カタメルロワイヤル第3話「共闘」

作:七月


「ほら足元気をつけて、フィーナ。」
そういって私はフィーナに手を差し出す。
「あら、ティアは優しいのね。」
といいながら私の手をとって大きな木の根を踏み越えるフィーナ。
今、私はフィーナと一緒に森のエリアを移動中だ。
なぜこんな展開になっているかと言うと・・・


――――――1時間ほど前――――――
「ふーん、月の王女・・・ね・・・」
私は突如現れた月の王女、フィーナ・ファム・アーシュライトに向き合っていた。
「それで、あなたも私と戦いに来たってこと?」
そう尋ねるがフィーナは首を横に振って
「いいえ、そんなことをしに来たのではないわ。
 むしろ、お誘い・・かしら・・・。」
「お誘い?」
私は怪訝な顔をしながらフィーナに問いかけた。
「ええ、ねえあなた。私と組む気はないかしら?」
本当に突然の誘いだった。
ちょうど自分もそんなことを考えていたために、都合が良すぎるのではないかと思えるほどに。
「私は戦闘経験がないから・・・誰かそういったものがありそうな人と組めたらいいなと思っていたの。」
確かに外見的に戦ったことが有りそうには見えない。
私は彼女の言葉を疑う気にはなれなかった。
それは彼女の意思に殺気どころか微塵の敵意も感じられなかったからだろう。
ついつい接近を許してしまったのもこれが原因ではないかと思う(いいわけ)。
「私はかまわないけど・・・あなたは?」
「どういうことかしら?」
ちょこんと首をかしげながらフィーナが聞いてきた。
「ほら、そこの石像。」
私は石像と化したルイズとみくるを指して言う。
「分かっていると思うけど、これは元々私達と同じ参加者だった人たちよ。
 これを私がやったとは思わないの?」
事実、正当防衛とはいえ一人を石にしたのは自分だ。
「もしかしたら私があなたを見つけてすぐに攻撃してくるとは思わなかったの?
 実際さっき銃を向けちゃったし。」
すると、フィーナは微塵も動揺することなく言う。
「あら、見くびらないで欲しいわね。私はこれでも月の王女よ。
 人を見る目くらいはあります。
だからあなたが信頼できそうな人だというのは良く分かるわ。」
その言葉は自信に満ち溢れていた。
「一体その自身はどこから来るなかしらね・・・」
少しあきれながらも私はどこか安堵しているようだった。
それは私もこの少女は敵ではないということが確信に近い形で感じられたからだろう。
「それで、どうかしら?」
改めてフィーナは聞いてきた。
私は
「まあいいわ。人数が多いほうが安心できるしね。」
彼女の提案に乗ることになった。
「それじゃあよろしくお願いするわ。私のことはフィーナと呼んでくれていいわ。」
「フィーナ姫じゃなくていいの?」
「そういう他人行儀なのは嫌いよ。えっとあなたは・・・?」
そういえば名乗っていなかった。
「ティアナ・ランスターよ。よろしく。」
そういって私は右手を差し出した。
「よろしくお願いするわ、ティア。」
フィーナはその手を強く握り返した。



――――そして現在
今私達は森のエリアを移動中だ。
これはフィーナの提案で
「まずはこの森を探索したほうがいいわ。」
「どうして?動き回ればその分敵との遭遇も増えると思うけど?」
「アイテムの存在よ。このエリアのいたるところに私達を助けてくれるアイテムがあるって書いてあったでしょ。まずはこれの回収に向うのがいいと思うわ。」
「なるほどね・・・」
このようなやり取りがあって今に至る。
たしかに、このアイテムの所持の有無で後々不利になる展開は大いに考えられる。
ならばまだ周りもこの世界に順応できていない間に動き出すのは得策だろう。
きらびやかな衣装を身にまとい、悠然と森の中を歩くフィーナを見て私は言う。
「フィーナはしっかりしているのね。」
私の相方とは偉い違いだ。
「王女ですもの、当然よ。」
「最初にあった時は思いっきり尻餅ついていたけどね」
「あれは・・・急に銃を向けられたから!!」
少し顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
やっぱりこういうところは姫といっても普通の女の子なんだなと感じられた。



「ティア!あれ!」
フィーナの叫び声に慌てて振り返る。
「どうしたの?フィーナ!?」
「ティア、アレじゃあないかしら?」
フィーナの指差す向こうには宝箱らしきものが設置されていた。
それに駆け寄り早速あけてみると・・・
「これは・・・」
小型の携帯ゲームに様なものが入っていた。
「これは何かしら?」
「とりあえず電源を入れてみよう。」
スイッチを入れると画面にはどこかの地形が映し出された。
「これは・・・もしかしてこの周辺の詳細な地図じゃないかしら?
 ほら、この2つの点が私達。」
画面を見ると緑色の地形の中に2つの紅い点が表示されている。
「なるほど、どうやらこれは自分達の現在地の周辺を詳しく表示してくれるみたいね。」
「というか・・説明書ついているわよ・・・」
もっと早く言ってくれ。
というか律儀ね、このゲームの主催者。
「ふーん、アイテム名はGPS、どうやら赤=参加者、黄色=アイテム、緑=トラップ、青=モンスターか・・・」
どうやらこれはかなり当たりな部類のアイテムだったらしい。
「これがあれば周りの参加者の動向がなんとなく分かるし、だいぶ楽に動けるようになるわ。」
「そうね、少なくとも寝込みを教われる確率はぐっと減ったわね。」
二人して安堵していた。
そんなとき、いきなり二人の耳にどこからともなく機械的な音声が響き渡った。
「ピンポンパンポーン
 ただいまの生き残り人数94人でーす。」
どうやらあの学校のスピーカーからこの世界全域に向けて発せられているようだ。
「94人・・・」
今までに私が確認したのは凛、みくる、ルイズの3人。
となると別の場所で3人がやられているということとなる。
元が100人だとすると少なすぎるくらいか・・?
そう考える私をよそに放送は続く。
「まだまだ皆さん全然動いてませんね。と言うわけでここで一つMissionを発表します。
 今から48時間以内に金の針を探し出してください。
 金の針はこの世界に60個ほど隠されています。
 それを今から24時間後に所持していない方はその場で失格とさせていただきます。
 見つけた方も24時間後にちゃんと持っていないとダメですよ?
 それではスタートです。」
(ふざけんじゃないわよ!)
今にも叫びだしそうだった。
金の針が60個、今94人残っているのだから3分の2がここで失格と言うことになる。そして、凛やルイズのように・・・
そうなるといやでも金の針の争奪戦が起こる。
そのたびに自分達は危険にさらされるのだ。
せっかく逃げるのにうってつけのアイテムを手に入れたというのに・・・
「ティア!」
フィーナが呼びかけてくる。
そうだ、自分ばかりいらいらしていてはいけない。
フィーナだって自分と同じく怒りたい気持ちでいっぱいにちが――――
「あったわ金の針、2つ」
思いっ切りずっこけた。



「近くに宝箱があったから開けてみたら入っていたわ。」
とはフィーナ談。
この幸運もお姫様の力なのだろうか・・・
とにかくこれでいきなりだが私達は安全になった。が、
「後はこれを守り通す・・・」
そう、これを24時間守り通さねばならない。
「ここはさっきのGPSが役に立ちそうね。」
確かにあれがあれば敵の動きもよくわかる。
早速それを見てみる。
と、
「これは!」
まずは真ん中に2つの紅い点、そして・・・
「北から2つ紅い点がまっすぐこっちに向ってくる!」
それは迷いなくこちらに向っているようだった。
「フィーナ、どうする?」
「そうですね、どうやら相手はこっちの居場所が分かっているようです。
 私達と似たようなアイテムを手に入れてのかは分かりませんが。
 ここで逃げてもいたちごっこでしょう。
 ならば・・・」
「迎え撃つ・・・か・・・」
カチャリと銃を構える。
「あら、まだ分からないわ。話し合いで終わるかもしれないわよ?」
「でも、万が一のために準備はしとくべきよ。」
「ええ、それは同感。」
どうやらただの日和主義者ではないようだ。
フィーナも己の武器である剣を構える。
そして、敵は現れた。



現れた影は二つ
どちらも大きなリボンに時代を思わせるような衣装。
顔立ちも似ており一見しただけでもすぐに姉妹と分かった。
「フィーナ・・・」
フィーナのほうをちらりと見やるがどうやら向こうも瞬時に悟ったようだ。
「ええ・・・」
この2人に話し合う余地はない。
「さて」
赤いリボンをつけた姉の様な少女が言う。
「あなたたち、早速ですが金の針持っていますよね。
それを頂きたいのですが?」
「あら、何で分かるの?」
すると青いリボンをつけた、妹と思われるほうが
「私達こんなの持っているんだ。アイテムサーチって言って欲しいアイテムを持っている参加者の位置を知らせてくれるの。今回は金の針を持っている人を探したらあなたたちがいたの。2人いたのは予想外だったけど2本持っているみたいだからちょうどいいなって。」
そうあどけなく言った。
「それで、どうでしょうか?いただけるのでしょうか?」
姉のほうが言い放つ。
「そんなことすると思う?」
「いいえ、思いません。なので・・・」
姉妹はそれぞれ武器を構える。
「実力行使です!いくわよリムルル!」
「うん、ナコルルお姉ちゃん!」
戦闘が始まった。



「くっ!」
どうやら相手は予想以上に戦闘慣れしているようだ。
特に体術には目を見張るものがある。
「はっ!」
ナコルルが使うのは刀だ。
すばやい動きで翻弄しながらこちらへ的確に斬りつけてくる。
それを同じく剣を使うフィーナが受けるが、
「すきありっ!」
隙を突いてリムルルが放つ爆弾が襲ってくる。
爆弾といっても中身は液体窒素のようで、爆風の変わりにすさまじい冷気が襲ってくる。
そしてその爆弾はゆっくりとこちらへ近づくが
「そこ!」
それを私が爆発前に銃弾を当てはじき返す。
先ほどからこの繰り返しだがじりじりとこちらが押されていくのが分かってくる。
2人の猛攻をフィーナとの連携で何とかかわし続けているがそろそろきつい。
「結構きついわね・・・」
これは冗談じゃなくやばい。
本当に相手に隙がないのだ。
「ティア、一旦逃げましょう。」
「でも、あいつらは私達の位置を把握できるのよ?」
「大丈夫、私に考えがあります。」
その顔は真剣だった。
ならば私がとるべき行動は一つ。
ガガガッと姉妹のいる場所の地面に向って発砲。
砂煙によってほんの一瞬の隙を作り
「逃げるわよ、フィーナ。」
「ええ。」
2人で森の奥深くへと逃げ出した。



「無駄なことを」
ナコルル達は2人を追った。
どんなに木々が茂って視界をさえぎろうともアイテムサーチによって相手の位置は把握できているのだ。
「どこまで逃げても逃しはしません。」
身体能力ではこちらが上であることは先ほどの闘いで確信が持てている。
後は追い詰めて止めをさすだけだ。
そしてついに、
「止まりましたね。」
2人の位置ががけの下あたりで止まったのだ。
逃げ道を失ったのだろう。
そしてその場所には木々が茂っており肉眼では良く見えない。
「リムルル、爆弾であぶり出しなさい。」
「うん、お姉ちゃん!」
リムルルが爆弾を放り、瞬時に茂みは液体窒素により凍りついた。
そしてすんでの所でその茂みから飛び出す影は2つ
「もらった!」
「これで終わり!」
2人はそれぞれに攻撃を加える。だが、
「っ!」
ナコルルの攻撃に応じたのはフィーナだった。そして、リムルルの攻撃に応じたのは・・・
「えっ!」
ただの巨大な木片だった。
その時ティアナは、
「そっちが終わりね!」
リムルルの真後ろから、銃弾を叩き込んだ。
「きゃあああ」
着弾したところから徐々に灰色に染まっていくリムルルの体
「そんな・・なんで・・・」
何でこうなったのか理解できないといったふうに
「おねえ・・ちゃ・・ん」
やがて石化の侵食は全身へとおよび・・・
姉へと手を伸ばしながら、リムルルは完全な石像になった。



「リムルル!」
石像と化し、その場にガランと物のように倒れたリムルルの姿に、姉の呼吸が乱れた。
(今なら)
チラッとフィーナに目で合図を送る。
フィーナはそれに答え
「はっ!」
剣に力をこめて振り下ろした。
「きゃあ!」
フィーナの剣にナコルルはよろめき、
「そこっ!」
そこを私の銃弾が射抜いた。
しかし、ナコルルは刀を捨て驚異的な身のこなしでそこから脱出した。
「くうっ・・・どうしてですか!?」
もはやジリ貧になったナコルルが問いかける。
「簡単なことよ、あなたたちが補足していたのは2本の金の針を持っているフィーナだけだったんでしょう?
だから私はまんまとあなたたちをやり過ごして後ろについていたわけ。
どうやらさっき優勢だったから油断したみたいね。
さて・・どうする?」
「くう・・ここは一旦引きます」
即座にナコルルは後ろへと駆け出した。
「あ、こらちょっと待ちなさい!」
別に倒す必要はないがアイテムサーチだけでも取り上げなければ後々厄介だ。
だか、駆け出そうとする私をフィーナが止めた。
「追う必要はありませんよ・・・あっちには・・・」
「?」
フィーナの手元にあるGPS画面を見ると、そこには緑色の光が表示されていた。
そして木霊す悲鳴。
ゆっくりと声のしたほうに進むとそこには、地面に設置されていた無数のガスの噴射口と
石像と化したナコルルの姿があった。
突然噴出したガスに対処できなかったのであろう。
その姿はガスを吸い込み、むせて咳き込みかけているような形で停止していた。
見開かれた右目、対照的に硬く閉じられた左目。
大きく開かれた口は、石像と化したナコルルの最後の悲惨さを物語っていた。
私達はそんな石像を見やり、トラップがまだ生きていること、アイテムサーチの回収が不可能なことを悟るとその場をあとにした。

「ああもう疲れたわ・・・」
どさっと体を草の上に放り投げながら私は言った。
「私もさすがに疲れたわ・・」
そんなことを言いながらも毅然とした態度をフィーナは崩すことはない。
ここら辺はさすがにお姫様なのだろう。
「これからこんなやつらに襲われるのかしら・・・」
「今回は運が悪かっただけよ、早々アイテムサーチみたいなものを持っているのはいないとは思うわ。」
「そうだといいんだけどね・・・」
よっと、身を起こしてフィーナのほうを向いた。
「ねえフィーナ・・・」
「ん、何?」
フィーナは髪についた汚れを取りながら話を聞く。
「えっと・・・ありがとね。」
「えっ?」
少し驚いた顔をするフィーナ。
「あなたがいなかったら渡し結構ピンチだったかも・・・」
かも、ではなく実際かなり危険だった。
「まあ・・これからもよろしくってことで・・・」
私は改めて右手を差し出した。
するとフィーナは少し笑いながら。
「何を今更。」
そういって私の手を暖かく握ったのだった。



そんな二人を木の上から覗く影が一つ。
「あの二人を倒しちゃうなんて・・・」
少女はその顔に微笑を浮かべる。
「よし、決めた。」
束ねられた長い鮮やかな緑色の髪をたなびかせて、少女は木からとび降りた。
「あの二人にしよう!」
少女は一直線にティアナたちへと向って進む。



今回の犠牲者
ナコルル:石化
リムルル:石化

残り92人

つづく


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