
 と【女王】は面白そうに口の端を吊り上げた。
「報酬として、一つお願いを聞いて欲しいです」
「なんだ、言ってみよ?」
 早苗は言う。
「仲間を一人、助けたいんです」
 はっきりと、力強く言った。
 それを聞いた【女王】はにやりと笑い
「ほう……」
 そして、興味深そうに早苗の言葉に耳を傾ける。
「あなたたちは【運営者】ですよね。万能薬争奪戦なんか開けるくらいですから、固まった人を元に戻すくらいできるんじゃないですか?」
 早苗はじっと【女王】を見つめた。
「だからお願いします。あなたたちを手伝いますから……その力を私に分けてください」
「……確かにな。一人や二人、固まった子を元に戻すの位は分けないだろう。だが……断る」
「そんな……!」
「我々はできる限りゲームに関わらないのが鉄則だ(無視しているやつらも結構いるが)我々を手伝ってくれるのならそれくらいはしてやっても良いかとは思う。だが、今回その件に関しては我々は関与できん」
「……っ!」
 早苗は歯をかみ締めた。すると、わなわな震える早苗の肩に手が置かれた。
「落ち着きな、早苗」
 魅音だ。
「コイツは別に悪いこと言っているわけじゃあないよ」
「え?」
 魅音は一歩前に踏み出し、【女王】に向き合うと
「あんたは今、できる限り関与は避けたいと言ったね」
「ああ」
「つまり、今回の早苗が言った件はあんたらが関与するまでも無いってことかい?」
「……さあな、想像に任せよう」
「??」
 早苗は相変わらず事態を飲み込めてはいない。
「ま、気にしなくて良いよ。そのうち分かるだろ。さて【女王】さんと【淑女】さんとやら。おじさんたちは具体的に何をしたら良いんだい?」
「そうですね。私たちはこれからその黒幕の相手をします。あなたたちはその間にこの世界を形成している『核』を破壊して欲しいのです」
「『核』って……黒幕倒すだけじゃ駄目なのかい?」
「ああ、この世界を維持しているのはその黒幕自信の力ではなく、その『核』の影響だからな」
「とにかく、私たちはその『核』を破壊すれば良いんですね」
「ああ頼んだ。報酬にジュースを奢ってやろう」
「そんなのいりません。早く行きましょう」
ぷいっ、とそっぽを向く早苗をやれやれといった表情で【女王】は眺めていた。


          *


「この先に奴はいる」
【女王】の言葉が薄暗闇に木霊する
 今、早苗たちが歩いているのは、うすくらい廊下だ。先ほどのまでの洞窟のような概観とは一変、どこか研究所のような機械が雑多に立ち並ぶ風景へと変わっていた。
 事実、今早苗たちが歩いている両側には大きなカプセルが立ち並び、その中には人の形をしたどろどろの蝋人形が立ち並んでいる。
「やっぱりツいているんですね……」
「こら、じろじろ見ないの」
 ぺしっ、と魅音に頭を叩かれながら道を進んでいく。そして
「着きましたわ」
 早苗たちが着いた場所。そこは体育館のように開けた場所だ。そして、その中心には一人の人物がいた。
「あはは。こんにちはーお姉ちゃんたち」
 そこにいたのは小柄な少女だ。
 白いワンピース、黄緑色の神は後ろで小さく結ばれている。
 齢は5歳くらいだろうか。まだまだあどけない、幼い少女だった。
「気をつけろ、あいつが【X】(アンノウン)……我らと同じ運営者の一人だ」
 【女王】と【淑女】の顔つきが険しくなった。明確な敵意。それはまっすぐに目の前の少女へと注がれている。
「あの子の相手は私たちがします。あなたたちは彼女を突破して……」
 淑女の目線の先は
「あの後ろのドアから『核』に向かってください。」
 部屋の先、【X】の背後。そこにあるのは一つの扉だ。
「分かりました」
「任せといて!」
 きっとあの扉の先に、この世界を構成している『核』とやらがあるのだろう。
 早苗と魅音はいつでも駆け出せるように身構えた。
「さてと、それでは……」
 【女王】が大剣を大きく振りかざし
「行くとしよう」
 力任せに振り下ろした。
 ドッ、と破砕音をたてながら剣撃が衝撃波となって、【X】へと走った。
 早苗と魅音はそれと同時に走り出し、【X】の背後の扉へと向う。
「あは♪」
 ズガアッ
 と、衝撃が【X】を包み込んだ。
 それは巨大な爆音を立て、地面を陥没させ砂煙を巻き起こした。
「うわあ……これ死んだんじゃないですか?」
「さあね、でもこれくらいで死ぬようじゃ、おじさん達に助けなんて求めてこないと思うけどね」
 走る二人は【X】のいた地点の横を通り抜けると扉の前に辿り着いた。そこで一度【X】のいた地点を振り返る。すると
「…………ほええ……」
「これは……」
 二人の視線の先、濛濛と立ち上る煙の中から現れたのは
「あはは♪」
 陥没した地面の中心に全くの無傷で立っている【X】の姿だった。
「何をしている、早く行け!」
 【女王】の叱咤が飛んだ。
 魅音は瞬時にドアのスイッチを押し、扉を開けると早苗とともにその中へと駆けこんでいった。
 扉が閉まる。
「アレを食らって無傷って……なんなんだ、あいつは」
「うーん、とにかく係わり合いにはなりたくありませんね。どなたなんでしょう……」
「さあね、ただ今後係わり合いになりたくない事だけは同意するよ……。さて、進もうか」
 この扉の向こうにいたのは人の皮を被った魔物だ。そんな印象に背をひやりと撫でなれながら、魅音は通路を進んでいった。



「あははは♪ 相変わらず乱暴だね、お姉ちゃん」
 その顔に溢れんばかりの笑みを浮かべ、【X】は言った。
 それは子供っぽい、あどけないものではあったが、その笑顔の奥に感じられたのは底知れない闇だ。
「お前も相変わらず好き放題だな【X】。いや、最早貴様は余たちの仲間とは呼べんからな、本来の名で呼ばせてもらおう……炎蝋よ」
 無機物生命体アンノウン。その名の通り意思を持った無機物の怪物だ。アンノウンは固体、液体、その形状は様々ではあるが、その中心にコアと呼ばれる心臓のようなものを持っている。
炎蝋もそのアンノウンの一人であり、蝋のアンノウンだ。その体の全ては蝋で出来ており、自在に蝋を操る……それが炎蝋、運営者の一人【X】だ。
「どうしてこんな事をしたんですの? こんな世界を勝手に構築し、さらには追加の参加者まで引き込んで……参加者が100人が限界なのには理由があるのをあなたも知っているでしょう?」
「むー、おばちゃんうるさい」
「お……おば!?」
 ぴくぴく……と【淑女】の額に青筋が浮かんだ。
「そんなの関係ないのー。私は私のやりたいようにやるだけなのー。もっともーっと可愛いお兄ちゃん達をこの世界によんでドロドロに固めてやるんだから」
「お……おば……おば……っ!!」
 わなわなと【淑女】の体が震えていた。
 【女王】はその様子をあきれた様子で見ると
「落ち着け【淑女】よ。子供の戯言だ」
「ふ……ふふ……そうですわよね。私とした事が……」
 ヌウッ、と淑女の体が変化を始めた。肌が青く、そして頭部に白い貝殻が生えていく。
「ですが……カ・チ・ンと来ましたわァ……」
 駄目だこれ、と【女王】も再び剣を構えなおし臨戦態勢を取った。
「さて、連れもいきり立ってしまった事だし、そろそろ始めさせてもらおう。貴様と会話は成り立ちはしなさそうだしな」
「むー、お姉ちゃんは乱暴だなあ。まあいいや、遊んであげるよ。でも……」
 【X】が高々と手を掲げた。すると、【X】の両隣に2つのカプセルが現れた。
「まずはお兄ちゃんたちが相手だよ。」
 そしてカプセルが開き、中から3人の人物が姿を現した。
 一方のカプセルからは長いブロンドの髪にどこか上品な制服に身を包んだお淑やかそうな少女。そしてもう一方のカプセルからは茶色く短い髪に、こちらはあまり飾り気の無い女子制服に身を包んだ瓜二つの双子の少女だった。
「さあ、瑞穂お姉さま(男です)、秀吉お姉ちゃんと優子お姉ちゃん(一人男です)。やっちゃってよ!」
 【X】の、命令を受け、3人はゆっくりと歩を進めた。その目は、やはり人形のように空ろだ。
 動きも機械のように単調な無機的なもので、彼ら(彼女たち?)は心の抜け落ちた、ただのくぐつなのだと改めて思い知らされるようだった。
「だが侮るなよ。こいつは出来るぞ」
 瑞穂を視線に捉え、【女王】言う。
「ええ分かっていますわ。こちらのそっくりさんたちは私が受け持ちます」
 と、【淑女】秀吉&優子姉弟を視線に捕らえた。
 そして、攻撃の態勢に入る。【女王】は剣を構え、【淑女】は全身の貝を開く。
 対する瑞穂は細長い長剣を、秀吉は長刀、優子はランスを構えた。
「来るぞ」
「ええ」
 瑞穂たちが【女王】と【淑女】に飛びかかる。
 その瞬間
「なーんちゃって♪」
 ドバアッ
 と、3人が背後からの大量の蝋に包まれた。
「なっ!?」
 今まさに3人と相対しようとした【女王】の顔に驚きの表情が浮かぶ。
 【X】が、自分がけしかけた3人を自分自身の手で攻撃したのだ。
ドロドロとした蝋は瑞穂、秀吉、優子の体を原型が分からなくなるほどに包んでいた。
 無理やりこの世界に呼ばれたせいで心が欠落しているとは言え、苦しいものは苦しいのだろう。蝋の塊の中でうごめく顔や四肢が時たま見れた。
「あっはははは♪ バーカバーカ、せっかくのお兄ちゃん達をお姉ちゃん達みたいな下品な固められ方で固められちゃあたまらないよ。お兄ちゃん達はこうやってドロドロの蝋でドロッドロ! に固めてあげないと。」
 ねー。と満面の笑みを浮かべながら【X】は瑞穂たちに放った蝋を再びその体に吸収していった。その結果瑞穂たちを包んでいた蝋の塊は消え、後には全身ドロドロの蝋で覆われた瑞穂、秀吉、優子の姿が地面に転がっていた。
 見開かれた目も、大きく開かれた口内にも蝋は張り付いている。
 悶え、足掻き……無様な格好で蝋の塊と化した瑞穂たちの表面には、つい先ほどまで流動していた名残の凹凸がくっきりと残っている。だが、それすらも空気に触れ固まっており、最早瑞穂たちを包んでいる蝋は決して彼らに身動きを許す事は無い。
「あはは、瑞穂お姉さまキレー。」
 そんな瑞穂に【X】が身を摺り寄せる。
「秀吉お兄ちゃんも……かわいい。」
 秀吉の頬にも【X】はその舌を這わせ、蝋の質感を味わっていた。
「さすがは……【X】といったところですわね……」
「ああ……」
 【女王】と【淑女】はその様子を額に汗を浮かべながら見ていた。
 脅威は戦闘の実力云々ではない。
 圧倒的なまでの逸脱。全てが規定外。
 それこそが運営者の一人――――【X】。
「さあて、お兄ちゃん達も固めた事だしー」
 くるり、と【X】が【女王】たちのほうを向いた。
「私の部屋に入ってきたモノのお方付けはきちんとしないと駄目なのー。ううん、もう手遅れだし別にお姉ちゃんたちなんかいらないよね? 固めて溶かしてリサイクル♪ お兄ちゃん達を飾る台座くらいには利用してあげる。……あは♪」
 ズオッ、と【X】から強烈な気迫が放たれる。
 まるでその小さな体に海の水が限界以上に溜め込まれたような。今にも何かが溢れ出てきそうな威圧感。
「お口から蝋をたらしこんで、胃の内側からお尻の先までカッチンコチンに固めてあげるよ! はち切れる位食べさせてあげる。私の蝋・蝋・蝋ーーーーーーっ!!」
 あははははは
 笑い声が響く。
「全く、こういう子の相手はあまりしたくはありませんのですけどね」
「仕方あるまい。これも仕事だ」
 気だるげな【淑女】と対照的に【女王】はどこか楽しげだ。
「【X】よ、お前のしたことは許せはせんがたった一つだけ褒めてやろう。」
「なーにー?」
「基本運営者同士の戦いは禁止されているが……お前が裏切ってくれてことで、余はお前と戦う理由を手に入れた。」
 ああ、これだ。この感覚だ。
 強敵を目の前にしたえもいわれぬ高揚感。
 戦闘狂症候群(コンバットフィリアシンドローム)の本義ではないか。
 【女王】はその手に剣を掲げ言った。
「今この瞬間こそが至福!! さあ行くぞ、【X】よ。戦い、戦い、戦い会おう! 」
 始まるのだ。この世界における超常者たちの闘争が。
「胸倉から剣を突き立てて、心の臓から石屑に変えてやる。」


          *


 同時刻、早苗たちは通路を進む。
「見えた、扉だよ」
 魅音が通路の先に扉を見つけた。おそらくその先が……
「行きます!」
 ドガアッ、と早苗がその扉を蹴破った。
「別に横にスイッチがあったんだから蹴破らなくても……」
「ノリです!」
 果たして二人の前には巨大な機械があった。
「これが……『核』……」
「大きいですね……」
 見上げるそれは小さな塔のようなものだった。その頂上に聳え立つ円錐の先に赤い宝石がある。これが本当の『核』なのだろう。
「あれを壊せば……」
 この世界を壊す事ができる。と早苗が思ったとき。
「そうよ〜っ♪」
 機械の上から声がした。そして、軽快なステップで一人の少女が姿を現す。
 明るい紫色の髪、薄いオレンジ色の制服に身を包んだ少女。少女はそのまま機械の上から飛び降りるとふわり、と着地した。
「これを壊せばあなたたちのか・ち♡ だけどそう簡単に壊させるわけにはいかないのよねーっ。」
 ふふっ、と少女は笑みを浮かべた。
「むむ、あなたはどこのオカマですか!?」
 早苗が少女に向かって言った。
「ひど〜い、こんな美少女をオカマ扱いなんて。」
「でもあんたも男なんだろう?」
「ふふふ、さ〜て、どうでしょう?」
 少女は悪戯っぽく笑うと、その手に持った杖を高々と掲げた。
「さあ、美少女魔法使い、渡良瀬準の華麗なる魔法捌きを見せてあ・げ・る♡」





今回の被害者
宮小路瑞穂:蝋固め
木下秀吉:蝋固め
木下優子:蝋固め

残り人数変動なし

つづく


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